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マクガイヤーチャンネル 第88号 【オートファジーとトリコと基礎研究の大切さについて 】

2016/10/10 07:00 投稿

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マクガイヤーチャンネル 第88号 2016/10/10
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おはようございます。ついこの前まで大隅良典先生をみるとセーラー服おじさんこと小林秀章さんを連想する人もいるのかなーなんて思ってたマクガイヤーです。

でも、これからは違いますね! なにせノーベル賞ですよノーベル賞。安部首相でなくても「日本の誇り!」と興奮してしまいます。




今回こそ「科学で映画を楽しむ法」第2回として『コンテイジョン』の解説をしようかと考えていたのですが、こんな機会めったにないので、オートファジーについて解説させてください。

昨年、大隅先生はノーベル賞の登竜門といわれるガードナー国際賞を受賞されました。そこで昨年末の忘年会ニコ生にて解説するつもりだったのですが、『スター・ウォーズ』の話で盛り上がりすぎてしまい、すっかり時間が無くなってしまったのも記憶に新しいです。

 

やっぱりこういうのはブロマガでやった方が良いのかもしれませんね。



●大隅良典と水島昇

トムソン・ロイターから大隅先生と並んでオートファジーでノーベル賞候補と発表された研究者に水島昇先生がいます。

水島先生は大隅先生の弟子であり、哺乳類でのオートファジーの研究で有名です。大隅先生が受賞された日は解説者としてNHKにもテレ朝にも出演していました。同じテーマで二度ノーベル賞が授けられることはまず無いので、この先水島先生がオートファジーでノーベル賞を受賞することはまずありえません。

自分は大学院時代に水島先生の講演を何度か聞いた経験もあり、水島先生の心中を勝手に慮ったりして勝手に複雑な気持ちにもなったりしたのですが、笑顔でテレビに出演し、「単独受賞にこそ意味がある!」と熱弁している姿を拝見するにつけ、本当にいい先生だなと思いを新たにしたりもしました。


「単独受賞にこそ意味がある」というのも、本当のことです。サイエンスがビッグプロジェクト化するに連れて、新しい知見や発見に誰がどのように貢献したかをきちんと見極めることは難しくなりつつあります。ヒトゲノム解析を報告した論文の1ページ目がまるまる共著者名で埋まっていたことは有名な話です。

http://www.nature.com/nature/journal/v409/n6822/abs/409860a0.html

分野横断的な研究がどんどん重要になってきたこともこの傾向に拍車をかけています(新しいアイディアとは既存のアイディアの組み合わせに過ぎず、真に新しい研究は新しい学問の幕開けでもあるからです)。ノーベル賞は一分野で3人までしか共同受賞できませんが、近年はその3人の枠がフルに使われることが多い傾向にあります。

そんな中での単独受賞は、本当に意味のあることです。


それでもまだ50歳である水島先生も受賞されていたら、もっと良かったかもしれないなあ、などと考えてしまいます。50歳で受賞した山中先生のその後の活躍を例に挙げるまでもなく、ノーベル賞受賞者には、称賛と共におカネや名誉や権威が集まることは有名です。PCRの発明でノーベル賞を受賞したマリス博士は、ノーベル賞受賞の最大の恩恵はおカネでも名誉でもなく「誰もが最初のドアを開いてくれること」と言っていました。ノーベル賞受賞者が共同研究を申し込んできたとして、門前払いするような馬鹿はいないからです。

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自分が講演を聞いた時、水島先生は既に「世界の水島」と呼ばれていましたが、それでもノーベル賞候補者と発表される前までは一般層での知名度は皆無でした。一般層での知名度が皆無ということは、日本の公的研究費である科研費を配分する文科省の官僚たちはいまいちピンときてないということですし、これを理由に科研費全体の増額を財務省に要求するのも辛い、ということでもあります。

