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続・ チルノが主役の東方紺珠伝【東方二次創作小説】

2016/05/30 22:52 投稿

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私、大妖精はチルノちゃんの帰りを待っていた。チルノちゃんが何も言わずにいなくなる事はそう珍しい事ではないけれど二日続けていないのはおかしい。方々を探し回ったけれど見つける事は出来なかった。
「ひょっとしたら霧の湖に戻っているのかも?」
今日、湖では探していない。僅かな望みを抱きつつ霧の湖を探す。今は夜なので霧は出ていない。探すのにあまり時間は掛からないだろう。
「…あれ? 何か、聞こえる?」
これはチルノちゃんの声だ! そう思って声の方へ近づく。だけど誰と話しているのだろう? 立ち止まって聞いているとその疑問はすぐに解決した。
「せかいの どんな まるより」
歌っていたのだ。私はこの歌を知っていた。ニャースのうただ。近づいてよくよく見るとチルノちゃんはギターを持っていた。そういえばこの曲を歌っていた犬子…もとい猫もギターを持っていた。
「何かに影響されたのかな?」
ギターを持ってはいるが弾いている様子はない。目的は歌う事なのかな。
「ひとりきりが こんなに せつないなんてー」
月を見ながら歌うチルノちゃん。何故だか切ない気持ちになってしまう。とても話しかけられるような雰囲気ではない。けれど放ってはおけない。歌い終わってから話しかける事にしよう。そう思ってチルノちゃんに見つからないように移動して歌い終わるのを待つ。幸いこの歌は短い。時間は掛からないだろう。
「……もう終わったかな?」
歌が途切れたところで様子を見ながら近づく。
「チルノちゃん?」
そう呼ぶとこちらに振り向く。
「大ちゃん、どうしたのこんな時間に?」
さっきまでの哀愁漂う雰囲気とはうって変わっていつものチルノちゃんだ。安堵して駆け寄る。
「チルノちゃんを探してたの。何も言わずにいなくなるから心配したよ」
チルノちゃんの隣に座る。
「んー、詳しくは言えないんだけど永遠亭に行っていたんだよ」
えいえんてい? 聞きなれない言葉に首を捻る。
「えいえんてい…。永遠…亭」
そうだ。竹林の中にある屋敷だ。
「明日も永遠亭には行かないといけないんだ」
行かないといけない? それは何故だろう。
「何か危ない事に巻き込まれているの? 大丈夫?」
「あたいは特に危険な事はないよ。向こうに行って話すだけだし」
話を聞くだけ。チルノちゃんには悪いけど彼女が重要な情報を持っているとは思わない。
「どんな事を話すの?」
その質問にチルノちゃんは首を振る。
「それは教えられない。今は話せないけどあさってには話をしてもいいようになっているよ」
人差し指を立てウィンクをして今は秘密、と。そんなことをされては追求するわけにはいかない。
「明後日には戻ってくるの?」
その問いに首を振るチルノちゃん。
「どうかな? まぁ、いつでも戻れるといえば戻れるんだけど。個人的に用事があるから戻ったとしてもしばらくは永遠亭に行く事になるね」
その個人的な理由を聞きたいのだけれど先程秘密だと言われたので聞かないことにする。
「今日はもう寝ようかな? 大ちゃん、またね!」
そう言って自分の家へ帰っていく。
「そういえば永遠亭って月のお姫様がいるっていう話だったよね」
さっき歌っていたニャースのうたにも月に関する歌詞がある。1番の歌詞がそれだった。さっきチルノちゃんが歌っていた歌詞を思い出す。印象深いのは2番目の歌詞。
「いまごろ みんな なにしているのかな いまごろ みんな なにしているのかな」

次の日。霧の湖から迷いの竹林へと向かう。思えば湖に帰る必要はなかったかもしれない。まぁ、大ちゃんと話せたからいいか。竹林に着いたら近くのウサギに話しかける。竹林には何度も来た事はあるけど何回来ても案内がなければ迷ってしまう。ウサギに道案内をしてもらいながら先へ進み、永遠亭に辿り着くと案内役のウサギと別れる。
