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「小惑星探査機「はやぶさ2」の大挑戦 (山根一眞著)」紹介と感想

2016/04/30 19:00 投稿

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 先日はじめて相模原のJAXAに行って、はやぶさ2トークライブというのを聞いてきたので、今更ながら図書館で読んできた。従って手元に本が無いので、おおざっぱな記憶だけで書くのでちょっとあやふやです。

この本が出たのは、「はやぶさ2」打ち上げの直前ということで、内容には「はやぶさ」帰還後の話も多く含まれている。

 カプセルの回収や、中のイトカワからの物質の分析などはできて当たり前みたいに思ってしまっていたが、本の中でキュレーションと呼ばれているこの作業は、惑星探査機の運用とはまた異なる難しい技術で、カプセルを発見することも、カプセルを開けることも、開けたカプセルから試料を取り出すことも、その試料が地球由来のものではなく、イトカワ由来のものだと判定することも、その試料を分析のため、目に見えないようなものをさらに薄く切断することも、地道な技術開発や訓練を続けてはじめて可能となるのだ、ということはこの本ではじめて知った。

 予定より長く宇宙にあったカプセルからビーコンが出たことは奇跡的で、ビーコンが出ないという前程で発見・回収するための訓練を行っていたこと、カプセルにはパラシュートがついているが前後(上下というべきか)2つに分かれる耐熱カバーにはパラシュートは無く、そのまま地面に激突するので発見はさらに困難だったが 、実際に展示するとカプセルよりも耐熱カバーの方が注目を集めたりしたので無事回収できてよかったこと、なども書かれていたと思う。

 はやぶさ2の検討は、はやぶさが帰って来る前から行われていたわけだが、時の政権に理解が無く予算は削減され、最適な打ち上げ時期を逃してしまう(著者はあとがきでもこのことや、東京駅前にあったJAXAiの廃止について当時の政権に苦言を述べている)。はやぶさが注目を集めた事もあり、国民が後押しする形でようやく予算が通るが、天体の位置関係から、次の打ち上げ時期を逃がさないため(これを逃すとしばらく適した配置にならない)には、はやぶさの半分くらいの開発期間しかないいわば突貫工事で作り上げねばならない。その短い期間の中で、はやぶさと同じ失敗をしないような改良や、新任務に応じた新しい装備を検討し、実装しなければならない。しかもそうした作業をする人たちの多くは、はやぶさもはやぶさ2もあかつきもイカロスも兼務していたりする。同じ人がはやぶさの運用をしながら、はやぶさ2の開発も行っていたりする。
 同じ人が同じ部分を見ることの利点もあるだろうが、兼務兼務兼務、という様子に、人員不足は感じてしまう。NASAに比べれば人員も予算も桁違いに少なく、実務者に蓄積される疲労は馬鹿にできないように思う。エラーが起きないように最適な予算、人員配置というものが与えられていないなかで必死に結果を出してきた組織なのだな、と思う。

 私がこれを読んだ時点ではまだひとみは通信途絶状態で、読み終えて数日してからひとみ
喪失の記者会見があったわけだが、何が原因だと問われれば、一番大きいのはもともとうまくいくのが奇跡なくらい、予算も人員も開発期間も与えられていない中で日常的にオーバーワークしていることだ、と感じられてしまうが、当事者がそう言えばたちまち批判の対象になってしまうだろう。もしそうであればいつまでも改善されない。常に奇跡を起こし続けないと評価されない、なんだかヤン提督の率いる第13艦隊を連想してしまった。



 具体的な会社名や人名などはメモしなかったので紹介できないけど、はやぶさ、はやぶさ2の回収カプセル部分や、今回注目の新兵器、インパクタなどの製造を担当した町工場の人たちにも取材しており、その開発の無茶といっていいくらいの困難さも書かれている。

 今は順調でも、一つ間違えば 喝采が罵倒に変わってしまうような落とし穴は はやぶさ2
にも無いとは言い切れないと感じるし、そうならないように関係者は最大限の努力をしていると思う。それでもうまくいくかどうかはやってみないとわからない。成功を願う。

