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二次創作 狼の城と魔法使いの話~史上最強のソルジェラ~ あるいは、暗殺者チーム練成法、その一例 その2

2019/07/18 21:29 投稿

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  • ジョジョ5部「MMD」二次創作



街はマシになったのだろうか…と、窓の外を眺め思う。
麻薬は嫌いだった、馴染みの良い人たちもアレ一つで
変わり果てるし、周りもどんどんめちゃくちゃになる。
この街はとても好きだ、過ごし易い気候に美味い食事、
程よく残る歴史の香り、交じり合う光と影、表と裏…。
この心地よさの中で、僕は楽しく要領よく生きていた。
それを侵略し始めた汚い薬を強くしかし漠然と憎んだ。
そんな漠然さに方向付けしてくれたのはあの人の怒り。
強い賢い優しい悲しい…僕に黄金の光を見てくれた人。
あの人の怒りが本物だったから僕も本気で薬を憎んだ。
出会えたから歩き出せた、親より恋人より響き合う人。
あんな刺激的な時間はもう無い…思い出せば心が騒ぐ。
…短いけれども鮮烈な…ブチャラティとの奇妙な冒険。

冒険のきっかけを探してた…そうだったと今なら解る。
特に困らずに大抵のことはやれてしまう僕だったから、
逆に機会を掴みそこねてた、いつだって始められると。
不思議な力も手に入れた、僕は特別なんだと思ってた。
けど同じ不思議な力に立て続けに出会うことになって、
なるほど僕の住む世界はこっちなんだ、と思い始めた。
ブチャラティはもう居てくれた、走り出した僕の隣に。
あなたで良かった…カッコ良かったな…もう過去形か…

物語は終わりあなたは仲間と旅立ってしまったけれど、
僕には組織の引継ぎ、街の守護者という現実が残った。
こんな巨きなものを喪うのは初めてだ…正直…キツい。
でも立ち止まらない、あなたの遺産を無駄にはしない。
出会いはこんなふうに人を変える…期間は関係ないね。
一生懸命頑張ってますよ…フーゴも戻ってきてくれた。
あなたがチラと言ってた情報屋、あと親衛隊の女の子、
彼らも使える人材だったよ、あなたの眼力は確かだね。
麻薬チームは潰したよ、自滅的な哀しい人たちだった。
ギャングってのは、はみ出し者の受け皿となりながら
街と共存共栄していく私兵であるべきだと思っている。
街を食い荒らす寄生虫、なんて刹那的なのはごめんさ。
もと売人たちは僕の勅命で街のパトロールやっている。
安定収入と遣り甲斐があれば彼らは文句は言わないね。

ただ上が…問題は…オジサンたちさ…
あそこまで登り詰める間の、投資ってものがあるから…
面倒だよ…そいつに攻め込む算段、…やっと、めどが…

「そろそろ起きな。お疲れのとこ悪いが。」

んっ、と、呼ばれて目を擦る、…少しうとうとしてた?
景色を見る、久しぶりに来る目的地はもうすぐだった。
「ここんとこ睡眠時間が少なかったので。」
「ああ、大物だよ。よく寝る気んなるわ。」
ゴシック様式の大きな教会の前を過ぎ、商店街を走る。
カルチャーセンターで守衛に金を渡し車を預からせた。
徒歩で脇道に入れば、途端に雰囲気は落書きの目立つ、
荒れたものに変わった。
美しき観光都市ネアポリスの光と影を象徴する変貌だ。
「なあジョルノ。やっぱあぶねーぞ、考え直せよ。」
周囲に気を配りながら先導するミスタがまた言う。
怪我人の傷を「補修」し心づけと口止めしたあと、
病院のすぐ傍で不安そうにしていた「目撃者」の新聞少年に、
途中の道で自損事故起こし泣き泣き祈ってたバンの運転手に、
それぞれ「彼」の話を聞いてきた後だった。

