こんこんの棚

原型のようなもの

2019/09/08 00:21 投稿

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  • ソルジェラ
  • ジョジョ5部「MMD」二次創作




存外アクセスしてくださる方がおられ驚いています。
本編に先立って書いた原型的なものが出てきたので
こちらの同じ棚に収納しておくことにいたしました。
ソルジェラさんヒーラー説はずいぶん前からのもの。
ギアさんキレ芸マインドセット説は最近のものです。













月を負う鷹







ひゅ、とか、ざ、とかの音がやや遅れて聴こえる。
チッ、と微かな金属音がしたのも剣が鞘に収まり
姿勢すら戻ると同時…音の感覚が狂いそうになる。
斬られた藁束や緑の竹が静かに斜めに滑り落ちる。
ばさぁっと人の胴ほどの束が重みで傾いて落ちた。
すっげぇ真っ平ら…麦藁の真ん中の竹の切り口が
鏡みたくピカピカしてた。
「おおう…」
解るのはいつも「終わった」後そういう男だった。
ツレもそうだが「答え合わせ」を逆算し事を知る。
ぶっつけ本番で…これだもんな…感嘆しか出ねえ…


「確認を。」
素っ気無く言うとソルベの旦那はオヤジに剣を返した。
淡く光る腕輪の手で顔を覆ったベールをするりと外す。
この真珠色の細いキレイなのはいつものツレのやつだ。
旦那の分身「バングルス」初見で肩透かされたもんだ。
飾りモンだと誰でも思う、スタンドにはまず見えねえ。
アクセサリータイプ、自動性も自我も持たない超レア。
肌の直接接触で生成、対象の人格がその形状を決める。
精神直読み読解ってのがどんな感覚か想像つかないが、
手当てや模擬戦で使われてみてスゲーもんだと解った。
一瞬目が合ったと思う、きちんと見たかモノにしろと。
目が合うたびキンと音でもしそうな眼だなと思ってた。
シビレるってのは…こういう感覚か。


抜いて確かめられる刃は刃こぼれどころか曇りひとつ無い。
剣がスゲーのか使う側がスゲーのか…まあ両方なんだろう。
「あ…ああ、はい…ありがとう、えらいもん見せてくれて。」
武器商のオヤジが二百年前のサムライの剣仕入れたとかで
高く売るために使って見せてくれと言ってきたのが昨日だ。
ああ、剣じゃあなく刀…カタナって言うんだっけ、日本刀。
あんたら刃物はお手の物だろデモ撮影に協力してくれ、と。
美術商や骨董商が扱う品だがこの武器屋は解釈がチト違う。
アレな後輩の内緒の保釈金にツレがヘソクリ使い果たして
口には出さないが明らかにゲッソリしてた旦那は珍しくも
自分からスタントを買って出た、…とホルマジオに聞いた。
そのホルマジオは隣で笑った顔のまんま完全に固まってる。
チーム入る前からの腐れ縁で器用で何でもこなせるからと
頼まれたのはコッチだがドル換算の仕入値チラ見てヒいて、
ビビリが聞いて脅しまくった、折りでもしたらどーすんだ、
それ旦那が聞いて…って話だ、組織には秘密の小遣い稼ぎ。
その割りに差し出された封筒はそこそこ厚い…太っ腹だな。
受け取るとそれまで黙っていたリゾットはツイと前に出た。
そのへんに立てかけてあった反射板を拾うと、
最後に真っ平らに斬られた藁束の上へ乗せた。
ベアリングの玉を板の真ん中へ上から落とす。

