上りの湘南新宿ラインが東京のターミナル駅で大量に乗客を降ろしたところでホームから女性の大きな声が聞こえてきた。

「すいません!この人触りました!」

 語勢の強い、身が縮こまるような声だった。

「知らねーよ!放せよ!急いでんだよ!」

 続いて反論するかのような男性の声。ホーム側の扉から一番遠い奥のシートに座っていた僕から二人の姿は見えなかったけれど、やりとりから推測するに女性は男性の腕か何かを掴んでいるようだ。

「すいません!」

 助けを求め続ける女性の声に急速に人が集まって来たようだ。

「この人痴漢です!」

 女性がはっきりとそう告げた時には、男性の声は聞くのも辛いほど悲痛なものに成り下がっていた。

「知らないよ!やってないよー!」

 それは今この瞬間、自分の人生が終わったことをはっきりと宣告された人間の断末魔のように聞こえた。