「かぐやはどこだっけか…」
前に来た時は飛んできたのだけれどここでそういうことをするのはためらわれる。さっきのウサギに聞いておけばよかったなと思いつつ屋敷の中を進んでいく。
「あっ、ウサギみっけ」
ここにはたくさんのウサギがいる。誰が誰だか正直見分けが付かない。
「おーい、そこのウサギ!」
手を振ってウサギに近づく。向こうもこっちに気付いたようであたいが来るまで待っていた。
「ねぇ、かぐやってどこにいるの?」
「姫様? 居場所は知っているけど。あんたは確かチルノだね?」
そのウサギの質問に頷く。
「ふーん、あんたがねぇ。姫様から話は聞いているよ。案内するから着いて来な」
なんか少し感じが悪いウサギの後を付いていく。屋敷の間取りを覚えたいところだけど同じものが多すぎてどこがどこだか分からない。
「さて、着いたよ。この中さ」
そう言ってふすまを開けるウサギ。確かにかぐやがそこにいた。
「あら、来たのね。今日も話を聞かせてもらえるかしら」
かぐやの側へと寄る。
「話といってもだいたいのことは話したと思うんだけど」
「そう? だったら逆に聞きたいことはあるかしら?」
かぐやの言葉に頷く。昨日も少し聞いたけどまだまだ知りたいことはたくさんある。
「月の方と連絡は取れないの?」
「そうねぇ。出来なくはないわね。ただ、何にしても鈴仙からの連絡待ちね。
連絡があったら多分純狐とも話せるでしょうね」
「あたい、知ってるよ。それって電話って言うんでしょ?」
あたいの言葉に頷くかぐや。
その昔、宇宙人が月に電話して家に帰ったという話を聞いたことがある。やっぱりあの話は本当だったんだ。
「試しに電話してみましょうか? そろそろ何かしら決着が付いているんじゃないかしら?」

「つ、強い……」
純狐と相対するまで一切の被弾をしなかったけれどここに来て残機をごっそり減らされた。スペルカードも後一回。
「あなたもなかなかやりますね。これで最後です。純符『ピュアリーバレットヘル』!」
ラストスペル! ここを切り抜ければ勝てる! 念のためこちらもスペルカードを使用する。許される被弾は三回まで。姫様から頂いた紺珠の薬とやらを使っていればその限りではないがどうにも怪しいその薬を私は飲めなかった。なので、リトライは許されない。一発勝負だ。三方向から繰り出される純狐の弾幕は時間を経る毎に激しくなっていく。まるで三人を相手にしているような感覚に陥ってしまう。
「…しまった!」
弾幕の一つに触れてしまう。悪い流れは連鎖するもので続けて3回被弾してしまう。
合計3回。いや、最初の被弾を入れて4回だ。
「私の、負け……」
負けてしまった。お師匠様にしかられちゃう。
「勝った、勝ちました! やった!」
私とは対照的に純狐は勝利を喜んでいるようだ。そういえば月の都はどうなるのかな。そんな事を思いながら彼女を見ていると突然端末が鳴り出した。
「あっ、ごめんなさい。幻想郷から連絡が入っているので」
一応断りを入れて通信を繋ぐ。
「あっ、繋がった。鈴仙、どう? 純狐は倒せた?」
なんだかものすっごい上機嫌な声で姫様からそう問われる。
「それがその、負けちゃいました…」
嘘をつくわけにもいかず自らの失態を告白する。
「負けた? ということはチルノの言う通りだった、と。純狐に代わってもらえるかしら?」
チルノ? 確か妖精の名前だったはず。先日純狐の名前を出していた妖精がいたような。そうか、彼女がチルノか。とにかく言われたとおり純狐に代わろう。
「えっと、私の上司みたいな人なんだけど話があるからって」
端末を純狐に渡す。
「何かしら?」
端末を受け取って話を聞く純狐。
「え? あ、あなたは…」
何を言われたか分からないけど凄く驚く純狐。
「私? 私は今 月にいるわ。あなたは? ……永遠亭? ……うん、うん」
なんだかとってもフレンドリィ。姫様と知り合いなのかしら。だったら私が出向く必要あったのかな?
