ヘヴィ・メタルやラウド・ロック系のライブへ行くと、激しい楽曲が始まった途端、会場の真ん中の人たちが円を描くようにグルグルと回り出し、それぞれが中央に居る人たちに向かって突撃を始めるモッシュ・ピット。
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時には自然発生的に小さなピットが複数できることもあり、もしその身を投じれば、まるで地獄の洗濯機の中でモミ洗いされるような、ヒドい混沌状態に陥ります。
今回はウェブサイト「TMI」のグレイソン記者が、実際にモッシュ・ピットの中で、その状態はマルチプレイヤー・ゲームのようなんじゃないか? と閃いたお話をご紹介します。
「なんだそれ?」などと思うなかれ、人々のタイプがハッキリと分かれ、ルールがある所なども納得されるかもしれません。
8ビット・サウンドでロックな演奏をするバンドAnamanaguchiのライブで感じたと言う、グレイソン記者のアイディア。それモッシュ・ピットはテレビゲームにすっごく良く似ている、というものでした。
汗だくのロック野郎どもの肌がベタベタとくっつき、しかもヤツらの汗の匂いが自分に染み付き、体当りされて滑って転べばこぼしたビールの上にシリ餅をつき、ヘタをすれば打撲や切り傷、青アザも出来るし財布を落としたりもするモッシュ・ピット...。
こうして書くと本当にヒドいモンだと思われますが、自分の好きな曲にノって、ダンスのスタイルも何も気にせず、原始的に動いて飛び跳ねるというのは本能的に気持ちの良いものなんですよね。モッシングの最中にコケたら周りが抱え上げてくれる、そんな優しさに触れることもありますし、そこでは「戦う漢たちの拳で解り合うアツい何か」的なモノを分かち合うことも出来るのです。
グレイソン記者は、大きく別けてここに6種類のタイプがいると言います。面白いかな、多人数型オンラインゲームで出会うプレイヤーたちのように、それぞれ個性が垣間見えるのです。
それがこちらとなっています。
ザ・アタッカー
これはもう読んで字の如く。そしてモッシュ・ピットの中で一番多いタイプですね。ピット内にいる人には問答無用でぶつかってきます。中には血に飢えて、バイオレンスを好むクレイジーな方もいますので、覚悟を持ってピットに挑みましょう。
ザ・タンク
こちらは防御に徹して動かないタイプ。ですが往々にして、連れの人がピットに巻き込まれないようにガードしているので、ピットのド真ん中にいることはほとんど無いかと思われます。いるとしたらピットの内壁でしょうね。だって目の前は視界が開けているので、ステージが良く見えるんですもの。
ザ・サポート
このタイプは転んだ人たちを起こしてあげ、笑顔で背中を叩いて「ガンバって行ってこいよ!」と応援します。一見親切で気の良い連中のようですが、見方を変えればザ・アタッカーたちに餌食を供給している...とも取れなくもないかもしれません。果たして敵なのか味方か? ちなみにここまでサポートしてくれなくとも、ザ・タンクも起き上がらせてくれます。
ザ・フロント・ロウ
ステージ手前のアリーナ最前列を目指して、ブ厚い人混みを掻き分けずともモッシュ・ピットの中をショートカットして行く、いわばニンジャのような人たちです。なのでピット内では全くもって無害。暴れることよりも、かぶりつきでバンドを観たい追っかけタイプとも言えましょう。
ちなみに前から5列目辺りにいると、前後からの人の動きがタイミング悪く自分にグっと押されることがあります。しかも、たまたま息を吐いた瞬間に前後から押し潰されると、呼吸が出来ず窒息死しかけますのでご注意あれ(訳者の経験による)。
ザ・クラウド・サーファー
ステージ上によじ登り、大ジャンプで観客席に飛び込む冒険野郎たちがこのタイプ。みんなに支えられ、人の頭の上を右へ左へユラユラ泳ぐ彼らは、海のサーファーと同じく人間の波へとダイブします。この快感に酔うと、何度も何度もクラウド・サーフィンを繰り返し、しまいにゃセキュリティーからステージ上への侵入を拒まれることも。
時たまステージから空中で前転し、背中からフロント・ロウに着地してくる輩がいるのですが、下の人はちゃんと注意していないと脳天に強烈なカカト落としを喰らい、目の前に星が散るハメになります(これも訳者の経験による)。
ザ・クリーパー
猛烈な人混みに紛れて、チカンをはたらくエロ目的のキモメンがこのタイプ。時として、ザ・クラウド・サーファーが女の子だった場合に、我こそはと下から支えに行くのです。ホントにたまたま身動きできない場合に、目の前に密着した女の子がノリノリでジャンプしまくる事もありますが、これは完全に不可抗力(やっぱり訳者の経験による)。そこでヘタに勘違いして肩や腰に手を回したりするとアウトです(さすがの訳者もそれは経験していませんからね!)。
てなわけで後半は体験談も混ざってしまいましたが...あたかも『チームフォートレス』のように、これらのキャラを巧みに使えたらバトルに勝てそうな気がしますね。読者の皆さんであれば、どのタイプに当てはまるでしょうか?
