今日もキノコ日和

その40:富士キノコマダー

2016/10/22 20:32 投稿

コメント:15

  • タグ:
  • ガガンボ(東方手描き作者)
  • キノコ
  • 冬虫夏草

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
≪注意≫
このブロマガはキノコ屋見習いの観察をまとめたものです。実際の同定に利用できるものではありません。
記事内容に訂正・補足がある場合はコメント等でご指摘いただければ幸いです。
なおキノコの正確な判別は経験者でも間違えるほど難しいものです。慣れない内はベテランの方に付き添って
もらうなどして、素人判断での採取・喫食は行わないでください。死にます。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 紅楼夢と秋季例大祭が終わって、もう今年は大きなイベントないなぁと無気力に過ごしていたらあっという間に一週間が経ってしまいました。やはり秋は日が落ちるのが早いですね。関係ないですか。このまま自堕落に過ごしてはいけないなぁと三日くらい前から思い始めていたので、書き溜めているキノコ狩りをまとめていこうと思います。


 9月22日の朝六時、私は名古屋駅へ降り立ちました。いつもこっち方面へ出向くときは新幹線を利用してますが、今回は前日発の夜行バスを利用しての早朝入りです。それもそのはず、今回の目的地はキノコの聖地としても名高い富士山なのです。

私「おはよーございます」
oso「お早うございます。じゃあいきましょうか」

 まず間違いなく地元の友人より顔を合わせているosoさんと合流し、高速へ乗り込みます。途中で朝食を軽くとり、車を飛ばすこと3時間。窓の向こうに雄大な山容が見えてきました。デフォルトされた富士山のイメージと違って、実物を見ると裾野がめちゃくちゃ広いんですよね。気の利いた人ならここでわかりやすい写真をのっけるところでしょうけど、うちはそういうのやってないです。基本キノコ以外は写真撮りません。

 ここで予定より早く着いたということで、osoさんがちょっと寄り道をしていこうと言い出しました。この手の提案にNOと行ったことのない私は一も二もなく賛成し。前にも何度か来たことのあるカラマツ林に向かいました。道路が走るすぐ横にカラマツ林があるなんて、どういう贅沢だ。

私「いい感じに湿ってますね。コンディションはよさそう」
oso「ですね。あとは台風の影響がなければってとこですね」

 もともと今回の富士山遠征は9/22か9/25のどっちかという話になっていました。しかし22日だと台風が通り過ぎた直後で山が荒れている可能性があったので、週末の25日に日付が決まりました。なお9/22が空いた私が何をしてたかというとその37の記事をご参照ください。



 さて決行日を遅らせた結果はどうかというと、ご覧のとおり。湿った地面からはキノコがもきもきと生え、天気は上々の晴れ模様。キノコ狩りにはうってつけです。




oso「あれ? これってブクリョウの子実体じゃない!?」
私「へー、これそうなの?」

 ブクリョウというのはマツの根元に菌核という菌糸の塊を作るキノコです。漢方薬として利用されていて、確かめったに子実体を作らないため発見が難しいという話を聞いたことがあります。もちろん今まで見たことがないので、これがそうなのか私は何とも言えません。一つ言えることがあるとすれば写真撮ってる時は全然気づかなかったけど、指先のすぐ横にヤスデがいるなぁってくらいですかね。



 アセタケ科のキノコ。オオキヌハダトマヤタケとかそこら辺じゃないかな。



 何気に初見のマゴジャクシ。マンネンタケによく似ていますが、こちらは色黒で針葉樹の根元に生えるのが特徴です。



 

 カラマツの林ならそりゃいますよね。カラマツチチタケです。肉に強い辛みがあり、独特なにおいがするというのが特徴です。しかし実際に嗅いでみてもよくわかりませんでした。雨で流れてしまったのか、私の鼻が詰まっていたのか。なお辛みは十分に味わえたので買っておいた水で口の中をしっかりゆすぎました。ベニタケ科の辛みって刺すような刺激があります。