…こん、こ。

玉は落とされたのと同じ位置で微かに跳ねて、静止した。
ヒュウ、と口笛。
「…水平とはな。」
ひゃあっとオヤジがでかい声を上げリゾットの眉が上がる。
「すばらしいっ!もう一度、もう一度やってくださらんか!
 固定カメラ長回しでそこまでワンテイクで撮りましょう!
 キャッシュで倍いや三倍!すぐ準備を、その間食事でも!」
旦那、迫る顔にベール畳みながら親指しゃくり大将へパス。
仕事は絶対に直接じゃあ受けつけない、大将か仲間を通す。
乗り気なわけでもない、ノリで動く性分でもそもそもない。
リゾットは額を押さえてる…とはいえ…今は懐具合がだな。
「…ソルベ。」
スィ、とだけ答えた細身が滑るように移動し椅子にかけた。
大将やらかしたな、珍しいな、血が騒いでつい…だろうが。
刃物のエキスパートが目の前であんな刃物扱いされちゃあ。



部下二人がせっせと二回目の準備をし直すのを横目に見て
用意された軽食をパクつく、おし晩飯代浮かすぜラッキー。
旦那がフッと手首見る、いつ見ても洒落てんなバングルス。
「ぐふっ!げほげほっ!」
横向いたらむせたっ…は、ハナに…炭酸水入っ、
食わずに飲むだけ飲んでた大将、呆れ顔で苦笑。
「ギアッチョ?慌てて食うな子供か。」
「げほ、…ちが…今、何でもねーッ、」
オレは悪くねぇーッ…くそ…カッコ悪ぃとこ見せちまった!
「そういえばどうしてついて来てる?」
「勉強しろっつったのはあんただろ。」
「勉強するには特殊過ぎると思うが。」
せーな解ってるよ、つかおまゆう、今回はお互い様だろッ!
「カタナとかどこで覚えるんだよ?何でもやるなー旦那は。」
テイスティングだけして黙って手酌する空気は凪いでいる。
実は覚えてはなかったりしてな、初めて握ってたりしてな。
いやどうだかわかんねーけど、わかんねえぞぉ旦那だけに。
酒とブルスケッタ持ったままふいと立って広間の隅へ行く。
ドイツのナイフのカタログ見てる…オマケしてもらおーぜ。


「藁と竹には何か意味あんのか?ジダイゲキに出てきたが。」
「人体を両断する鍛錬用、竹は背骨役。…のように見える。」
「うは…本家コメの藁だろ、麦藁のが硬えぞ、本家超えか。」
空の皿を手に戻って座る、同じ具のを取ってサクリと齧る。
「引きながら同じ角度で完全に振り切ればいいんだろうが、
 それが難しい、対象の抵抗に重み、…刃の角度も厚みも。」
「つーかよお…、角度の絶対感覚みてーなもん?持ってる?
 あるだろ絶対音感とか、方向感覚とかさあ。どうなんだ?」
両側からリゾットとホルマジオが見るが黙って流すだけだ。
無視じゃあない、当人的にフツーの事なら答えようねーわ。
これで返事をしろと怒り出すのはプロシュートぐらいだが、
業界の先輩だろーがチームの先輩は旦那だし別にいいだろ。
怒り方がまた関係改善してぇのについイライラ、みたいな。
メシでもどうだの一言でいいのに小言に変わるルーティン。
言われた側は律儀に謝り言った側もソレ見て凹むコメディ。
若いの預かるとか大丈夫かよ…存外化けると大将は言うが。


滅多に酒飲まねえ人だ、炭酸水同士でグラス合わせて乾杯。
アジア系は見た目が若ぇ…大将と同い年とかびっくりした。
無口で冷静で…極東っぽいがチャイナ系だと主張するよな。
日系じゃあねえのと訊いたことがあるが知らんと流された。
けど日本刀イミフなほど似合うし絶対サムライの子孫だろ。
我慢して我慢してキレたら殲滅とかパールハーバーかよと。
ナイフやスプーンの扱いも一分の隙もねえ、絵になってる。
あんま喋らずに実力で語るとかクール過ぎると思うワケよ。
怖ぇヤツラに拾われたもんだ…目の前イイ漢しかいねえし。
こんなふうな物の感じ方が出来るようになったのも二人の…
旦那とそのツレの、精魂こめた「手入れ」のおかげだしな。
何にでも逆毛立てていつまでも怒ってた獣…無様だったな。