 トラブルは、日本の惑星探査機は様々な制約から大きく重くできない、だから例えばはやぶさは姿勢制御用のリアクションホイールの予備を積めなかったし、あかつきは燃料や酸化剤を送り出すためのヘリウムガスボンベを2つ積むことができず、1つを兼用するしかなかったように冗長性や回路の独立性を十分に仕込めなかった部分に起きやすい。そうならないように、1つでもいいように精緻な回路やプログラムを組むのだろうしそれができるのが日本の素晴らしいところでもあるのだが、トラブルが起きてしまえば 最初から何故2つにしなかったんだ、みたいに責められてしまう。理不尽もいいところだが罵倒に耐えねばならない。RWやボンベに限らず、必要とわかっているものを全部持たせてやれずに送り出さざるを得ないみたいなやるせなさがある。人間も、機器・回路も兼務兼務兼務・・・交代要員はいない、になっている。

 NASAは強力な化学エンジンを何基も積んだり、イオンエンジンをいわば使い潰すことを前程として何台も積んでいたり、みたいな物量作戦的に設計された大型探査機をどんどん送り出しているような話をこの本に書かれていないことも含めて読んだり聞いたりすると、いろいろと思うところがある。
 日本はトラブルが起きると、予算は減ってしまい、さらに人員が苦しくなりさらに事故確率があがる、という方向にいってしまうように感じるが、NASAはスペースシャトルのような日本どころではないトラブルをいくつも経験して研究開発を続けている。
 あと一人か二人要員がいれば、ひとみは無事だったかもしれないと、どうしても思ってしまう。それとももっと根本的な問題、組織的な欠陥が隠されているのか。

 柔道の山口香さんが日本サッカー協会の理事に就任したとのことで、なでしこジャパンがリオオリンピック出場を逃したことについても語っていたが、日本は結果が出せないとすぐ叩かれてしまうし、すぐに誰それをクビにしろ、みたいな議論になってしまうので、練習試合であっても負けてもいいからこれを試す、のようなことが出来にくく、勝ち続けている間は思い切った改革ができない、みたいなことを言っていた。例えば若手を抜擢するとか、盛りを過ぎたベテランを外すことがなかなかできないし、トレーニング方法を大幅に見直したり、といったことができないとかかな、と思う。
 勝ちながらゆっくり改善していくしかないのだが、今回はリオ出場が不可能になったので、思い切った改革を行うチャンスで、東京に焦点を合わせたチーム育成ができるはず、というようなことを言っていた。ラジオで偶然部分的に聞いたので私が勝手に解釈してしまったかもしれないが。
 同じようなことが、今後のJAXAにもあてはまって、悪いところにメスが入り、より強化されることを願いたい。

 「はやぶさ」や「あかつき」の失敗とリカバリー体験からも、「はやぶさ2」の今のところ順調な運用体験からも学べることはあるが、「ひとみ」の大失敗からも、多くのことが学べてほしい。

 記者会見では誰の責任なのか、メーカーに損害賠償を請求するのか、みたいな質問もあったが、調査のためには関係者の免責が必要だ、という指摘をした記者もいた。責任や賠償金の押し付け合いになってしまえば、絶対原因究明には支障となる筈。 
 記者会見では、JAXA側は誰かがミスをしたということではなく、人間のミスをカバーできることが出来なかった方が大きな問題であったと認識しているような発言もあったと思うが、
特定個人を責めて幕引き、としてしまわないよう、まして宇宙開発など不要、みたいな極論に走らないよう、今後の動向も見ていきたい。
 私としては、ひとみ2がいつか実現することを願っているが、それで失敗したら本当に不要論にもなってしまいかねないので、主張することの怖さも感じている。関係者の心が折れてしまえばそれはかなわない。ただ願うばかり。
 今回は難しくないはずのところでの不具合発生だと感じるので、技術的な対策は十分に可能だと思うんだけど、逆風は強く、ひとみ2を推進する人はそこにいるだけで消耗すると思う。
関係者の精神的ダメージは深いと考えるが、その回復と、次を目指す意欲を取り戻すように願ってやまない。
 

 「はやぶさ」や「はやぶさ2」に関しては、情報が多すぎて受け止めきれない感じがして、新聞報道程度しか見てこなかったし、結局映画の「はやぶさ」も3本乱立してしまったこともあって1本も見なかったのだが、今後はなるべくトークライブイベントみたいなものや、こうした本なんかにも目を通していきたいと思う。

 なんだか途中で話がそれて「ひとみ」の話題の方が多くなってしまった。

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