 この他にも色々生えてはいましたが、待ち合わせ時間が迫ってきたので移動開始。最寄りの駅に入ると登山装備の男性と合流しました。この方はもろぞーさんと言って毎週のように富士山に登っているというベテランの方。ツイッターでも精力的にキノコの画像を上げている方なのだそうです。今回はこのもろぞーさんが新規に見つけた場所を案内してくださるということで、これはもはや成功が約束されたようなものといえるでしょう。

私「どうもはじめまして。今日はよろしくお願いします。」
も「初めまして。動画の方でかねがね伺ってます」

あいにくとツイッターには全く疎いガラケー使いの私はよく存じ上げなかったのですが、あちらは私のことをご存じのようでした。情報化社会って怖い。



 そこからもろぞーさんの案内で山道を進み、駐車場までたどり着きました。途中ノボリリュウタケを見つけたosoさんが実は初見と写真を撮ったり、ニカワジョウゴタケを探したりしながらも到着したのは11時前。しかし駐車スペースには既に数台の車が並び、中には明らかにキノコ狩り装備な人たちも。この時期の富士山はキノコ狩りのメッカ。地元民のみならず遠方からも食用キノコを狙ってハンターが集まってきます。うーむ、これは急がないと軒並みやられて見つからないかもしれないぞ、と焦りが浮かんできました。



 

 キハツダケ。名前の通り黄色いハツタケです。汁が出て緑青色に変化するのも一緒。三枚目の写真で色がついているのがわかりますね。低地のマツ林でも見つかるハツタケとは違って、こちらはある程度標高の高いところに生えているみたいです。



 ホテイシメジ。お酒と一緒に食べたらダメな奴です。もっと柄の下部が膨らんでぼってりしてるのが典型的な奴ですが、こういう細いのも結構います。



 シワカラカサタケの仲間。こいつらも低地ではあまり見かけないので高いところが好きなのかもしれませんね。





 

 小豆色というかサツマイモ色というか、とにかく目を引くサマツモドキ。こいつらはいろんなとこでちょくちょく目にします。目立つから見つけやすいってのもあるんでしょうね。



 

 オレンジ色の生えるアカツムタケです。よく似た名前にチャツムタケというキノコもいますがこちらは全く別の仲間。ただチャナメツムタケというキノコはアカツムタケと同じモエギタケ科の仲間です。他にもシロナメツムタケやキナメツムタケというのもいます。

 しかしこいつらの名前のツムってなんなんでしょうね。語源を調べてみたんですが何ともはっきりしません。ググってもツムツムとか出てくるし。キノコの語源辞典で引いても小型のキノコを指すとかそんなことしか書いてない。
 
 で色々図鑑を見ていったらツムタケに「頭茸」という漢字をあてているのを見つけました。頭…? いやオツムか! なるほど頭(オツム)が訛ってツムになったのか。傘が橙色で鮮やかなので赤頭茸→アカオツムタケ→アカツムタケと。そうして見れば他の○○ナメツムタケも全部傘の色や粘性を表しているし、納得できますね。いやー、前々からの疑問も解決してすっきりしました。やったね。

 

も「ここから登っていきます」
私「はい」

 先導するもろぞーさんは度々ルートを示してくださいます。ただ私にはそこに道があるように見えませんでした。獣道すらない本当にただの森の中。これもろぞーさんいなかったら絶対帰れないぞ……。

oso「ガガさーん。ベニテンいたよー」
私「マジすか!」

 はぐれない程度に広がって歩いていると遠くからosoさんの呼び声が聞こえました。


私「これじゃない」

 そこにいたのはまごうことなきベニテングタケです。でも私が見たいのはこれじゃないんです。もっときれいに傘が開いて、イボが散りばめられてる成菌が見たいんです。どうにも私はベニテングタケに恵まれないというか、過去何回か来ているのにいい状態の個体に出会えてないんですよね。今日こそはほんとお願いします。




 