「そうかな?」
返事が能天気に聞こえるんですがそれは。
「あぶねーだろうが。ちっと前までは植物状態だったってのによー。
 逃げるために平気で女や警備のオッチャンに大怪我させてんだぜ。
 そのうえ無関係な運ちゃん死ぬほど脅して連れてこさせやがった、
 そりゃあオレらだってカタギに無理言うことはあるさ、けどよー、
 お前が治さなきゃ顔半分ダメになってた、そこまではやんねーよ?
 ヤツは変わっちゃあいねー、相変わらずのケダモノだってことさ。」
「…周りを警戒してくれてたのはありがたいけど。
 話を聞かずに判断するのはどうかと思いますよ。」
だからやめとけ、と続けようとするのを遮られる。
「看護師は靴を狙って足止めしただけ、警備員は慌てて暴れたから
 指が取れたんです、攻撃ってより最低限のアクションに過ぎない。
 それとバンの運転手、あいつカタギだけどサドの変質者でしたよ。
 あの病院は心療内科もありますからね、そこから逃げた患者だと
 思ったから拾ったって、苛めたり身代金取るのが楽しいんだって。
 苦しそうだし目立つし、車を物色してたから弱みに付け込んだと。
 常習犯です、ナイフでビビらないからカッとして切り付けたとも…
 いいですか、殺せたし、殺すほうがラクだったんですよ三人とも。」
「ずいぶんとまた好意的な解釈じゃあねーか、ええおい。」
話しつつ歩く速さに合わせてんとう虫が緩やかに先を飛んでゆく。
身なりと器量の良い若者二人はこんな道を歩くだけでも危険だが、
ミスタの発する抜き身の威圧はろくでなしどもに見て見ぬフリを
決め込ませるに充分過ぎた。
変質者だぁ?それほど珍しいモンでもねーが災難だったな、
よりによってアレ拾うとかよ…勇者すぎんだろ尊敬するわ。
「普通に分析してるだけです。顔はほっといても良かったかも。
 ムカついたから、皮膚の補修は靴の中敷でしてやりましたよ。」
「えげつねーッww」
おえっと舌出して笑いかけたが、足を止め見上げる。
古びた雑居ビルが目の前にあり、てんとう虫はその通用口の
暗がりに吸い込まれていった。

「くれぐれも。約束は守ってくださいよ、ミスタ。」
約束した覚えなんぞあるか命令いや依願はされたけどな、と
腹のうちだけでミスタは言い返す。
つま先から這い上がる緊張と体のそこここに蘇る痛みの記憶。
いまだ消しようのない、ごまかしようのない…これは恐怖だ。
旧親衛隊の生き残りやコウモリ野郎も心酔させて拾うヤツだ、
こいつの「再利用」好きは知っているし感心もしてる…けど
今度こそはわけが違う…解ってるのか…解ってるんだろうが…
「僕の許可無く攻撃しないで。絶対に。」
「お前が危ねーと判断した場合は、その限りじゃあねーぞ。」
つかいま判断させやがれ、言えませんがねェそれが何かッ!?
「それでも。先に指示は仰いでください。怒りますからね。」
「わーった、わーったよォ。」
その顔されたらダメだ、やっぱりこいつにはかなわない。
人たらしのジョルノ…だからってなんとかなるとは到底…
思えないが…だが。
「行きますよ。」
明るい顔して無造作に歩き出したかに見えたジョルノの頬も、
緊張の汗でうっすら光っているのを知った。
発汗で相手の心情をことのほか繊細に読んだ聡明な嘗ての上司を想う。
この無謀とそれを止められない自分見たら、いったいどんな顔をする…
「おう。」
冷や汗は腹をくくれば秒で引いた。
先に立つ肩を掴んで制し、ドアの向こうの暗い廊下に足を踏み入れた。


三ヶ月前パッショーネ配下に入れ換えた管理人は昼間しか来ない。
ビルごとの買取予定はあったが、差し迫った故あって無理だった。
ただでさえ湿っぽく冷たい空気は地階に下りるほどに更に冷えた。
こんなところで生きてきたんだな…と、僅かに心が揺らぐ。
地階の突き当りとか…間取りを見れば狭くはないとはいえ、
ろくに光も入らぬ地の底、襲撃でも受ければ逃げ場は無い。
「彼ら」にここを与えた旧上層部の、傲慢な悪意を感じる。
黎明期の組織が何をやってきたかを知る厄介な生き証人らとはいえ…
今にして思えば「あの男」とその側近はみな、「彼ら」にかぎらず
強力な能力者たちに対しては本当に、吐き気がするほど冷酷だった…
ジョルノの心遣いで定期的に管理の手が入っており不潔ではないが、
言うに言われずやさぐれた気分になる場ではあった。
ドアのロックの部分がもそもそと動き歪み、さっきのてんとう虫の
ブローチに変わり、ふうわりと舞い上がりジョルノの襟に止まった。
ここに「彼」が来ればドアを開け、ジョルノに報せてから先導してくる、
到着した段階で役割を終える…最初に入ったとき破壊した錠の代わりに
ここに残されたブローチは、そういう役回りだった。
ミスタは銃を構え気配を探る。
居る…のは、確かだった。
顔を合わせる前に力尽きるなり自死してくれちゃあいねーか…
んなうまい話あるかよ、と自分を叱りつけ薄くドアを開いた。
攻撃は…無い。
引き金に指を掛けたまま素早く滑り込み真っ暗な室内で、
あらかじめチェックしておいた明かりのスイッチを押す。
管理人の掃除機かけの為に、電気だけは通っているのだ。

