「だからさ、ああいうことはさ、やっちゃダメなんだよ――

対局終了後、開口一番こう言ってきたのは
麻雀プロ業界に在籍する人なら誰もが知っている他団体のベテラン有名プロだった。

舞台は一発裏なしのタイトル戦予選。その日勝ち上がればベスト16といったところ。
全6回戦中の2回戦目、状況はこうだ。
南3局西家、僕はラス目で親番も既になかった。

ダントツのトップは東家、2着目は南家で僕から10000点弱離れている。
3着目は北家のベテランプロ。僕とベテランプロとの点差は2000点だった。

三萬五萬一筒二筒三筒三索四索五索七索九索九索中中 ドラ八萬

11巡目、上家から出た四萬にチーテンをかけた。このルール、この牌姿で打点アップは見込めない。苦渋の選択だったのだが、この仕掛けに対応したのが他の3人。

そのまま流局しそうな雰囲気だった。しかし海底間近、ノータイムで初牌の中を叩きつけてきたのはツモ番もないダントツの東家。疑うことなく東家のテンパイは明白だ。

A・1000点をアガリ、ラス目のままオーラスを迎える。
B・おそらくノーテンの南家と北家、ノーテン罰符で差を詰め、南3局をもう一度やる。

という選択の分岐点。迷うことはなく後者だ。見逃してテンパイ宣言。結局南3局1本場に僕が加点したのだが、最終的に少しだけ届かずこの半荘は3着で終了した。

「ああいうこと――」とは見逃しの件だろう。
それについて僕は上記のようなことをやんわりと説明した。

ベテランプロは聞き入れもせず反論する。
反論の内容はアガるつもりがないのなら仕掛けるべきではないという話。

「キミの団体ではそういうのもありかもしれないが、ウチでやったら――」

ベテランプロと同一団体、
同卓者だった若手プロに向かって

お前がやったらなあ?呼出しをかけて説教もんだぞ――」

と、言い返したいことは山ほどあった。
しかしそこで反論することに、自己満足を満たす以外の意味は見い出せなかった。

当時僕はBリーグに上がったばかり。知名度もなにもない。
そのベテランプロからみると、まだまだ扱いは「ひよっこ」だったのであろう。

正しいとか正しくないとかの話ではない。
認められているか認められていないかの話だ。それがこの世界での全てなのだ――

翌年、僕はAリーグに昇級した。
ブログも注目されるようになり、雑誌のコラムも任されるようにもなった。

同じタイトル戦、同一会場で件のベテランプロと再会した。

「やあ、また勝ち上がったのかい? 強いんだねキミは――」

どういうつもりでいったかは知らない。
でも少しは認めてもらえたのだろうか?と思うと少し嬉しかった。

麻雀の強さなど、すぐに身につくものではない。しかし人の評価を変える方法はたくさんあると思うし、自分の努力次第で変えることができるものだと思っている。

そうして、少しづつ認められればいい――

そう思った、今から10年ほど前の話です。