今日もキノコ日和

その17:虫草ホープ

2016/03/12 03:59 投稿

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去る2月末にキノコ師匠のosoさんに誘われて虫草探しに行ってきました。
何故2月の話を今ごろになってまとめるのかということに関してはこちらとしても不思議に思っており、目下原因を調査中です。経過報告によりますと特に何もせずごろごろマンガばっか読んでいたこととの関係性が指摘されています。

まあそこら辺は別にどうでもいいとして虫草レポです。
今回案内された場所はosoさんの方で動画ブログ記事が作られています。
なのでそこを見ればよくわかると思います。以上です。



嘘です。ちゃんとレポします。
えーとあの日はどんなだったかな……。そうそう、新幹線と電車を乗り継いで現地に向かいました。集合地の駅でosoさんと合流して車に乗せてもらいました。それで、お疲れ様ですとか軽く挨拶をかわしていると、ふと空気がおかしいなって感じたんです。何て言うんですかね、雰囲気がいつもと違うぞって。音とかじゃないんですけど、近くに人がいると気配でわかったりするじゃないですか。視線とか、息使いとか。最近の科学研究だとそういう第六感は電磁波だか静電気だかで説明がつくらしいんですけどね。ともかくそんな違和感が後部座席からするんですよ。で、何とはなしに振り返るといるんですよ、そこに。黒い人型の影が私の後ろに座ってるんです。

今回同行するいんたーさんでした。
黒いのは黒い服着てたからです。

このいんたーさんはosoさんがツイッターで知りあった虫草屋さんです。既にこの日見に行く虫草も自力で見つけている実力派。聞けばまだ学生さんなのだそうで、メンバーの平均年齢を一人で一気に下げてました。

その後駅から離れた公園の駐車場でもう一人の同行者、どろんこさんと合流しました。この方もosoさん経由で知り合った虫草屋さんです。実は2015年の夏ごろから何度か坪(虫草の発生地)を案内されていて、年末には忘年会と称してオフ会的なこともやってました。

私「お待たせ♪」きゃぴるん♡

どこかのネット記事で「女性は街中で出あうと飛び跳ねて手を振る」みたいなのを見た覚えがあったのでちょっとやってみました。可愛い行動をおっさんがやることでギャップ萌え的な何かが生まれる可能性に賭けてみた次第です。
結果どろんこさんに「クソうぜえ」の一言で切り捨てられました。酷い人だ。

ここで改めてインターさんとご挨拶。やっぱ向かい合ってやんないとですね。

私「いんたーさんはもともと虫草一本の人?」
いんたー「いや、ガガンボさんの動画を見て興味持って、そこから……」

ガガンボさんの動画を見て。
ガガンボさんの動画を見て。

いやはや参りましたね。また有望な若者を引きこんでしまいましたか。自身の啓蒙具合に我ながら恐れ入りますよ、ほんと。なので引きこんだ人が遥か先を歩いていることはこの際気にしないことにしましょう。「あとから来たのに 追い越され~♪」って水戸黄門も言ってます。
いや水戸黄門は言ってないか。

挨拶もほどほどにみんなでosoさんの車に乗り込んで現場に移動です。細い林道を進んだ先はいかにも里山といった場所でした。普段車に乗らない身としてはそもそもこんな道をよく進む気になるなと感心しきりです。

さて虫草の発生地と言えば充分な湿度が必要なことは皆さんも一般常識としてご存知のことと思います。ところがこの坪、水場らしい水場が見当たらないのです。なのに地面を掘ってみると土は充分湿っています。もしかしたら地面の下に伏流でもあるのかもしれません。普段虫草を探すときはセオリー通りに沢伝いを見ていましたが、こういうケースもあるとなるとまた目を向ける場所が増えてきますね。

oso「あそこの倒木にオイラセがいるんですよ。もうどろんこさんならすぐに見つけちゃうんじゃないかな」
どろ「いざ探せって言われると焦るんだよなぁ……」

4人のメンバーの中では一番虫草歴が長く、発見例も多いベテランのどろんこさんにosoさんが早速プレッシャーをかけ始めました。osoさんって結構こういう性格悪いところがあります。
私なんかはもう大人しいものでまだ近づいてる段階で「もう見つけたんじゃないっすか?」とか、探し始めたどろんこさんの後ろで「見つけましたか? まだですか?」とか言ってたくらいです。



