大きな意味で楽しい何か

陽気な新人サラリーマンの公開手記辞典 #003

2016/06/14 15:17 投稿

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初めての登記簿謄本 #001 ⇒ ar1038462
初めての学校経理 #002 ⇒ ar1043562



・あらすじ

時は20XX年。

稲穂の惑星アキターからチバ星イチカワーにやってきた、アラサー男子ササキーは
10年近く勤めた職種から、生涯雇用という甘い言葉に誘われ、
とある専門学校へ転職する。

一般常識のなんたるかは網羅していると自負していた佐々木だったが、
世界には、まだ自分の知らない常識が溢れていると気付かされる。

出会って3秒で刀折れ矢尽きようとしていた佐々木を
容赦なく学校行事たちが襲う。

仲間の協力を得て命辛辛乗り越えた佐々木。

そんな佐々木を待ち受けていたのは、次なる刺客



決算。



佐々木はこの苦難を乗り越える事ができるのか。









君は今、真実の目撃者となる。











「おい地獄さ行ぐんだで!」 小林多喜二 蟹工船より










その日、佐々木は酷く震えていた。



毎日届く領収書の束、
いつ見ても山盛りの書類、
24度に設定されたエアコン。



隣の先輩が小さな声で呟く。

「殺してくれ。」



目の光を失っていく仲間たち。



経理課へ応援と言う名の流刑を受けた広報課一行は
明くる日も奴隷のように働き通し、

締め切り直前にして限界を迎えていた。



るけい
【流刑】
島流しである。






学校法人
は一般企業と何ら変わりは無い。

一般企業にもグループ会社や子会社があるように、
学校法人にもグループ内で多数の学校を所持している場合がある。

うちもそうだ。



がっこうほうじん
【学校法人】
学校を建てたいと願う気持ち(とお金)がある、法律で認められた人(というか企業)
の事をこう呼ぶ。法律がバックに付いてる分ちょっと強い。



この忙しさにはハッキリとした起因がある。



まず一つは人員不足。



元々居た主力メンバーが抜けてしまったのだ。

事務職で主力メンバーと言っても分かり辛いので、
野球で説明すると、



監督とコーチ以外全員が抜けたらしい。



ウケる。



きいん
【起因】
物事が起こった原因、またはその原因。というか原因。
つまり原因。






部署で一番の古株は部長で、
もう20年近く、部署と学校グループ全体を支えている功労者だ。

次に長いのがパートで僕と同い年の女の子。
1年目である。



1年目て。



ウケる。



こうろうしゃ
【功労者】
その企業や業界に置いて、努力してる人や貢献している人。






そしてもう一つの原因は、
新たな学校が設置された事だ。



しかも3校。



ウケる。



経理課の人数は広報課のメンバーを含めて6名。
内5名が広報課。



ウケる。



何故難しい数字は勘定できるのに、
必要な人員を数える事ができなかったのか。



考えるだけ無駄である。






余裕ぶっこいていた先輩たちも、半日で表情が険しくなり、
あちこちから舌打ちが聞こえてくる。

おはようと言うと舌打ちで返される事もある。



いつも一緒に食事をしていた先輩Kも、
経理課に来てから様子がおかしくなり、

最近はハムばかり食べていて、今では何を聞いても
「ハムが一番割りに合ってる」としか言わなくなってしまった。

コストとエネルギーを計算したとか何とかほざいていたし、
「生まれ変わったらハムになりたい」とも言っていた。

ストレスが末期症状になると人はハムを褒め始めるらしい。
怖いので覚えておこう。



期日が差し迫ると職員室は鬼気迫る空気に包まれ、
仏の様な笑顔だった先輩たちも、鬼の仏の様な表情に変わっている。



おにのほとけ
【鬼の仏】
仏の様な笑顔だが、声は出ていないし目は笑っていない。
何より単純に笑ってない。顔が固まっているだけ。
あとちょっとだけ角が出ている。



少しでも数字に詳しいと見なされると、
奥の部屋に連れて行かれ領収書の束でしばかれる。



遂には経理のケの字も知らない僕にさえ、
容赦無い任務が下された。



先輩G「...佐々木くん、...仕訳して...証憑を作って...、
    未確定勘定を...全て...無く...し...て...。」

僕「え!?どういう事ですか!?」

先輩G「......。」

僕「え!?Gさん!?」

先輩G「......。」

僕「し、死んでる...!