 ちょっと古くなっていますがそれでも美しいカラマツベニハナイグチ。傘表面のバラ色の繊維状鱗片と傘裏の放射状に並んだ荒い管孔が特徴。イグチでも革質菌でもそうなんですけど、私は管孔の大きな奴が好きです。アワタケ類とかアミスギタケとか。見た目がずばっとわかりやすくてかっこいいですね。



 ハナイグチ幼菌。こいつも数年前に一度見たっきりなのでもう一度いい状態を見たいと思っています。けれどこの日見つかったのはこの幼菌一つでした。


 何やら真っ赤なキノコ。なんでしょうね。ヌメリガサ科の仲間だとは思います。


 さらに進むとこれまた先行するosoさんたちが何かを見つけました。並のキノコではもはや写真を撮らないお二人もいそいそとカメラを取り出しています。

 おお! こいつはすごい。


 

 スギタケモドキですね。こんなにいい状態のものは初めて見ました。全体を覆うトゲ上の鱗片が特徴的です。いやー、見事な群生だわ。



 モドキとつくので当然スギタケというキノコもあります。表面の鱗片が綿毛状のものがスギタケ、トゲ状のものがスギタケモドキです。スギタケと言ってもスギに生えるわけではなくて、鱗片で覆われた状態がスギの表皮に似ているのが名前の由来です。これらに似た仲間にはヌメリスギタケとヌメリスギタケモドキなんていうのもいます。傘も柄もぬめってるのがヌメリスギタケで傘はぬめるけど柄はぬめらないのがヌメリスギタケモドキです。ややこしい。



 アカツムタケの幼菌かな。丸々して可愛らしい。



 有名な毒草のトリカブト……の仲間。何やら変異が多くてややこしいらしいです。


 やはり秋の富士山、雨の具合もちょうどよくキノコの発生量はさすがの一言。ただ数の割には種類がそんなにいないのと、見知ったものが多いという印象です。もろぞーさんたちは大型のクロカワを探していましたが、こちらも小さいものしか見つからず残念がっていました。ここらで一つ、何か大物が来ないかなと思っていると――




 

 いるじゃねえか! 立ち枯れの幹の裏に当たり前のように生えていました。

私「おーサンゴハリタケ!」
oso「いやサンゴハリタケじゃないです」
も「サンゴハリタケモドキですね」


 そういえばモドキもいるんでしたっけね。広葉樹に生えるのがサンゴハリタケ、針葉樹に生えるのがサンゴハリタケモドキです。以前見つけたヤマブシタケの仲間で下に伸びる針状の子実層托がサンゴのように分岐するのが特徴です。間近で見るとしだれ花火のようで実に優美!

 いい個体なのでosoさんやもろぞーさんも写真を撮り始めました。一足先に撮り終えた私はお二人が終わるまで暇つぶし。何気なく地面を見ているといいものを見つけました。



 ぱっと目についたときはトウヒの種の取れたやつかと思いました。ニカワジョウゴタケです。前から見たかったんだよなー、こいつ。


 ニカワの名前でお察しの通り、ゼラチン質のヒメキクラゲ科のキノコです。プリプリしとります。ジョウゴ型に丸まった姿が独特で面白いですね。この形をお伝えするのには一枚の写真では難しいのでいろんな角度から撮りました。



 他にもサンコタケの黄色型とか。



 カノシタの仲間のオオミノイタチハリタケも見つけました。これは以前も富士山で見つけた種で、その時は完全にカノシタだと思っていました。


 カノシタとの違いは傘中央が深く窪む点と傘裏のハリが垂生しないという点です。今のところ食毒不明だそうですが、カノシタの仲間だし毒はないでしょう。食べた本人が言うのだから間違いありません。


 赤紫色のベニタケ科のキノコ。



 

 いい形のホテイシメジ。カビにやられてるのが惜しいところです。柄にある白いボサボサしたカビが自然にでマッチしているものだから、「お前、それ自前?」と聞いてしまいました。
10/25修正:ホテイシメジじゃなくてオオイヌシメジだろうとosoさんに教わりました。ありがとうございます。カビはやっぱりカビみたいです。


