ニコニコ生放送のユーザー生放送は基本的に1人の配信者(コミュニティオーナー、通称:生主)と多数の視聴者(通称:リスナーとも呼ばれる)という主体によって成り立っているが、たまに画面の下部に色つきで囲まれた特別なコメントがなされている場合がある。
それがBSP(バックステージパス)である。
(上記画面では「ちい」さんがBSPコメントを打っている。)
「バックステージパス」は、ニコ生以外ではあまり耳慣れない言葉かもしれない。元々は音楽のライブなどで、記者や特別招待者などに対して与えられる証明書(パス)であり、彼らは一般客が入れない裏の部分(バックステージ)に入ることができる、というものだ。記者は取材が出来、特別招待者は裏側を見れるほか、特別に出演者とのふれあいが設けられている場合もある。
転じてニコ生のユーザー生放送では、バックステージパスとは20レベル以上のコミュニティに対して特別に付与される機能の名称となっている。数人のコミュニティメンバーに対して、①画面の下部に色つきで囲まれた特別なコメントが打てる、②生放送の優先視聴ができる(一般会員でもいつでもアリーナに入れる)という権限が与えられる。
いずれの権限も、元のバックステージパスの意味合いをある程度残している。目立つコメントは配信者に対して他の視聴者よりアピールできるし、優先視聴は優先席と同じ意味合いを持つ。ただし、BSPの機能はその当初の設計目的以外の、役割や副作用的なものなどといった良かれ悪しかれ意図しない様相を生み出しているように思える。以下にその類型を仮に提示したいと思う。
【BSPの付与属性累計】
●ミラー生主型BSP
まずは良いと思われる使い方を取り上げてみる。先に挙げた機能2の「生放送の優先視聴」を使って、ミラー生主がその放送に対して一番熱意のあるだろうアリーナのコメントともどもミラーがなされている例だ
●恋人型BSP
次に、「BSPの特別扱い」がある。BSPはビジュアル的に派手であることから、配信者もBSPを特別にコメントを読みやすい。そもそも配信者がBSP付与者を特別に思ったからこそBSPを与えたと思えば、先述の特別にコメントが読まれることもその説得性が高まるだろう。
そこで、一般視聴者からすれば面白くない事態がおこる。「配信者」と平等な「視聴者たち」という構図である配信の建前(ニコ生のアーキテクチャ設計)に、特権視聴者が誕生するからである。配信者とBSPが異性である場合は、やっかみも含め恋愛関係が疑われやすくなる(実際に恋愛関係にある場合は②恋人型BSP)。これは、配信者と視聴者がコメントを通じてダイレクトにやりとりできるといった、近い距離感で参加できるニコ生配信の魅力からすれば、相対的には距離が遠くなり魅力が減衰したと視聴者に映っても仕方ない部分が生じる。
特にBSPが少ない枚数(2枚)のレベルであるレベル20から53までの生主の場合、「特別扱い(に見える)」傾向は顕著になる。しかもBSP機能を持つ多くの(女性)配信者はこのレベルの間に入っているので、BSPに対しての思いは水面下の意識を含め大きくなる。BSP争いという言葉が見られる所以である。
●古参囲い込み型BSP、古参常連型BSP、BSPコレクター
ここで「早いうちに生主を発掘し、BSPレベルにない低レベルのころに設定や放送の運営についてアドバイスをして恩義を売り、『レベル20になったらBSPを渡しますね』という確約を確保する」ことを企む人が現れる(③古参囲い込み型BSP)。それを企まなかった人は、いわゆる古参常連型のBSP(④古参常連型BSP)である。
古参常連の多くはその生主に専念しているのと反対に、BSPを多く取得する人がいる。これは俗に⑤BSPコレクターと呼ばれる。
●仲間型生主BSP、取り入り型大手生主BSP、恋愛対象生主型BSP
次に、BSPを与えるほうの配信者側のことを考えてみよう。配信者心理からすれば、自分の配信を良く知っておりいつも来てくれる常連さんにBSPを渡したいというのは、まっさきに考えることだろう。しかし、配信者も自分の配信を離れれば1ユーザーであり視聴者であることが多い。そして、配信者の多くは承認欲求や自己顕示欲が強い場合がある。