  どうしろって言うんだ、この領収証の山...。
  なんて雄大で力強い...。

  そんな事より、何で誰も仕事内容を教えてくれないんだ!
  ちょっと!Kさん!仕訳って何をすれば..」

先輩K「ハムが一番割りに合ってる。」

僕「ああああああああああ」



しわけ
【仕訳】
ある取引を「勘定科目」を使って「借方」と「貸方」に分けること。
「仕訳を制する者は簿記を制する」と言われる程、
経理業務の礎になる仕事である。



かんじょうかもく
【勘定科目】
「交通費」や「広告費」、「消耗品費」などの名目を総称して勘定科目と呼ぶ。
その種類、その数、用途はポケモンの比では無い。
「勘定科目を制する者は仕訳を制する」と言われる程、
仕訳作業の礎になるポケモンである。



ぽけもん
【ポケモン】
たまごっちの事。
同義語 ⇒ デジモン



かりかたとかしかた
【借方】と【貸方】
お金の流れを表す時に使われる表現。
A君からB君へお金を渡した時は、A君が貸方でB君が借方となる。
お店で商品を購入した際には、
A店でB君が買い物した場合は、A店が借方でB君が貸方となる。



しょうひょう
【証憑】
おどろおどろしい漢字をしているが、要は領収書などをいう。
取引をしたよ!という証明書の事。



みかくていかんじょう
【未確定勘定】
家計簿でも何でも、お金の動きを記録して行くと折に
「あれ?これ何のお金だっけ?」となる事があると思う。
それ。

とても常識的な話だが、
企業において「意味不明なお金」なんてあってはならない。
更に言えば、意味不明で許される訳が無いのだ。






つまり今回課せられた任務は
「お金の動きを追い、そのお金が何に使われた物なのか領収書などの記録から調べ、
 不明な取引を全て無くせ。」
という事である。






簡単に言ってくれるな。

「現実は過酷だ」と過酷な現実に教えられただけで、
目の前の大量な領収書が消し飛ぶ訳でもなく、
天使の様な天使が降りてきて知恵を分けてくれる事もない。



渡されたのは領収書の山と通帳のコピー。
そして、前年度の記録だけ。



つまり、過去の記録を参考に自分で調べてやれという事だ。



ウケる。






まずは、仕訳作業から行う。









え、ごめんなさい。



まずは、と言ってみたは良いが
入り口から既に最下層のダンジョン並みの
不親切と理不尽が渦巻いているじゃないか。



一般企業の経理で働く人ですら、会社が変われば経理の内容も変わるらしい。

会社によってどの経費を何の勘定科目で捌いているか覚える必要があるのだ。
学校法人となると一般企業における会議費や交際費も渉外費として仕訳たり、
非営利目的の為、広告費や広報費の考え方も企業会計におけるそれとは違い、
教材に使われるテキストや図書、参考資料等も新聞図書費、印刷製本費、
出版物費などなど、似て非なる勘定科目が連なっていて、

正に魑魅魍魎悪鬼羅刹右往左往四苦八苦

カンカンがランランをチンチンでパンパンである。



しょうがいひ
【渉外費】
非営利活動(NO KANE MOKUTEKI)における最強の勘定科目。
時にはお得意様に出す花も、おみやげも、食事会の費用もこいつで補える。
交際費も会議費も全部まとめてお世話してくれる凄い奴。