OECD加盟国の中で、日本のGDPに対する公的な研究費の割合は最低レベルであるといわれています。

http://blog.goo.ne.jp/toyodang/m/201405

せめて大隅先生がノーベル賞を獲ってくれて、本当に良かったです。



●オートファジーとはなにか

そもそも「オートファジー」という言葉を今回のノーベル賞で知ったという人が大半なのではないでしょうか。

「オートファジー」はギリシア語の「auto(自分の―)」と「phagy(食べる)」から作られた言葉です。その名の通り、細胞が自分自身を「食べる」ことを意味します。

細胞を電子顕微鏡で観察すると、「液胞」とよばれる膜に包まれた構造物が観察されます。

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http://www.cellcycle.m.u-tokyo.ac.jp/research/proffessional.htmlより

この液胞の中には加水分解酵素と、酵素によって分解されようとしている小胞体やミトコンドリアが含まれています。このことから、細胞は古くなったり不要になったりした自らの構成成分を自ら「食べる」ことで分解している――オートファジーの概念が提唱されたのは1960年代のことです。


「細胞内に溜まったゴミはどう処理されるのか?」というのは、一見地味な話に思えるかもしれませんが、実のところものすごく重要なテーマの一つです。

そもそも細胞はそれぞれに「寿命」が決まっています。寿命がきたら新しい細胞に置き換わる――ターンオーバーすることで生物は全体として機能を保っているのです。

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それでは、一度分化したら分裂せず、個体としての寿命と細胞としての寿命が同じ脳細胞は一生ターンオーバーしないのでしょうか? 寿命が1.5~20年と長い肝細胞や骨細胞は、1.5~20年の間ずっと同じ蛋白質を部品として使い続けているのでしょうか?

そんなことはありません。部品としての蛋白質(だけではありませんが、話を簡単にするためにそう書かせてください)がターンオーバーしているのです。

これに関わるのがオートファジーです。オートファジーにより古くなったり不要になったりした蛋白質をアミノ酸まで分解し、新しい蛋白質の材料としているのです。


そもそも細胞の中はどのようになっているのでしょうか? どろどろとした細胞質基質があり、ミトコンドリアやゴルジ体といった細胞内小器官が浮かんでいる……といったイメージをお持ちの方が多いかもしれません。

ところが、実は細胞基質の中には、様々な生理反応を担う蛋白質がギチギチに詰まっているわけです。

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こんな大混雑したプールのような場所に、古くなったり不要になったりした蛋白質が放置され続けるとどうなるでしょうか?

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当然、ゴミだらけのプールになってしまうわけですね。

(これは後々分かってきたことなのですが)パーキンソン病やアルツハイマー病、ハンチントン舞踏病といった神経変性疾患は、細胞内に異常な蛋白質が溜まり、凝集体となって残り続けることが原因(の一つ)であると言われています。



●オートファジー研究の難しさと大隅研究の凄さ

ところが大隅先生が手をつけるまで、オートファジーの研究は顕微鏡でオートファジーの様子を観察する――形態学的なものに留まっていました。もう一つの分解機構であるユビキチン・プロテアソーム系と比較して、メカニズムや関連する遺伝子に関する研究が遅れていたのです。


何故でしょうか? 大きく分けて、二つの理由があります。


一つは、観察の難しさです。細胞中の液胞を調べるには、電子顕微鏡を使う必要があります。研究者はたいていの実験機器を扱えるように訓練しますが、(当時の)電子顕微鏡は専門のオペレーターが必要で、おまけに高価でした。

科学研究に一番大切なのは日常的な実験の積み重ねです。やりたい時にいつでもやれる、昨日研究室に入ってきた学部生や実験補助のおばさんでもやれる、飲み会の後のほろ酔い気分の後でもやれる(たいてい失敗しますが)……という実験であればあるほど、進めやすいのです。

一方で、ここぞ! という時にしか使えない電子顕微鏡では、スループットに限界があります。1回の実験なら問題ありません。10回の実験も夜なべすれば可能でしょう。でも、100回となると無理が出てきますし、1000回となるとほぼ不可能でしょう。


もう一つは、アウトプットの難しさです。

大隅先生が行ったオートファジーのメカニズム解明についての研究は、「病気の治療法をみつけよう」とか「困っている人を助けよう」とかいった理由から始まったわけではありません。

