2月初旬。10段になり約1ヶ月が経った。
ポイントは400Pほど増えて、天鳳位まであと残り1600P

「じゃあ順調に行けばあと4ヶ月で天鳳位ですね――」

麻雀を良くわかっていない知人にこう話しかけられた。

何と答えたらいいものだろうか。
4ヶ月後にはあっさり9段に降段しているかもしれないというのに。

しかし世間一般的にこの解釈がズレているとは思わない。
ちょっと悩んだ末、僕はこう答えることにした。

「いいかい?抽選ゲームの本質は――」



某日――

僕は知人にメールを打った。

「割のいい仕事しませんか?」

声を掛けたのは以前の会話でそういったことを探していたのを知っていたから。

悪くない条件のはずだった。当然食いつくものだと確信していた。
しかし返ってきた返事は予想とは全く違っていた。

「いや、実はオレ今さ――」
 

簡略するとこうだ。
最近通いだした雀荘で調子が良く、そちらのほうが割りが良いと。

その雀荘には行ったことがある。確かに面子は手頃、レートもそこそこ
3~
4時間くらい噴き倒せば6桁クラスの稼ぎも珍しくはない。

500Gくらいだけど、ゲーム単価が1000円弱あるんだよね――」

正直その話を聞いて心の中で笑った。
東風戦だ。たった500Gでなにが分かるというのか。

麻雀荘メンバーとしてキャリアが長い僕は
そんな短いスパンでの浮き沈みの激しさを嫌というほど知っている。

「――さん。それは――」

と、口を挟もうとして止めた。野暮というものだろう。

彼の麻雀歴は相当長い。
若い頃は麻雀荘のメンバーとしてバリバリ働いていたとも聞く。

麻雀の酸いも甘いも十分に知り尽くしているはず。
そんな
彼があのような夢物語を語るなんて。

「つくづく恐ろしいゲームだな・・・」

一歩間違えば自分も同じ夢を描いたのかもしれない。
恥ずかしげもなく一時の好調をどこぞの界隈で自慢していたかもしれない。

麻雀のというゲームの魔性、改めて認識した。

「それもこのゲームの醍醐味なのだろう」

そう思った。人は夢の中なら空をも飛べる。
現実を見つめる必要なんてない。なぜなら所詮ゲーム、遊びだからだ。

むしろ醒めたらつまらなくなるかもしれない。
そう思うと水を差すのは余計なお世話というものだろう。

その一方で現実を思い知った今でも
このゲームを未だに楽しめている自分もいる。

「やっぱり魔性のゲーム――か」



ちょっと悩んだ末、知人への返答は

「いいかい?抽選ゲームの本質は――」

にはしなかった。言いかけたのだが考え直したのだ。

「そうだね。頑張るよ~」

「はい!頑張ってくださいね!」

頑張ったからといってどうなるものでもなかろうに・・・
などと斜に構えず素直にエールを受け取ることにした。

他人に考え方を強いることによって得るものは、ほんの少しの自己満足。
そんなもののために、わざわざ相手の興を削ぐような真似はしたくない。

自分の中にだけある真実もある。
心を満たす価値の尺度は自分だけにしか決められない。

そう「所詮他人」なのだから