リビング…と呼ぶには素っ気無さが過ぎる部屋が現れた。
広い…といえば広い。
打ちっぱなしの床に低いテーブル、それを囲む黒いソファー。
壁には鏡と棚、酒ビンと安っぽいグラスの見えるキャビネット。
空調、テーブルの上のモバイル、ちょっとした筆記用具。
この広さの部屋に置くには小さすぎるテレビ、レコーダー、
いくつかのリモコン。
…それだけだった。
潤いも個性も何も無い…、何も無さだけが個性の味気ない空間。
注意深く死角を調べ回りながら、こんな場所にそれでも戻った、
孤独な凶獣の執着をつい想像してしまい、ひどい気分になった。
「ミスタ、…足元を。」
見下ろしたジョルノが呟く。
冷たい床のそこここに、付着し滲んだ赤いものが見えた。
「…素足なんだ。」
冬の濡れた道で足を傷つけたまま歩いてきたようだった。
眉を顰めたものの、哀れんでいる場合でも相手でもない。
回りを見回し動こうとするジョルノを制しドアを調べる。
玄関ドアの内側のポストが開けられたまま。
モバイルにはごく薄い土の指紋。
ユニットバスにトイレ、仮眠室。
物騒な「仕事」道具や資料の残る物置部屋。
居ない。


最後に…物置部屋に通じる隅の小部屋が残った。
間取り図を思い出す、たしかここは…
今更だが地階の突き当たり、…確かに「逃げられ難い」が、
袋小路の一本道、こっちだって「逃げ難い」んだ忘れてた…
ドアノブを握った瞬間、異常な冷たさを感じ、
反射的にジョルノを抱えて庇い右下へよけた。

ギャリン、と乾いた音がしてノブが後ろへ吹き飛び、
開いた穴から飛び出したのは透明な…氷の槍だった。

一m近く飛び出た槍はすぐビシャと水になり散った。
反射的にトラウマ交じりの勝機を知る、
チャンスだヤツは弱ってる効果を瞬時しか保てない、
盾も作れまいやるなら今だ、ドアの穴めがけて発砲、
「…!」
する寸前、肘をぎゅっと掴まれた。
緑の大きな瞳が切実に睨んでいる。
「約束は?」
「…~~~っっ!!」
攻撃!!されたんだっつーの今ぁッ!!
オレ庇わなきゃ腰えぐられてたぞ解ってんのかよォーッ、との
反論をかみ殺す、「約束」やぶったらこいつ「怒る」からーッ!
自慢じゃあないがあれから冷たい飲み物が嫌いになっちまった、
氷がどうにも嫌なんだ、ドアの向こうのその化け物のせいでッ!
ドアの穴から冷たい風が流れ出る、寒い。
フーゴに持たせてもらった皮手袋を華奢な両手にはめると、
またうっすらと緊張の汗で肌を光らせたジョルノは立った。
「ばっ」
なんッで穴の前に立つかあああッ!、と伸ばす手が届く前、

「元気そうでなにより。しばらくです。」

自分の顔から表情がスッとんでいくのをミスタは感じた。
何ソレ…なにふつーに快気祝いの挨拶…してんだヨオォ…
ドアの向こう側のやばい気配が静まり返ったのは、
相手もいくらか呆気にとられたからなのだろうか。

「あなた…必要な「分子」は「上から」調達していましたね?
 水や空気を固体にするとき、横風が在りませんでしたから。
 そこはキッチンでしたよね?外の光が唯一入る天窓がある。
 水道は止まってますが、そこからなら水も空気も手に入る。
 武器にしようにもここ地階ですから、気体なんか固めたら、
 減圧で自爆してしまう。…そこにいるのは判っていました。」

忘れもしない…
リベルタ橋からサンタルチア駅前に至った、
あの「死闘」時の話をジョルノはしていた。
そうか…「分子」…空気や水蒸気、「上」…上空か!
あの時、固形化してた膨大な分子は上空の大気から!
そう…か、そうか、今更魔術のタネ明かしときたか。
槍に仕立てた水…これは雨後の大気の大量の水蒸気。
「上」から分子を掴める所でしかあの技は使えない、
それで無防備に動こうとしてたのかよ、とミスタは、
この段階に至り今度こそ、無謀な「大将」を制めるのを諦めた。
勝算があるのだ…とても納得いかないが…それでもジョルノは
今どうしてもそうしないといけない理由と執念とを抱えていて、
そのために勝ちにいたる考えを時間掛けて組み上げてきたのか。
「僕が来るのは知っていたでしょう。ミスタも一緒です。」
返答は無い。

