Kダブシャインの正真正銘

Kダブシャインの正真正銘 vol.8

2015/06/06 23:00 投稿

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【今週の目次】
1.NEWS & TOPICS
2.近況報告
3.Kダブreview
4.Q&A
5.今後のスケジュール
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【1.NEWS & TOPICS】

アメリカではウータンクランのGZAがいまの売れてるラップからリリシズムが失われているとコラムを書いた。最近のラッパーたちが手を抜いた歌詞ばかりだと言っている。15年前のライムと比べてストリートの詩人がいなくなったと嘆いているのだ。読んだついでに自分なりの感想を述べてみたい。

確かにオレがラップを好きになった1985年ぐらいの曲は、それぞれ違うタイプのラッパーではあったけど現実を叙情的に表現して、なんかしら教訓めいたものをラップしていた。メッセージのある曲がほとんどで、単純なとこだと「デカイことばっかり言うな」や「成功したらみんなの態度が変わった」とか「欲張ると失うぞ」に「簡単にうまくいく話はない」から「政府を信じるな」そして「警察死ね!」的なことまで、現実の生活の中にある真実を語っていた。まるで日本語でいうことわざみたいな感じで。

ライムもオリジナルな組み合わせから、踏むタイミングもずらしたりして、各々のMCがそれぞれユニークなことを試していた。あの頃はラップ自体が新しかったから、毎週フレッシュなスタイルがあっちこっちから出てきて、それらを興奮して聴いてたのを考えると、今のはある程度もう成熟しきっちゃっていて、そこはまあ仕方ないのかもしれないけど、マジョリティーのラップヒッツの歌詞の内容が女や車、クラブで酒飲むみたいなリリックばかりなのも紛れもない事実だ。

そんなこともあって数年前にケンドリックラマーが例のコントロールで他の同世代ラッパーに向けて、「おまえらもっとやれるんじゃないのか!」と叱咤激励したのだろう。そこで過剰に受け取ったラッパーも数名いて騒ぎになったが、最終的にこの発言が多くのヒップホップファンの支持を得たことで、最近出したばかりの彼のニューアルバムは、メッセージの塊としか言えない真っ黒なソウルフルさですでに名作と評され、目下売れている最中である。

オレも昔「公開処刑」であるグループたちにむけて似たような事を言ったことがあるが、その時はDisったという事実だけ取り上げられ、何を伝えたかったのかは無視され、ただ「ひどいこと言うな」みたいに近いとこからも責められた記憶しかない。あれもコントロールのヴァースと同じで、メインストリームで売れて世間に名前も広く知れ渡り、多くの人が何を言ってるのか気にしている時に、ヒップホップならもうちょっと社会とのつながりを年相応に表現して欲しいと思ったのだ。

歌詞の最後に「自分の声の重みを知れ もう一度ジェイムスブラウンから聴け」と言ったのがそういう意味だ。自分が影響力のある立場になり何を発言するのか、というのもアーティストを生業にしてるなら当然作品で著すべきだし、毎日生きている社会や地域との関わりを自分なりに叙情した詩に書かなくては、いったい何のためのラップだと思う。いま映画が公開中のジェイムスブラウンは言わずと知れたゴッドファーザーオブラップであり、自分たちは黒人のプライドを失わずに自信をもって生きろと生涯歌い続けた。

いつの時代もリアルなMCは出てくるだろうけど、まあ結局多くは似たようなヤツらが出ては消えていくのだろう。しかし本物のラッパーはつねに人の心をつかみ、聞いた人間を確実に虜にしてしまうので、時代に淘汰されず、ずっと残っていくのも歴史が証明している。今のところ昔のようなリリシズムがメインストリームにはなくとも、アンダーグラウンドにはまだまだ蠢いてるようには見えているので、日米問わず新しいアーティストの自浄作用に期待したいところだ。

【2.近況報告】
メディアのリアル」を手にして、なんでKダブが立教大学で講義をしたのか不思議に思う人も多いと思うし、オレがワタナベエンターテインメントに所属した経緯についてもよく質問されるので、今回はその話を少ししようと思う。

2013年の夏にコミュニティラジオで選曲をしないか、と知り合いから誘いを受け、その頃ちょうどいろいろ別ジャンルの曲も聴いてたので、面白そうだなと思い、自分はラッパーだけどDJではないので、ちゃんと務まるかなと思いながらも、今までと違う新しいことがやれそうな気がして、期待を高めつつ承諾した。顔会わせとして目黒側沿いの水炊きの店に集まることになり、キャスティングは聞いていたが、いつもTVで見ていたキム兄と食事を同席することに少し緊張しながら、もう一人の出演者である吉田正樹さんとも初めてお会いした。


吉田さんがワタナベエンターテインメントの会長さんだということは理解していたんだけど、芸能プロは今までまったく無縁な業界だと思っていたので、いまいち気遅れしながらも、できるだけ失礼のないように心がけた。前にフジテレビでお笑いを長年やっていたプロデューサーだったことも少しずつわかってきて、オレも若い頃はフジテレビのお笑いが大好きだったので、3時間ほど経ち、お開きする頃には不思議と親近感が湧いていた。

