おはようございます、マクガイヤーです。
光回線更新の営業電話がかかってきたのですが、部屋の片づけが一日がかりになるので断ってしまいました。
こんなことなら家を建てる時に回線の出口をもうちょっと考えておけばよかったです。
マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。
○5月19日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2019年5月号」
・最近の自動車
・最近のノートルダム
・『機動戦士ガンダム サンダーボルト』 13巻
いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
○6月2日(日)19時~「『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』公開記念、神と怪獣と人間のトリニティ」
5月31日(金)にハリウッド版『GODZILLA』の続編にしてゴジラシリーズ最新作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が公開されます。予告編や玩具でアナウンスされた、ゴジラの背鰭やモスラの羽根の眼状紋などのデザイン、ゴジラたちを”Monster”でも”Kaiju”でもなく”Titan”と呼ぶこと、なによりも神々しいまでの怪獣描写に、わくわくが止まりません。明らかにマイケル・ドハティは怪獣が分かっています。
そこで、「怪獣が分かっている」とはどういうことか? 、人間と神と怪獣のちがいは? 、怪獣に感情移入できるのか/しても良いのか? ……『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を解説すると共に、そんなことを考えるような放送を行ないます。
ゲスト兼アシスタントとしてアメコミ翻訳家の御代しおりさん(https://twitter.com/watagashiori)にまたもや出演して頂く予定です。
○6月16日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2019年6月号」
いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
○7月7日(日)19時~「漫画家漫画のメタとネタ(仮)」
『バクマン』、『アオイホノオ』、『かくかくしかじか』……ゼロ年代の後半以降、漫画家を目指す過程や道程をテーマとした漫画――「漫画家漫画」の名作が次々と誕生しています。中には知名が低かったり、それとは気づかない形で発表されていたりする「漫画家漫画」も存在します。
そこで、「漫画家漫画」の成り立ちや意味合い、個々の作品の魅力について紹介するような放送をお送りします。
ゲストとして編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)に出演して頂く予定です。
○藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本の通販しています
当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。
https://macgyer.base.shop/items/19751109
○『やれたかも委員会』に取材協力しました。
『やれたかも委員会』(https://note.mu/yoshidatakashi3/n/na63c34ee5adc)の「童貞からの長い手紙」に取材協力しました。単行本1巻分のエピソードになるそうです。
ちなみに基になったお話はこちら
https://ch.nicovideo.jp/macgyer/blomaga/ar1011063
さて、今回のブロマガですが、皇位継承とY染色体について書かせて下さい。
●日本人と天皇
10連休の間中、自分や自分の周囲の話題は『アベンジャーズ/エンドゲーム』の話題で盛り上がっていたのですが、世間的に盛り上がっていたのは天皇の代替わりや改元だったわけですよ。そりゃそうですよね。
皇位継承に合わせて、面白かったのはNHKのドキュメンタリー『日本人と天皇』でした。
https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20190430
まさか雁屋哲の漫画的なものではあるまいと思っていたら、天皇家の儀式に仏教が取り入れられていた時期があったこと、東日本大震災直後に膝をついて被災者慰問する天皇(現上皇)の姿に象徴される天皇像の変化、女系天皇を認めないと天皇制存続そのものが危ういこと……といった重要トピックをこのタイミングでしっかりと伝えるドキュメンタリーでした。「政権寄り」などといわれつつも、なんだかんだいってNHKは良いドキュメンタリー作りますよね。
一方で、びっくりしたのは、皇位継承を男系のみに限る根拠としてまた「神武天皇のY染色体論」が盛り上がっていたことでした。
●「神武天皇のY染色体論」
「神武天皇のY染色体論」とはなにかというと、皇位継承にあたって男系のみを認める根拠として、「神武天皇由来のY染色体を受け継いでいるから」とする理論……というか理屈です。
・Y染色体は男系のみに受け継がれる。
・歴代の天皇は父親のY染色体を受け継いできた。これは神武天皇由来のY染色体を受け継いでいることになる。
・女系天皇を認めると、神武天皇由来のY染色体が継承されなくなる。これは万世一系の破壊である
……という理屈だそうです。
自分のように大学や大学院で分子生物学や遺伝学を学んでいた人間でなくても、高校時代に生物をとっていた方なら、この理屈のトンでもなさが分かると思います。
●突然変異を無視
真っ先に頭に思い浮かぶのは、突然変異を無視しているという点です。
