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一聴の価値あり。音響が素晴らしい映画10選

2015/01/20 23:00 投稿

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映画はそのビジュアルばかりが注目されて、音響を大々的に取り上げることがあまりないように思います。

映画館で見ると、音の迫力に圧倒されることが多々ありますが、後日、自宅でテレビのスピーカーを通して聴くと、印象にも残らないなんてこと、結構ありますよね。
 


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映画館と同じような音を楽しめる音響システムであるサラウンドシステム(所謂ホームシアター)を持っている人は別ですが、「映像やストーリーは十分楽しめるんだし、音は気にしなくても良いか」といった感じに、自宅では音を楽しむことを切り捨てざるおえないことになります。

しかし、io9が紹介したCineflixの「音響が素晴らしい映画10選」を見れば、「この映画の音を聞きたい!」という気持ちになるはず。映像と同じくらい、もしくは音響こそが主役といった映画ばかりなので、サラウンドシステムは無理にしても、良質なヘッドフォンを買って聞きたくなるかもしれませんよ。





『プライベートライアン』(1998)

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あまりのリアルさに戦争体験者が当時を思い出して恐怖することも


戦争映画というジャンルは音にこだわりますが、中でもずば抜けているのがスティーブン・スピルバーグ監督の『プライベートライアン』です。

ストーリーテリングの上で鍵となっているこの音響をデザインしたのは、『ジュラシック・パーク』で恐竜の声を生み出したことで知られ、アカデミー賞を5回も受賞したことがあるゲイリー・ライドストローム。

スピルバーグ監督は、ライドストロームに「ハリウッドらしくないリアルな銃撃戦」を追求することを注文し、本物の銃を使って銃声を録音する等して第二次世界大戦の様子を生々しく再現することにしたのでした。

ちなみに、このリアルの追求は音響だけに止まらず、俳優たちの心情にも当てはめられました。二等兵を救出するために編成されたチームの気持ちを理解させるために、ライアン役のマット・デイモン以外の俳優達をブートキャンプ同等の訓練に10日間も参加させたのです。

過酷な訓練を強いられた俳優達は、撮影が開始する頃には疲れ果てて心も荒んでおり、何も知らないデイモンが撮影に参加した時には、剣呑な雰囲気になっていたのでした。




『U・ボート』(1981)

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長く厳しい撮影を思わせる出演者のリアルな苦労の色にも注目


1981年公開、ドイツの潜水艦Uボートの艦内を舞台とした戦争映画『U・ボート』。

この映画の音響のすごい所は、狭いセットの中を撮影する際に使用された2台のジャイロスコープがとても煩く、本来の音が使えなくなっていたためにほぼ全ての音をアテレコしたということでしょう。狭い艦内に響く音で、船員達に迫る恐怖を描く...。一聴の価値ありとは正にこのことでしょう。




『M』 (1931)

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幼女殺人のシーンは映らないけれど、それを想像させる怖さ


『市民ケーン』で有名なフリッツ・ラング監督初のトーキー映画『M』。映画の2/3をトーキー、1/3をサイレンスにしており、会話が全く交わされないシーケンスは、そのコントラストもあって非常に力強く描かれています。

フリッツ・ラングはボイスオーバー・ナレーションやインナーカットダイアログといった現在の当たり前に使用されている映画テクニックのパイオニアで、本作が公開された1931年当時としては、とても斬新な手法を幾つも取り入れた作品でした。

中でも特に有名なのが、BGMを使わずに、エドヴァルド・グリーグの劇音楽『ペール・ギュント』の一節「山の魔王の宮殿にて」の口笛を殺人犯に吹かせたことでしょう。

(殺人犯役のピーター・ロアは口笛を吹けなかったので、ラングの妻と脚本のテア・フォン・ハルボウが担当)この口笛は殺人犯の特定の鍵となるだけでなく、アクションやサスペンスの喚起にもなっているのです。

サウンド映画が初めて登場してから4年目に公開された本作は、ポール・ファルケンバーグとアドルフ・ジャンセンによって綿密に計算された編集のおかげで、「映画は視覚を楽しむだけのものではない」ということを世界に知らしめることに成功しました。




『ストーカー』(1979)

