SFホラー映画の金字塔『エイリアン』。そのままのタイトルでテレビゲーム化されたこともありましたが、偉大なるアーティストの故H.R.ギーガー氏がデザインしたエイリアンは、『魂斗羅』や『エイリアンクラッシュ』、『エイリアンシンドローム』など、枚挙に暇がないほどのゲーム、またはアートに影響を及ぼしました。
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ピンボールゲームへのオマージュは稀な例ですが、映画『エイリアン』の世界観は、シューティングゲームにするには非常に最適な素材ですよね。「宇宙船の廊下、角を曲がれば遭遇するエイリアン、マシンガンを乱射する主人公。」
今回は劇中に登場した演出などを元に、どうやって『エイリアン』を参考にすれば良質なシューティングゲームが作れるのか? という考察をお届けします。少々長いですがお付き合い下さい。
非常にポピュラーなジャンルのシューティングではありますが、ザックリと分けてみると、横か縦方向のスクロール、または奥に進んでいく三人称、もしくは一人称視点というのと、主人公が人間か乗り物かくらいの違いしかありません。
過去5年くらいでリリースされたシューティングは、特に似たり寄ったりの傾向が強いそうです。仲間を援護し、体力が回復するまで壁に隠れ、またフィールドを駆け巡りそれを繰り返すのです。時には次のエリアに行くドアの前に立ち、ノンプレイヤーキャラクターが話終わるまで待つことも...とまぁ、そんなお決まりの「あるある」は、いくらでも出てきそうです。
とは言え、似たものばかりだから終わコンか? と言われても、定番のジャンルはそう簡単には廃れません。
たとえば、映画『エイリアン』をシューティングゲームにしてみたら、これまでより面白い作品になるかもしれません。過去の『エイリアン』ゲームが名作として語り継がれるか? と訊かれれば100%イエスではないかもしれませんが、作り様によっては、ポテンシャルは高い...と米Kotakuでは書かれています。
一般的なシューティングであれば、人ではないクリーチャーを見かけたら、死ぬまで撃ちまくります。仮に人間に似ていたとしても、こちらに話しかけてこなければ寄生されていたり、蝕まれつつあったりするのでこれもアウト、めでたく敵決定です。それがエイリアンであればもっと顕著に、一目で敵だと分かりますよね。
どこかの部屋に入った時、床いっぱいに卵が植え付けられていたら? これもまた、プレイヤーは火炎放射器などを選択して、巣を丸ごとブォーっと燃やし尽くすことになるでしょう。そのアクションは、まさに火を見るより明らかです。
たまには例外もあり、『Halo:コンバット・エボルヴ』であれば、プラズマ系の銃火器でエリートを撃退し、ジャッカルにはグレネードが有効、という各自の弱点があったりもしますが...まぁその辺はさて置き、エイリアンになら特殊で未来的な武器じゃなくても、ほぼ対抗できるでしょう。
人間が敵なら、ほとんどが地面を歩いて向かってくるかと思いますが、エイリアンはその機動力と身軽さを武器に、天井裏や排気口、床下などの闇に隠れている可能性も大いにあります。どこから出てくるか分からない緊張感があるので、自分がいるエリアが安全かどうかアチコチひっくり返す必要性がでてきます。ついでにアイテムが出てくればラッキーってことで。
エイリアンたちは、ただボーっと突っ立って蜂の巣になるほどマヌケではありません。知能が備わっています。こちらの攻撃を避け、反撃してくることだってあるのです。それが排気口などに逃げ込んでしまったら、次はどこから襲ってくるのか? 緊張感どころか恐怖を感じながら進まないといけなくなります。
『F.E.A.R.』に出てくる敵キャラたちがこうした動きをするそうですが、それは人工知能とレベル・デザインによる成果なのだそうです。エイリアンたちであれば、天井裏も床下も使い、あらゆるバリエーションで逃げたり攻撃してきたりするため、プレイヤーは常に自分の周囲に気を配り、最適な武器を選択してランダムに動くエイリアンに立ち向かわなければいけません。これまでのシューティングにはなかった珍しい相手となります。
予測できない動きをする相手は非常に厄介です。映画『エイリアン』を観ていても、次の動きが読めたりしましたでしょうか? 突如として卵からフェイスハガーが飛び出し、顔に張り付いた後は自らが絶命するまで離れません。
そしてまた、胸からチェストバスターが飛び出すシーン、エイリアン・クイーンの登場も、観客をアっと言わせましたよね。このようにプレイヤーを飽きさせないようにするには、大爆発や巨大建造物の倒壊などよりも、ビックリの仕掛けのほうがより印象に残るのです。
ビックリドッキリもプレイヤーを惹き付けるのに大事な要素ですが、あえて危機感を煽るのもまた、プレイヤーをハラハラさせるのに重要です。
劇中では、ノストロモ号が3層構造になっているため、それがトリックとなってダラス船長がやられるシーンですとか、医療室で目が覚めるといつの間にか放たれたフェイスハガーがリプリーとニュートに襲いかかるシーンですとか、心臓がバクバクする箇所がアレコレありますよね。
それもこれも、とっとと救援部隊が到着して、エイリアンを一掃して地球へ向けて飛び立てばトラブルなく一件落着できたはずなのに、そうならなかったのは何故でしょうか? そう、観客を楽しませるための演出なワケです。