が、耳を澄ますと聞こえる音に、漸く気付いた。
息の音だ…辛そうな。
そうか…八ヶ月以上も寝たきりだった身体を無理に動かしてる、
そのうえ暴漢とやり合って「能力」まで使った。
元気なものか…そこらじゅう痛いし疲れたはず、
加えてこの冷え込み…こたえてないわけがない。
「あなたに見せたいものと、返すものがあります。
 教えてほしいこともあります。それとお願いが。」
生真面目な優しい、が覚悟の滲む若い声が、丁寧に言葉を紡ぐ。
「あなたも、僕に聞きたいことがあるはずです。
 それ以外の望みにも、応える用意はあります。
 だから…今だけ休戦にして、僕の話に応じてはくれませんか。」
フー…、フー…、と、苦しげな息の音が続く。
まるっきり野獣…ここまで「らしい」のも珍しい。
話し合えったって…考えてみたら…そもそも声なんか出るのか?
ヤツの傷は…ミスタ自身がつけたものだから間違いようがない、
頚の後ろから咽喉…串刺しだった。
「二人」の手により念入りに「補修」されたとはいえあれでは、
「僕じゃあ信用できませんか?それも当然だけど…」
ビジネスバッグを開く。
「では、先に、これを。…あなたに「見せたかったもの」です。」
ドアの下の隙間から、散った水を避け何かをシュッと、通した。

よく見えなかったが、誰かの写真…のようだった。

数秒。
呼吸音が止まった。
ジョルノのこめかみからツゥと一筋の汗が伝った。
吉か凶か…今日最初のそして決死の賭け…だった。
ジョルノは風穴の開いたドアの正面に立ったまま。
さっきと同じ攻撃が来れば命にかかわる立ち位置。
「影武者もね。用意して来たんですよ。」
縁起でもねぇっ、とヒいたとき、
フー…、と、息を吐く音がした。

「…開けな。」

ごく弱く低い…
が、忘れようにも忘れられない忌まわしい声が…聴こえた。
ぞくんっ、と同時に二人の背筋が震えたが、
ジョルノの桃色の唇は漸く、意を得たりの笑みを浮かべた。

「…チャージ中…だ。…入れ。
 こんなもん…持ち出されちゃあ…な…。」
やりやがったこいつ…手負いの獣をテーブルにつかせやがった!
きつい黒い目を丸くしてミスタが見つめる前で、
革手袋の手がドアの穴に指を掛け、ゆっくり…引いた。
すかさず銃を構えその肩越しに狙いをつける、罠かもしれない。
薄暗い室内に、開いた天窓からの淡い、朝の光。
カーテンリングは下がっているがカーテンは無かった。

その下に…壁に背をつけ写真を手に、男が座っていた。

「…「これ」、を…、どこで?」
顔色は控えめに言って、ひどい。
頚椎も声帯も気管もズタズタ、出血と酸欠で脳も壊れかけて
いたはず…呻くように低い声は、だがはっきりと聞き取れた。
暗い眼差しは衰弱を露にしつつも闇の燐光のような凄味を湛え。
血と泥に汚れた素足、雨を吸った病衣一枚が痩せた身体を覆う。
濡れた癖毛がちりちりとうねり額や削げ落ちた頬に落ちている。
かつての強敵の無残な面変わりに息を呑むが…
これだけは変わらず不可触の獣の威と恐怖を濃く纏う男だった。

「僕の影武者…いえ、親友が探して、偶然に見つけたんです。
 三年前、ダンスパブにお父さんと遊びに来ていたぼうやが、
 もらったばかりの子供用のビデオカメラで録画してました。
 あんまり楽しそうで、すてきに踊る人達だったから、って。
 無理言って、彼の宝物をダビングさせてもらったそうです。」
くっ、と、男は笑った。
「ガキのカメラ…なぁ。なるほど…「あいつ」らしいか…
 は…、そうかよ…見逃したか、ははは、ははははははッ!」
喘ぎながら笑うが目は笑っていない、どころか…
「あなたのチームの他の人は存外あちこちで姿を残してました。
 仕事関連では隙がなくても、日常生活中では普通に残ってる、
 ストリートカメラとか、防犯カメラとかね。でも彼ら二人は、
 そういうところからでは姿を掘り起こすことが出来なかった。
 組織の記録からも丁寧に抹消されていて、何も判らなかった。」
聞いているのだろうが写真から逸らされない鋭い眼が赤い。
笑っているが底が見えぬほど深々と怒りそして怨んでいる…
何人にも触れることを許さぬ真っ黒な、死神の哄笑だった。
どれだけひどい事すりゃあ人はここまで怨みを溜める?
殺し屋なんだろう殺し殺されは慣れっこのはずだろう…
警戒はしながらもあまりの異様さにミスタは気圧され、
笑う男とジョルノを見比べ銃を支える作業に縋り付く。

