『競馬王のPOG本』恒例の棟広良隆さんによる矢作調教師インタビュー。今年は取材時期の関係で誌面には間に合わなかったため、競馬王チャンネルで無料公開します。
取材=棟広良隆
構成=競馬王編集部
取材日=4月22日
![75f72d9d9e6fa5618355e2db8ba3d082f9db5527]()
当歳の時から抜けて良かった母サプレザ
棟広 今年もよろしくお願いします。まずは全体の印象からお聞かせ願えますか?
矢作 毎年話しているけど、好みの馬を買っていただいているので、バラエティーに富んでいる「ウチらしい」ラインナップだと思います。全ての馬が「ダービーを目指して」とはならないかもしれないけれど、セカンドグループにも良い馬が揃っているんじゃないかな。
棟広 特定の生産者に偏ることもなく、内国産、外国産と様々なタイプを揃えて結果を残している、素晴らしいことだと思います。早速ですが、今年も牡馬から順番に聞かせてください。まずは広尾サラブレッド倶楽部の2頭からお願いします。
矢作 母バートラムガーデン(父ハーツクライ・牡)と母ミスペンバリー(父ロードカナロア・牡)だね。前者は当歳時に自分で選んだ馬で、バランスの良さが気に入っています。早ければ夏の始動もあり得るけれど、おそらく秋のデビューになるでしょう。
棟広 広尾サラブレッド倶楽部で昨秋に追加募集した馬ですが、あっという間に満口になりました。それだけ、「矢作調教師が選んだ」というのが、会員の方に響いたんだと思います。
矢作 母ミスペンバリーはモンジュー肌で、上も長い距離で結果が出しているので、この父(ロードカナロア)ですが距離はもちそう。仕上がりが早いので、こちらにもってきてマイル以上のレースを使うのか、あるいは直入で2回函館の芝1800mを目指すか…いずれにしても、ウチの厩舎にしては早めの始動になると思います。シュウジデイファームの石川代表からは「動きます」と報告を受けていますよ。
棟広 他に早めの始動となりそうな馬はいますか?
矢作 母サプレザ(父ディープインパクト・牡)が近々、入厩する予定(編注:5月16日ゲート試験合格済)。当歳の時から好きな馬で、ここまで、この母から目立った産駒は出ていないけど、非常に楽しみにしています。
棟広 全姉のルーズベルトゲームはデビュー前にかなり評判になっていましたが、現時点で1勝止まりです。
矢作 個人的な考え方としては、上が走っていないことは気にしないです。同じ母から何頭も(活躍馬が)出る方が珍しい話で、一般的には1頭か2頭だよね。
棟広 里見オーナーとのことですが、確か預託先が決まっていない馬の中から選ぶ形でしたよね?
矢作 そうそう。この馬が抜けて良かったので、即決でした。お母さんに似てそこまで伸びのあるタイプではないから、適性的にはマイルぐらいかもしれないけど、本当にいい馬だよ。あとデビューが早そうなのは母ルージュクール(父ロードカナロア・牡)。
棟広 こちらはシルク・ホースクラブの募集馬ですね。ノーザンF空港を取材した編集の方からも、この馬の名前が挙がっていました。
矢作 今日、しがらきに移動していて、この馬と母サプレザを最初に(トレセンに)入れる予定(編注:5月9日に入厩済)。534キロと少し大き過ぎるところがどうかなと思いますが、伸びがあって距離ももちそうです。
棟広 今年はノースヒルズさんのところも牡馬のようですね。
矢作 母ロードクロサイト(父ディープインパクト・牡)と母ディルガ(父キズナ・牡)が入ります。前者はUnbridled's Songの肌で、上はダートでの活躍が目立っているけれど、この馬は硬さがないので芝でしょう。生まれた時から本当にいい馬で、この下もディープインパクトがつけられているぐらい。少し球節が張った時期があったので早めの始動ではないけれど楽しみは大きいです。後者は、新種牡馬となるキズナの産駒なので、適性等は未知数ですね。
棟広 キズナ産駒の印象はいかがですか?