「あぁ、この兎が場所を知っているのね。えぇ、今度は私が会いに行くから待っててね」
何だか私が永遠亭への案内をしなくちゃいけないみたいな感じ。別に構わないけども。
「あ、そう言えば名前を聞いていなかったわね。あなたの名前を教えてもらえる?」
私に向けられた言葉かと思って顔を上げたが純狐の意識は端末に向いている。私に聞いたわけではないようだ。
「えぇ、分かったわ。じゃあ、また後で」
純狐から端末を受け取る。まだ通話は繋がっているようだ。
「もしもし? 今 代わりました、鈴仙です」
「鈴仙。あなたは負けてしまったけれど目的は達成出来たわ。こちらとしては結果として純狐と対話出来れば良かったのだからあなたが不甲斐なかったことに関して誰も責めたりはしないわ」
散々な言われようだけど少しほっとする。負けても良かったんだ。
「今回の任務はこれで終わりよ。ご苦労様」
「これで終わり、ですか? いまいち状況がつかめないんですが…?」
月の危機に関しては概ね理解はしているつもりだ。月の都の住人は危機に対しての解決を放棄した。この解釈で間違いないだろう。ただ、姫様と純狐との関係が良く分からない。
「分からない? じゃあ朗報よ。次の任務をあげるからそれが終わったら全部教えてあげるわ」
「えっ? 早速次の任務ですか? まぁ、いいですけど」
「純狐を永遠亭に案内する事。彼女は大事な客人よ」
彼女を永遠亭に連れて行くのはさほど驚く事ではない。先程の会話を少し聞いていたし。
「姫様の元に案内すればいいんですよね?」
「私の? いえ、私ではないわ。私も用はあるのだけどそれを優先するのは野暮というものよ」
「はぁ…」
「私の話はついでで聞いてもらえればいいから。純狐が聞きたくないというのならそれでも構わないわよ。とにかく永遠亭に来てくれさえすればいいから。ウチで待っている子がいるのよ。あまり待たせるのも悪いから早めに来てね」
姫様が気を遣っている。珍しい事もあるものだ。今の話から察するに先程純狐と話していたのは姫様ではなくその『待っている子』とやらなのだろう。その子が永遠亭の子ではないのでいつ来るとも分からない純狐を永遠亭で待たせ続けるわけにはいかないといったところだろう。その子が誰か思い当たる節がないわけではないが誰であっても永遠亭に戻れば顔を合わせるはずだ。
「分かりました。出来るだけ急いで帰りますね」
「ええ、お願いね」
そこで通信が切れる。私は純狐、もとい純狐さんに向き直る。
「話の流れからだいたいは分かると思いますけど不詳この鈴仙・優曇華院・イナバ、永遠亭まであなたをエスコートさせて頂きます」
「ええ、よろしく」
純狐さんが手を差し出してくる。先程まで敵対していた身として少し躊躇したがそれもほんの一瞬。握手に応じる。
「よろしくお願いします、純狐さん」
握手を解いてこれからのことを考える。まずは幻想郷に戻らないと。道自体は覚えているから問題はないだろう。道中にサグメ様と連絡を取ったほうがいいだろうか。そう思ったがすぐにその考えを取り消す。彼女達と純狐さんは敵対している身だ。純狐さんを連れて連絡を取るのはまずい。私が伝えなくてもお師匠様辺りがうまくとりなしてくれる、と思う。
「さぁ、行きましょうか永遠亭へ」

「ご主人様、よろしいのですか?」
クラウンピースがそう尋ねてくる。
「良いも何も彼女が選んだ事だもの。私が口を出すべき事ではないわ」
そう言って平然を装う。
「それに地球にも私はいるもの。大して変わりはないわ」
クラウンピースはそれでも心配そうに私を見つめる。
「あなたの方こそ付いて行きたいんじゃないの? 友達なんでしょう?」
私の言葉に頷くクラウンピース。
「ですが、あたいまでここを離れるわけには…」
私を気遣ってかそんな事を言う。ちゃんと気配りが出来るいい子だ。
「そういえばこっちの事情だけじゃなくて向こうの事も考えないといけないわね」
それを失念するところだった。純狐一人が幻想郷に行くだけで向こうは忙しい事だろう。そう思うとクラウンピースを行かせるのは少し先にしたほうがいいか。
「数日は様子を見ましょうか。純狐が幻想郷に住むなら私も向こうに行ってもいいかなー」