 アカモミタケ。柄にできるクレーターのようなくぼみが特徴です。朱色の乳液は変色をしません。色鮮やかな食用キノコ。




 フジウスタケ、でいいのかな。気持ち悪いくらいにでかい。こいつはosoさんに案内されたルートだと飽きるほどに出会います。ただ今回の場所ではほとんど見ませんでした。一口に富士山と言っても場所によって大きく植生が変わるのが面白いですね。静岡県側と山梨県側ではもう完全に別物と言っていいくらいです。




 ベニタケ科の何か。でかい。



 フリンジ(傘周囲のギザギザ)がチャームポイントのチシオタケ。低地でよく見るキノコも富士山ではやたらでかくなるようです。栄養状態がいいのかな。




 

 谷底に生えていたのはミヤマタマゴタケ。これまたでっかいキノコです。長いこと名前がつかずに置いておかれたため各地でそれぞれ仮称が付けられ、和名を決める際に大揉めしたという話を聞いたことがあります。結局、文句の出ないようにどこの仮称とも違うミヤマタマゴタケという名前が選ばれたとかなんとか。議論が困窮すると最終的に明後日な方向に結論が落ち着くというあれでしょうか。



 クロラッパタケ。今年はなんだかんだいろんなとこで見た気がします。
 お前、けっこうそこらに生えてるのか?



 ウグイス色のベニタケ科キノコ。さっきからお気づきの方もいるかもしれませんが、ここいらの奴らはあんまり同定する気ないです。いや手抜きとかじゃなくてですね、こう量が多いと正直時間かけてらんないっつーか、時間かけてもわかる保障ないし、ね?
 ……余裕があるときはちゃんと調べるようにします。



 カベンタケかカベンタケモドキだか。にしてもでっけえなこいつも。富士山クオリティ。



 おっと、きれいなタマゴタケだ! うわーおいしそうだなー! こいつはフライにして食べると最高にうまいんですよ! キノコ嫌いの私でも食べられる稀有なキノコです!









 嘘です。


 引っかかった人はいるのかな? これ傘のイボがとれたベニテングタケです。よくわからんという人はこの後にタマゴタケも出てくるので見比べておきましょう。ベニテングタケも後でもうちょっと詳しく説明入れます。

oso「ガガンボさん! ほらベニテンの成菌!」
私「……こういうんじゃない」

 そりゃ傘の開き具合とかは完璧ですけど、肝心のイボがないじゃないですか! 赤い傘に白いイボ散らしてこそのベニテングでしょう! なんで自分のチャームポイントをもっと大切にしないんだ! 連日の雨や台風もいいことばかりではなかったようです。



 ミヤマタマゴタケ。絵になるなぁ、こいつは。



 

 これも初見のヘラタケ。柄と頭部がくっきり分かれているのがいいですね。



 

 トビイロノボリリュウ。シャグマアミガサタケの仲間のキノコでノボリリュウとありますがノボリリュウタケとはまた別のグループ。春に生えるシャグマやアミガサとは違い秋に生えるという変わり者です。



 道端の倒木から出るサンゴハリタケモドキ。まだ若く新鮮な個体なのでこれまた撮影。しかしこいつは富士山の巧妙な罠だったのだ! 詳しくは後程。



 ベニテングタケの幼菌。う~ん、さっきから幼菌か、イボの取れたやつしか見つからない。私は綺麗な成菌が見たいんだ! とぼやいていたら、

も「この辺りはベニテングがたくさんでますよ」
私「マジですか!」

 そう教わったら矢も楯止まりません。見つかったものを教えられるのと自力で見つけるのとでは嬉しさも違うものです。何とか先に見つけてやろうと教えられたあたりを探し回ります。



 いたー! 開きかけた傘に白いイボがしっかり見える典型的な個体です。

oso「いいやつじゃないですか」
私「うん、まあ。ただ、これさ……」


 こっち側からしかいい写真撮れないんだよね。貧ぼっちゃまかお前は。



 

 私がベニテン探しに躍起になっている間にosoさんたちが見つけたシシタケ。コウタケと長らく混同されていたのが細分化されたもので、コウタケ同様の食菌だそうです。ただこれは古くなっているのでちょっと食べるには遅いかな。