ここにおいて、自枠に来るコミュニティレベルが同程度の生主(⑥仲間型生主BSP)や、憧れである大手生主の気を惹こうとして(⑦取り入り型大手生主BSP)にBSPを与える例が見られる。つまり、「数少ないBSPを渡し合っている特別な生主仲間」であることを確認し、ニコ生を友人として一緒に楽しみ、何かに立ち向かおうとしたり(その友人関係は壊れることもあるのだが)、大手生主に関心を抱いてもらうことによって自コミュの宣伝になりコミュ人数が増えることが期待できるのだ。大手生主からすればその放送にあまり興味がないことがあり、視聴者はそういった気分が漂うBSPコメントに嫌気が差したりする。派生として、気になる異性生主に対して特別扱いし気を惹くためにBSPを渡していると思われる例も散見される(⑧恋愛対象生主型BSP)。
【BSPの付与プロセス類型】
●付与プロセス標準型
BSPの付与プロセスにも様々なタイプが見受けられる。一般的には必然的にこの人に渡したいという考えていて渡す(①付与プロセス標準型)が、そうでない決め方もある。
●安価型
安価(アンカータグ、コメント番号を指定すること)でBSPを付与する方法である。たとえBSPに外れたとしても視聴者にコメントで参加感を与えるとともに、コメント数稼ぎに使えるという利点もある。この場合BSPの付与期間は短期的・限定的であり、また安価でBSPを与えるという遊びができる。安価である以上、視聴者が当たる率が高く、またその配信にそれほど思い入れがなくても取れる場合がある。
●アンケート型
BSPと同じくコミュレベル特権のアンケートを使ってBSPを付与する方法である。最大9択である選択肢に入るための難しさはあり、また他でやっている配信者のほうが知名度があるため、視聴者がBSPを取得するのは若干困難かもしれない。なお、他でやっている配信者がツイッターなどで組織票を動員しアンケートでBSPを取るといった例を見たことがある。
●視聴者リストアップ型
常連視聴者にBSPをあげるのはよく見られるが、期間限定にて視聴者をリストアップしてランダムに渡していくことがある。これが一番一般視聴者がBSPを体験できる方法であろうか。私が見たことがあるこのタイプの放送では、リストアップ帳簿といったものがありそこからBSPを渡していった。配信者本人の趣味とはいえ、労力のあとが感じられ尊崇の念を抱いた。
【BSPのコメント類型】
BSPのコメント内容にも様々な類型があるように見受けられる。
●通常コメント型
一般の視聴者と同じようにコメントする型である。主に、配信者に対してコメントしているが、たまに視聴者に向けてコメントすることもある。
●お茶出し型
BSPが生主の代わりに「○○さんいらっしゃいませ(。・・)_且~~ お茶どうぞ」「コミュ参加ありがとうございます」などのコメントを使って来訪視聴者やコミュニティ参加者を迎える方法である。温かみを感じる人もいる一方で、同じようなコメントが連投されわずらわしく見えることから、賛否両論がある。否定的な実例としては「女性の放送に来てるのに男に話しかけられた」というものや、「視聴者に対して俺の女みたいなアピールをしていて気分が悪い」というものがある。
●必要最小限型
必要最小限のコメントだけBSPでするタイプである。その他は一般の人と同じく一般コメントをしたりする。この場合、他のリスナーから叩かれにくい傾向がある。
【総括】
本稿ではBSPの利用方法について類型化を試み、BSPの付与属性類型、BSPの付与プロセス類型、BSPのコメント類型といった分類方法から各BSPの類型化を試みた。他の類型方法もあるだろうし、体験談、BSPが絡んだ歴史的な事件、ツイッターBSPなど他の観点もあると思われる。できれば、引き続き記事化を試みたい。
(参考URL)
・ニコニコ大百科(仮)「単語記事:バックステージパス」:
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唯我先輩のBSPは笑ってしまった覚えがある(一枠でおなか一杯だったが)