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SFのジャンルでありながら、SFらしさはほぼ皆無


アンドレイ・タルコフスキー監督のアートフィルム『ストーカー』は、「ゾーン」と呼ばれる人間の欲望をあらわにする場所に案内する「ストーカー」と、その場所に行きたいという依頼人のふたりを通して、人間の本性や欲望、信仰等を描いた作品です。(現在一般的に使われているストーカーとは言葉の意味が異なります)

タルコフスキー監督は、多様な技術を使って音の発生源を画面上に登場させることなく、純粋に音だけで何が迫って来ているのか、何が起こっているのかを印象主義的に、潜在意識的に、芸術的に表現。

音は映像から切り離されており、発生する不調な音はどこからともなく聞こえてくる事もあるのです。本作において、音は音楽のように雰囲気を生み出す重要な要素で、芸術なのです。




抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-(1957)

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視聴者にも脱獄犯の緊張感や緊迫感を疑似体験させる


ドイツ軍占領下のリヨンにて、ドイツ軍に捕らえられ独房で死刑判決を待つレジスタンス派のフォンテーヌ中尉の脱獄を描いたロバート・ブレッソン監督の『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』では、音はビジュアルよりも意味があるものとして扱われています。

タッピングと咳払いでコミュニケーションを図り、警備の足音に耳をすませ、脱出の準備を気付かれないように細心の注意を払って音が出ないようにするといったように、常に「音」に焦点が置かれています。

視聴者は、常にフォンテーヌが聞いている音、出している音に注目し、彼が体験を同じように感じることができるのです。

クライマックスの15分に渡る脱出シーンのガードの足音や、目的のために犯さなくてはならなくなってしまった殺人までの流れは映画史に残るほどの緊張感。

また、映画の後半からフォンテーヌの脱獄準備の助けとして何度か登場した列車の音が、ガードを殺める音を隠し、視聴者に肝心の部分を見せないということでより恐ろしさを強調させています。




『ゼロ・グラビティ』(2013)

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NASAの多大なる協力を経て宇宙飛行士のメンタル面にもリアルを追求している


宇宙の無音とブラームスの美しくダイナミックな音楽のコントラストで見るものを圧倒させた『2001年宇宙の旅』、恐怖を植え付けることに成功した『エイリアン』...、サイエンスフィクションは宇宙の無音と音の使い方に重きを置いたジャンルと言えます。

2013年に公開された『ゼロ・グラビティ』もしかり。サウンドディレクターのグレン・フリーマントルは、体に触れて体自身が音を伝道させる以外に音を出す方法が無い空間で、触れた時の振動で音を作ることにしました。

映画は無音から始まり、音が聞こえ出す...。この聞こえてくる音のポイントは、サンドラ・ブロックの息遣いや鼓動、会話、ラジオから流れる音楽といった内側から発せられるものということ。

ジョージ・クルーニーにせよサンドラ・ブロックにせよ、触れていなければ何がぶつかり合っていようとも音を発生させていないのです。

音響の素晴らしい映画の定義のひとつに、静けさの使い方が挙げられます。『ゼロ・グラビティ』では、冒頭13分の長回しで撮られた宇宙ゴミの息を飲む迫力の衝突シーンの後で、ブロックの緊張によって荒くなった呼吸に焦点が当てられていることで、視聴者に宇宙を体験させるという本作のコンセプトを貫くことに成功しています。

触れることで伝えるという以外にも、フリーマントルとチームは音を作る必要がありました。彼らはパリ郊外のスタジオで、複数のギターを水中に沈め、弦を様々なアイテムで擦って音を発生させ、水中録音機で録音したのでした。

ここで録音された音の幾つかは、サンドラ・ブロックがパラシュートを掴むシーンで使用されています。一般的ではない音の取り方、そしてアプローチが本作を成功させる鍵となったと言えるでしょう。




『スター・ウォーズ』(1977)

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依頼を受けたバートは外に出て、フリーウェイ下のパイプを通して車の走る音を拾うことから始めた


『スター・ウォーズ』の音響を作ったのは、現代の映画音響のパイオニアの一人と言われるサウンドディレクターのベン・バート。彼は録音して編集、それを合わせてそれまでなかったユニークな音を作り上げていったのです。

当時、南カリフォルニア大学の大学院生だった彼は、「いきなりシンセサイザーで音を作るのではなく、外に行って日常のリアルな音を拾うことから始めてくれ」というジョージ・ルーカスの注文を受け、ミキサー等が置かれている自分のアパートから音作りを始めたのでした。