にんまり見てたらオヤジが酒と貝料理の皿を追加してきた。
「シシリー産のいいもんですよ、いかがです。」
おっうまそーだな、と手を出しかけたらリゾットが制した。
鋭い黒い眼が武器商人を射すくめる。
「故郷の味をありがとう。で何を追加しろと?」
あ…と、目を合わせるとホルマジオもフォーク引っ込めた。
大将の出処の名産な…あーはいはい。
愛想笑いを浮かべるオヤジの目が泳いだ。
「ああいや、その…本番では、ベールを、」
「顔は撮らせない約束だ。」
ざっくり断った横で旦那が音を立てずカトラリーを置いた。
気配がスッと変わるというか消える、人形っぽくも見える。
ツレも…こんなふうだ、時々だけど…人間に見えなくなる。
たまたま気付いてしまうとヒヤッと、
…しはするものの。
「モザイクはもちろん掛けますよ。見てみたいんです。
 いったいどういう表情であれをやってのけるのかを。
 だいいちね、…そのね、口はばったいようですがね、」
旦那を見る視線は既に魅了されたそれだった。
「この威風、エキゾチック!何が楽しくて隠しなんぞ!」
生臭ぇ秋波や何やとは別モノ、解る。
旦那の動くトコ見たヤツにだけ解る。
これは美術品だと。
まごう事なき変人だがこのオヤジ目が利くし全くブレない。
変人だから武器商なのに昔の剣も売り買い、じゃあなくて。
美術品とみなして武器を売るから日本刀も扱う、が正しい。
「いったいどこを探せばこんな逸品を拾えるというんです?
 懸賞つきの中には居ませんな。軍人…傭兵崩れですかな?」
あーあ…と揃って肩を竦める、「美術商」の血が騒いだな。
習いたいことだらけ、というタテマエでついて来て正解だ。


流麗な細身の長身、タテガミか冠羽めいた黒髪、黒づくめ。
神速と解析で徹底して本体を喰らうスタンド殺しの黒い鷹。
速く強いことに特化した一級の生物兵器、全身これ機能美。
カメラでだって捕まえてみたくもなる、解るぜ、その興奮。


「感動したんですよ。額に入れて飾っておきたいほどにね。」


オヤジにしたらこの上なく褒めてるつもりだったらしいが。
嫌というより何かゾッとしたのは、オレだけのわけがない。
「…帰るぞ。」
ガンと文字通り床を蹴り椅子を倒し、リゾットが席を立つ。
「報酬分の仕事は済んだ。デモならさっきの映像で充分だ。」
尋常でなく怒ってる、漏れた磁力でカトラリーが震えてる。
「いや、…いや待ってくださいよ足りませんか、」
憮然とホルマジオも立つ。
「商人がそう素直にゲスい本音垂れ流してていいのかねぇ。」
「顔バレると危ねー仕事なんだ。カネカネうっせぇバーカ。」
とかタテマエを叩き付けて、オヤジの肩をこづいてやった。
「だ、だからモザイクなら必ず掛けると…痛いぞこのガキ!
 カネに困ってるんだろ、顔出すだけで済むオイシイ話だ。
 おい待ってくれ、あんたはどうなんだ!ええと、名前は、」
リゾットを追い帰ろうとする旦那の袖を掴み身振り手振り。
「名前…なんだっけ、あんたウチの社員になる気は無いか!
 デモにも教導にもいい、組織から買うよ元はすぐ取れる!」

名乗ったしさっき目の前で大将が呼んだが覚えてねえよな。
商人が取引相手の名前忘れるとかねえけど覚えてねえよな。
懸賞つきの一覧も覚えきる達者な記憶力でも残念ながらな。
気安く触んな、と割って入りかけたら旦那の片手が制した。
我慢し過ぎて相手が図に乗るが、格下には寛大な人だった。
哀れむような悲しむような…ごく静かにオヤジを見下ろす。

