人生のセカンドチャンスを賭け、奮闘する元犯罪者がヒーローとなる過程を描くマーベルのアメコミ映画『アントマン』。
今回は本作を手がけたペイトン・リード監督にインタビューして参りました。
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降板した前任者からの引き継ぎや、アリサイズの映像表現の秘密などについて語っていただいています。一部ネタバレがありますので、ご注意ください。
アントマン/スコット・ラング(ポール・ラッド)
――監督は途中降板したエドガー・ライトの後を引き継いだわけですが、どういった経緯で本作を手がけることが決まったのでしょうか?
ペイトン・リード(以下、リード):マーベル・スタジオの社長であるケヴィン・ファイギから電話をもらったのがきっかけです。
ケヴィンとは昔からの知り合いで、彼は私が若い頃からマーベル映画を撮りたがっていた事を知っていました。それで連絡があったというわけです。
『アントマン』の草稿を読んで、ケヴィンと直接会い、コミックの大ファンとして自分のアイデアをたくさん伝えました。
その後、主演のポール・ラッドに会ったんです。彼とは知り合いだったんですが、一緒に仕事をしたことはありませんでした。
公開時期が迫り、製作期間がかなり限られていたこともあって、ちょうど彼がアダム・マッケイと一緒に脚本を書き直している時期でした。
あとは皆で走り出して、ノンストップで映画を完成させたんです。
――以前にもマーベルと仕事をしていますが、その時と現在とで何か違いは感じましたか?
リード:00年代の初頭に1年くらい、マーベルの『ファンタスティック・フォー』の映画化を手がけました。
当時の話は、私からするとマーベル・コミック史上初のヒーローチームである彼らが、相応しくない扱われ方をされているように感じられたんです(著者注:後にリード監督は降板、ティム・ストーリーが監督を引き継ぎ、2005年に映画が公開)。
でも現在は、マーベルが自分で映画化権を持って、キャラクターを深く理解し、情熱を持っているケヴィン・ファイギが自由に作れる状況にあります。
私にとって、そんなスタジオの代表と、スーパーヒーローが大好きなオタク同士として熱く語り合えるという関係は、すごくわくわくするものです。
後はもちろんテクノロジーが進化したというのもあるので、00年代初頭と今とでは大きな差があります。
――元々スーパーヒーロー・オタクとのことですが、本作のためにリサーチはどの程度行ったのでしょうか?
リード:アントマンが出てくるコミックは元々たくさん読んでいたので、映画を作る前に読み直した時には主に絵を見ました。
自分がもしアントマンの映画を1本しか作れないとしたら、なるべく多くの要素を詰め込みたいと思ったので、羽の生えた蟻に乗って飛ぶシーンなどのアントマンを象徴するような絵を頭に入れたんです。
もちろん映画とコミックは違うので、そのままでは観客に通用しないものもあり、作り直している部分はたくさんあります。
――主演だけでなく、脚本のリライトも担当したポール・ラッドと一緒に仕事をするのはいかがでしたか?
リード:彼は人間ドラマでもコメディでも、とにかくなんでもこなせる凄い役者なので、スーパーヒーローもやれると思いました。特に、スーパーパワーを持たないヒーローが主人公の本作には完璧な配役です。
原作コミックを知らない観客は、アントマンの縮小やアリを操るといったパワーが何の役に立つのか、最初はわかりません。そんな中、ポールが蟻に乗ったりしながら、よくわからないパワーに対して観客と同じ反応をするというのも、本作の面白い部分になっていると思います。
――本作では初代アントマンであるハンク・ピムが、原作での長い歴史を巧みに凝縮したキャラクターに感じられました。なぜあのように描いたのでしょうか?
リード:ハンク・ピムに関しては、マイケル・ダグラスが演じることにも合わせ、(エドガー・ライト版の)元の脚本よりも暗いキャラクターになっています。
これは、脚本を書き直したポール・ラッドとアダム・マッケイが、より感情豊かなキャラクターになるように狙って書いたところです。
彼はとある事件がきっかけで他のヒーローを信じなくなる、怒りが抑えられなくなるなど、問題を抱えた師として、原作コミックの要素を多く持ったキャラクターとして描きました。
縮小シーンはどれも必見
――本作ではVFXがふんだんに使われていますが、映像表現という点で何か苦労した点はありましたか?