で、これが件のオイラセクチキムシタケです。奥のと合わせて二本生えてます。
どろんこさんは流石自力で見つけてました。
オイラセは奥入瀬と書いて、青森の地名だそうです。最初の発見地が名前についたパターンですね。ぶっちゃけこの手の命名方法はのちのち別の場所の方でよく見つかるようになったりするのであんまりよろしくないと思います。ここ青森どころか中部地方ですし。




拡大図。細い子実体の途中に茶色のツブツブが付いているのがわかりますね。
これが子嚢殻という胞子を作る器官です。ルーペで観察すると半透明でとても美しいんですが、いかんせん私のカメラでは伝えきれないですね。探しに行きましょう。



どろんこさんが掘りだした宿主。あ、虫注意です。
何か昆虫の幼虫らしいです。
ちなみにこの坪では何か所かオイラセクチキムシタケが生えていましたが、そのほとんどは子嚢殻を作っていない未成熟な状態でした。ただでさえ見つけにくいのが、未成熟だともう全然わかりません。言われて見つけても細い根っこと見分けがつかないようなものばかりでした。

どろ「ガガンボさん、オイラセ見つけましたー?」(←既に複数発見済み)
私「いや、なんか私が探すと隠れる習性があるみたいです、こいつら」

結局自力での発見には至りませんでしたね。無念。


しかしながらこの場所に生えるのはオイラセクチキムシタケだけではありません。教えられた通りに木の幹を探すとこちらはすぐに見つけることができました。

木に齧りついたアリから生える虫草、イトヒキミジンアリタケです。
以前はタイワンアリタケという虫草と混同されていたそうですが子嚢殻の色や子実体の長さ、宿主のアリの種類などの違いから別種とされました。



こんくらいの大きさでひょろっと伸びてます。


子嚢殻のアップです。ツブツブしてるのが成熟してる証。



osoさんの見つけた個体。頭だけになってます。顎を使ってしっかり噛みついているのがわかりますね。恐らく寄生したアリを操って木に固定させているのだろうと言われています。

各々写真を撮るのに熱中しているとあっという間にお昼を過ぎてしまいました。次の場所もあるし、そろそろ移動しなければというところでいんたーさんが何かを見つけました。


何やらアリから白いボサボサしたものが生えています。

oso「え、これもしかしてアナモルフ!? すげえ!」
どろ「話には聞いたことがあったけど、初めて見た……」

突然興奮し出す二人。こわっ。しかしそれも仕方のないことです。
もしもこれが本当にアナモルフならめちゃくちゃ貴重な発見なのですから。
虫草を始めとする子嚢菌の仲間は胞子を撒くとき完全世代(テレオモルフ)と不完全世代(アナモルフ)という二つの形態をとることで知られています。キノコで言うならアイカワタケとヒラフスベのような関係だと言えばわかりやすいでしょうか。ただこの世代は種によってかなり偏りがあり、完全世代しか見つかってないものや不完全世代しか知られていないものなどもあります。イトヒキミジンアリタケの場合は見つかるのは完全世代のテレオモルフ(先に載せた黒いコブを作る方)ばかりで、不完全世代はほとんど見つかっていません。この個体がそうならば、とても貴重なサンプルとなるでしょう。

しかし残念ながらこの場ではっきりしたことはわかりません。実はただのカビでした、という可能性もありますし、どろんこさんが持ち帰って詳しく調べることになりました。
続報に期待しましょう。


さっそく飛ばしてくるいんたーさんに圧倒されながら次の場所へ向かいます。
途中で昼食にチャンポンを食べました。美味しかったです。
さて第二のポイントでは先ほどとは別の虫草が見つかるそうです。
探すのはツバキの裏、蜘蛛の卵嚢(らんのう)です。



こういう林道沿いのツバキの葉をめくっていくと、


こういうのが見つかります。これが卵嚢と呼ばれる蜘蛛の卵です。
産み付けた卵の周りを糸で覆いガードしている状態です。探す虫草はこの卵嚢の糸から発生するキノコだそうで、片っぱしから葉っぱをめくって回りました。

