海亀の子は孵化して数日後には砂の中から這い出してきて海に向かって歩き出す。何度も波打ち際で押し戻されても諦めずに海へ向かおうとする。水平線の向こうに自分を産んでくれた母親がいることを本能的に知っている。だから何時間掛かろうとも波に向かい、やがて波に乗って大海原へ旅立っていく。 いつか伊豆半島で見たその光景を思い出しながらふと思った。波間に消えていく子亀たちの姿を母亀はどこかに隠れて見ているんじゃないだろうか、と。