 しかしでかいなこれも。



 オシロイシメジ。久しぶりに見たかも。傘表面が粉っぽいのが名前の由来でしょう。食用としている図鑑もありますが、臭いに癖があるらしく海外では有毒としているところもあるそうです。またよく似た有毒種もあるので食用には向いていないキノコですね。


 オシロイシメジから少し歩いたところで昼食をとることになりました。山に入る前に買っておいたおにぎりを頬張りながら一休み。しかしこの休憩ポイントがまたいい場所で、なんとタンポタケやハナヤスリタケが見つかっているとのこと。飯食ってる場合じゃねえ! とおにぎり片手に探し回りました。落ち着きのないやつだ。

oso「タンポタケ、ここ出てますよ。採取します?」
私「自分で見つけたらね」

 標本採取は自分で見つけたものだけ、というのがマイルールです。キノコ屋の嗜みですね。こういうところにこだわりを持つのが大人の美意識ってやつです。
 あ、でも場所を教えていただくのはノーカウントなんで、
いい場所があったらどんどん教えてくださって構いませんよ?



 それはともかくとして無事に見つけましたタンポタケ。これも前々から見たいと思っていたキノコです。地面の下に生える(地下生菌と言います)ツチダンゴというキノコに生える菌寄生菌で冬虫夏草の仲間です。タンポとは稽古用の槍の先端につける丸いやつのことです。まっすぐ伸びた柄に球形の結実部を作るところが似ているためこの名前になりました。同様の形状のものをタンポ型、もしくはタンポタケ型と呼びます。


 大きさはこれくらい。5cmほどですね。虫草としては大きいほうです。


 これが宿主のツチダンゴ。こいつは表層の方にいましたが、基本深く埋まっていることが多いのでタンポタケなどが寄生してようやく見つかるということも多いそうです。



 掘り出してる最中。宿主も見えてるし、もうチョイですね。


 さてタンポタケは見つけたし、今度はハナヤスリも見たいところです。しかしこの日はシーズン的に遅めだったのか干からびたような個体しか見つからず。これは無理かと思ったら、撮影用の三脚のすぐ足もとに生えてました。



 灯台下暗し、踏まなくてよかった。ハナヤスリタケはこの色合いですから暗い森の中だと本当に見えにくいんです。既に採取済みのosoさんたちを待たせるのも申し訳ないので写真もそこそこにぱぱっと採ってしまおうとしたところ、

私「あれ、これ直根状になってる!」
oso「え、じゃあタンポタケモドキ!?」

 何のことかと言いますと、タンポタケモドキという虫草もいるのです。このタンポタケモドキというのが楕円に伸ばしたタンポタケ、というかハナヤスリタケそっくりな外見をしています。そしてその見分け方の一つが地下部の菌糸の伸び方なのです。


・宿主からまっすぐ菌糸が伸びる(直根状)なのがタンポタケモドキ。
・分岐した菌糸が宿主を囲うように伸びる(細根状)なのがハナヤスリタケ。



 持ち帰って乾燥中の二種。これを見る限り菌糸は分岐しておらず一本伸びているだけ。となるとハナヤスリではなくタンポタケモドキの方だったのか。


 ところが念のため胞子を見ておこうと顕微鏡を覗いたら、これハナヤスリタケじゃねーか!


 ハナヤスリタケの胞子は128個もの二次胞子が連なり、めちゃくちゃ長いのが特徴です。あまりの長さに高倍率では全体が入りきらなかったのでつなげたものが左の画像。
 また胞子の長さもハナヤスリは2~6㎛なのに対して、タンポタケモドキは10~25㎛もあるので大きさ的にもハナヤスリで間違いないでしょう。

 どろんこさんに確認したところ、地下部が細根状にならないハナヤスリタケもいるとのことでした。どうにも地中部分の菌糸は環境の影響が強く出るようですね。顕微鏡を導入していなければタンポタケモドキと思ったままだったかもしれません。