「断る。三度目だ。」


はあ?、と、赤ら顔が口を開けた。
「何をばかなっ、あんたみたいなのを見たら忘れるわけが、」
「ジェラート。」
リゾットの冷えた声が言葉を遮る。
白い姿が目の端にフワと現れてオヤジと部下が飛び上がる。
「うわ…うわっ!誰だ、どこからっ!」
部下どもが銃を向けたが背後から三人ともの頭にすぽりと
半透明の羽の生えた優美なヘッドフォンが嵌まった。
ジェラートの分身、三体の「ドリーム・シアター」。
不可避の暗示を運ぶスタンド、素早いカワイイ怖い使い魔。

『俺たちのことは気にしない。』

唇がその言葉の形に柔らかく動いたのがこの距離なら判る。
撮影用ライトを一瞬チカと弾いたのは氷色の大きな猫目か。
力を操るジェラートは背景に音楽でも流れてるかのようだ。
甘く神託めいた声はしかし分身を通してしか発せられない。
ツレ同様の超レア形態…常在・複数・そして…声とセット。
「あ…あー、」
きょとんと…部下どもは握った銃を見る。
「しまえよ。」
「お前こそ。」
「仕事…仕事の途中だ、あんた手当てははずむから…あれ?」
ぶるッと頭を振ったオヤジがまた旦那を探してキョドるが、
『片付けないと。仕事は終わり、上出来だ。』
唇がまた動くとぱあっと笑顔になりパンパンと手を叩いた。
「さあさあ早く片付けておくれ!いいもんが撮れたからね!」
ほくほく映像を見返す、部下どもも機嫌よく掃除を始めた。


「面倒をかける。が、見事だ。」
リゾットが近付き、横に立つと細く尖った肩に手を掛けた。
逆側にいつの間にか旦那が立ってる白い細身の影のように。
頭一つ違う長身が遮り、人形じみた横顔の表情は見えない。
ジェラートは一緒に来てずっと広間の隅で一部始終見てた。
対象との接触で生成するツレのバングルスが保てる距離で。
ツレの美技見てはしゃいだり奇妙な仮面でオレ吹かしたり。
エビのブルスケッタとワイン渡されて旨そうに食ってたり。
オヤジと部下どもが「気にしなかった」だけのことだった。
誰かが名を呼ぶまで気が付かない「決まり」なだけだった。
旦那の名を覚えられないのもそういう決まりなだけだった。
猫目の白い王様が出会いがしらの勅命でそうと決めていた。


体重が無いかのような優雅な歩みと、氷色した指揮者の瞳。
すらすらと歌うように唇が動く声無き声が命じる淀み無く。
あんたのソレが気になって、みんな読唇を覚えちまったぞ。
『カタナは早く売ってしまおう。売れば映像は用済みだね。』
『防犯カメラのHDDは壊れてる。昨日から何も映らない。』
『馴染みのギャングが役に立った。目立つ者は居なかった。』
『いつもの奴らさ。気にならない。』
天使のかたちの使い魔たちが蕩ける美声を下僕の耳へ注ぐ。
オヤジも部下どもも、カメラすらも二人の記憶は残さない。
もともと使用後デモ映像を処分させるため一緒に来ていた。
なんとも華麗な残酷な、だが胸の疼く魔法を並んで眺めて。