染色体はDNAがヒストンと呼ばれるタンパク質に巻きつき、高次構造とよばれる複雑な構造をとっている物質です。このDNAの塩基配列は、親から子へ受け渡される際に一定の確率で変異が起こることが知られています。その確率は、ヒトだと0.96~1.2✕10-8乗――約1/1億の確立で突然変異が起こることになります。
ヒトのY染色体はおよそ5100万塩基対から成り立っています。面倒だから5000万塩基対ということにしましょう。期待値は1世代で1/2、2世代で1――すなわち2世代で1塩基対の変異が入っていてもおかしくないとうことになります。今上天皇は神武天皇から数えて第126代になりますので、Y染色体に63塩基対の変異が入っていてもおかしくないという計算になります。
●相同組換えを無視
もう一つ、染色体は減数分裂の際に組換えを起こします。
よく知られているのは、相同染色体同士での組換えです。
ヒトの染色体は、1~22番までの各1対計44本の常染色体と、性別を決定する1対2本の性染色体からなりますが、相同染色体同士で組換えがおこります。
これはDNAの複製時にDNAの塩基配列がよく似た部位(相同部位)で相同配列部分で組換えが起こりやすいからなのですが(2本の二重鎖DNAをつなぐ「ホリデイ構造」をとることが知られています)、23番のXとY染色体もPAR(pseudoautosomal region)と呼ばれる擬似常染色体領域を共通に持ち、この領域でXとY染色体の組換えが起こる可能性があります。
また、Y染色体は回文配列を内部に多く含み、この回文配列は高い頻度で組換えを起こすことで有名です。多型性に富むので、このような回文配列をDNAマーカーとし、更に複数用いることで個人鑑定や親子鑑定のDNA鑑定に用いられたりしています。
126代の間に、このような組換えが起こっていないと考える方が不自然です。
●歴代天皇のDNA解析が必須
更に、このような議論をしていると、問題になってくるのは「果たして今上天皇は本当に神武天皇のY染色体を受け継いでいるのか?」という点でしょう。
つまり、万世一系を科学的に証明する必要が出てきます。
早い話、天皇のDNA配列を確認する必要があります。少なくとも、今上天皇と大皇はDNAシーケンサーでY染色体の全塩基配列を決定しておかなくてはなりません。当然、これは天皇の人権や尊厳を無視した行為ですが、擬似とはいえ科学の俎上に乗せるというのはそういうことです。
同時に、歴代天皇陵を調査し、遺体からDNA配列を解析する必要があります。歴代天皇のY染色体の全塩基配列を決定するのが目標になりますが、代の若い天皇であればあるほど、年月の経った遺体であればあるほどDNAは劣化し、解析が困難になることが予想されます。
火葬された遺体からのDNA解析はほとんど不可能でしょうが、(記録上)土葬された天皇が多いことはこの点で幸運かもしれません。
王朝が入れ替わった可能性があるとされる応神天皇や継体天皇のDNA解析は是非ともしたいところです。また、側室が必ず天皇の子であるかどうかも確認しないといけません。日本には宦官制度がなかったので、側室が浮気して作った子が天皇になった可能性は大いにあります。
以上の点はどれも、高校で生物をとっていれば習う知識に基づいています。勿論、授業内容は時代によって変わっていきますので、たとえ高校で生物をとっていても40、50代のおっさんは知らないかもしれませんが、きちんと勉強している若者は騙せないということになります。
●新ルール誕生と人類皆兄弟
歴代の天皇のDNA配列を解析した結果、「Y染色体の継承は自然状態でおこる程度の塩基配列の変異や組換えを許容する」という新ルールができるかもしれません。というか、体細胞クローンを作っても数塩基程度の変異は防ぎようがないので、そうならざるを得ないでしょう。自然なもの・あるべき姿のものを「浄」、自然でないもの・不自然なものを「不浄」とする神道的価値観にも合います。
この場合、問題になるのは「(神武天皇由来かどうかは別にして)天皇家のY染色体を持つ人間は沢山いる」という点です。1947年に皇籍離脱した11宮家51名の元皇族だけではありません。なにせ126代も続いていますので、知られざる皇籍離脱者とその子孫は沢山いることになります。
この場合、連想するのは以前も話題に出した「ケビン・ベーコン・ゲーム」です。
10代遡ると、2の10乗1,024人、約1000人の先祖がいる計算になります。20代なら約100万人、25代なら約3000万人、30代で役11億人です。乗数なので遡るごとにぐんぐん増えるわけですね。
1代20年としましょう。20代で400年前の1618年、30代で600年前の1418年になりますが、1600年の日本の推定人口は約1200万人、1150年は680万人とされています。
つまり、ここら辺まで、具体的には室町時代(1336~1573年)くらいまで遡ると、計算上の先祖の数が当時の人口を上回り、日本人全員親戚状態になるわけです。
勿論、これは全員Y染色体を受け継いでいることにはなりません。しかし、私や貴方が室町時代に皇籍離脱した天皇の子孫である可能性はかなり高いです。
それでは126代遡ったら? 2の126乗はエクセルで計算すると8.5E+37……8.5×10の37乗になります。これは、日本人の多くが神武天皇由来のY染色体を(自然状態でおこる程度の塩基配列の変異や組換えを含んだ状態で)持っているといって良いのではないでしょうか。
●なぜトンデモ理論が掲げられているのか
こうやって列挙してみると、「神武天皇のY染色体論」のおかしさについて分かって貰えるかと思います。
そもそも、「天皇」という宗教的・象徴的資格にそのような唯物的観点を当て嵌めて良いのか?
もっといえば、「天皇」という「物語」に疑似科学的正統性をつける必要があるのか?
更にもっといえば、これは疑似科学やトンデモを越えて伝奇SFの世界ではないか?
……なんてことを考えてしまうわけです。
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生物学博士としての指摘が面白かった。