人物よりも有名になった、非常に研究価値の高い脳ミソなんですって。
1926年に生まれ、子供の頃より「てんかん」の発作と戦う人生を歩んでいた、マンチェスター生まれのヘンリー・モライソンさん。生前から脳外科手術を受けて、そこそこ普通の生活が送れていたそうで、医学界から貴重なケースとして注目されていた方でした。
しかし2008年にお亡くなりになってから1年後、彼の脳ミソは冷凍保存され、とある医療チームによって2400枚もの極薄スライスの状態にされてしまったのです。
まるで『人体の不思議展』か、はたまたレクター博士の晩ゴハンかってな話ですが...以下ではスライスしている動画やデジタルデータへのリンクなどもご用意しましたので、続きをどうぞ。
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これからの医療にも役立って貰うため、スキャナーでデジタルデータになってしまったモライソンさんの脳ミソ。
頭文字をとって通称「H.M」と呼ばれた彼は、認知神経心理学の発展において重要な役割を果たしたのです。
最初に手術が行われたのは1953年、ハートフォード病院のウィリアム・ビーチャー・スコヴィル外科医師が、てんかんの原因ではないかと疑った内側側頭葉(耳の上辺り)の一部...海馬、海馬傍回、扁桃体のほぼ2/3部分を切除。
その後、記憶を司るといわれている海馬が完全に機能しないだろうと考えられ、実際にモライソンさんは術後に起こった出来事を長期記憶として憶えることができなくなったが、短期記憶は正常に記憶できていたのです。
一応てんかんは収まったそうですが、それ以降重い記憶生涯になってしまったモライソンさん。手術の数日前のことや、11年ほど前のこともほとんど記憶がスッポリ抜け落ちてしまったというのに、段階を踏んで習得する運動技能はちゃんと憶えることができていたので、「脳ミソのどこを切ると何の記憶の障害が出るのか? 」といった研究を大きく前進させるキーパーソンとなったのです。
本人はもちろんですが、何百もの研究に寄与し続けた結果、脳ミソのほうが有名になってしまったモライソンさん。死してなお研究対象として扱われ、2009年の12月3日、 カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究室で、その脳ミソの切断が行われ、作業の様子はライブでストリーミング中継されたのです。その模様がこちら。
この作業は徹夜で三日三晩、大学の「ザ・ブレイン・オブ・ザーヴァトリー」監督であるヤコポ・アニシー医師と、そのチームによって続けられました。そしてその間に訪れた閲覧者数はなんと40万人にものぼったとか。
『ナショナル ジオグラフィック』誌に掲載されたアニシー医師のインタビューでは、「モライソンさんの死後一周忌に脳ミソを冷凍保存し、53時間かけて冷凍脳ミソが2400枚にスライスされた」と語っています。
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常に誰かひとりが横にいるよう学生たちに付き添いを依頼し、寝そうになってしまう時や、スライスを取り損ねたら注意してもらうようにしていました。その時に言ってもらうキーワードが「prosciutto」というものだったのです。
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実はその「プロシェット」とは...「豚の生ハム」という意味なんですって。
イタリア人であるアニシー医師に対して、イタリア語で語りかけることで集中力をキープさせようという試みだったのですが、まさかその合言葉がそんなに美味しそうなものとは...なんだか人肉美食家のレクター博士そのものじゃないですか!!
さて、スライサーの上にはカメラが装着されており、1枚ずつ削る度に超高画質で写真が撮影されました。残念なことに2枚のスライスだけがダメージを受けてしまったそうですが、残りの2398枚は良い状態で切片されたわけで、後世に残すデータとしてもおそらく充分なものとなるでしょう。
そしてクラウド上に保存された写真の一部が、「nature.com」の記事からご覧いただけるようになっています。スライス前には、縦に切られた時の断面や、1952年の切除手術で何処の部分がどのように切られたのかも、3D画像で立体的に解析されたりしているのがお解りいただけます。
一応、保存されたスライス脳ミソ画像は、同業の研究者たちであれば誰でも閲覧できるものとしており、一般の人たちには公開されていないようです。ちなみに1枚だけ、1279枚目が参考資料として閲覧できますので、行った先で超拡大とかしてみましょう。
『ビッグ・ブレイン・プロジェクト』という、凍らせた脳ミソをスライスしてスキャン&保存するこの研究。これから先どう私たちの役に立つのでしょう。
写真:Annese et al.
This famous brain was cut into 2,400 slices and uploaded to the cloud[io9]
(岡本玄介)
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