「…優秀…だったんですね。おそろしく用心深い。」
ふいと笑いが消え死神の瞳がジョルノを見上げた。
「二人の姿を歪めたのは意図的に流された噂、ですね?」
「そんなこと…を、言うのは…、てめえが初めて…だ。」
え…と、ミスタも訝った。
誰の話をしているのかやっと解ったが、そいつらはたしか…
クーデターの二年前、叛いて見せしめに始末されたマヌケ…
麻薬ルート狙ってた身の程知らずだとか、ホモだったとか…
そんな噂が流れていたからなんとなく信じ込まされていた、
嫌な話だがよくある、疑ってみたことはない…それが何か?

「グイード・ミスタ!!」

困惑を見た男が唐突に、本当に唐突に夜叉の貌に変わった。
その形相と豹変には二人とも覚えがあり過ぎ一瞬固まった、
すんでで引き金を引きかけるほど焼きついた恐怖と一体の、
「てめえらも…チーム戦やってりゃあ…解るだろうがッ…!
 チームで一番…殺られたくねーヤツの役割はッ…何だッ!」
え…と、横目、ジョルノがまさに、

「答えろおぉッ!!!」

ちょ…どっから出る声だよ心臓に刺さるッ…
「そ…そりゃあよ…回ふ…、」
うっかり返事して気付き、腹の底が重たく冷えるのを感じた。

「…って…」
銃口が揺れた。
汚れ仕事専属の大所帯だ、薄給で使われったけ使われたと聞く…
プロだろうがみな人間だ、心も身体も当たり前にメンテが要る、
必要性なら他の「職種」の比じゃあない、
チーム解体したわけでもない使い続けた、
だというのに、
「…。」
粛清されたのは彼らのヒーラーだったか…想像し心臓がバクつく、
もしあの旅路…ジョルノが殺られてたら…奪われてたら自分らは…
チラと思っただけで足元から崩れそうな不安…酩酊感すら…
あの実力でチーム丸ごと消耗品認定…怒るだろ、そりゃあ。
バカなことをしたもんだ…けど死んだ奴らも、重要な役割だからこそ
もっと慎重になるべきだった、どっちもどっちの愚か者だ、胸糞悪ぃ…
嫌な顔が、そのまま相手への返答になった。
「そうだよなァ。…やって…られっかよ、…そうだろ?」
夜叉の形相のまま男はまたげらげら笑った。
目を剥き尖った犬歯を晒し笑むというより猛獣の唸る「歪み」。
ジョルノが顎を引く、踵が引きたがるのを堪えているのだった。
こいつヒかすとか…やっぱ化けモンじゃあねーか…おぞましい…
「くく…命綱をッ…切りやがったッ…はははははははッ!!!
 もういい…消えろ…邪魔だッ…ひははははははははッ!!!」

「その人達のことを、調べているんです。」

引きつった笑いがまた唐突に消え、凍ったような無表情。
この静けさこそが最も恐ろしい…彼はそういう敵だった。

「…なんでだ?」
冷静そのものの声が問う、まばたきが消えてる。
野次馬根性が欠けらでもあるならいま死ね殺す。
作り物じみた無表情でも気配がそう言っていた。
ジョルノが答えた、
「未来のためです。」
「誰の。」
とうに消えた命と群れ…呪う対象でしかない言葉だろう。
ジョルノはまた答えた。
「彼らとあなたたち、僕ら。組織と、ひいてはこの町の。」

壁に凭れたまま、じいっと…
充血した暗い穴のような眼が輝きの強い瞳を見上げた。
空気読めずにたわごとほざくこのガキどうしたもんか…
憤怒すら越した侮蔑の空白、そう見えた。
見るに耐えない…なんでこいつ生きてる…倒したのに…
引き金が引けたら…今ならヘッドショットで…一瞬だ。
それにさっきのあの…嗤いときたら…ゾッとする…
こいつは怨嗟の塊だ、情緒も選択も壊れきってる。
生かしといたら絶対ろくなことしない…後悔する。
ミスタが沈黙の緊張に倦み奥歯を噛み締めたとき、
ふっと視線は下がり…右手の写真に落ちた。