 ついでに撮影したタンポタケの胞子がこちら。マイクロルーラー(顕微鏡用の物差し)は別のものを使ってるので目盛の長さは違います。紡錘型の胞子がタンポタケの特徴です。


 タンポタケとハナヤスリタケの採取も済んだところで再出発。先を行くもろぞーさんについてまた道なき道を進んでいきます。それにしてもこの人、全く歩く速度が変わらない。登りでも下りでも、登り始めた最初のころでも昼食後の後半戦でもペースを崩すことなくすっさすっさと歩いていきます。どんだけ健脚なんだ。最後の方は割とついていくのに必死でした。



 

 おお、綺麗なホウキタケ! よく似た仲間が多く、キノコ屋でもホウキタケの仲間はスルー安定しがちですが、これは典型的なホウキタケですね。先端だけが赤く染まってこれがネズミの足のように見えることからネズミタケとも呼ばれるキノコです。ただosoさんが言うにはホウキタケによく似たコホウキタケというのも富士山に入るらしく、見分けが難しいのだとか。今でも十分なのにどんどんややこしくなるな、こいつら。
 さらに私の聞いた話ではホウキタケにあてられている学名のRamaria botrytisは日本産のホウキタケとは別種だろうという報告もあるそうです。その内また変わるかもしれませんね。まあ私はあまり学名を追いかけていないんでふーんって感じなんですけど。osoさんのところは学名も明記してるちゃんとしたところなんで、改名されるたびに修正が大変なんだそうです。


 ホウキタケからしばらくあまりいいキノコには出会えませんでした。生えていないというわけではないのですが、ここに来る途中で目にしたものばかりなのです。この日見られるキノコは一通り見終わったのかな、と思っているともろぞーさんが何かを見つけました。


も「出てましたね。三本生えてるのは珍しい」
oso「おお! すごい!」


 osoさんも大興奮のキノコ、アカネアミアシイグチです。今までその存在は知られていたものの、めったに見つからないことから幻のイグチと呼ばれていたレア菌なのだそうです。


 本種の特徴はど派手な茜色とだんだら模様の柄です。もともと傘と同色の茜色で細かい網目が入っているのが成長とともにひび割れ、このような模様を作り上げていきます。このような外見は他のイグチにも類を見ず、まだこんなのがいたのかと圧倒されてしまいますね。

 世界中に数万はあると言われるキノコ、その内日本に生えているものは4000~6000種類ほどだろうと言われています。中でも名前がついているのは2000種ほどで、少なく見積もってもそれと同じだけ、場合によっては既存種の倍以上もの新種が日本にはいることになります。
 ただここで新種と言っても一般の人が想像するような、全く新しい珍しい種ということはありません。むしろ今までよく目にしてきたキノコがいくつかの種類に分かれたり、海外種と同じと思われていたものが微妙に違う種だったりと、研究者くらいしか気にしないレベルで混同されているのが主です。アマゾンで見つかる昆虫とか深海魚のような、見たことないような未知の種というのはもうほとんど残っていないでしょう。
 そんな中でこのアカネアミアシイグチは素晴らしいですね。なんだお前、オリジナリティあふれすぎだろ、と。まだまだ知られていないだけでこんなキノコが隠れているのかもしれないと思うと胸が躍りますね。これから出会えるかもしれない様々なキノコに新しい希望を抱かせる、そんな感動のキノコでした。

 ただまあこいつの場合あまりに珍しすぎてこれまで名前を聞いたこともなく、osoさんから教えられて初めて知った相手でした。要は「あの幻の激レアキノコ」の「あの」の部分を知らなかったわけで、そっちに関してはまあ案内してもらえて幸運なんだろうなぁと思いながら写真撮ってました。珍しい虫草を紹介してる時聞いてる人はこんな感じなのかなと想像。



