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マクガイヤーチャンネル 第181号 【藤子不二雄Ⓐと映画と童貞 その9 『魔太郎がくる!!』その4】

2018/07/25 07:00 投稿

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  • 藤子不二雄Ⓐ
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マクガイヤーチャンネル 第181号 2018/7/25
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おはようございます。マクガイヤーです。

暑い日が続くと、何もやる気がなくなってしまうのですが、皆様いかがおすごしでしょうか?



マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



○7月28日(土)20時~「ゾイド大特集」

2018年6月より、久しぶりの「ゾイド」新シリーズである「ゾイドワイルド」の展開がアナウンスされています。6/23頃から新しいキットが発売される共に、7/7より新アニメ『ゾイドワイルド』も放送されるそうです。

ゾイドといえば昭和の一期と平成の二期それぞれで大人気を誇ったシリーズですが、いよいよ復活して三期目の歴史を紡ぐことができるのかどうか、メカボニカやスタリアスの頃から親しんでいた自分としては、気が気ではありません。

そこで、これまでのゾイドの歴史を振り返ると共に、ゾイドの魅力について語る放送を行ないます。

今回は主に昭和ゾイドについて語ることになります。

ゲストとして、YouTube動画などで活躍しているじろす(https://twitter.com/jiros_zoids)さんに出て頂く予定です。

虹野ういろう(https://twitter.com/Willow2nd)おじさんもきっとまた出てくれるよ!



○8月5日(日)20時~「ここがヘンだよ! 細田守と『未来のミライ』」

7/20より細田守3年ぶりの長編アニメーション映画『未来のミライ』が公開されます。

細田守といえば、「ポスト宮崎駿」と評されるアニメ監督の一人です。東映動画や日テレとのつながり、スタジオジブリへの「出向」、版権映画での「本家越え」、自身の製作会社の設立……等々、国民的アニメ映画監督候補としての「資格」にも事欠きません。

そして同じく「ポスト宮崎駿」と評される新海誠と同様に、川村元気プロデューサーと組んで以降、作風に変化が生じた監督でもあります。

そこで、これまでの細田守作品や細田作品の特徴を振り返りつつ、『未来のミライ』について解説する放送を行います。

アシスタントとして編集者のしまさんが出演予定です。



○8月18日(土)20時~「俺たちも昆活しようぜ! 昆虫大特集」

7/13~10/8まで上野の科学博物館で昆虫特別展も開催されます。

夏といえば海に山に恐竜、そして昆虫! いま、昆虫が熱い!!

……というわけで、今年の夏のマクガイヤーチャンネルは昆虫を大特集する放送を行ないます。

昆虫に詳しいお友達の佐々木剛さん(https://twitter.com/weaponshouwa)をお呼びして、昆虫の魅力について語り合う予定です。





○Facebookにてグループを作っています。

観覧をご希望の際はこちらに参加をお願いします。

https://www.facebook.com/groups/1719467311709301

(Facebookでの活動履歴が少ない場合は参加を認証しない場合があります)



○コミケで頒布した『大長編ドラえもん』解説本ですが、↓で通販しております。ご利用下さい。

https://yamadareiji.thebase.in/items/9429081





さて、今回のブロマガですが、引き続いて藤子不二雄Ⓐ作品、『魔太郎がくる!!』について書かせて下さい。




●ジオラマにみるⒶとFの世界観の違い

前述したとおり、連載が進むと、単に「限度を越えたいじめを受けた魔太郎が、凄惨な方法で復讐し、恨みをはらす」話だけではなくなってきます。

悪霊や悪魔といった人外の存在が敵になる話はつまらないのですが、魔太郎が「恨み念法」も「黒魔術」も使わず、ライバルである切人も出てこない話には不思議な味わいがあります。


たとえば「うらみの56番 ガラスの中の別荘」がそれです。

夏休みにどこにも連れて行ってもらえない魔太郎は、「怪奇や」の主人からガラス箱の中に入った海辺の別荘のジオラマを貰います。夜中の12時にガラス箱のカバーをとってジオラマを覗き込むと、ジオラマの世界の中に入り、その中で遊ぶことができるのです。

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ジオラマの世界の中には光と夏子という名前の兄妹が住んでおり、遊び相手にもなってくれます。妹の夏子はもしかすると、仄かな恋の相手にもなってくれる予感さえします。


しかし

「ただし、この中をみるのはきみだけだよ。絶対にほかの人にこれをみせてはいけない!」

……という「怪奇や」の主人の注意を守れず、留守中にママにジオラマを覗かれてしまった魔太郎。

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今夜もまた遊びに行こうとカバーをとってみると、ジオラマの中の別荘は嵐にでも遭ったかのように廃墟と化していたのでした。



このような話は、どちらかといえば藤子・F・不二雄の方が多く描いています。

たとえば『四畳半SL旅行』には、鉄道模型のレイアウト(車両の走行が可能なジオラマ)を趣味とする少年が登場します。あまりに完成度の高いレイアウトを作り上げた少年は、ミニチュアの世界の中に入り込みたいと願い、自分の写真と8ミリカメラを使ったアニメーション映画を作ることに熱中します。その熱中ぶりに、幼馴染の少女は、少年がレイアウトに吸い込まれる幻影すらみてしまいます。