当時はパーキンソン病の発症や細胞の正常な分化にオートファジーが関わっているということも分かっていませんでした。

つまり、オートファジーの研究は純粋な基礎研究――自然の理を解明したいという純粋な思いから始まったのです。これに比べると、「人類の進歩」とか「コストを安くする」とか「困っている人達を助ける」とかいった理由は、「不純」ともいえます(基礎研究に携っている後輩からそのようなことを言われてドキリとした経験があります)。

しかし、このような純粋な基礎研究は予算を獲得しにくいわけです。「自然の理を解明することが人類のロマンなんですよ!」と熱弁しても、蓮舫は事業仕分けを辞めてくれないし、安倍晋三も松野博一も予算を増額するどころか削減しようとするわけです。


大隅先生のひらめき――セレンディピティの秘密は、オートファジーが初めて発見された哺乳類の細胞ではなく、出芽酵母を研究の対象に選んだところです。

出芽酵母では、オートファジーの進行を電子顕微鏡ではなく(普通に研究室に置いてある)光学顕微鏡で観察できます。まず、出芽酵母に放射線を当てたり、化学物質と一緒に培養したりして、様々な変異体株を用意します。そして、栄養飢餓状態においた数千種類の酵母を光学顕微鏡で観察し、オートファジーが正常に進行しない酵母を選び出しました。変異がおこり、たまたま分解能力の無い酵母が生まれれば、液胞が大きくなり(正常な酵母はすぐ液胞が消失します)、光学顕微鏡でも容易にオートファゴソームを観察できるかもしれないという考え方です。そして、数千種類の細胞を電子顕微鏡で観察するには数年~十数年の時間がかかるでしょうが、数千種類の酵母を光学顕微鏡で観察するなら僅かな時間で済むのです。

大隅先生は、分解能力の無い酵母と正常な酵母の遺伝子を比較し、オートファジーに必須な遺伝子をどんどん見出していきました。これがオートファジー研究のブレイクスルーとなりました。現在Atg遺伝子群と呼ばれるそれらは、細胞が栄養飢餓状態に置かれると発現し、オートファゴソーム形成に関わることが分かっています。


●オートファジーは何故重要なのか?

一旦ブレイクスルーが起きれば、やればやるほど結果が出てくる幸せな時間になります。


最もインパクトがあったのは、Atg遺伝子を欠損させた(ノックアウトした)マウスでの研究でしょう。

Atg遺伝子群の一つであるAtg5ノックアウトマウスは、ほぼ正常に生まれますが、細胞内でオートファジーがおこりません。そして、生後まもなく激しい栄養欠乏状態に陥ります。

つまり、哺乳類は産み落とされてから母親に母乳を貰うまで飢餓状態に陥るのですが、これをオートファジーで乗り切っていたのです。

勿論、これは一時しのぎにしか過ぎません。いつまでも母乳を飲めなければ死んでしまいます。しかし、自然界では一時しのぎで飢餓状態を乗り切ることで、生き延びられるという局面が幾つもあるのでしょう。オートファジーという機能は酵母から高等動植物に至るまで、様々な生物に保存されているのです。

http://www.cellcycle.m.u-tokyo.ac.jp/news_topics/nature.html


出生後の飢餓状態をなんとか乗り切っても、Atg5ノックアウトマウスの前途は多難です。まず細胞内に凝集体が蓄積し、神経変性疾患を発症します。通常の細胞なら、凝集体が蓄積しても細胞がターンオーバーすることで体全体へのダメージを最小限にできます。ですが、ターンオーバーが起こらない神経細胞ではそういうわけにはいきません。結果として、パーキンソン病やアルツハイマー病に似た異常行動をマウスが呈するようになります。

http://www.cellcycle.m.u-tokyo.ac.jp/news_topics/nature2.html


また、正常細胞とAtg5遺伝子欠損細胞が混ざったマウス(モザイクマウス)では、腫瘍が発生することが分かりました。オートファジーは発がんの抑制にも関わっていたのです。

http://www.cellcycle.m.u-tokyo.ac.jp/news_topics/2011_Tak...