もうこっちには目もくれない三人に背を向け、
はじめから室内に居た五人して場を後にした。








「ワインはちょいと惜しかったな。ラベル見たかい。」
咥えタバコの飲んべがぼやくからみんなでニヤつく。
カメラなんぞはどこにも無い人通りの無い暗い裏道。
オレら襲えるような無謀バカもどこにも居ねえしな。
「メシについてたのより明らかにランクが上とかよ。」
「そう言うな。業者としては良心的だし腕も確かだ。」
「毎度熱烈スカウト、やべえご執心だと思うがねぇ。」
「好きが高じて武器を売るオタクに常識を求めるな。」
リゾットもちょい酔ってるな、…ヤケクソ方面だが。
「一度目の暗示に抵抗した執念にはたまげたけどな。
 ああ素直じゃあ早死にする、ま、しょうがねえな。」
刈り込みの後ろ頭に手を組んだホルマジオの背後を、
タンタンと靴を歌わせて軽いステップがついてゆく。
「何してんだジェラート?」
月明かりの中、息を切らした小さい白い顔が揺れる。
『け・ん・ぱ!』
息と口の動きだけだが叫ぶ、いつだって楽しそうだ。
「けんぱ?何だぁソレ。」
使い魔たちが頭上の暗がりでふわふわと一緒に踊る。
「古い遊びだと聞いた。」
ああ旦那が教えたのか…暗がりの顔と、真珠色の輪。

カン、カン、カン

黒い靴がいい音立てて石畳で同じステップを踏んだ。
片足で二度、両足で一度、繰り返して、跳んで反転。
いつ誰から「聞いた」のかどこの遊びか判らないが。
カンカンカン、カンカンカン。
単調な子供の遊びでこんなに優雅だとか、オカシイ。
ジェラートはリゾットに追い付くとふぅふぅ言って、
長身の肩に手を掛けて息遣いだけでころころ笑った。
飲むの好きだが酒弱いよな、グラス一杯でご機嫌だ。
楽しい大好き嬉しい嬉しい、月光のように幸を放つ。
はいカワイイ、とホルマジオが笑って呟くから同意。
これでワーカホリックの敏腕とか笑うしかねえわな。
息切れが早すぎねーか、…出張キツかったようだが。
「疲れただろう、背負ってやろうか?」
また始まったよコリねーなこの大将。
二人とホルマジオで話が済んだトコわざわざ同伴だ!
旦那に何回「ツレは男だ」って微ギレで諭されても
「そういうことにしといてやる」でスルーしやがる。
初見でムスリム娘に変装しててヤバかったと聞くが。
骨細だもんな腰も尻も背が延びる頃のガキに似てる、
髭は生えねーし詰襟しか着ねーから疑惑が晴れねー。
スタンド何体か喪くすうちにこう育った…とか言う。
カッコ悪いよね内緒だよと…約束したから黙ってる。
あんたカッコいいから安心しろとは言いそびれたが。


背中向けかけるとすかさず旦那が来てサッとかっ攫う。
酔っぱらいがプロの使い魔を出し抜けるとかなぜ思う。
「すまなかったな、ソルベ。」
すぐにくーくー寝たツレ背負った旦那に、
並んで歩きながら、低く通る声が詫びる。
「余計な事をした。嫌な思いをさせたな。」
そんな事かと言いたげに後姿が月を見る。
「報酬はお前たちで折半してもらいたい。」
「断る。約定に反する。」
少しざらっとした低い…旦那も滅多に居ねえイイ声だ。
プールと経費を除いて全員で分配、約定上はそうだが。
その経費に超細かいんでがめつい呼ばわりされてるが。
「例外だ。プールから出すはずのメローネの保釈金を
 ジェラートのヘソクリから出させたろう。返すなよ。」
「受け取っとけよ旦那。あんただから稼げた金額だぜ。」
封筒上着にねじ込む大将と逆側で加勢するホルマジオ。
「白状するがわざと聞かせた。イルーゾォのヤローが
 弁償騒ぎになるとやべーから旦那にパスしろってな。
 でもあんたあのオッサン苦手だろ、言いづらくてよ。
 目の前で困ってみせりゃ一発だってプロシュートが。」
めちゃめちゃ旦那解ってんなやっぱ気に入ってんのな。
その扱いの的確さをコミュニケーションに生かせよと。
「三人がかりでハメられて、オレの興味で絡まれたと。
 すまないなソルベ、やはり報酬は入れてはもらえん。」
「分けたらいくらにもならねえ。家賃払っちまいなよ。
 …ああ悪ぃ、こないだヤサ行ったとき、管理人にな。
 向こうもあんたらの顔を覚えてねーからオレにさぁ。」
バツ悪そうに下向く旦那くそカワイイ、いや深刻だが。
ジェラートちゃん助けて→解ったすぐ行く!→尻拭い。
ツレがこう仲間に盲目じゃあカネに細かくもなるって。
見てくれだけ無駄にイイ問題児、二ヶ月連続はヒデェ。
ジェラートのメシしか食えんとかくすぐり過ぎだバカ!
「誰も文句など言わん。次からは隠すな、頼ってこい。」
「面目ない。」
「はっは、元気出せ旦那、イエスマンなのは承知だぜ!」
何がはっはだ可哀相だろ、どんだけ旦那に乗ってんだ!
問題児もツレも乗っかってるしオレも世話かけてるし!
ジェラートはいいんだよ最終的になんとかするからな!
けど二人無しじゃあチーム回んねえ、これはダメだろ!
オレだけカッカするんだが怒んねえのもやっぱ旦那で。
すまん旦那絶対強くなって恩返すからもうちょい待て。