リード:VFXを使った映画自体の経験はあったのですが、ここまでたくさん使った映画は初めてでした。でも実は、私は「American Cinematographer」や「CineFx」といった、撮影技法やVFXの専門誌を定期購読しているほどのVFXオタクなんです。
だからVFXのことは詳しいので、やる気満々でしたし、撮りたいものをはっきりイメージしていました。さらに、マーベルがハリウッドでも最高のVFXチームを集めてくれたので、視覚効果監修のジェイク・モリソンと相談しながら、求めた通りの映像を作り出せたんです。
――アントマンが小さくなるシーンの数々がリアルかつ楽しいですが、あの縮小表現はどのように撮影したのでしょうか?
リード:過去の「縮小映画」を超え、今の時代を代表する「縮小映画」を作るために、ジェイク・モリソンと撮影監督のラッセル・カーペンターとたくさん話をしました。我々は現代の技術を結集して、なるべくリアルに、実写に見えるように努力したんです。
まず、普通のアクションを拡大したセットで撮ります。次に、実物大の小さなセットを用意して、フレイジャー・レンズ(被写界深度の深いレンズ)を付けたカメラを使う、マクロ撮影のチームが撮影します。そして、それらの映像を合わせるんです。
こうすることで、小さくなった時にいきなりアニメっぽくならず、木目の表面や絨毯の繊維が実際に見られ、縮小後に光がどう見えるか、ホコリがどう舞っているかなどが、非常にリアルに表現できました。
実写のセットを使うと、物を動かしたり、色んな角度で撮ったりというのを直接できるのがいいんです。CGは進歩しましたが、個人的にはCGばかりの映画というのは好きではないので、なるべくリアルに感じられるように撮りました。
なので、ポール・ラッドやコリー・ストールのモーション・キャプチャーも行い、CGが実写のキャラクターと同一人物に見えるようにしています。
ヒーローがコスチュームを着たら役者から離れて、あとは完全にCGに演技をさせてしまうような作品だと、観客がキャラクターに愛着を持てないと思いますからね。
――現在のマーベル映画は、多くの作品がリンクする「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」で展開されています。MCUはファンとしては凄く楽しいですが、作る側としてはどのように感じるのでしょうか?
リード:マーベル映画を撮るなら、MCUは喜んで受け入れるべき事でしょう。今までの映画に続編はありましたが、こんな繋がり方をするのは非常に実験的で、素晴らしいことだと思います。
例えば、本作には「ファルコン」が登場しますが、彼は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』という非常にシリアスな映画で初登場したキャラクターです。
同じ役者が演じる、同じキャラクターであるファルコンが、『アントマン』ではコメディをやることになります。この繋がり方はまさにコミックそのままで、本当に大好きです。だからMCUは制約だとは感じていません。
ただ、『アントマン』は他のMCU作品を見たことがない人や、原作でのキャラクターを知らない人でも楽しめる作品として撮っています。MCUは映画の楽しさを増すものですが、それに頼っているというわけではありません。
今回のファルコンのシーンも、MCU作品としての繋がりを持たせるためのシーンではなく、泥棒をする映画でよくあるシーンを作るために必要でした。
そしてアントマンの相手として、いきなり凄まじいパワーのハルクやソーを登場させるのはやりすぎだと感じたので、彼に見合ったレベルのファルコンを選んだというわけです。
――次回作について何か話せることはありますか?
リード:今回の映画で登場させたスコット・ラングはもちろん、ハンク・ピムやホープ・ヴァン・ダインにはまだまだ語れるストーリーがたくさんあります。
これからどうなるかはわかりませんが、我々はキャラクターたちを愛しているので、ぜひ続きを描きたいですね。
――ホープの描かれ方も本当に素晴らしかったので、是非続きの話は見たいです。
リード:ジャネット・ヴァン・ダイン(ハンクの妻であり、ホープの母)の話は脚本の書き直しの際に新たに加えたもので、それに合わせてホープの話も変えています。
ホープはもちろん、今回登場した「新たな世界」についてもまだまだ語り足りないので、より深く掘り下げてみたいですね。
新たな世界に関しては、どうやって映像で表現するかビジュアル・エフェクトのチームとたくさん話し合って生み出した部分なので、本作の見所の1つだと思います。
監督のお話からもわかるように、『アントマン』は製作チームの熱い原作愛に溢れている、アメコミファンにはたまらない作品です!
監督の言葉を繰り返す形にはなりますが、その熱は例え原作や他のMCU作品を全く知らなくても、とにかく楽しいアクション・コメディとなっているので、なるべく大きなスクリーンで、最小のアクションをお楽しみください!
映画『アントマン』は9月19日(土)から2D/3Dロードショー。
©Marvel 2015
(傭兵ペンギン)
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