人混みが大の苦手だ。時には歩くだけで呼吸が浅くなって目眩がすることもある。だからテーマパークでも行列のできていないアトラクションにしか入らなかったし、満員電車に乗りたくないという理由で就職もしなかった。渋滞を避けるために抜け道や裏道ばかり探すように生きて来た。
 海辺の町で暮らすようになったのにも少なからずそんな気質が影響しているのだろう。一年を通じて閑散としている浜辺に代表されるように、ここにいる限り人混みに晒されるストレスとは無縁だ。子供が生まれてからは尚更この環境があって良かったと思っている。
 陽光煌めく浜辺から世間を眺めていると都会の人混みがなんだか遠い国のもののように感じられることさえある。