「…大きく…出たな…。」
これに免じて聞くだけ聞く…そう判断したように見えた。
たかが写真がそんなに大事か、…気になる…どうしてだ?
「あなたなら知ってる。」
「答える…とでも?」
「ええ。だってあなた、」
会話になってる、続いている…ミスタの頬に引き笑いが浮いた。
これぞ人たらしのジョルノ…これだからこいつおっかねーんだ…

「話したい、でしょう?ミスタが彼らを誤解してたことに、
 今あなたはすごく怒った。過小評価されるのが嫌なんだ。
 皆彼らを解らないまま忘れる、あなたはそれが許せない。」
え、とまたミスタは訝る。
あれってそういう方向で怒ったのか?
回復役を殺られ使い潰された怨みってだけじゃあないのか、
生え抜きどもにはそれだけでも充分すぎる屈辱…だろうに。
「…条件を飲むか。」
写真から視線は動いていない。
交換条件は肯定の証拠だった。
「はい!」
ジョルノの息が白い。
「…誓うか。」
「誓います。」
「なら…話が終わったら…殺せ。」
また空白。

ジョルノが暫くでも言葉を探す様は滅多に見ないものだ。
「リゾット・ネェロは、それを許しますか。」
「…くたばった…んだろ。…許すもなにも…」
ああ…、と、思い当たる。
ジョルノは何か言おうとしたが、口ごもった。
カード一枚切り損じた…そんな顔をしていた。
「オレしかいねえ。…白状した…だろうが。…いま。」
この男がジョルノに「聞きたかったこと」とは、これか…
「…彼は、…あなたの傷を補修し、蘇生させて、病院へ。」
ジョルノの声に苛立ちが乗り男が答えた。
「「死ぬな」「連絡を待て」…リゾットは…そう言った。」
気管と肺を塞いでいたはずの大量の血はなぜか消えており、
ステンレスの密なステントが気管を内張りしていたという。
殆ど折れていた頚椎はこれもステンレスの鎹で固定されていた。
当然ながら人の技ではない。
長身黒衣の男は彼を渡すと目を離した一瞬に消え失せたそうだ。
彫像じみた美丈夫だが不可思議な…たとえるならば喪装の道化…
そんな風体の、ひどく寂しげな男だったと。

「だから、メッセージを確認しに、ここへ戻ったんでしょう?
 電話は見つからなかったから、ポストとメールを調べに来た。
 あなたはリゾットの言葉に、忠実に従った。だったら、」
死ねないはずだ、と言い募るが、
「…「殺されるな」とは…言われてねえ。」
ざくりと斬り捨てた息遣いには、喘声が混じりはじめていた。
どうも様子が…ああ足にしたクズに切り付けられたんだっけ、
見たとこ病衣に血はついてないが、背中でもやられてるのか?
メッセージは無いと確認した、もう連絡は来ないと解った、
命令には従った、文句あるまい、…そう言いたいのだろう。
「…屁理屈です。リゾットを前にしてもそれを言えますか。」
「…頭のいい大将、だったが…、…たまに…ヌケてやがってな。
 ヘマだぜ、リゾット…「あいつ」なら…「生きろ」と言った。
 だい、たい…助かっても…全身麻痺…頚椎やってんだろ…が、
 どう…する気だった、んだ、…アホかよ…ったく…。」
肩が大きく上下、息切れがひどい。

いつの間にか…
手負いの野獣か、地獄に落ちそびれた怪物でしかなかったモノが、
人の顔に見えかけていることにミスタは気付いた。
総毛立つ迫力も危険さも少しも揺らいではいないのに…不思議だ。
実際の話、その時は後先など考えちゃあいなかったのではないか…
彼らはジョルノの能力を知らなかった、生身の部品を新たに作る
離れワザを知っていてアテにでもしていなければ、救った部下が
ベッドに固定されて死を待つ惨めな結果しか見えなかっただろう。
「あなたが死ぬのが、彼にはそれほど辛かったんです。
 離れても、死後も、執念がステントや鎹を保つほど。
 それに、解ってるでしょう、彼が補修した後、僕が。」
無骨かつ乱暴過ぎるが効果的な応急手当に使われた鉄の部品は、
ジョルノの手で生身の「器官」に変わり、この男を延命させた。
「だから、おこがましいけど僕にも、あなたの生死に干渉する
 いくらかの権利はあると思」
「ネタ切れか。…都合を、権利と?」
三度の食い下がりもにべもなく撥ね付けられた。

