第四話序章 狛犬
著:古樹佳夜
絵:花篠
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■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
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◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
その日、吽野は上機嫌で、阿文に話しかけた。
吽野「阿文クン、春だね」
阿文「ああ。そうだな」
店内の片付けをしていた阿文は、
手を止めることなく受け答えした。
吽野「春といえば、なんの季節かわかるかな?」
阿文「そうだな……うーん、桜の季節……かな?」
吽野「それ! いやー俺たち気持ち通じ合っちゃってるよね〜」
阿文「それはよくわからないが」
吽野「あらそうなの?」
阿文「そういえば、ちょうど今、裏手の神社は桜が満開だったな」
吽野「そうだよね! てなわけで、今からお花見に行きたいなと、思いまーす!」
春の陽気に当てられて、
開放的にでもなっているのか。
阿文はいつもと違う様子の吽野にギョッとしつつも
素晴らしい提案に乗り気になった。
阿文「いいじゃないか。じゃ、僕はおむすびでも握ってこようか。先生、具は何にする? おかか? 梅?」
吽野「あ、待って。その前に、君に力仕事を手伝って欲しいんだ」
阿文「はぁ? 力仕事? 花見に行くんじゃないのか?」
吽野「花見だよ。花見のついでに店番も手伝って欲しいのよ。そういうの、得意でしょ?」
阿文「店番……? なんのことだ」
◆◆◆◆◆神社◆◆◆◆◆
吽野と阿文は今、桜の下にいる。
花びらが暖かい風に舞い、
頭上では鳥が囀っている。
吽野「いや、本当にいい天気。雲ひとつない快晴、桜は満開、絶好の蚤の市日和だね!ほらご覧? 参道に骨董がずら〜り並んでいるじゃないか!」
阿文「神社の蚤の市に出店するなんて、聞いてなかったぞ!」
吽野「ごめんごめん。伝えるの忘れてたんだ。怒んないで」
阿文「不思議堂から商品を運び出すのは骨が折れたぞ……」
吽野「おかげさまで露天に商品も並べられた。いや、よかったな〜。阿文クンは俺より手際がいいから」
阿文「少しは反省してくれ。前もって準備をしておいてくれたら、こんな苦労しなかったんだぞ」
吽野「はいはい、そんなぐちぐち言わないで。もしかしてお腹減ってるのかな? ほら、おにぎりでも食べて、一休みするといい」
阿文「それは僕が握ったものだ!」
吽野は阿文を宥めるように言ったつもりだった。
けれど、阿文の返事は手厳しかった。
仕方なしに、吽野は風呂敷を解いて、
おにぎりを取り出し、頬張った。
吽野「(もぐもぐ)あ、これ梅だ。すっぱい」
阿文「はぁ、まったく、先生の計画性のなさは直らないな」
阿文の小言は、すでに吽野の耳には入っていない。
吽野の興味はすでにおにぎりからは逸れていて
先ほど広げたばかりの、不思議堂の商品に移っていた。
吽野「(もぐもぐ)ねえ、この持ってきた皿、売れるかな?」
阿文「うーん、店でも売れ残ってるからな。値引きしたらどうだ」
吽野「だよね……こだわりの品だけど、もう店内は在庫でパンパンだし……」
阿文「大して売れないからな」
吽野「もう、失礼だな」
阿文「せっかくたくさん運んだんだ、できるだけ売って、帰りの荷物を減らそう」
吽野「あ、」
阿文「あ?」
吽野「あっちの露天商が売ってる置物。気になるな。店に仕入れたい」
阿文「はぁ? まだ1つも売れてないのに、仕入れるなんて!」
阿文「ごめん、ちょっと行ってくる」
吽野は素早く立ち上がった。
阿文「あ、ちょっと!」
吽野「すぐ戻るから、店番よろしく」
吽野は人混みを避けながら
露天商が広げている商品に向かって歩んでいた。
あっという間に姿が見えなくなる。
阿文「ったく! 」
阿文は苛立ちを隠さなかった。
少しでも気分を散らそうと空を見上げ、
独り言を口にする。
阿文「はあ、ただの花見だと思ったのになぁ……いつも先生の行き当たりばったりで調子が狂いっぱなしだ」
話し相手もいなくなり、
阿文は春の陽気と、のどかな風景を前に、
ぼんやりするしかなくなった。
阿文「それにしても桜が満開で綺麗だな。青い空に薄桃色の桜の花びらが映えて……」
阿文「ん? あの像……」
ふと、阿文の目に入ったものがあった。
吽野「ただいま〜」
そこに、吽野が嬉しげな笑みを浮かべて帰ってきた。
どうやら、いいものが買えたようだ。
一方の阿文は、見つけたものに目を奪われていた。
阿文「先生、あそこの社殿の前に並んでいる像は……」
吽野「ああ、狛犬だね。阿吽像だよ」
阿文「だよな? 阿吽像は対のはずだ。でも、あれは右側の像がない」
吽野「ああ、そのことね。ずいぶん前からなんだよ。気づかなかった?」
阿文「……そうだな、今初めて気づいた」
吽野「……本当?」
阿文「先生は理由を知っているのか?」
吽野「……さてねぇ」
吽野は、懐に携帯していた煙管を取り出し
一服しようとしていた。
阿文「……あ! 先生! 何体置物を買ってるんだ!」
阿文はようやく、吽野が仕入れた品に気づいた。
吽野「かわいいでしょ。獅子の像だよ」
阿文「似たような置物が不思議堂にもたくさんあるじゃないか」
吽野「しっくりくる感じを探してんの。まだまだ修復には時間かかるからね」
阿文「しっくり? 修復? 一体なんのこと言ってるんだ」
吽野「ん、ナイショ。こっちの話だから、気にしないで」
阿文「怪しい……」
吽野のはぐらかしが気になりつつも、
阿文はそれ以上を追求しなかった。
[続]
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■本章は、2022年4月5日『不思議堂【黒い猫】』生放送の
ch会員(ミステリにゃん)限定パート内にて、
浅沼店主と土田店員が生朗読を行う予定です
ぜひ、物語と一緒にお楽しみください
(※朗読は、本章の全編ではない場合がございます)
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