インペリアルウォーカーは機械工のパンチプレス、TIEファイターは象、チューバッカはセイウチを始めとする複数の動物、ライトセーバーはテレビとプロジェクターから音が作られています。




『ウォーリー』(2008)

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バートはポスプロだけでなく、アニメーターとも密に作業を進める


『スター・ウォーズ』シリーズから29年後、ベン・バートは再びロボットの音を作ることとなりました。

実写映画とは異なり、アニメーションの『ウォーリー』には約2500という膨大な数の音を必要としました。(『スター・ウォーズの音は約1000』)

特筆すべきは、前半30分のウォーリーとイヴのやりとり。言葉を発することなく、何を意味しているのかを表現するということで、音響が非常に重要視されました。彼は2005年から自分の声を録音しては加工するといったことを始め、最終的に、幼児が使う「世界共通語」のようなロボット言葉を作ったのです。

また、『Island in the Sky』(1953)に登場するハンドクランクジェネレーターを見て、ウォーリーの動く音に使えると考え、eBayで1950年式の新品を入手するといったことも。

その他、ウォーリーが早く動くときの音にはスターターを、充電完了を知らせる音はマッキントッシュのコンピューターチャイムを使用しています。

イブの飛行音には3mのラジコンジェット機、プラズマ砲はハシゴから吊るしたスリンキーをティンパニの鉢で叩くといったアイディアが使用されています。




『イレイザーヘッド』(1977)

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この音に耐えられなくて視聴続行が不可能な人も


音でコミュニケーションを表現したのが『ウォーリー』であれば、ムードを表現したのがデビッド・リンチ監督の『イレイザーヘッド』でしょう。

当時、リンチ監督は映像に関しても音響に関しても殆ど知識を持っていない状態でした。しかし、彼は音響は映像と等しく重要だと信じていたため、スタジオを防音のブランケットで遮音し、サウンドデザイナーのアラン・スプレットと共に1年かけて様々な音を試したのでした。

様々な音源を重ね合わせて作られた音は、聴く人を拷問するかのような威圧感。悪夢のような内容と人を狂わせるような音...、今もなお深夜上映の定番と言われていることに納得できる作品です。



『カンバセーション...盗聴...』 (1974)

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コッポラが『ゴッドファーザー』で有名になるより前に構想された作品


サウンドデザイナーのウォルター・マーチは『ゴッドファーザー2』や『地獄の黙示録』といったフランシス・フォード・コッポラ監督の作品で知られていますが、中でも作品に大きく貢献したのが『カンバセーション...盗聴...』です。

本作は、盗聴、盗聴したものを注意深く聞くこと、編集、オーディオがメインの作品です。

盗聴のエキスパートであるハリーが広場で密会する男女の会話を盗聴し、その会話に不信なものを感じた為にその内容を繰り替えして聞き、ついに男性が「殺されるかもしれない」と口にしていることを判明させる...というのが大まかな流れで、視聴者はハリー同様、冒頭で録音されたテープをしつこいくらいに何度も聞くことになります。

そのため、本作ではテープが拾った些細な音すらストーリーを引っ張っていく小さな鍵になっていくのです。これほどまでに視聴者に「聴かせる」ことを強いる映画も珍しいのではないでしょうか。

興行成績的には成功とは言い難い作品ですが、フランシス・フォード・コッポラ監督が脚本を書いたオリジナルであり「キャリアの中でもっとも好きな映画」と話す『カンバセーション...盗聴...』は、批評家からの評判も良く、優れたサスペンス映画であると言われています。

また、ウォルター・マーチが編集に携わり、エンディングに関して助言して今の形になったとされており、彼をこの映画の「共同制作者」と呼ぶ映画評論家も。

音響の素晴らしさというだけでなく、サウンドデザイナーが大活躍したという点でも堂々の1位を飾る映画と言えるでしょう。


[補足資料]

Functions of Film Sound: A Man Escaped via davidbordwell.net
How the sound masters of 'Gravity' broke the rules to make noise in a vacuum
Sound and Silence in 'Gravity': In Space, No One Can Hear You...
'The Sounds Of Star Wars,' Now At Fans' Fingertips
Eraserhead


The 10 best movies with the best sound[via Sploid]

中川真知子

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