脚をあんまり上げないで歩く、旦那の足音だけが無い。
さっきいい音で鳴ってた同じ靴なんだが不思議だよな。
肩の上の金髪が月から落ちたもののようにほの明るい。
上半身が揺れねーから運ばれんの快適…経験者は語る。
月の明かりがしっくり来る…撮影のライトなんかより。
海風が気持ちいい…夏が終わる。
「シンガポールでは休めなかったようだな。」
請われてレンタル、要人家族の人質奪還、最短で突貫。
二人にしか出来ねえ、そのくせ上も二人を認識しねえ。
報酬やっすいがどんだけボッてるか知ったら顎外れた。
文句ひとつ言わず笑ってるがクタクタなのは見て判る。
チームの保健も二人して一手に引き受けてくれてるし、
秘書役も事務役も女将役も、…ほんと…大した奴らだ。
蜂蜜色の髪に触ろうとしてスッと離れられた手が泳ぐ。
大将もマメだがガードも固いぜ…なお当人平和に熟睡。
修羅場で見せる魔術師だか王様の雄姿はどこに消えた?


人畜無害な寝顔を見ながら歩いてたリゾットがポツリ。
「変人は変人だが、買えば無理などさせんのだろうな。」
「リゾット。オレではツレにあんな顔はさせられない。」
ヤケクソ風味のぼやきを、珍しく食い気味に一刀両断。
声出さなくてもジェラートは全身で喜んでた、いつも。
「オレたちをモノ扱いする輩にあんたは誰よりも怒る。
 オレたちを隠す不都合に黙って無理してくれている。
 ツレもオレも解っている。どれだけ嬉しいか解るか。」
ろくすっぽ喋んねーが言葉が足りないわけじゃあない。
月明かりの下に朗読のように流れる言葉に返答は無い。
穏やかだが底熱い素直な感謝はほろ酔いの涙腺に来る。
「あんたはオレの王の盟主だ。…それにな。」
肩越しに振り向いた逆光の横顔に胸が鳴る。
「奴の部下程度じゃあ、磨く気にもならん。」


名前を呼ばれたら、身体は勝手に前へ出た。
回り込むが、なんだか顔が見られなかった。


「あんたの拾ってくる原石は、物が違う。」


きた必殺技、予測回避なんぞ絶対不可能。
ので自分から罠にかかりに行くスタイル。
ぽんぽん、と癖っ毛の頭を軽く叩かれた。
なんでそう煽ててノセんのが上手ぇかな。
やべえ琴線ヤラレたっ返事…返事だ急げ、
「一生離れねーッ、つか抱けチクショウ!」
茹だって斜め上を口走った記憶はあるが。
気が付くと大将にプランと担がれていた。
「セクハラという言葉を知ってるか阿呆。」
あーそのテのジョーク厳禁だったわ旦那。
旦那キックも回避不可…あと、おまゆう。