しかしこれがなかなか見つからない。osoさんはあらかじめ出ている木を知っていたのですぐ見つけましたが、発生していたのはそれだけ。
代わりに前の記事で紹介したアスケルソニア アレイロディスはやたらと見つかりました。こいつは虫草の中でも割りと乾燥に強い方なので、他の虫草が出ないような環境でも平気な顔で出ているんだとか。虫草探しの指標には向いてないみたいですね。

私「これは?」
oso「いや、出てないですね」
いんたー「卵嚢自体は見つかるんですけどね」

まず一本のツバキの葉っぱを全部裏返すと一つくらい卵嚢が見つかります。しかしどれもこれもまだ新鮮な状態で肝心の虫草は一向に現れません。ベテランの意地で探すどろんこさんは焦りからか不機嫌からか、次第に口数も減ってきました。
と、その時。

私「あれ、これそうじゃないですか?」
どろ「いや、違いますね

見もせずに答えてんじぇねえよ。

どろんこさんはあてにならないのでosoさんに見てもらうとこれがビンゴ!




というわけで見つけました! 蜘蛛の卵嚢から生えるランノウアカツブタケです!

……見えませんか? それは皆さんの心が汚れているからです。私のように清く美しい心の持ち主ならこの画像からでもはっきりと見ることができます。

嘘です。こいつは本当に小さい虫草で、ルーペなしではまず見えません。

拡大。糸の上にオレンジ色のツブツブがあるのがわかりますか?


この範囲です。周囲が暗かったのでやむなくフラッシュをたいて撮影しましたが、実際ルーペで見てみるともうちょっと赤味が強い半透明の子嚢殻が確認できます。

私「いえ~い! 見つけたったー見つけたったー!」
出ました! 喜びを表す私の小躍りです。上級者のどろんこさんに先んじることができたので喜びも一入でステップもいつも以上に軽快ですね。さあ、どろんこさんがますます無口になってきたところで別の場所から声が上がりました。

いんたー「あ、これそうじゃないですかね?」
oso「どれどれ! 見つけた!? 見つけた!?」
私「おー! 来ちゃいましたかー! 先輩を差し置いてー!?」

いんたーさん以上にハイテンションな私達です。果たして結果は?


↓拡大

おめでとうございます! オレンジ色の子嚢殻がよくわかりますね。
全体的に発生がよくわかるベストな個体です。


どろ「あったー!!!」



↓拡大


ここでどろんこさんも無事発見してほっと胸をなでおろしました。
このまま見つからなければ残りの道中ずっと不機嫌だったかもしれません。
まあそれはそれで面白いような気もしますが。



さてここでもう一度ランノウアカツブタケの生えている卵嚢を見てみましょう。
左が発生している卵嚢で右が出ていない卵嚢です。糸の色が違うのがわかりますね。どうやら蜘蛛は卵嚢を作る際、卵を守るように特別な糸を出すようです。どういう役割があるのかは謎ですが、卵の周りを白い糸で覆い、その上に黄色い糸を絡める二重構造になっています。
そしてランノウアカツブタケが出ているのはどれも糸の色が褪せてしまったものばかりです。どうやら色づいている新鮮な卵嚢が劣化してきた頃に発生するようです。

いや、もしかしたら色つきの糸にランノウアカツブタケが出ることで栄養が吸われ、退色していくのかも? osoさんに聞いたところこのランノウアカツブタケは中にある卵ではなく表面の糸から生えているとのことです。蜘蛛の生態には明るくないので何とも言えないのですが、例えば卵嚢用の色つき糸には卵のために栄養が詰まっていてそれを利用して生えてるとか……ないですかね? どなたか蜘蛛に詳しい方がいらっしゃったら卵嚢についてご教授いただければと思います。

