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【第277号】HBOドラマ版『ウォッチメン』:リベラルvsリバタリアン、マイノリティvs白人貧困層(後編)

2020/06/24 07:00 投稿

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マクガイヤーチャンネル 第277号 2020/6/24
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おはようございます。

映画館が本格的に再開してご機嫌な毎日なのですが、そろそろ夏休みが欲しい今日この頃です。




マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



○6月26日(金)20時半頃~金ロー『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』生実況

コロナウイルスの影響か、名作洋画を放送している最近の金曜ロードショー、この度『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズが三作連続で放送されることになりました。自分のようなアラフォーにとっては思い出たっぷりの作品です。

そこで、『PART3』の生実況放送を行います。

コロナウイルスでおうちに籠もりがちなみんな、テレビの前でぼくらと(心の中で)握手!



○6月29日(月)19時~「ラーメンハゲ芹沢達也の苦悩のサーガとしての『ラーメン発見伝』・『らーめん才遊記』・『らーめん再遊記』」(「最近のマクガイヤー」から企画変更となりました)

『ラーメン発見伝』『らーめん才遊記』の続編『らーめん再遊記』の単行本第1巻が6/8に発売されます。『らーめん才遊記』のドラマ化に合わせた復活連載かと思いきや、『発見伝』では最強のライバル、『才遊記』ではメンターとして登場したラーメンハゲこと芹沢達也を主人公にした、堂々たる続編でした。これまでの連載分を読んだだけで、傑作の匂いがぷんぷんします。

Twitterでは芹沢達也のコマがネットミームとして拡散しているのですが、『ラーメン発見伝』から続くシリーズをきちんと読んだ方はどれくらいいるのでしょうか。『発見伝』、『才遊記』は、それまでのグルメ漫画では比較的取り上げられ難かった「飲食店経営」にフィーチャーした点が画期的な作品でした。若くして理想のラーメンを作り上げるも、資本主義社会でサバイブするためにビジネスという鎧で自らを武装した芹沢達也、彼が象徴する商業性と作家性の両立は、なにもラーメンだけに限った話ではありません。当初は明らかに一回限りの脇役として登場した芹沢が、再登場するに連れ人気を増し、作品のテーマを担うような人物になったのは、ある意味で必然だったのかもしれません。続編『才遊記』では主人公のメンターになり、最新シリーズ『再遊記』では遂に主人公となりました。

そこで、『ラーメン発見伝』・『才遊記』・『再遊記』を芹沢達也サーガと捉え、解説するようなニコ生を行います。

ゲストとしてお友達の編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をお迎えしてお送りします。



○7月12日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2020年7月号」

・時事ネタ

『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』

『ランボー ラスト・ブラッド』

『許された子どもたち』

『ANNA/アナ』

その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



○7月26日(日)19時~「いまこそ読み直したいジョージ秋山」

漫画家のジョージ秋山が5月12日に亡くなったことが発表されました。

『デロリンマン』『銭ゲバ』『アシュラ』『ザ・ムーン』『浮浪雲』『捨てがたき人々』……と、代表作に事欠きませんが、実際に読んでいた人はどれくらいいるのでしょうか?

人は誰でも平和や戦争、政治経済や宗教について語りますが、心底思ってるのは金とセックスのことだけ。病気が人を殺すのではなく、妄想が人を食い殺す。我利私欲の世の中で、カネとセックスにまみれながら、人生と欲望と愛と自意識を語るジョージ秋山作品は、この21世紀にこそ読まれるべき作品たちなのだと自分は考えます。

そこで、漫画家としてのジョージ秋山を振り返りつつ、作品の魅力について紹介するようなニコ生を行います。

ゲストとしていつもお世話になっている漫画家の山田玲司先生(https://twitter.com/yamadareiji)をお迎えする予定です。



○藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

https://macgyer.base.shop/items/19751109


また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

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合わせてお楽しみ下さい。




さて、今回のブロマガですが、前回に引き続いてHBOドラマ版『ウォッチメン』における対立について解説させて下さい。


●レッドフォードとアメリカのリベラル

それではリベラル、特にアメリカのリベラルとはいったいどういったものなのでしょうか?

一言でいえば社会的公正や多様性を重視する立場なのですが、アメリカの保守に前述したような歴史的経緯があるように、アメリカのリベラルにもしっかりした歴史的経緯があります。

1929年末から始まった世界恐慌を克服するために、アメリカはニューディール政策と呼ばれる一連の経済政策を行いました。これらは、大規模な公共事業や社会保障を積極的に推進することで財政支出を増やし――おカネをバラまき、有効需要を創出すれば恐慌を回避できるという考えに基づきます。「小さな政府」に対する「大きな政府」ですね。

その後、アメリカは恐慌から脱し、(第二次大戦による財政支出の方が多かったものの)ニューディール政策はそれなりに効果があったものとアメリカ人たちは考えるようになりました。