はぁ…と、吐き出してる息がひどく白い…
このザマでここまで頭も口も回るか恐れ入った、
ジョルノが拳を握る、…反論の筋は通っている。
…なるほど、こりゃあ攻めあぐねる、しかしだ。
死神の群れでも仲間には…そうなのか、さんざん殺しておいて。
部下に「遺族」シーラがいる、それこそおこがましくないかと
腹が立ちはしたが、ジョルノを見習い立場を変えて考えてみる。
ついてきたばかりに次々と逝き、最後の一人になってしまった
大切な部下に息があった、どんな状態であれ生かしたくなった。
その極限の衝動は、同じく情の濃過ぎた上司を思えば刺さる…。
病院に置き去りにしてからあの島でたった独りで逝くまでの間、
リゾット・ネェロが悔い揺らぎ苦しまなかったわけがなかった。
「…はん。…吐くほど痛かった…ぜ…ヘッタクソ…」
逝き残され吐き出す親しみゆえの悪態、あまりにも哀しすぎる。
もういいジョルノが承知しなくてもオレが送ってやる。
目を伏せた空ろな無表情を睨みミスタは全霊で念じた。
だから安心しろ、好きなだけ喋ったら仲間たちのところへ行け。
こっちだって…警戒し続けなければならない相手は少ない方が…
「…死人を…利用するな。クソガキ。」
「…ごめんなさい。そのとおりです。」
素直に悔しそうに詫び、ジョルノは項垂れた。
写真の借りで我慢はしてるが、かなり機嫌損ねた…幸いにも…
調伏なんぞどだい無理だ、同情の余地はあるが殺すしかない。
「解ったら…教えな。…いつ…どこで、リゾットを…殺った?」
せめて最期の様子だけは…どう闘ったかが気になるのだろう。
「自慢の…大将だ。…さぞかし…」
「僕では、ないんです。…彼は、」
少し小さくなった声が、しかし一言一言はっきりと…答えた。

「四月五日に…サルディニア島で。「ボス」との一騎討ちで。」

伏せられていた顔が上がった。
困惑と驚愕その後、
興味。

再会して初めて、生ける亡者の顔を鮮烈な「意思」が覆った。
やや俯いたままジョルノが目を上げた。
「「聞きたいこと」が、増えましたか?」

…巧いッ…、
これも初めて、嘗ての敵と感嘆が同調したのをミスタは感じた。

「…ヒーラー…てやつ…は、」
チラと写真を見た目がジョルノを睨み、クッと犬歯を覗かせた。
小便チビりそうな迫力だったが、もう完全に人間の笑みだった。
「…皆こうか?油断も隙も…」
「え、似てますか?」
「ざけんな!似てて、たまるか、…だが、
 すげームカツク…が、」
目をそらさず、はあっ…と、深呼吸する。
雨に濡れた病衣は体温で乾くどころかますます濡れていた、
顎先から落ちる雫、
濡らしているのは止まらない苦痛の汗なのだった。
「「ジェラート」とは…さぞ話が合う…だろうよ…」

と、揚げた手が震え、天窓からの寒風が写真を舞わせた。

「あ」

手が追う、空を掴む、
反射的にミスタはしゃがみ、床の濡れたところへ落ちる寸前で
無事に掬い取った。
「…んっ?」
気になってた写真を漸く見た。

画質はそう良いとは言えない。
いい雰囲気に素朴に飾られたパブ、ほろ酔い客のクラップの中、
楽しそうに踊ってる二人…アイコンタクトには深い信頼が滲む…
アジア系の血が伺える黒髪の、鞭のような長身の男と、
蜂蜜色の短髪したほっそり小柄な、…男、…男だよな?
これが粛清されたマヌケどもだって?
自堕落感は無いむしろ知的、…予想外だこんな奴らだったのか。

「…かっけえ。」

思わず口をついて感想が漏れた、キマってる。
達者…いや、こいつらドチャクソ踊れるだろ解んぞ…
振り向くと目が合った。
急に喰い付いてくれるなよ…緊張しながら近付いた。
右手だけ伸ばしてくるからずいぶん近くまで寄った。
黒に見えてた瞳は北極の海みたいな寂しい青だった。
ああ動けねーんだ…戦闘などできる容態じゃあない。
「…ほらよ。」
「…すまん。」