現在、オートファジーは細胞のサバイバルや神経変性疾患やがんだけでなく、感染症や生活習慣病を含む数多くの疾患を抑制していることが分かっています。

成人が一日に必要なアミノ酸は160~180グラムであることが知られています。ところが食事として摂取するアミノ酸(蛋白質)は約70グラム、尿や便として排泄するアミノ酸(エネルギーを得るために窒素などに分解します)も約70グラムです。足りないアミノ酸はどこから来るのでしょうか?

実は、オートファジー等の自己分解により一日160~180グラムのアミノ酸を生み出しているのです。


http://www.cellcycle.m.u-tokyo.ac.jp/research/index.html



●オートファジーと『トリコ』

このようにアカデミア内での成果を沢山生み出しても、オートファジーの一般的知名度はほとんど上がりませんでした。メカニズムの解明がすぐさま病気の治療やライフスタイルの変化に結びつくようなものではなく、ニュースバリューが無かったからです。

ところが2009年、凄いことが起こりました。発行部数300万部を誇る雑誌でオートファジーが話題になったのです。

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それが『トリコ』です。


ちょっと説明しますと、『トリコ』はジャンプお得意のバトル漫画と、『美味しんぼ』『孤独のグルメ』に代表される料理・グルメ漫画が合体した異色の漫画です。

舞台は「美食」が世界的流行となっている「グルメ時代」、食材のハンターである「美食屋」が貴重な食材や未知の食材を求めて世界中を冒険しているという設定です。

主人公トリコは体内に「グルメ細胞」と呼ばれるスーパーパワーの源となる細胞を持っているカリスマ美食屋です。国際グルメ機構(International Gourmet Organization : IGO)に所属しており、悪の美食組織である美食會と食材を巡って日々バトルを繰り広げています。


なんだかついていけない……と思った君たち、これが少年漫画の世界観ですよ!


ある時、トリコとその仲間たちは「宝石の肉(ジュエルミート)」を求めてリーガル島に住むリーガルマンモスの体内に入ります。が、そこで美食會の操るGTロボに遭遇します(自らの肉体で食材を探すトリコたちと、遠隔操作ロボであるGTロボを使って小狡く安全に立ち回る美食會、という意味があります)。

GTロボは強敵です。パンチ一発で首の骨を折られ、倒れるトリコ。

しかし、トリコは立ち上がります。

「オートファジー」が発動したのでした。

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■オートファジー(自食作用)

栄養飢餓状態に陥った生物が自らの細胞内のたんぱく質をアミノ酸に分解し、一時的にエネルギーを得る仕組みである


トリコが一日に消費するエネルギー量は数10万から数百万キロカロリー

故にトリコにとって少しの絶食が時に生命(いのち)にかかわるダメージとなるのだ。


ましてや島に入ってから闘いの連続だったトリコにとって食料(エネルギー)の補充は必須

しかしトリコは充分な食事をしていなかった…


結果、体は「栄養飢餓」状態に陥り、”オートファジー”(自食)が発動―――!!

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トリコはGTロボを圧倒しますが、GTロボは「オートファジー」の弱点についても既に知っていました。

GTロボは(オートファジーについて読者に解説しつつ)トリコを挑発します。

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美食屋トリコ…

流石ノパワー 惚レ惚レ スルゾ

コノ体ガ 今ニモ粉々ニ ナリソウダ…


シカシ ソノ パワー

ソウ 長ク続ク モノデハナイ


「自食作用(オートファジー)」ハ 栄養飢餓ノ 一時的ナ 回避ニシカ過ギン

ソノ状態ガ 長ク 続ケバ 自分デ自分ノ 細胞ヲ 食ベ尽クシ

進化スルドコロカ 逆ニ 細胞ハ 死ニ至ル…!


タイムリミットハ 何分ダ?

ソレマデニ 私ヲ 倒セルカ?