このくそったれな世界で唯一頼れる相棒と言える。



ちみもうりょう
【魑魅魍魎】
様々な妖怪や化け物をまとめて指す。
字面が凄い。



あっきらせつ
【悪鬼羅刹】
悪鬼は悪い鬼。
羅刹はすんごい化け物。
悪い鬼とすんごい化け物をまとめて指す。
字面が凄い。



うおうさおう
【右往左往】
混乱してる様子。
字面も語呂も良い。



しくはっく
【四苦八苦】
とにかく苦しい様子。
字面も語呂も可愛い。



かんかんがらんらんをちんちんでぱんぱん
【カンカンがランランをチンチンでパンパン】
同義語 ⇒ セックス
類義語 ⇒ 侃侃諤諤



かんかんがくがく
侃侃諤諤
カンカンがガックガクしてる様子。
または、しこたま話し合う事。






若干の現実逃避と錯乱があったものの、
期日が迫っている以上、やるしかない。

泣いても喚いてもサラリーマン。
自分に割り振られた仕事は何が何でもやる。

男が一度やると決めたら
最後までやり通すものなのだ。

そうだろカンカン!

さあかかってこいランラン!

お前の全てを俺にパンパン!












(そして時が立った)












過去の記録を参考にしながら仕訳作業を行うこと数週間。






ようやくゴールが見えてきた。






あんなにあった領収書も気付けば、
この見たこと無いぐらいデカイファイル(4つ)に収まった。

昔ヤンチャしてた子の方が、清楚な出で立ちをすると可愛く見えるあれだ。

今では可愛くて仕方がない。


あれだけあった未確定勘定も残す所2つ。
締め切りは明日。



行ける。



やっと逝ける。






世の中には悪魔みたいな奴も居るし、地獄の様な場所もある。



それに比べればここはなんて平和なんだろうか。






イスもあって電気も通っていて電話も使える。
水も飲めるし頭を下げれば外の空気だって吸える(時もある)

銃弾も跳んで来ないし、地雷だって埋まってない。
(それに近いものはいくつかあるが)
仕事中に死ぬ事なんて(滅多に)無いのだ。

そして、給与を頂けているという事実。

これに尽きる。






人は苦難を前にすると何かにしがみ付きたくなるものだ。
それは会社だったり、人だったり、自分だったり。

自分の知識不足や、自分の実力不足を棚に置いて
「会社が悪い」「残業が多い」「給与が少ない」「割に合わない」等と
何かを悪者にして自分を正当化しようとしてしまう。

それは決して悪いことでは無いし、大切なガス抜きになる。
そういう愚痴や不平不満を肴にお酒を飲む事も
人生を楽しく生きる為には必要な要素になるだろう。

しかし、いつかどこか何かの拍子に、
自分が雇って貰っているという事実を忘れてしまう瞬間が

ある。

仕事がある喜びを忘れ、給与を貰える事が当然と思う余り、
自分の実力を過大評価してしまう時が

ある。

その時、その瞬間に
自分の置かれた立場に気付き「自分を修正できるかどうか」が
「社会人」であるか否かなのではないだろうか。






なんてね。

解放され行く魂に共鳴して、
悟ったかの様に思いの丈を綴ってみたものの、
若干何を言ってるんだという気持ちもある。

しかし腑に落ちない部分は無い。
これは様々な現場で共に働くサラリーマンの皆さんとなら
共感し共有できる感情なのではないだろうか。

これから社会人になる皆さんには是非、
心の片隅で良いので携えていて欲しい、心からの助言である。






「人が屋根を作り支え、屋根が人を雨から防ぐ」
という事を。






良いこと言った。



これは良いこと言ってる。



これは凄い名言が出たんじゃないか?



人の人生を変えてしまうぐらいの名言が飛び出たんじゃないか?



ちょっと興奮してきた。






丁度目の前に、憂鬱を絵に描いた様な顔をした先輩が居るので
ちょっと教えてやろう。

ちょっと人生変えてやろう。



僕「先輩良いですか?」

先輩U「え?何?どうしたの?」

僕「僕は気付いたのです。」

先輩U「うんうん。」

僕「人が屋根を」

先輩U「ごめん佐々木くんまだこっちの学校もあるからね?」

指差す方向にテンコ盛りの領収書。

僕「屋nあわ、うやy根あわ、あわわ、ひわわ」

先輩U「...佐々木くん?」

僕「あ......。」

先輩U「さ、佐々木くん...?」






僕「ハムが一番割りに合ってる。」

先輩U「佐々木くん!?」






考えるだけ無駄である。
良いから手を動かせ、若いの。



陽気な恋人(佐々木)

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