うわあオレまで死神に声かけちゃったよやべーなツキが落ちる…
つかこいつ礼とか言うんだ…躾いいのかよキャラわかんねえわ…
もう落とさぬよう左手を添え見つめる、力が入りきっていない。
「休戦協定、いいですね?そのままだと倒れちゃうから、
 少しだけ…、チャージを手伝いますが、構いませんね?」
傍らに来たジョルノが膝をつき、左手から手袋を外した。
凍らせないでくださいよ?、と、点滴の痕の散る腕に触れる。
ジョルノの黄金色のスタンドの腕が華奢な手の甲に重なると、
とうに限界のきていた身体へ緩やかに、生命の補充を始めた。
「解りますか?ビビってる…でしょ、僕…
 全然…安定しないや…時間かかるかも…」
見ればジョルノこそ鼻の頭に汗の玉をいっぱい並べている。
呆れたような困惑したような目が、黙ってそれを見ていた。
「だってあんた…怖いんだもの「ギアッチョ」。
 ワケわかんない…虎とか鮫と話してるっぽい。
 病院で動かないときは…まだマシだったけど、
 その、…やっぱり、思い出してしまうので…。」
そうでしたねえアンタにはボロッボロのヘロヘロになるまで
可愛がっていただきましたよねーッ、ええその節はどーもッ!
激しく同意もうやだ帰ろうぜ疲れた!と素直に顔に出したら、
至近距離の三白眼にガン飛ばされて危なく変な声出しかけた。

「…側近のくせして大将ひとり御せねーか。無能。」
ザクウッ!とぶっとい氷の槍がハートに刺さった、
いま大事な写真拾ってやっただろがこの恩知らず!
「にゃ…におを!大将首取られた無能が言うかよ!」
「その調子で前の大将首取られたってか、マヌケ。」
「がぁーー言っちゃあなんねーことを!表出ろぉ!」
「いや…やめて…気が合うのはいいけどやめて…。
 なんで入れたそばから無駄に消耗するんですか、
 無駄は嫌いなんですよ僕、黙ってくれないなら、」
いろいろと限界突破したらしきジョルノの目がとうとう据わった。

「…怒りますからね。」

ざわっと癖毛と黒髪の両方が逆立ち物騒な口ゲンカが消滅した。
あっなんか居心地悪そーーな目しやがったな一瞬だが見たぞッ、
やっぱこいつ獣だ怒らせちゃあいけない相手だと獣の本能で解ってる、
つかいま「気が合う」とか言われなかったか冗談やめてくれ鳥肌がっ!
「そろそろ管理人が来ますから、ミスタ、水道とボイラーを、すぐ。
 ギアッチョ、すみませんけどシャワーとタオルを借してださいね。
 動けるようになったらあなたもあったまって着替えてくださいよ、
 ここ寒すぎ…寒いのダメなんですよ、トラウマだよ誰のせいかな!
 ミスタ、ぼけっとしない、行って早くっほんとに寒いんだってば!」
「あ…ああ、…ハイ。行くよぉ…。」
対人ストレス溜まってるせいか最近こんな感じだよなおっかねーよ、
オレ使いっぱじゃなくて護衛なのに…こんなのと一緒に残したとか、
フーゴやシーラが聞いたらぶっ殺されるんですけど…行くけどさあ。
ぼやきながらキッチンの出口でチラと振り向くと、
少し怒った生真面目な顔でヒーリングをするジョルノに手を取られ、
目を閉じて静かに任せているギアッチョの表情が沁みた。
癒される歓びと安らぎとを知ってる顔だ、なんともいえず穏やかな…

人食い虎がああしてネコに変わる歓びを与えた者たちが殺された。
あの写真…三年前というなら二人はその後ほどなく惨死している。
彼らのチームにいたなら、優れたスタンド戦士に違いなかろうが…
聞き知る噂と目で見た姿の肌別れがひどい。
本当はどんな奴らだったのだろう?
いったい何があったのだろう?
残された連中はどうしたのだろう?
何よりも、ジョルノは生き残りの氷使いをどうする気だ?
なぜあんなヤツにこだわるのかと、何度か問うてははぐらかされた。
疑問と興味が矢継ぎ早に浮いてとんと忘れていたレベルで胸が騒ぐ。
走っていくとちょうど管理のオヤジが管理室を開けるところだった。
大声で呼びボスの指示を伝え急かす、早く早く戻りたかった。
ここへ来たときとは別のそれのように心が軽い、
ジョルノの興味は既にミスタ自身の強烈な興味となっており、
嘗ての強敵いや強敵らへのあれほど根深かった忌避は、
ここにきてきれいさっぱり、消し飛んでいたのだった。





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