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ここまで読んだ皆さんならお分かりですよね?


・オートファジーとは栄養飢餓状態に陥った生物が自らの細胞内のたんぱく質をアミノ酸に分解し、一時的にエネルギーを得る仕組みである

・オートファジーは栄養飢餓の一時的な回避にしか過ぎない


『トリコ』のオートファジーの解説と描写は、もの凄く正しいんですよ!


水島先生は講演でこのコマの解説を行い、どっかんどっかん笑いをとっていました。


しかも、週刊少年ジャンプの発行部数は約300万部、小保方さん事件で有名になったNatureの発行部数は約5万部、Scienceでさえ約13万部です。

「オートファジー研究者にとって、こんなに嬉しいアウトリーチは無い!」

――と続けて、更に笑いをとっていました。


どうもこのネタは大隅研究室出身の研究者の間で共通のネタとなっているようです。

http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/yoshimori/jp/blog/prof-a-hill-returnsprofahillse/


集英社は大隅先生のノーベル賞受賞を受けて、10月5日より『トリコ』に初めてオートファジーが登場した回3話分を無料公開していますが、素敵なお祝いの仕方だと思います。

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http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1610/06/news079.html



●基礎研究の大切さについて

オートファジー研究の難しさの理由について二つ挙げました。


一つめについては、大隅先生のひらめきによって解決されました。


では、二つ目についてはどう解決したのでしょうか?


↓を読むと、分かります。

http://www.nibb.ac.jp/pressroom/news/2016/10/07.html


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彼はその頃から論文を書かないので有名でした。自分で十分結果に納得いかない場合は書かなかったのでしょう。今の任期制の世の中ではなかなかできないことです。

(略)

十年ほどして教養学部の生物学教室で助教授のポストが空き、彼が迎えられます。基礎科学科出身ということもあったかもしれません。初めてもった自分の研究室には顕微鏡と培養器だけといった有様です。でもここで後の研究につながる、酵母の液胞でのオートファジーを光学顕微鏡で見るという快挙が1988年になされるのです。43 歳の時でした。論文が出るのにはさらに4年ばかりかかかりました。

(略)

しかしともかく論文が無いことが問題のようで、心配して訊いたこともありましたが、「大丈夫です」と落ち着いていました。彼の頭の中では教授昇進のことよりも、完全な論文を仕上げることの方が大きかったのでしょう。

(略)

実は彼の仕事は論文になる前から海外で評判になっており、人事選考委員の先生方の先見の明によって彼の採用が決まったのです。

(略)

要するにふつうの隣(の研究室)のおじさんでした(ただし世間の人から見れば研究者はみな変わり者です)。でももちろんそれでノーベル賞にたどりつけるわけではありません。自分の見つけた面白そうなことに集中して、セレンディピティにも恵まれ、こつこつと追及してきた結果が受賞につながったことは言うまでもありません。

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つまりですね、この文章を書いた毛利秀雄先生や、人事選考委員といった、「先見の明」を持ち、基礎研究の大切さについて充分理解していた人達が、大隅先生のポストを守り、応援していたわけですね。



大隅先生自身もこのことについて自覚的です。

そして、近年基礎研究がやりづらくなっていることについて警鐘を鳴らしてもいます。


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大隅さんは「競争が激化するほど新しいことへのチャレンジが難しくなる。必ず成果で論文になることしかできず、長期的な展望で5年かかるような研究をしてみようというのが続かなくなる」と指摘。国の研究支援が競争的資金中心になり、成果を求める「出口指向」に強まっていることに懸念を示した。

 その上で、若い研究者や大学院生に向け「自分の興味や抱いた疑問を大切にしてほしい。流行を追うのではなく、何がいま分かっていない問題か見極めてほしい」と訴えた。


http://www.jiji.com/jc/article?k=2016100700723&g=soc

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大隅先生は昨日今日このようなことを言い出したわけではありません。2008年(事業仕分けの一年前です)にはそのものズバリ「基礎生命科学の憂うべき状況について」という論文まで書いています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits1996/13/5/13_5_72/_article/-char/ja/