帰り際に吉田さんの著書を3冊いただき、次にまた放送がある時までに読んで、それらしい感想を伝えなくてはと思い、まずは「人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ」を読むと、オレが10代に楽しんでたバラエティ番組のほとんどを受け持ってたこと、大人になってからも勉強になると思って見てた「日本のよふけ」や「トリビアの泉」などでも間接的にお世話になったことを知った。そしてすごく責任感のある人だということも、書いてあったエピソードから理解できた。

そして放送も始まり、何度か番組後の会食に連れてってもらい、少しずつ親睦が深まった気がして、本で読んだ部分はもちろん、会って話してるうちに、人となりまで尊敬するようになってきた。なぜなら、今まで芸能プロダクションに持っていたイメージが一気に覆されたからだ。おそろしく教養があり、世界に対しての深い見聞をもっていることに驚かされた。吉田会長はレコード業界では見たことないタイプだったので、面白い人物に出会えた喜びと同時に、一緒に仕事をすることの不安もなくなった。

そして半年が過ぎたぐらいの時期、吉田さんが立教大学でメディア論の集中講義を行うことになり、その上でこの期間中にヒップホップについて一度学生の前で話して欲しいと声をかけられ、それなら過去にも専門学校で講義をした経験もあったので出来るぞと思い、二つ返事で了承した。なぜこの吉田学校で貴重な一回の授業を任されるという大役で、オレに白羽の矢が立ったのかは、おそらく側近の若い衆が吹聴してくれたんだろうと想像もたやすいが、せっかくの機会なので出来るだけ詳しく面白くなるよう準備して臨んだ。

話した内容はヒップホップの起源から、それが全米に広まり、今や世界的に最も影響力のある音楽カルチャーになっていった経緯について、奴隷制の歴史も含め説明し、後半では日米のミュージックビジネスの違いについてもいくつか自分の考察を語らせてもらった。授業の終わりには生徒たちにちゃんとヒップホップを感じて欲しくて、一曲だけラップをライブで披露し、コール アンド リスポンスで受講してた若者たちと一体化できた。

おかげさまで生徒たちもツイートで、ラップやヒップホップを少し誤解していたとか、今まで関心が薄かったけど話を聞いて今回好きになったという声が思いのほか多く、大学の先生からもなかなか面白かったと褒めてもらえた。この反響は自分なりにも発見があって、これまでヒップホップもラップにもあまり馴染みがなかっただけで、実は生で見たり体験すれば理解も深まり、もっと好きになる人が意外に多いんだなと確認できた。

そこで!いささか前置きが長くなったが、その時の記念すべきレクチャーが錚々たる成功者で識者の皆さんの生々しい講義とともに一冊の本になって、つい先日書店に並んだのだ。内容についての感想は前回述べたので、それを読んでもらいたいが、テレビやネット、映画などの世界の内幕がリアルに語られていて、メディアと関わる上で視界が広くなることは間違いない。リテラシーを高くする秘密兵器になることをぜひ実感して欲しい。若者よ「メディアのリアル」を読んで賢くなろう!!


P.S. 今回教えることによって自分にも学ぶチャンスを与えられ、その後も一緒に仕事をさせてもらうことで、この目黒FMでの吉田さんとの出会いが、今までと違う数々のことに目を開かされることになるとは予想だにしませんでした。人生この歳で新たな展開を見せることには軽く戸惑いもありますが、気にかけていただき、本当に心から感謝しています。今後も期待に応えられるよう精進しますので、なにとぞご教示頂ければと存じます。


【3.Kダブreview】
今回のオススメはこちら。
【Nas TIME IS illMATIC / Nas】DVD

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昨年劇場公開されたNasの映画が今月2日にDVDリリースされた。このところ嬉しいことに、ラップドキュメンタリーの翻訳監修の仕事を毎年続けてやってるんだけど、この作品が自分自身も影響を受けたアルバムについての映画だったので、とても興味深く役割を務めることができたし、その後に幕張で見たコンサートも根こそぎ堪能したのは言うまでもない。

基本的には、発表当時にアルバム制作に参加していたプロデューサーや近くにいた関係者、それに血の繋がった父と弟が、Nasとこのレコードについてのエピソードを過去の映像に乗せて、たっぷり語り尽くすという内容になっている。やはりIll Willの死がこの神MCの才能とキャリアに大きく影響を与えていたんだな、ということもしっかり確認できた。

音楽としての革新性はもちろんのこと、Nasir Jonesのラッパーとしての視点を育んだ環境や背景が浮かび上がってくるのが、このドキュメンタリーの面白いところだ。彼が劣悪な地域の出身だからこそ、冷静に都会にはびこる虚栄心を見抜くことも可能だったのだろう。そして知見のある両親の力が大きかったことも紹介されている。

貧しかった場所から自分が見て感じたことをラップで表現し、大勢の人間が彼のライムに感銘を受け、長い時を経てからも各地から改めて評価され、名門大学の奨学金制度に名前を提供するまでになるなんて、このクラシックアルバム "Illmatic" で1994年にNasがデビューした時に、ドープなLPなのはわかってはいたが、ここまでになることを誰が想像しただろうか。

いやーヒップホップには夢があるなあ。

 

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