ホラー映画は、なにも、血や肉が飛び散り、殺傷能力の高い武器が飛び交い登場人物は泥と返り血でドロドロ~というだけではありません。もちろん、そういったシーンが登場する率は高く、観客もそのような激しい描写を求めています。しかし、「美しい」ホラーというのも存在するのです。
そこで今回は、海外のマニアや批評家達の意見をまとめて選出された、美しいホラー映画16本をご紹介します。
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以下、io9がまとめたものをご覧ください。
■『ニア・ダーク/月夜の出来事』(1987年)
『ニア・ダーク』は、ワイルドであてもなく彷徨うヴァンパイアと、ナンパした美女に噛まれたことからヴァンパイアへ変身してしまったばかりの小さな町からやってきたカウボーイが繰り広げる物語。
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後半30分の悲しい内戦は別として、1987年に公開されたキャスリン・ビグロー監督の『ニア・ダーク』は、ドイツのロックバンド、タンジェリン・ドリームの音楽とアダム・グリーンバーグの撮影に支えられ、ランス・ヘンリクセンやビル・パクストンが乗った放浪ヴァンパイアのRV車がアメリカ西部の広大な場所を突っ走り、タチの悪い事を起こしているという、突飛な設定を違和感なく観客に受け入れさせることに成功した秀逸な作品でしょう。
シリアンキー・レイマー(エディトリアルマネージャー Cracked.com)
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■『ディセント』(2005年)
6人組の男女が洞窟で何者かに襲われるホラー。
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『ディセント』は映像面だけでなく、夢や神話といったものにまで働きかけています。フランシスコ・ゴヤの『黒い絵』、ヨハン・ハインリヒ・フュースリーの『夢魔 The Nightmare 』からギュスターヴ・ドレの『神曲』の版画といった地獄のようなイメージを呼び起こさせるのです。このほぼサブリミナルとも言える要素が、『ディセント』に力強い神話的エネルギーを与えていると言えるでしょう。
そして、これらのイメージをどのように、どのタイミングで描けば幻覚的な恐怖の色調にすることが出来るのか、また、観客の頭の中に響かせることが出来るのかということをよく理解しています。本作は、見栄を張っているのでも在り来たりでもなく、薄気味悪く神秘的で、何を取り入れてどう使えばいいのかを知りつくしている作品なのです。
ロジャー・ジョゼフ・イーバート(映画評論家)
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■『ザ・フォッグ』(1980年)
伝説によると「アントニオ・ベイ」は、富豪が乗った船を難破させ、乗組員もろとも殺害して得た金で1880年に誕生した街。それから100年が経ち、街の誕生100周年を祝福する時、殺された者たちの亡霊が霧にまぎれて街の創設者の子孫に復讐するために戻ってきた――といった内容の、単純なストーリーにも関わらず、他とは全く異なるテイストのホラー作品。
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「ホラーの帝王」ジョン・カーペンターは、閉所を使うことで観客の恐怖心を煽ることを得意としています。
例えば、南極の基地、古い教会、マイケル・マイヤーズに追われてローリーが逃げ込んだ狭い空間...。しかし、彼のホラーキャリアの中で最も印象的なショットは、開かれた場所で描かれる恐怖でしょう。
中でも、エイドリアン・バーボーが仕事場である海に囲まれた灯台へ歩いていくというシーンは、日中でホラー要素が全く無いにも関わらず、どことなく不吉さを感じさせます。あのシーンは、私がこの映画の中だけに限らず、全カーペンター監督作品の中で最も気に入っているものです。人に勧めたいだけでなく、敬意を表したい作品なのです。
ブライアン・コリンス(BadAss Digestの記者/ホラー映画ファン)
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■『ハンガー』(1983年)
カトリーヌ・ドヌーヴ、デビッド・ボウイ、スーザン・サランドン出演のヴァンパイア映画。しかし、この一言では片付けられないものがある作品です。
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表面上はバウハウスの『ベラ・ルゴシの死』のミュージックビデオである『ハンガー』のオープニングクレジットは、トニー・スコット監督の最高傑作でしょう。
色の彩度といい、ジャンプカットといい、ギターに対抗するように小刻みに叩かれる凶暴なドラムといい、FMダイアルでは再生されることが滅多にないタイプの音楽でしょう。映画のスタートとは到底思えません。この精神分裂病的に「実際の映画の冒頭」をインターカットしたオープニングシーンは、ドヌーヴとサランドンのラブシーンと同等に繰り返し巻き戻して再生されたのでした。
ジョーダン・ホフマン (批評家 The Guardian/New York Daily News)
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■『デビルズ・バックボーン』(2001年)