矢作 色々なタイプを出すよね。母ピンクリップス(父キズナ・牡)はエンドスウィープ肌だけど、伸びがあって長い距離が良さそう。この馬はノーザンF空港で順調に進んでいるので、早めの移動も視野に入れています。
棟広 セレクトセール組についても教えてください。
矢作 母ウォッチハー(父ディープインパクト・牡)はディープにしてはやや詰まった体型で、お母さんもスピードタイプ。血統、馬体の両面からマイル路線での活躍を期待しています。母ベガスナイト(父ハーツクライ・牡)は社台Fで15秒を切るぐらいまで調整が進んでいます。こちらもクラシックというよりはマイルから2000mが主戦場になるかな。ものすごく期待している一頭です。母クリスプ(父American Pharoah・牡)も順調ですね。芝で走って欲しいけど…やっぱりダートでしょう。ただ、ダートといってもドバイとかケンタッキーといった期待をかけたくなるような素晴らしい馬です。
棟広 矢作先生の口から海外のレースの名前が出ても、それが夢物語には聞こえないんですよね。他に外国種牡馬産駒や外国産では…?
矢作 いわゆる「三振かホームラン」というタイプかもしれないけど、母Contredanse(父Frankel・牡)は楽しみですね。フランケルにしては胴伸びがあって、自分が思っているフランケルのイメージとはちょっと違うんだけど、大仕事をするんじゃないかという雰囲気を持っています。母Banksia(父Siyouni・牡)は仕上がりが早そう。ちょっと気性が前向き過ぎる点がどうかだけど、マイル路線での活躍を見込んでいます。
棟広 いわゆる「矢作ライン」の馬についてはいかがでしょう?
矢作 母ブロードストリート(父ロードカナロア・牡)が三浦大輔オーナーです。少し生まれが遅くて牡馬にしてはいくらか小さめだったんだけど、だいぶ追いついてきています。当歳の時、オーナーと一緒に回って20頭ぐらいピックアップした中から、この馬を選ばれました。母セブンスハーモニー(父ディープブリランテ・牡)は山田裕仁オーナー。こちらは1回函館に直入する予定です。最終的にはダートかなとも思うけど、仕上がりが早くてスピードがあるので1回函館の洋芝から使ってみるつもり。
「やっぱり馬はいい」母リリサイド
棟広 続いて、牝馬もお願いします。キャロットクラブから、リスグラシューの妹・母リリサイド(父ロードカナロア・牝)が入厩予定ですね。
矢作 姉とはタイプが違うけど、やっぱり馬はいいし、15秒ぐらいまで進んでいて調整も順調です。少し詰まっているのでリスグラシューより(距離適性)は短めかもしれません。
棟広 「矢作血統」としては母ラヴズオンリーミー(父ディープインパクト・牝)もいます。こちらはいかがでしょうか?
矢作 ラヴズオンリーユーがそれほど目立つ馬ではなかったというのもあるけど、馬はこちらの方がいいですね。少し神経質の部分もあるので成長待ちですが、リアルスティールも12月デビューでクラシックに乗ったように、とにかく成長力のある血統なので期待しています。
棟広 社台レースホースからは母プリンセスオブシルマー(父ディープインパクト・牝)が入ります。
矢作 先週土曜に山元に移動していて、6月入厩の予定。母は北米G1を4連勝した名牝で、そこにディープインパクトですからね。この血統で社台ファームでの動きもいいということなので、非常に楽しみにしています。現在446キロなので、競馬は420〜430キロぐらいになるかな。
棟広 最後に、外国産の牝馬についても教えてください。
矢作 母Intelyhente(父American Pharoah・牝)は、動きが良くて仕上がりが早いですね。「芝を使うのなら洋芝で」と考えているので、札幌1500mを目標に進めていきます。