ボコられて拾われて一年、秘密の壁のオレも一角だ。
経歴も本名も知らないが透き通る気配を纏っていた。
オレらの他にはだあれも知らない覚えない姿と声と。
桁違いの汎用性とマッチング、生まれ持ったチート。
旦那もジェラートもあまりにも特別すぎ美しすぎて、
他の誰の目にも記憶にも残しておくことが出来ない。
異常に警戒されるか欲しがられるか、今日のように。
家族を巻き込むのが嫌で隠れるんだと大将に聞いた。
強い奴が好きだとも言う、強い奴は死なねーもんな。
獣のガキに術を掛け人にしてくれた魔術師と使い魔。
居なくなる事なんか考えらんねえ、考えたくもねえ。
誇りたいのに隠しぬく、そんなオレらの宝物だった。


















…そんな…








ありふれた夜をそれほどくっきりと覚えてるんだが。
そこから二人の顔の記憶だけがすっぽり抜けている。
目鼻、口の動き、輪郭、髪の色艶、肌の色。
何もかもを覚えてるのに、繋がんねえ。
あいつらはどんな顔をしていた?
どんな表情でオレを見てた?
すげえ嬉しかった憧れてた、
ずっと見てたその筈なのに、


二人を覚えてるのは、
オレらだけ…なのに、


邪魔をしやがるのは…
あの、変わり果てた…








精魂込め人にしてもらったはずだったが。
心は凍りつき感情が砕けて欠けちまった。
ジェラートが本当に物言わぬ人形になり。
旦那が額縁に収められて帰ってきたとき。
現実感が無いまま二人だと認めないまま。

…感動したんですよ…
…額に入れて飾っておきたいほどにね…

売った爆弾で死んだオヤジの声が脳裏に。
刻んだゲスも同じ事を考えそうしたかと。
微かでも納得できるとしたらそんだけで。
後は意味がわからず時だけが呆然と過ぎ。
屈辱と疲労の渦中で漸く息を継ぎながら。
答え合わせはまだかまだ来ないか早くと。
待ち続けるうち逃げ遅れ獣に戻っていた。
答え合わせなんぞとうに終わってたのに。
どうしてもどうしても諦めきれなかった。


それほど希望も幸福も二人と共に在った。











どこへも引き返せないところに今は居る。
前にはあとひとりだけ後ろには大将だけ。
人のままでは居させねえその想いだけで。
人たる所以を根こそぎにしたクズどもを。


『敵を感じた段階であらかじめキレとこうか。』
『副交感神経に働いてもらうタイミング調節。』
『何でもいいんだよ慣用句でも映画ネタでも。』
『キミの脳も身体もクールダウン苦手だから。』


消えた今もオレを護る甘やかな声を聴く。
思い出せない慈しい顔たちを仕舞い込む。
半瞬の例外も無い怨嗟を抱えてきた二年。
負けやしねえオレは強い…さあ行こうか。








ヤツらを探し出すために……


『根掘り葉掘り聞き回る』の…
『根掘り葉掘り』……ってよォ~~









(完)




大将→狼王ロボ→白目の見えない獣瞳と生き様全部
列車兄弟→浦島太郎→亀、老いる煙、漁師と釣り竿
ホル兄→一寸法師→どう見てもそのまんまですよね
イル兄→白雪姫→鏡、黒髪と白服と血のような赤瞳
メロ兄→蛇婿→美男、女性喰い、子宝、舌ペロと蛇
ギア兄→雪の女王→能力、ドレス風の衣装、目潰し
               と来たものだから
うちのソルジェラさん→鶴の恩返し、でどうかなと


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