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確かに世界に期した研究を推進するためには高額の研究費が必要であることは事実であるが、全ての人は巨額の研究費を望んでいる訳ではない。もっと広く研究の種を蒔くことこそが、サイエンスの未来を明るくするために不可欠である。私がオートファジー研究も始めたときには全くという程注目されてはいなかったが、その中でも研究を持続することができた点で幸運であった。埋もれてしまう研究を少しでも少なくする必要があろう。流行は既に多くの人が注目していることの証であり、研究の独創性は単なるインパクトファクターや引用度だけでは計れるはずがない。自然の理を明らかにしようという当たり前の喜びを若い世代が取り戻す必要がある。若者達に自信を持ってこのことを主張できなければ所詮日本の科学は技術に従属したものでしか存在し得ないであろう。

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それにしても、大隅研出身の研究者は皆文章が上手い。科学論文を書く上手さと日本語としての文章の上手さは近いようでいて遠いのですが、両方上手いなんて羨ましいです。私も見倣いたいものです。




マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。



○10月10日(月) 20時~

「テン年代の『闇金ウシジマくん』」

9/22より映画『闇金ウシジマくん Part3』が、10/22より映画最終作となる『闇金ウシジマくん the Final』が公開されます。

また、現在テレビドラマの第三シーズンが深夜に放送されています。

これらはいずれも2004年より連載されている漫画『闇金ウシジマくん』を原作としたものです。

当初は『ナニワ金融道』のクローンでしかなかった本作ですが、「新しい貧困」「マイルドヤンキー」「ワーキングプア」「格差社会」……といった「現在」を映し出し、もはやゼロ年代後半やテン年代のニッポンを代表する漫画であるといって良いでしょう。

そこで、原作漫画を中心に『闇金ウシジマくん』について特集します!

『ウシジマくん』はテン年代の『ブラックジャック』なんやで!……みたいなことについてお話することになると思います。

 

○10月27日(木) 20時~

「最近のマクガイヤー 2016年10月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

お題

『聲の形』

『あなたを待っています』

『怒り』

『スター・トレック BEYOND』

『ゼーガペインADP』

『ゲレクシス』

その他諸々について語る予定です。

 

○11月前半 20時~

「ニッポン対ワクチン」

子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの副反応や、HPVワクチン薬害研究についての疑義、というか捏造報道など、ワクチンに関する報道や話題が盛り上がっています。

そこで、そもそもワクチンとは何か、どのように発明されどのように使われてきたのか、何故大事なのか、なにが現実でなにが虚構なのか……等々について今一度しっかり解説します。

 

○11月後半 20時~

「最近のマクガイヤー 2016年11月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

詳細未定。




また、50回記念オフ会を下記日時に開催します。

日時:10/22(土) 14時(13時半開場)~18時(予定)

場所:ワニスタ

http://wanistu.com/

参加希望者は下記フォームにてご申請下さい。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScpfkKnxSPUpZkWn...

詳細は未定ですが、皆でマクガイヤーのお勧め映像を観た後、歓談するというような内容を予定しております。

参加料は無料です。差し入れ大歓迎です!

その後、二次会として近くの飲食店での飲み会も予定しております(こちらは3000円となります)。

応募者多数の場合はTwitterとFacebookのIDがある方から選びますので、是非書いておいてね!

締め切りは10/19となります。


お楽しみに!



番組オリジナルグッズも引き続き販売中です。

マクガイヤーチャンネル物販部 : https://clubt.jp/shop/S0000051529.html

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新製品乳首ポケストップTシャツ

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同じく新製品スーサイドスクワッドTシャツ

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思わずエナジードリンクが呑みたくなるヒロポンマグカップ

 

……等々、絶賛発売中!



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Dr.マクガイヤー
Twitter : @AngusMacgyer
ブログ : 冒険野郎マクガイヤー@はてな

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企画編集:Dr.マクガイヤー
     平野建太

発  行:株式会社タチワニ
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