どろ「しかし蜘蛛の糸から生えるってそれ虫草なのかな……」
oso「うーん、なんていうか例外中の例外な奴みたいですね」
私「虫草とは何か」

なんか哲学的な話になってきました。そもそも虫草とは昆虫や他の菌に寄生するキノコの総称です。この寄生というのは生きている宿主から栄養を奪う生態を意味します。死んだ木材を分解して栄養を摂取している腐生菌とはここの部分が違います。虫草の中には木の実から生えるようなものもありますが、植えれば芽を出す種も生きている植物と言えるでしょう。
ところがこのランノウアカツブタケが生えるのは蜘蛛でも卵でもなくその糸です。生産物から栄養を取っているこの虫草は寄生とは違うように思います。果たして虫草の括りに入れてしまっていいのでしょうか。うーむ、難しい話です。

なのでそこら辺は誰か他の詳しい人に考えてもらうことにしましょう。


そんなこんなで全員がランノウアカツブタケを見つけた後、最後のポイントへ移動しました。
到着したのは沢伝いに伸びる古い林道。もう使われていないのか朽ちた倒木がそこかしこに横たわり、湿度も充分。虫草だけでなくキノコ的にも垂涎の環境です。

oso「ここではガヤドリが見れるんですよ」
どろ「おー、ガヤドリはいいですねー」

先を歩く二人がそんなことを話していると後方について歩くいんたーさんが一本の木を指差しました。

いんたー「これは違うんですか?」
私・oso・どろ「!?」





そこにいたのは見紛うはずもないガヤドリナガミノツブタケ! これだよ!
なんとosoさんが案内しようとしていた場所のはるか手前、車を止めた入口付近に堂々と発生していました。あまりに近場にあるのでみんな気付かず通りすぎていたようです。



横から。宿主はスズメガの仲間のようです。全体を覆う菌糸が止まっている木にまで伸びて固定しています。こういう直接雨の当たらないような反り返った場所に出るのだそうです。
※追記:宿主はヨトウガの仲間だそうです。初めて聞いた名前です。
同級生にはいませんでしたね。




子実体のアップ。子嚢殻は作られていないまだ未成熟な状態です。
越冬するイトヒキミジンアリタケや冬に成熟するオイラセクチキムシタケとは違いガヤドリナガミノツブタケの旬は夏です。このままゆっくり成熟していき、夏場に子嚢殻を形成します。



ちなみにosoさんが見つけていた個体。
こちらもまだ未成熟なのでいんたーさんが見つけたものと合わせて定点観測していくそうです。夏になるのが楽しみですね。その時はまた案内してください。

こうして、この日の観察は終了しました。狙っていた虫草は全て見つけることができ、さらには思いがけない出会いもあるというとても充実した観察会でした。というかいんたーさんが全部かっさらっていった一日と言っても過言ではないでしょう。いんたーさん無双。まだまだ若いのにこの観察眼、これからにさらなる期待が持てる虫草界のホープの誕生です。


私「でも元をただせば私の動画見てこの道に入ったそうですし、
  ある意味全部私の功績と言ってもいいんじゃないですかね?」
 
oso「こういう大人になっちゃダメだよ」
 
いんたー「はい」



とても素直な青年でした。

コメント

α-amanitin
No.4 (2016/03/12 12:27)
Twitterのフォロワーさんから教えて頂きましたが
ノコメセダカヨトウかその仲間のヨトウガみたいですね。
関西地方では特にこの宿主が多いようです。
少し前に見に行きましたが変化なし。6月ごろかな?
青fungi
No.5 (2016/03/12 17:56)
 かこつです
 タイワンアリタケかぁ…いいなぁ。
 どこまで行動制御があるのか無いのかも面白そうな虫草ですよね。
 アナモルフ、DNA読むんですかね?

 ランノウアカツブタケ、この間少し探してみたんですけど、綺麗な卵のうしか見つかりませんでしたよ。
 これ生えて中の卵無事なんですかね?実は卵にも菌糸が…とかなら、栄養を卵から取っていて、効率的な胞子飛散の為に糸表面に子実体を作っている、とかもありそうですけど。
 
ガガンボ (著者)
No.6 (2016/03/12 18:59)
ヨトウガという名前をまず初めて知りましたがよくよく考えれば他のガの名前にも詳しくはありませんでした。虫草は宿主についての知識もいるのが難しいところですね。
今日はアミガサとツバキンが出てないか探しに行きましたがまだ早かったようです。クロチャワンとかカラムラサキハツとかミイノモミウラモドキとかしかいませんでした。また日を置いて探します。
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