殺伐としているようで、実はそこに暗黙の了解が存在するモッシュ・ピット。さらにグレイソン記者は、そこには6つのルールがあるのだと例を挙げています。これらをマスターすれば、今日からアナタもモッシュ・マスターになれるでしょう。
楽しむことに集中し、他者を傷つけるべからず
これはもう基本中の基本ですよね。アクシデントならまだしも、故意にやるようなら返り討ちに遭うか、ピットまたは会場から追い出されるでしょう。
使うのは腕だけ、拳や肘を立てるべからず
周りの人たちに怪我をさせてしまいますので、これはやめましょう。理想的な体勢は、胸の前で腕をクロスさせ、ツタンカーメン王の棺のようなポーズを取って腕の側面から押すように柔らかく突っ込む形です。でも肩からタックルするのはダメですよ!
ピット外の人には手出しするべからず
ピットの中にいる人たちだけが、暴れたい人たちです。自分が弾き飛ばされたらキャッチしてくれると思いますが、ザ・サポーターやザ・タンクに自ら突っ込んではいけません。
誰かがコケたら起こすべし
踏まれたり蹴られたりしたら、コケた本人にとっても危険ですし、周りにとっても二次災害を招く恐れがあります。肩や腕を掴んで起こしてあげるか、別の人に起こされているのであれば、自分が盾になってガードしてあげましょう。
誰かが落し物をしたら、一緒に探してあげるべし
洗濯機のようになったピットの中では、メガネや携帯電話、財布や鍵などを落としてしまいがちで、ヘタしたら履いていた靴が脱げる人もいるくらいです。もし床の上を気にしている人がいたら、ムリの無い範囲で一緒に気にしてあげましょう。
アツくなり過ぎるべからず
いまいちノレない、またはもう疲れた、危ないヤツが突撃してくる、などと言う時には一旦ピットから抜けて呼吸を整えましょう。ここは苦行の場ではないので、何からも耐える必要はまったくないのです。
テレビゲームにもルールが在るからこそ、ゲームが楽しいのと同じように、やはりモッシュ・ピットの中にも、皆が楽しむためにこうした暗黙の了解があるのです。みんなが守っていたら、楽しいモッシングになりそうですよね。
そして最後に忘れてはいけないのが、ステージ上のミュージシャンたちも会場の動きを見ているということです。危険なモッシャーが居たら、各バンドのメンバーも「あの時のアイツらはイカれてたぜ」なんて言っちゃうくらいなのです。出入り禁止なっては元も子もないので、ルールを守って楽しみましょう。
ということで、時にはぶつかり合い、時には助け合うモッシュ・ピット。いろんなキャラクターが混在するなかでのモッシングは、マルチプレイヤー・ゲームとちょっと似ていませんか?
もしも激しいライブに行くチャンスがありましたら、これらの事を踏まえてモッシングするも良し、面白おかしく観察するも良し、もしくは本来の目的として音楽を楽しむのも良し、ぜひとも思い思いの楽しみ方を見つけてみてください。
Why Mosh Pits Are My Favorite Multiplayer Game[TMI]
(岡本玄介)
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