ギレルモ・デル・トロ監督による、呪われた孤児院に連れてこられた少年の視点で描かれたゴーストストーリー。
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これは、ゴーストや忘れ去られることを拒否した者に関する映画です。ギレルモ・デル・トロ監督は、それを学校の中庭にうめられた不発弾という形で表現しており、観客は常に死を意識せざるを得ません。簡単に言ってしまえば、本作はとても美しく、気味が悪いのです。
マーク・バーナディン (代理エディター Playboy.com)
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■『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』(2008年)
「後ろ! 後ろ!!」と叫びたくなる侵入者ホラー。
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ブライアン・バーティノ監督作『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』のメインとなるマスクを被った殺人者は、トレイラーにもポスターにも登場しているので、観客は映画を観る前からその存在と登場シーンを把握していました。それなのにも関わらず、映画で初めて登場した時、激しい衝撃とこれ以上ないほどの戦慄を与えたのです。突如として、退屈な郊外の絵画的場面がパチパチと音を立てるような力強く、恐ろしいまでに美しいシーンへと変化した瞬間でした。
ケイト・アーブランド (エンターテイメント・ジャーナリスト)
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■『ぼくのエリ 200歳の少女』 (2008年)
2010年にリメイクされた『モールス』の方では無く、オリジナルの『ぼくのエリ 200歳の少女』です。本当に恐るべき相手は人間では? という作品の並ぶ、人間嫌いホラー映画11選にも選ばれています。
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『ぼくのエリ 200歳の少女』は他のすべてのホラー映画を陳腐なものに変えてしまう力を持っています。
ホラー映画というものはその要素を観客に出来る限り見せずに成り立たせるということを忘れてしまっている人が多い中、本作はそれを見事に実行しています。映画の冒頭では、年配の男が人を殺し、その屍体を儀式のように処理します。そこにプードル犬がやってきて吠えるのです。この一連のシーンは全体の様子が全てわかるようにロングショットで撮影されています。
シーンは3色で構成されており、登場するのは薄茶色の木、白い地面と白いプードル、殺人者のスカーフと被害者から流れ出る鮮血の赤。それらをひとつのライトが映し出しているのです。
また、この映画の素晴らしいところはストーリーテリングが最小限であるということ。そして、その最小限のストーリーテリングを最大限に美しく見せる撮影技法が使われているのです。
ニコラス・スタンゴ (アソシエイトマスター・オブ・ビデオ Gawker Media)
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■『黒水仙』(1947年)
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アルフレッド・ヒッチコック監督と親交があり、匹敵するほどの才能を持つとも言われたイギリスのマイケル・パウウェル監督が、ハンガリー出身でユダヤ人の脚本家エメリック・プレスバーガーとコンビを組んで取り組んだのが1947年に公開された『黒水仙』。
ヒマラヤの奥地にある寂れた宮殿で現地の人たちに奉仕するようにと派遣された尼僧たちが徐々に精神を衰弱させ、ついには男性を巡り、その嫉妬から尼僧という身分を捨てて殺人にまで走る様を描いたスリラーです。テクノカラーで映し出された修道女の白い衣服と、後半で登場する真っ赤な口紅のコントラストは観客を驚かせます。
本作はアカデミー撮影賞と美術賞を受賞しており、それらの功績は最後のシーンを見るだけでも理解することが出来ます。純粋に人に恐怖心や不安感を抱かせる崖上での衝突は、不気味であると同時に、そのイザコザを表現する上でこれ以上ないほどに美しくまとめられているのです。
チャーリー・エディ (シニアエディター io9)
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■『ザ・セル』(2000年)
ターセム・シン監督が描いた、シリアルキラーの意識の中に入り込み、事件を解決に導くという『ザ・セル』は、夢や精神世界をテーマにした映画のレベルを上げました。
誰かの意識の中という設定には「こう表現されるべき」と明確に定義されているものがありません。しかし、キャラクターの悪意に満ちた意識が恐ろしいほど魅力的だなんて誰が想像したでしょうか? 『ザ・セル』は観客を怪物の心の中に放り込み、その世界に留まりたいと感じさせます。
特に、部屋の壁を覆うほど長いケープを背中につけた、悪魔のような姿となったシリアルキラーが階段を降りるシーンには、他のホラー映画には無いインパクトと美しさがあります。
■『ハロウィン』(1978年)
