消費はもう回復しないんじゃないだろうか。過ぎ去ったあの日々が二度と戻らないのと同じように。けれどそれが人間としての成熟にも思えたのは、単に「消費しない人々のお金の使い方」が賢く丁寧なものになっただけのような気がしたからだ。彼らは、消費はしないけれど、投資はしている。
投資というのはいわゆる金融商品に留まらない。たとえば、子供の教育に費やすお金を消費だと思う親はいないだろう。自分を磨いてくれる教材や道具に費やすお金を消費だと思う人はいないだろう(三日坊主にならないのが前提だけれど)。人生を豊かにしてくれる教養品(本や音楽や映画など)に費やすお金を消費だと思う人はいないだろう。これらはすべて消費ではなく投資だ。自分への投資。子供の将来に対する投資。さらには地球の未来に対する投資。大切なお金を瞬間的な快楽を得る為に使うのではなく、何らかのリターンがあるものに使う。ましてや後に何も残らないどころか、健康被害であったり、環境に負荷を掛けるなど借金さえ背負うことになる浪費などもってのほかだ。消費が落ち込んでいるのは消費者の多くが、賢い投資家へと進化しているからではないだろうか。
だとするならば、今後大きく変わっていくであろうもののひとつが「広告」だろう。"便利です。""人気ナンバーワンです。""どこよりも安いです。"利便性や見栄やお得感など瞬間的な脳内物質を排出させる宣伝文句で消費を煽るような広告はその役目を終えつつあるのかもしれない。これから求められるのは「それが如何に生活を豊かにしてくれるか」「それが如何に人生を豊かにしてくれるか」「そして、未来に何を残せるか」という投資するに値すべき部分を嘘偽りなく、真摯に伝えていく広告なのかもしれない。当然そういったことを虚飾や言い訳なしで伝えられない商品やサービスはある程度淘汰されていくのかもしれない。
医療の進歩により4人に1人が65歳以上という超高齢化社会へと突き進んでいるにもかかわらず、出生率が上がらない以上、支える力は弱まる一方だ。老後を支えてくれるはずだった年金制度が今や砂上の楼閣なのは誰の目にも明らかだろう。これからは老いも若きも「自立すること」を求められる。将来を保障してくれていた会社や国に依存して生きていける時代はもう終わった。今後は自立したひとり一人が家族や地域といった小さな組織で支え合う社会になっていくのだろう。だからこそ自立した人々は堅実に貯える。消費もしなければ浪費もしない。他人の芝生ではなく、自らの人生という庭をしっかりと見つめ、そこにどんな花を咲かせるかを明確にイメージして持続可能な人生や未来に必要なものにだけ投資をするという傾向をますます強めていくのだろう。それが「成熟した社会」というものなのだろう。
消費させる広告ではなく、賢い投資の手助けとなるような広告。2004年にたったひとりで細々と始めたこの『草の根広告社』もそんな広い意味での「広告」を微力ながら提案していける広告社のひとつでありたいと改めて胸に誓った。
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草の根広告社
小原信治
月額:¥330 (税込)
(ID:40550375)
「消費」と「投資」
お金を使うことに対する罪悪感が薄くなるように思えました。
好きなアーティスト、作家さんのCDや本を購入するのは、自分の人生への当社であると共に、次の作品に対する他者への投資かもしれません。
そこに自分が「生産者」になる側にでもなれる何かが、あればさらにステキだなと思いました。