純狐は幻想郷で自分のやりたい事を見つけることが出来るだろうか。それに自分が関れない事が少しだけ、ほんの少しだけ寂しく感じる。あの妖精、チルノって子が純狐を変えてくれるだろうか。いや違う。さっき純狐は笑っていた。長い事一緒にいるけどあんなに楽しそうに笑う純狐を見るのは初めてだ。あの子を中心に全てが変わっていく気がする。私も、変われるだろうか。純狐を笑顔にしてあげられる存在になれるだろうか。

「ええ、お願いね」
鈴仙との通話を切る。
「順調に行けば今日中に着くでしょうね」
隣にいるチルノにそう説明する。
「今日? やったね!」
そう言ってはしゃぐチルノ。
「姫様、今よろしいですか?」
「永琳? えぇ、いいわよ」
ちょうどいいタイミングで永琳が入ってくる。
「あっ、えーりんだ!」
チルノが永琳に駆け寄る。
「あのね、あたい月に電話した。月に電話、月に電話! 月に…」
後ろから手で口を塞いでチルノを黙らせる。
「悪いけどちょーっと静かにしててね」
月の事は別に話しても構わないのだけど何となく構いたくなって変な事をしてしまった。
「何をしているんですか姫様」
永琳が私からチルノを引き離す。
「こう、なんかちょっと抑えきれないいたずら心のようなものが…。特に深い意味はないわ。チルノ、ごめんなさいね」
「別にいいけど。あたいもちょっとはしゃぎ過ぎたかもね」
永琳がチルノの頭を撫でる。私も永琳もチルノに甘いところがあるのかも。
「さっき鈴仙と電話してたのよ。純狐を連れて戻ってくるように言っておいたわ」
「永遠亭に? 姫様は純狐様の処遇をどうするおつもりですか?」
永琳の問いに少しだけ考える。あまり長く考えるとチルノを不安にさせてしまうかもしれないからほんの少しだけ。
「別にどうもしないわよ。こっちで住居を用意してもいいのだけれど彼女のやりたいようにやればいいわ」
彼女が幻想郷に危害を与えるわけでもない。
「月の異変が解決したのはチルノのおかげよ。あなたもやりたいようにやりなさいな」
完全に解決した、とはまだ言えないけどそれもチルノ次第だと思っている。それを抜きにしても私はチルノを気に入っていた。
「んー、じゃあちょっと頼みたい事があるんだけど…」

ウドンゲに連れられて月から幻想郷へ。竹が群生している竹林の前でウドンゲが立ち止まる。
「ここから先は案内がないと迷うので気を付けて着いて来てくださいね。今は夜ですし竹林の中は同じような景色ばかりなので」
彼女の言葉に頷く。はぐれないように彼女の後を着いていく。
「少しペースが速くありませんか?」
「え? そうですか? うーん、着物だから歩きにくかったりします?」
「少なくともあなたの格好よりは」
歩きではなく飛んでいけばいいのだがそれでは風情がないではないか。それに飛んで移動するというのは人間的ではないはずだ。道中赤い巫女と緑の巫女、あからさまに魔法使いっぽい子が空を飛んでいた気がしたが気のせいだろう。
「あら? ウドンゲ? どこに行きました?」
変な事に気を取られていたせいかウドンゲを見失っていた。とはいえ、それも一瞬の出来事。しかも、二人とも立ち止まっていたはず。離れていたとしてもそう遠くには行っていないだろう。そう思って辺りを見回す。ウドンゲの耳らしきものを発見した。
「そこにいたんですか?」
ウドンゲ自体の気配はまだ把握出来ていないけれど兎の気配くらいは分かる。ウドンゲではないにしても永遠亭にいる兎であれば問題ないだろう。そう思ってその兎に近づく。
「あなたはウドンゲですか? それとも永遠亭に住んでいる兎?」
私が近づくとその兎は離れていく。やはりウドンゲではないのだろうか。だがこの際だ。この兎について行こう。何となくこの兎についていけば良い事がある気がする。そう思い、私は兎を追いかける。夢中になって追いかけていると突然兎の気配がなくなってしまった。しかし、別の気配を感じ取る。これは、知っている。知っている妖精の気配だ。
その気配を頼りに竹林を進んでいく。そして、開けた場所に出た。
和風の屋敷がそこにあった。縁側に少女が一人佇んでいた。
兎の耳はなく、蒼い髪に青と白のワンピース。私の友達、チルノ。
「チルノ!」
私に気付いて立ち上がるチルノ。
「純狐さん!」
近づいてチルノを抱きしめる。
「また会えたね」
チルノは笑顔で私にそう伝える。彼女の顔は見えないけれどきっとそうなのだろう。
「泣いてるの?」
彼女の指が私の頬に触れる。
「悲しいのはダメだよ? 楽しく生きないとダメなんだよ」