この成功体験から、ある程度個人の自由や財産を犠牲にしても、政府による一定の市場介入を肯定し、貧困対策や医療保険制度などの社会福祉を拡充し、社会的少数派や弱者の権利を認め支援することで社会的公正さ(フェアネス)や多様性を確保することが理想の社会の実現に繋がり、ひいては、遠回りにみえても個人の自由を拡大することに繋がるというアメリカの自由主義(リベラル)が生まれました。


もっといえば、この「リベラル」を「個人の自由を制限する大きな政府であり、個人よりも全体を重視する社会主義的・共産主義的」と批判する立場を、ヨーロッパの王党派などの旧来の保守と区別するために、「リバタリアン」という言葉が生まれたのです。


コミック版『ウォッチメン』の最後で明かされた、冷戦終結のためにオジマンディアスがとった行動は、『ミラクルマン』で描かれた「スーパーヒーローが実在して真剣に世界平和を実現しようとしたらファシズムを志向するのではないか」というコンセプトを悪意と共に突き詰めたものです。ですが、ここで描かれた「300万人の生命というある程度の犠牲を払っても、世界人口50億人(当時)の平和のためにはやむをえない」という考え方は、ファシスト化した極端なリベラルの考え方ともいえます。


娘と同じく大衆を見下しているオジマンディアスにもアイン・ランド的要素があるのですが、ドラマ版『ウォッチメン』ではニクソンの後の大統領としてロバート・レッドフォードを選びます。ニクソンが2期8年という任期制限を撤廃したので、93年に大統領に就任したレッドフォードは現在7期目という設定です。

レッドフォードはリベラル派が多いハリウッドの中でも際立ってリベラルな俳優として知られています。環境問題の解決や、ネイティヴ・アメリカンやLGBTの権利を求めて政治活動も行ってきました。

現実世界では1981年にレーガン、89年に大ブッシュ、93年にクリントン、01年に小ブッシュ、09年にオバマ、17年にトランプと、保守とリベラルがほぼ交互に大統領を務めてきたわけですが、ドラマ版『ウォッチメン』では93年以降ずっとリベラルが大統領だったわけです。

劇中、あまり裕福そうでない黒人の中にもレッドフォードを批判する者たちがいることが描かれます。彼らが、リベラルとゲシュタポを合わせた「リベシュタポ」という言葉を使うのはショックなシーンでもあります。彼らの目には、リベラルによる監視社会が実現したということを意味しているのですから。



●リベラルエリートとエリート・ヒーローとしてのローリー・ブレイク

保守主義者が「低学歴、低所得の庶民の党」で、リベラルが「高学歴、高所得のエリート」という図式は無意味です。保守を代表する共和党の伝統的な共和党支持者は大企業のトップであり、高学歴のお金持ちですし、共和党の最大の支持者である、コーク兄弟はスーパーリッチです。

しかし、現在のトランプ政権の支持者の多くは低所得の白人層であり、かれらが最も憎んでいるものの一つがリベラルエリートであることは事実です。

前回の大統領選挙では、かつて鉄鋼や石炭、自動車産業が栄えたものの現在は衰退した「ラストベルト」と呼ばれるミシガン州・オハイオ州・ウィスコンシン州などの6州から成る地帯での得票が重要なポイントになったといわれています。ラストベルトに多く住む低所得の白人住民や白人貧困層は、いかにもなリベラルエリート(であり同時に女性)であるヒラリー・クリントンを支持せず、代わりに自分たちの想いを代弁してくれそうなトランプに投票しました。このことが、得票総数では上回っていたヒラリーが州ごとに総どりとなる「選挙人」の数でトランプに負け、大統領選に負けた主要因だったといわれています。

これらは、必ずしもリベラリズムとリバタリアニズムというイデオロギー上の対立を意味しているわけではありません。どちらかといえばもっと単純で、白人貧困層は、自分たちより裕福で社会的地位が高いにも関わらず、自分たちのことなんて意識の片隅にもないお高くとまって気取った連中のことを嫌っている――と考えた方が自然です。


ドラマ版『ウォッチメン』にも、エリート的な人物が出てきます。前述したオジマンディアスに、レディ・トリュー、更に、FBI捜査官となった二代目シルク・スペクターことローリーです。

父親と同じく国家の側についたローリーは、姓も母のジュスペクツィクではなく父のブレイクを名乗っています。

ニューヨークからタルサに派遣され、地元の警察官である主人公シスター・ナイトやルッキンググラスの上司となり、捜査をしきるローリーは、西部劇を含む様々な映画で描かれた地元の警察官や保安官たちと対立する連邦捜査官を強く想起させます。

特に、いかにもニューヨーカーらしく皮肉な表現を使いまくりソフィスティケートされた英語を喋るローリーと、いかにも南部っぽい訛りのルッキンググラス(演じるティム・ブレイク・ネルソンは実際にタルサ出身だそうです)がお互いの腹を探り合いながら会話するシーンは、知的な緊張感に満ちつつ、「いま」の対立をみせるシーンでもあります。



●リベラルvsリバタリアンとしてのドラマ版『ウォッチメン』

こうやってみていくと、ドラマ版『ウォッチメン』での対立がどういったものを描いているのかがよく分かります。

 

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