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【第296号】黒沢清と「他人の心の中」という「向こう側」

2020/11/04 07:00 投稿

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  • Dr.マクガイヤー
  • 黒沢清
  • 評論
  • 映画
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マクガイヤーチャンネル 第296号 2020/11/4
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おはようございます。マクガイヤーです。

部屋の片づけがまだ終わらないのですが、半分諦めています。気長にやるしかないか……。



マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



〇11月15日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2020年11月号」

・時事ネタ

『薬の神じゃない!』

『鵞鳥湖の夜』

『博士と狂人』

『とんかつDJアゲ太郎』

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』

『ザ・ハント』

『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』

『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』

『魔女見習いをさがして』

その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。


〇11月30日(月)19時~「ドキュメンタリーは嘘をつく――推しドキュメンタリー特集――」(日程が変更になりました。ご注意下さい)

『れいわ一揆』『はりぼて』『なぜ君は総理大臣になれないのか』……ドキュメンタリー映画の力作が相次いで映画館で公開されています。

『ザ・ノンフィクション』『ドキュメント72時間』『NNNドキュメント』といったテレビのドキュメンタリー番組も長い間人気です。

そこで(というわけでもありませんが)、ドキュメンタリー番組とはなにかについて総括しつつ、「推しドキュメンタリー作品」について紹介しあうようなニコ生を行います。

ゲストとしてお友達の編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をお迎えしてお送り致します。



〇藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

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また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

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合わせてお楽しみ下さい。




さて、今回のブロマガですが、先日のニコ生でちゃんと言い切れなかったような気がしたもので、再度黒沢清について書かせて下さい。



●なぜ半透明ビニールが怖いのか

黒沢清作品といえば、頻出するのが半透明のビニールカーテンやガラスです。

この半透明の仕切りの向こうに正体不明の重要な「なにか」がいて、時にそれは怪しく蠢いたり奇怪な音を発したりしている……というやつです。

時にこの「仕切り」は、ビニールではなくゴミ袋だったり、すりガラスだったりするのですが、黒沢清作品にはこのような表現が頻出します。仕切りの向こうにあるのも幽霊のような超現実的な存在ではなく、死体だったり半死半生の被害者だったりするのですが、登場人物と観客が絶対にみたくないものという点では同じです。

この表現が、少なくとも映画を観ている間は、とにかく怖いわけです。ただ、映画を観終わった後に冷静に考えてみると、なぜ恐怖を感じるかという理由に思い当たります。

つまり我々は、「仕切り」の「向こう側」に「なにか」がいるけどそれがはっきりみえない、はっきりとわからない宙ぶらりんな状態――まさしくサスペンス――に、想像力を刺激されたり不安感を増幅されたり緊張を強いられたりして、恐怖してしまうわけです。最初から「仕切り」が無く丸見えだったら、こうはいかないでしょう。また黒沢作品では、たとえ「仕切り」が取り払われたとしても、「なにか」がはっきりとみえることは稀です。スクリーンに映るのは1秒以下だったりすることもあります。

この構造は、Jホラーにおける恐怖の構造を理論化した小中千昭の「小中理論」にあてはめても納得できます(黒沢清は「小中理論」の名付け親でもあります)。「恐怖とは段取りである(観客が恐怖を抱くまでには、段階的な情報を提示する必要がある)」、「理由を語らない」という「小中理論」における主要2理論に合致するからです。登場人物が恐怖するさまを挿入すれば、「恐怖する人間の姿が恐怖を生み出す」にも合致するでしょう。さらにこれは、あまり登場人物のアップを使わず、感情移入もさせない黒沢清演出では、より効果的に働きます。




●黒沢清の「理想とする映画の最上の機能」とは

黒沢清は「理想とする映画の最上の機能」について、自身の講演を収めた『黒沢清、21世紀の映画を語る』でこう語っています。


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つまり、この目の前に確かに存在している世界が、数ヶ月後、四角い枠越しにそれを見る観客にとってはどういうものに感じられるのか。それはきっと撮影現場で僕が感じているものと全然違うはずだ。そういう未来の観客を頭の中で想像しながら撮影していく。これは結構大変な作業です。

つまり、映画作りとは「存在していること」と「見ること」とのぎりぎりのせめぎあいのことかもしれない、と僕は時々思うのです。映画を作っている僕にとってはちゃんと存在しているはずの世界も、レンズの前にちょっと障害物を置いた瞬間、いきなり未来の観客にとっては存在しなくなる、つまり見えなくなるわけです。

でもそんなことを言い出したら、観客にはこの世界のほとんどが見えていない。たとえば閉まっているドアの向こうは絶対に見えません。でも、観客はそのドアの向こうにまで世界が広がっていることをちゃんと知っている。だから上手く撮れば(中略)「あのドアの向こうはいったいどうなっているんだろうか」「そこには我々が想像もしなかった世界が広がっているんじゃないだろうか」「そしてもしドアの向こうからいきなりそんな未知の世界が押し寄せてきたならば、主人公は身も凍るような恐怖を体験するんじゃないだろうか」。そんなふうに観客が思いをめぐらせることもあるでしょう。これが僕が理想とする映画の最上の機能です。

「存在していること」が「見ること」によって保障され、同時に「見ること」の可能性が「存在そのもの」によって極限まで高められる。これが作る側と見る側とが共に体験する映画というプロセスなのではないでしょうか。

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つまり、ここで黒沢清は、映画における、見えそうで見えないものが産み出す恐怖や好奇心について語っているわけです。

 

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