違う。そう言いたいけど言葉にできない。胸がいっぱいで伝える事ができない。私は、私は嬉しいのだ。会いたくて、会う約束をして、会いに来て。そして、待っていてくれたのだ。私の事を、待っていてくれたのだ。こんなに嬉しい事はない。溢れる涙が止まらない。止めようとも思わない。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」
そう言って私を抱きしめてくれる。その行動に私は更に泣き出してしまう。きっとチルノは困ってしまうのだろうけど私にはこの涙を止める事は出来なかった。

縁側でチルノと二人並んで団子を食べる。いわゆるお月見団子というやつだ。
「月が丸く見える夜に月を見ながら団子を食べるんだって」
チルノがお月見の説明をする。どうにもこれをやりたかったらしい。団子は永遠亭の兎に作ってもらったとチルノが言っていた。月にはいい思い出はあまりないが月自体が嫌いなわけではない。ここから見る月は綺麗だし団子もおいしい。隣にチルノもいるし十二分に楽しめている。
「あ、そうそう。この前三人で考えたスペルカードなんですけど…」
チルノにウドンゲとの戦いで純符「ピュアリーバレットヘル」を使ったときの話をする。
「弾幕勝負って結構楽しいですね」
私の言葉に頷くチルノ。
「そんなに喜んでもらえるとあたいも一緒に考えたかいがあるってものよ」
そう言って笑うチルノ。
「そういえばそのウドンゲは一緒じゃないの? 案内をしてもらったはずだけど」
竹林の方から一人出来たからかチルノがそんな質問をする。彼女の事は思わず失念していた。
「あぁ、そう言えば。彼女とははぐれてしまって。別の兎を追いかけているうちにここまでここに着いてしまったんです。彼女には悪い事をしたわね。ここの人に伝えておくべきかしら」
周りを見て誰かいないか確認するがそれをチルノが袖を引いてとめる。
「待って待って」
「? どうしました?」
チルノに向き直る。とても真剣な表情をしていて思わず息を呑んでしまう。
「純狐さんはこれからどうするの?」
「これから?」
質問の意図が分からず首をかしげる。
「純狐さんはあたいに会いに月から幻想郷に来たよね。その後。月に帰るの?」
その質問に驚く。頭をハンマーで叩かれたような感覚、とでも言えばいいだろうか。とにかく平静を失した。けれど、チルノが手を握ってくれて何とか平静を取り戻す。
「これからどうするか、よね? 私、私はね……」
月にいる友人、ヘカーティアとクラウンピースの顔が思い浮かぶ。
「私は月には戻らない。戻って事情を説明したい人がいるし荷物もあるから一度は戻るけど許されるのなら私はここで暮らしたい」
そう言うとチルノが抱きついてくる。彼女を優しく受け止める。
「じゃあ、どこに住むか決めようよ!」
私から離れて部屋の中から地図を持ってくるチルノ。
「この場所がここだね」
地図に丸がついている場所を指して言う。
「ちなみにあたいが住んでいる場所はここ」
今度は×が書いてある場所を指差す。地図を見るに湖の近くに住んでいるようだ。
「それで、えっと人間が住んでいるところがここだね」
△で印をつけた場所を指す。場所の名前も地図に書いてある。人間の里。そのままの名前だ。
「こっちに越してくるなら場所はこの竹林周辺と人間の里くらいかな」
「チルノが住んでいる家の近くとかは?」
「あたいが住んでいる家? 霧が出る湖の側だから素人にはおすすめできないかな。妖精や妖怪も多いしそういう意味でもおすすめできないね」
周りの事も気にしないといけない。確かにそれは重要だ。
「そうですねー。実際に見てその場所を確かめてみないと今の時点では何とも言えませんね。というか人間の里に人間ではない私が住んでもいいのでしょうか?」
「いいんじゃないの? 半人半妖のけーねとか住んでいるし妖怪が買い物に来る事も多いしね。詳しい事はえーりんとかに聞けば分かるかも?」
えいりん? その名前は聞き覚えがある。ここに来るまでの道中でこの永遠亭の主が蓬莱山輝夜であることは聞いていた。今チルノが言ったえいりん、とはあの八意永琳のことだろう。
「チルノと永琳達は一体どういった関係なんです?」
「んー、そんなこと言われてもよく分からないかな」