そして、熱中しすぎた少年の思いが、遂に空想と現実の壁を破るのですが、それは魂が囚われたようなものだった……というオチには、藤子・F・不二雄が自身をみつめる際の冷ややかでブラックな視点をも感じ取ってしまいます。

たとえば『山寺グラフィティ』の主人公は、山形の田舎出身の青年です。イラストレーターを目指して上京した青年は、それなりに夢を実現させたのですが、ある時、死んだ幼馴染が成長した姿となったような女性をみかけます。無口で主人公以外の誰にも認知されない彼女は、幼馴染が行きたがっていた女学院に通い、いつしか主人公の部屋に通うようになります。彼女はやはり幽霊だったのですが……という、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を26年前にやっていたかのような話です。

注目したいのは幼馴染が成長していた理由です。主人公とその幼馴染が暮らしていた土地の山には「死者の魂が生前とかわりなく生き続ける」という仏教伝来以前からの土俗信仰があり、赤ん坊が亡くなれば成長に合わせて七五三の晴れ着やランドセルを納める……というように、亡くなった人の成長に合わせてさまざまな品物を奉納して供養するという風習がありました。幼馴染の父親は、食器ひとそろい、女学院の入学案内、東京行きの電車の切符、東京名所絵葉書といっしょに、なんとミニチュア家具を山に納めていたのです。それも、主人公と幼馴染が恋心を通わせた洞窟に。

Fによるこの二作のオチから受ける読後感は正反対ですが、「箱庭」内のキャラクターには魂があり、そこで生活し、時には成長さえしているという世界観において共通点があります。


同時にここには、ⒶとFにとって明確な世界観の違いを浮き彫りにする点があったりもします。


心の中に楽しい時を過ごせる自分だけの小宇宙があり、そこを創作の源泉としているという点においてはⒶとFは共通しています。いや、創作活動にたずさわる全てのクリエイターは、このような小宇宙を心の中に持っている筈です。


しかし、Fにとっての小宇宙が、その中に入り込み、思いのままにクラフトし、自分だけの王国を作りたいと考えてしまうほどの楽園であるのに対し、Ⓐにとっての楽園はいつか滅ぶべきもの――「卒業」すべきものであるのです。


「ガラスの中の別荘」において、別荘のジオラマは魔太郎にとって唯一楽しい時を過ごせる心の中の理想の世界――自分だけの小宇宙です。

その小宇宙が決定的に壊れてしまったのですが、注意したいのは破壊の原因になったのは、いじめっ子でもライバルの切人でもなく、魔太郎が愛する家族のママであるということです。魔太郎は自分の家族――パパとママを世界中の誰よりも、おそらくヒロインである由紀子さんよりも愛しています。そんなママが、自分だけの小宇宙の破壊者になってしまうのです。

おそらく魔太郎は、ママを責めれず、自分の不注意を嘆くことしかできないはずです。何故なら魔太郎にとっての「家族」や「家庭」も、魔太郎にとっての楽園のような小宇宙なのですから。


Ⓐにとっての楽園は、『怪物くん』の回で紹介した「パックにたのんで夢の旅」でも描かれました。

ここでヒロシはパックにお願いして亡き母の夢をみさせてもらいます。

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心からの笑顔と涙で母に抱きつくヒロシですが、ヒロシは決して夢の世界に耽溺したり、引きこもったりしません。「ありがとう……パック また時どき会わせてよな」という台詞と共に、夢の世界を自ら遠ざけます。

自分の中の悲しさや寂しさ、恐怖や妄執をコントロールできることこそ、Ⓐにとっての理想であり、成長なのでしょう。


「楽園」や「愛しい人がいる理想の世界」はいつか滅んでしまうし、「卒業」しなければならない――というテーマは、「うらみの91番 貝がらの中の少女」や「うらみの125番 ペンフレンド」でも出てきます。


最終回「うらみの133番 魔太郎が去る!!」において魔太郎は、家族を守るために家を出て、旅立ちます。

魔太郎は最後の楽園も自分自身で捨て去ること――「卒業」を選んだのです。



●Ⓐが最も復讐したい相手

「理想の世界」を「卒業」し、「現実」の世界でなにをするかというと、『魔太郎』の場合は「恨みをはらす」ことになるわけですが、『魔太郎』の中盤以降で印象に残るのは他人の恨みをはらす回だったりします。


「うらみの30番 ぼくの親友はガン気狂いだ!!」には、天才的なモデルガン作りの才能を持つ同級生 巌呉次(がん・くれじ)が登場します。当時、既に金属製モデルガンは規制の対象でしたが、巌くんは木から部品一つ一つを削り出し、精巧な木製モデルガンを作っていたのです。

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「きっと きみもぼくも孤独だから………気が合うんだよ……」