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1978年に公開されたジョン・カーペンターのスラッシャーフィルムは、世に二つと無い美学を持つ作品です。その洗練されてなさが特徴のサブジャンルにおいて、『ハロウィン』は見本のような存在。コンポジションとカメラワークの優雅さ、毒々しさ、B級映画の要素を芸術へ昇華しています。
この映画は、若きマイケル・マイヤーズがハロウィンのマスクを被り、小さく開かれた穴から目を覗かせて家族を滅多刺しにした最初のシーンから、理不尽な殺人を意味のある殺人に見せてしまう力があるのです。
リック・ジャズウィアック (シニア・ライター Gawker)
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■『極道恐怖大劇場 牛頭 GOZU』(2003年)
ヤクザだけを攻撃するように訓練されている、ヤクザ犬の疑いをかけられたチワワが投げつけられるという衝撃のシーンで有名となった、三池崇史監督作品。
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ヤクザ映画をとてもダークに作品であり、その攻撃性と凶暴さはこれ以上ないほど不気味です。しかし、その中に存在する中性的で力強い美しさは、頭にこびり付いて離れません。
クリス・パーソン (映像プロダクション/映像編集者 Gawker Media)
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■『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)
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『ローズマリーの赤ちゃん』のおぞましさは、ロマン・ポランスキー監督がアパート内でどのように登場人物を映していたかにあると言えるでしょう。
例えば、隣人であるミニー・カスタベットがローズマリー・ウッドハウスの家に訪ねてきた時のシーン。このありふれた行動を、ロマン・ポランスキー監督は家の中の覗き穴から廊下まで見せる形で撮影していますが、これだけのことで何故か不気味に感じられます。このシーンはこれからローズマリーに降りかかる身も凍る経験の序曲であり、嵐の前の静けさでもあるのです。
ジュリアン・エスコベド・シェパード (カルチャーエディター Jezebel)
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■『ビザンチウム』(2012年)
2人の女性ヴァンパイアが不死の力を持つボーイズクラブから逃げるという、一言でまとめてしまうとドタバタコメディのような内容ですが、しっかりとしたホラーです。
ニール・ジョーダン監督の青みがかったグレーと赤い色調が、モイラ・バフィーニの紡いだストーリーの魅力を引き出しています(脚本もモイラ・バフィーニ)。繰り返し登場するこれらの色は見た目がいいといいうだけでなく、メインキャラクターの「生 対 ヴァンパイアの生」の葛藤を表現する助けにもなっています。
しかし、中でもひときわ色が美しく感じられるのは、2人のヴァンパイアが新しい隠れ家を求めてキャベツ畑を歩くシーンでしょう。そこには、単純に衝撃を受けるほどの美があるのです。
■『リング』(1998年)
日本が世界に誇るホラー映画。ハリウッド版ではありません。
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私だけかもしれませんが、井戸そのものの映像すら美しいと思うのです。貞子がテレビから這い出るシーンは伝統的な踊りを踊っているかのよう。また、サウンドデザインも『リング』を他に類を見ない芸術にしています。
ケイティ・ハスティ (エグゼクティブ・マネージング・エディター Hitfix)
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■『シャイニング』(1980年)
スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』は、原作者のスティーブン・キングもその左右対称と色の美しさに感嘆したほど。ヴィンセント・ロブロット著の『映画監督スタンリー・キューブリック』の中で、キングの発言が紹介されています。
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好きな部分は山ほどある。しかし、これはモーターの入っていない素晴らしく大きく美しいキャデラックのようなものだ。観客は座ることができる、内装の革の匂いを楽しむことができる、できないことはただ一つ、運転するということ。だから違うことを全てやるんだ。
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少々回りくどくも感じますが、原作者も映像化された『シャイニング』の美しさを愛さずにはいられなかったようです。
■『サスペリア』(1977年)
この記事を作るにあたって意見を求めたほぼ全員の協力者が口を揃えて名前をあげたのが『サスペリア』だったとか。「『サスペリア』はもう誰かに言われてる? あまりにもありきたりか......」と、まるでテンプレートのようになっていたそうです。
ダリオ・アルジェント監督のホラー映画『サスペリア』は、色とコントラストの傑作、圧倒的な美しさを誇る作品なので、無理もないかもしれません。
[via io9]
(中川真知子)
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