クイーンに追われ追われて、やっと辿り着いた先で乗り込んだパワーローダー。これも、もしリプリーが最初っから乗っていてエイリアンをボコボコにしていたら...逃げる時の緊張感は皆無で、スリリングなシーンは生まれなかったワケです。
米Kotakuのバーフォード記者は、最近の平均的なシューティングゲームに対して「シューティングが嫌いな人が作っているんじゃなかろうか?」と言っています。
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その理由はふたつ。ひとつはシューティングゲームは、「敵に照準を合せ、それが死ぬまで撃ち続けるだけなものが多い」。ふたつめは「銃火器による絶大な攻撃力をプレイヤーに与え、満足させるだけ」。
これだと一撃かそこらで敵が絶命し、勝利を収めてハイ次へ...となります。ゲームデザインの根底には、この2点を押さえておけば問題ない。
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という作りのものが多いとバーフォード記者は言うのです。
そして、自分が無敵過ぎてもつまらないものになってしまうので、シューティングゲームにおける最高にエキサイティングな瞬間は、やはりどうしょうもない状況からの起死回生をする瞬間だと結論づけていました。
3Dアクション・アドベンチャーの『Call of Cthulhu: Dark Corners of the Earth』では、とあるステージでプレイヤーに拳銃が一丁与えられるのですが、それには「これを使用してはいけない。もし使ったら、多分殺されるだろう。」と書かれているのだそうな。本来であれば、自身を護るべき拳銃なのに使うことが足枷になるなんて、いきなりスリリングですよね。確かに、ただマシンガンをブッ放すだけより、ミステリアスでよっぽど面白いと思えるような気がします。
そしてバーフォード記者が考える面白いシューティングゲームは、多様性があるゲームだと言っています。
『Halo』で動きがスローになったり、『レインボーシックス』や『バレットストーム』といったシューティングとは一線を画します。
『F.E.A.R.』ではプレイヤーにスローモーを使わせ、一風変わった銃撃の楽しさが味わえますし、逆に『シリアス・サム』では大量の敵が襲ってくるので、スピードが重要になったりします。『System Shock 2』のサヴァイヴァル・ホラーな感じは、『ファークライ3』ともまた違うものとなっています。全部違ったアプローチですが、これらは良い例ということですね。
更にバーフォード記者はプレイヤーを満足させる完璧なシューティングゲームは、タクティカルだろうがなんだろうが、どんなジャンルのゲームにでも適用可能だと言っています。手を変え品を変え、違いを出しても何処かのポイントで似てしまうかもしれませんが...とも。
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プレイヤーは仮想の世界を相手に、そのゲームをクリア、または飽きるまで独りで何十時間も費やすことになりますので、理想的なシューティグならやはり、ある程度ピンチに追いやり、人間をドキドキさせるのが良いでしょう。
たとえばモノ凄い火力を持った銃を持っていても、所持弾数に限りがあるとか? なのに大量の敵が攻めてくるんです。段ボール箱に隠れている場合ではなくなってしまいました。さぁどうしましょう?
プレイヤーが戦場に突入した時、大概の人は「何を解決して次に進むのか」を考えるのではないかと思います。コントローラーを持った人が、「え? 何これどうやんの?」って言うのは結構お決まりのセリフですもんね。
ザコを一定数を倒すのか、ボスを撃破するのか、はたまたパズルを解くのか、そのステージをクリアできた時の爽快感は、どれだけ大変だったのかに比例するかと思われます。
完璧なシューティングゲームの核になるのは、プレイヤーに考えさせることです。賢くて難易度も高く、でもそこで何が起こっていて、どの武器を選んでどの敵を倒せば良いのか、そしてどうやって回避・脱出すれば良いのかを想像させるゲームが、印象に残り、飽きられない名作となるのでしょう。
現実世界ではあり得ないような状況の中で、脳ミソをフル回転して次の手を考えさせるシューティングゲームは、プレイヤーに予想もできないような驚きと感動を与えてくれるはずです。なので映画『エイリアン』シリーズを参考にすれば、もっと人々に愛されるシューティングゲームが生まれるかもしれません。
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今回は『エイリアン』に限った話でしたが、シリーズ化した人気映画はそのストーリーや演出、登場キャラクターなどが他より秀逸だったから続いたと考えて良いと思います。ゲーム作りだけではなく、さまざまなエンターテイメントの参考になりそうですよね。クリエイターの方々におかれましては、いつも心にエイリアンを飼っておくのが、良策を生み出す秘訣になりそうです。
Why The Alien Universe Would Actually Make For The Perfect Shooter[Kotaku]
(岡本玄介)
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