巌も魔太郎と同じくチビで気弱な男です。ふとしたことをきっかけに知り合った二人ですが、親友になる魔太郎と巌。モデルガンを密売し、ゆくゆくは自分の工場を持ちたいという巌に対し、魔太郎は友人として尊敬の念を抱きます。

ですが、巌の作った銃が銀行強盗に使われるという事件が起こってしまいます。責任をとるために自ら警察に出頭する巌。ほぼ同じプロットを持つ『エスパー魔美』の狂銃ムラマサの同級生ゴインキョとはえらい違いです。

魔太郎は、モデルガン流出のきっかけとなった巌の同級生を呼び出し、うらみをはらします。

うらみ念法により、木製のシュマイザー機関銃から飛び出る銃弾。

魔太郎は泣きながら呟きます。

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「巌くん……この機関銃には やっぱりきみの一念がこもっていたんだね!!」


同じような話は、他の回でもみられます。

「うらみの37番 空中に浮かぶ魔法の岩よ」ではルネ・マグリットのような超現実的な絵を描く売れない画家、

「うらみの44番 ヒビわれた友情」では地下の排水溝跡に秘密の隠れ家「アングラ城」を作る同級生、

「うらみの115番 フランケンシュタインを愛する男」ではフランケンシュタイン・マニアの大男、

魔太郎はいずれのお話でも彼らと親友になり、うらみをはらします。


これらの回に登場し、魔太郎と友情を結ぶゲストキャラクターには、共通する要素が二つあります。

一つは、気弱で、内気で、大人しい性格であるということです。年齢は同級生からかなり年上まで様々ですし、フランケンシュタイン・マニアの拳田のように体格の良い人物もいますが、その大人しい性格から、皆いじめっ子や知り合いに搾取されたり、悪意をぶつけられたりしているということです。

もう一つは、ガンや絵やアングラ城といった、「自分だけの小宇宙」を持っていることです。

「自分だけの小宇宙」を持っている彼らは孤独です。気弱で、内気で、大人しい性格がこれに拍車をかけます。

だからこそ、魔太郎は彼らに共感し、友情を結び、互いを尊敬し合う関係になれるのでしょう。



一方で、『魔太郎』には魔太郎が共感を示すも、友情を結べなかったどころかうらみの対象になってしまった相手も存在します。


「うらみの23番 もうひとりのおれをやっつけろ!!」では、魔太郎にそっくりな外見を持つ同級生 日上一郎が登場します。

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(「日上一郎」という名前のキャラクターは「うらみの18番 投げ矢遊びは危険だぜ!!」にも登場し、おそらくⒶが名前被りに気づいていないことはご愛嬌です)。


ですがこの日上、チビでメガネでウラナリで、中学校というカースト制度の中で暴力の被害者になりがちという点は魔太郎と同じだったのですが、持ち前の卑屈さで上級生に取り入ったり、いじめられたストレスを子犬にやつあたりしてはらすような歪んだ性格の持ち主だったのです。

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率先して上級生の靴をなめる姿に、魔太郎もどんびきです。


卑屈さと小心さから魔太郎を裏切り、暴力を受ける身代わりとして魔太郎を上級生に差し出した日上。

これに対し、魔太郎は念法でうらみをはらします。

その方法は、鏡に映した日上の顔を叩き割るというものでした。

「残念だ!! ぼくはきみのことをほんとに兄弟のように思っていたのに……」

と泣く魔太郎のコマで、漫画は終わります。



こうして考えてみると、Ⓐにとって最も忌むべき存在であり、復讐したい相手は、「鏡に映った」かのような、もう一人の自分であることが分かります。

それは「内気で暗くて、経済的にも肉体的にも弱者である自分」ということではありません。Ⓐが嫌悪しているのは「内気すぎてここぞという時に一歩踏み出せない自分」であったり、「暴力を恐れて大事な友人や家族や心の中の小宇宙を裏切ってしまう自分」なのです。



●Ⓐにとって『魔太郎』

前述したような「ヘンに挑発して、火に油をそそぐことになっては……」という理由から、『魔太郎』はアニメ化もドラマ化も映画化もされなかった作品ですが、とにかく人気がありました。

Ⓐが自分の代表作の一つと考えていることは間違いないです。


『魔太郎』の連載終了から約20年後の1991年から1995年にかけて、Ⓐは『憂夢』という漫画をビッグコミックオリジナルに連載します。

新宿のどこかの路地裏にあるレンタルビデオショップ「憂夢」。レンタル料金は一泊二日で9999円と高額ですが、この世に一本しかないビデオが揃っていました。人生に迷ったお客さんはここでビデオを借り、深夜に視聴します。すると、ビデオの中に入り込み、人生のヒントのようなものを得ます。

ぶっちゃけ『黒ィせぇるすまん』のバリエーションなのですが、50代後半~60代前半にかけて執筆したこともあり、しっとりと落ち着いたちょっと切ないハッピーエンドや、郷愁をかきむしるようなエピソードが多かったりします。

 

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