そう言ってチルノがここへ来た時の事を語り出す。チルノの話を要約すると月に行った話を蓬莱山輝夜に話したところ非常に気に入られて今に至る、と。少々はしょってはいるがこういう解釈で合っているだろう。
「くわしいことはえーりん辺りに聞けば分かると思うよ」
「そうですね。永琳がどこにいるか分かりますか?」
「うん、今呼んで来るよ。あっ、純狐さんはこの部屋で待ってて」
そう言ってチルノは永琳を呼びに行く。私はチルノが待つように言った部屋に入って帰りを待つ。
「純狐さん、連れて来たよ!」
チルノが障子を開けて入ってくる。少し後れて二人、部屋に入ってきた。
「始めまして純狐さん。私はこの永遠亭の主、蓬莱山輝夜よ」
「私は八意永琳です」
二人が一礼する。
「始めまして純狐です。お邪魔させて頂いているわ」
立ち上がり、一礼して挨拶をする。挨拶を終えてひとまず座る。私が座ったのを確認してから二人も座る。チルノは私の隣に座っている。
「早速だけれど質問いいかしら?」
「ええ、答えられるものであれば」
色々と聞きたい事はあるのだけれどひとまずは先程した質問と同じ内容を聞く事にした。
「月からここまで案内してもらって非常にありがたいのだけれど何故このような事を?」
「理由は三つかしら。一つは今回、チルノに助けてもらったから。月の都の暴挙を彼女がいたからこそいち早く止める事が出来た。二つ目は月から幻想郷への被害を防ぐため。私のより知らぬ所で変なとばっちりをこうむるのはゴメンだわ。三つ目は私の生まれ故郷だから。まぁ、こっちにも色々あるのよ」
蓬莱山輝夜の回答について考える。特におかしな事はないか。
「私は月への攻撃を止める、とは言っていないけれど?」
「どちらでも構わないわ。私の目的は純狐、あなたとチルノを引き合わせることであって月への攻撃を止めるようお願いする事ではないわ。出来る事ならやめてもらいたいけどもね」
私のブラフに動じずにそう返答する輝夜。その内容に思わず肩をすくめる。
「じゃあ、さっき言ったわ。楽しく生きる事にしたの。月にいるより幻想郷の方がきっと楽しいわ」
「そう。それは良かった。さっきチルノから少し聞いたのだけれど幻想郷に住むのなら私達も協力するわ」
輝夜の言葉に頷く。
「ありがとう。ここは素直に甘えさせてもらうわ」
4人で住む場所を話し合う。最終的にこの竹林の一角に居を構えるのが無難だろうという結論に至った。
「家が出来るまではここに滞在して下さいね」
永琳の言葉に頷く。
「ええ、分かりました。一度月へ戻るつもりですが日程は明日以降に決める事にします」
ひとまず今日のところは解散という事で二人と別れる。
「チルノはこの後どうするんですか?」
「あたい? 今日はここに泊まるよ。何かして遊ぶ?」
「そうですね。先程聞いた夕飯の時間まではまだありますし。では、何をやりましょう?」
私が賛同するとチルノはどこからかゲームのパッケージを取り出す。
「じゃーん! 幻想人形演舞-ユメノカケラ-だよ! これをやろう!」
「幻想人形演舞、チルノもやっていたんですね」
月に住んでいたのでネット対戦はやっていなかったがストーリー自体はクリア済みだ。
「あ、純狐さんもやってたんだ。じゃあ、あれ。人形舞闘会の実況やろうよ実況」
「実況ですか? 永遠亭の皆さんの迷惑にならないでしょうか?」
「だいじょーぶ! だいじょーぶだって」
そう言ってどこからか持ってきたパソコンを起動するチルノ。
「やれやれ仕方ありませんね」
そう言いつつも楽しみで仕方がない。胸がどきどきする。こんな感情、久しく忘れていた。
「ところで、この実況のタイトルはどんな名前にするんですか?」
何気なく問いかけた質問に答えるためチルノが振り向く。
「あぁ、それはね……」
チルノからタイトルを聞く。それを聞いてようやくここでの生活を始めるんだなと実感する。これからの生活を不安に思う事も憂う事もない。彼女は楽しく生きろと言ってくれた。きっと今以上に楽しい日々が訪れるのだ。そう。私の未来は希望に満ち満ちている。
「チルノ」
「なぁに? 純狐さん」
チルノがこちらを見つめる。私はチルノに感謝を告げた。私と出会った事。友達になってくれた事。私と遊んでくれる事。その他諸々全ての事に感謝を込めて。ありがとう、と。そう告げた。

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