 なんかよくわからんテロテロのキノコ。



 こちらは正真正銘本物のタマゴタケ。遠目でもわかるこの色彩が見事です。


 先ほどのイボの取れたベニテングタケと見比べてみましょう。まあぱっと見で傘の色は似ているように思えますが、柄やツバの色で見分けがつきますね。傘裏のヒダもタマゴタケは黄色、ベニテングタケは白~淡黄色です。また細かく見ていけば傘の縁にある溝線の長さも違うことがわかりますね。
 他にもタマゴタケには柄のだんだら模様がつくという特徴もあります。ただこの特徴に関しては高地の針葉樹に生えるものには模様がないという報告もあり、また別種に分かれたりするかもしれません。ここで紹介しているタマゴタケもだんだら模様のない個体です。


 なので一番確実な見分け方は柄の根元にあるツボでしょうね。ベニテングは根元が膨らみツボの破片が環状に付着するのに対し、タマゴタケは膜状のツボが残っています。キノコを観察する際は土に埋まっているような根元の部分も重要になってくるのです。



 

 倒木から生えているオオキノボリイグチ。木から生えているからといって材上生というわけではありません。菌糸自体は土中で木の根っこと繋がっている菌根菌です。おそらく胞子を効率よく撒くためにできるだけ高い場所に子実体を作る習性があるのだと思われます。イグチ科には他にも同じような習性のキノボリイグチがいますが、こちらはまた違う属のキノコです。
 オオキノボリイグチの特徴は傘表面にある斑点ですね。イボや鱗片ではなくこのような模様を作るのはあまりいません。マインクラフトに出てくる赤色のキノコは傘裏が管孔状になっているのできっとオオキノボリイグチの仲間なんだと思います。


 幼菌。この段階で斑点がついています。


 別個体。やや老菌。



 

 別個体のアカネアミアシイグチ。柄が最高にかっこいい。先に複数生えているのを見つけているということでもろぞーさんにも許可をいただき引っこ抜いてみました。地中の菌糸を傷つけないよう根元で切りとるのがせめてもの気遣い。管孔口も派手な赤色で変色性があります。osoさんがアカネと書いてました。ああ、管孔の上に散らばった白い点々は全部虫なんで、あんまりまじまじと見ないほうがいいですよ。



 一日晴れの予報だったのに急にガスってきました。富士山は他の山で見るような虫がほとんどいないので山の中もとても静かです。その静寂も相まってとても幻想的な雰囲気。正直怖いのであまり一人ではいたくないですね。



 惜しい! なんでそこで欠けちゃったかなぁ! 傘の開き具合とイボの残り方は完璧なのに実にもったいない。しかしここいらで手打ちにするべきか。いやいやここまで来たら是が非でもいいベニテンを見つけたい。そんな思いで帰り道でもしつこく探していると、ようやく私の思いが届いたようです。



 やったー! かっこいい! これぞベニテングともいうべき個体に出会えました。ぱっと開いた橙色の傘に広がる白いイボ。まっすぐ伸びた柄に残った膜状のツバもいい。最高の状態と言えるでしょう。


 ただこのベニテングタケ、図鑑に載っている典型的なものかというとちょっと違います。実はベニテングタケにはシラカバ林に生えるものとブナ林に生えるものの二つのタイプがあるのです。図鑑に載っているのは主にシラカバ型のベニテングタケで真っ赤な傘に真っ白い柄やツバという紅白のコントラストが美しいタイプです。一方ブナ型のベニテングタケは傘の色が黄色味の強い橙色で柄やツバ、ヒダも淡いクリーム色をしています。
 富士山に生えているのはブナ型のベニテングタケ。今まで載せた写真はどれも淡く黄色がかっているのがわかりますね。とりあえずブナ型については念願のベストショットが撮れたので、次はシラカバ型のベニテングが見たいですね。一番近くて長野まで行かなきゃですけど。


も「こっちです」
私「あー、ここに出るのか」

 しばらく進むと見知った道に出てきました。登るときに通った場所です。さすがに富士山を庭にしているだけあって、もろぞーさんには見えない目印が見えているのでしょう。さてあとは来た道を戻るだけだな、というところで思わぬ出会い。


 でっか! サンゴハリタケモドキの大物です。こいつが生えている倒木は行きがけに見たはずなのに角度のせいか、全然気づきませんでした。

私「ここにあったやつ採取されてる」

 さて先に紹介した☆印のサンゴハリタケモドキのことは覚えておいででしょうか。忘れていたらctl+Fで検索しといてください。そうこの大物サンゴハリタケモドキがいたのはあのポイントだったのです。しかし道側にあったはずの個体は見当たらず、ナイフで切り取ったような跡が残るのみ。どうやら私たちが通り過ぎてからここに戻ってくるまでの間に採取されていったようです。やっぱり人気のキノコなんだなぁと実感が湧きます。

私「でもこっちのでかいやつには気づかなかったんですね」
oso「あいつが身代わりになって守ってくれたのさ」

 自ら矢面に立ったサンゴハリタケモドキに敬意を表し、大物は見つからないようにちょっと隠してからその場を後にしました。しっかり胞子飛ばせよー。




 

 そして最後にosoさんが見つけたのがドクヤマドリ! これもいい状態ですね。以前富士山で見つけたときはかなりの大型だった分古くなっていたので程よい成菌が見れたのは嬉しい限りです。欲を言うならやはり自分の目で見つけたかったところですけどね。


 といったところで今回の富士山遠征は終了となりました。もともとはギリギリでヤマドリタケかマツタケ狙えないかな? というのが目的でした。そちらの方は残念ながら見つけられず仕舞いでしたが、代わりにそれ以上のキノコを見ることができました。初見のキノコや見たかったキノコも多数あり、虫草の採取もかなって大満足の一日です。
 これも豊かな自然の富士山の底力と案内してくださったもろぞーさんのおかげです。特にアカネアミアシイグチに関してはキノコ屋の中でも見れている人が少ないというくらい貴重な場所を惜しげもなくお教えくださり感謝の念に堪えません。本当にありがとうございました。
 そして今回の遠征に誘っていただいたosoさんにも重ね重ね御礼申し上げます。基本人見知りで出不精な私がこうして多くの人と出会うことができるのは偏にosoさんの人柄と軽快なフットワークの賜物だと常々思っております。誠にありがとうございます。



 あと帰りの車内で爆睡してすいませんでした。

コメント

ガガンボ (著者)
No.13 (2016/10/27 00:18)
>>森屋さん
しばらく雨降ってないから記事作成に専念しようと思った矢先にいい具合の天気になったりします。奴ら完全に誘ってやがりますね。誘われるがまま山に行く私が悪いんですけど。オオキノボリはいいデザインしてますね。レア度でいったらキノボリの方が珍しいのかもしれませんが、個人的にはオオキノボリの方が好きです。

>>アマニタ!さん
動画拝見していますよ。この調子でどんどん探していきましょう。誤植にだけは注意してください。スナジクズタケも面白いキノコですね。「砂場好き」という学名が実に的確です。砂浜に生えるキノコはどこに菌糸を伸ばしているのか不思議な奴も多いのでじっくり見てみたいのですが、何分他のキノコとの出会いが極端に減るのでなかなか足が向かないんですよね。

>>るねこさん
富士山はキノコの聖地として有名ですが虫草ももっといるはずだろうと常々osoさんたちと話しています。しかしながら周りにいいキノコが多すぎるためなかなか時間が取れなかったりともどかしいところです。泊まりで行って一日目はキノコ、二日目は虫草みたいな贅沢もやってみたいです。
アマニタ!
No.14 (2016/10/27 17:47)
写真のミヤマタマゴタケに条線が無いように見えるのですが気のせいでしょうか?多分湿っているはずだったと思いますけど、ミヤマタマゴタケって条線ありませんでしたっけ?
ガガンボ (著者)
No.15 (2016/10/28 20:29)
>>アマニタ!さん
ミヤマタマゴタケはタマゴタケに近い種らしいので溝線はついています。色合いとブロマガ用にリサイズしたので見づらくなっているようですね。二つ目に見つけた個体では記事の画像かろうじて確認できます。
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事