後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ

第38回:【書評】2013年・今年の1冊

2014/01/01 22:30 投稿

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後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第38回:【書評】2013年・今年の1冊
「コミックマーケット85」3日目(2013年12月31日、東京ビッグサイト)で配布したサークルペーパーです。

ベスト(1冊)
飯田泰之、荻上チキ『夜の経済学』扶桑社、2013年9月

ベター(10冊)
ベター1:西内啓『統計学が最強の学問である』ダイヤモンド社、2013年1月
ベター2:澤田康幸、上田路子、松林哲也『自殺のない社会へ――経済学・政治学からのエビデンスに基づくアプローチ』有斐閣、2013年6月
ベター3:ロジャー・グッドマン、井本由紀、トゥーッカ・トイボネン:編著『若者問題の社会学――視線と射程』明石書店、2013年6月
ベター4:鈴木智之『「心の闇」と動機の語彙――犯罪報道の一九九〇年代』青弓社、2013年12月
ベター5:小玉重夫『学力幻想』ちくま新書、2013年6月
ベター6:山村宏樹『楽天イーグルス 優勝への3251日――球団創設、震災、田中の大記録…苦難と栄光の日々』角川SSC新書、2013年10月
ベター7:みわよしこ『生活保護リアル』日本評論社、2013年7月
ベター8:片岡剛士『アベノミクスのゆくえ――現在・過去・未来の視点から考える』光文社新書、2013年4月
ベター9:常見陽平『普通に働け』イースト新書、2013年10月/常見陽平『「就社志向」の研究――なぜ若者は会社にしがみつくのか』角川Oneテーマ21、2013年11月
ベター10:速水健朗『フード左翼とフード右翼――食で分断される日本人』朝日新書、2013年12月

ベター次点
別冊宝島編集部(編)『ノンフィクションの「巨人」 佐野眞一が殺したジャーナリズム』宝島社、2013年4月
エリザベス・ノエル=ノイマン『沈黙の螺旋理論 改訂復刻版』池田謙一、安野智子:訳、北大路書房、2013年3月
鳥越規央『本当は強い阪神タイガース――戦力・戦略データ徹底分析』ちくま新書、2013年4月
今野晴貴『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』星海社新書、2013年4月
江森一郎『体罰の社会史 新装版』新曜社、2013年5月
濱口桂一郎『若者と労働――「入社」の仕組みから解きほぐす』中公新書ラクレ、2013年10月
久米郁男『原因を推論する――政治分析方法論のすゝめ』有斐閣、2013年11月

ワースト(1冊)
古市憲寿『誰も戦争を教えてくれなかった』講談社、2013年9月

ワースト次点
ワースト次点1:NHK取材班:編著『職場を襲う「新型うつ」』文藝春秋、2013年4月
ワースト次点2:岡田斗司夫FreeEX『僕らの新しい道徳』朝日新聞出版、2013年9月
ワースト次点3:谷本真由美『日本が世界一「貧しい」国である件について』祥伝社、2013年3月

以上のとおり確定いたしました!というわけで選評をば。まずベストですが、社会科学系の一般書としては、今年のみならず、ここ10年くらいで最高の出来のものが出てきたのではないかと思います。下ネタ(?)から生活保護に関する意識まで、社会学的に考えるとどう見ることができて、また調査や考察のデザインまで追うことができる同書は、まさに社会学や経済学などを志す学生や社会運動家にとって必読と言うことができるでしょう。

ベター2,7は社会保障系としました。ベター7は、以前より何回か盛り上がっている生活保護バッシングについて、実際の生活保護行政はどのようになっているのか、あるいは昨今の生活保護をめぐる政策の経済学的な影響はどうか、ということをかなり踏み込んだところまで書いた、気合いの入った著作です。ベター2は、自殺という社会現象に対して、様々なデータと分析を使ってその原因と解決策を統計学的に提言する、これも社会学系の極めて興味深い分析です。また経済系としてベター8を。こちらは現在のリフレ政策に代表される経済政策がどのような経済学的・歴史的位置づけなのかを多角的な視点で考察したものです。凡百の「アベノミクス」便乗本ではなく、2011年に行われていた講義が元になっている本なので、その点から考えても価値は高いと言えるでしょう。

労働系としてはベター8ですが、その前に。昨年にベターとして挙げた、今野晴貴『ブラック企業――日本を食い潰す妖怪』(文春新書、2012年)が、なんと大佛次郎論壇賞を獲得しました!!おめでとうございます!そしてベター8の2冊の書き手である常見陽平は、今野の活動を議論の面から支えている人の一人と言えますが、『普通に働け』は世にはびこる自己啓発言説の問題点を歴史とデータの両面から検証し、『「就社志向」の研究』は、ロスジェネ系の議論によって見えづらくなった、今の20代の労働について、こちらもデータを使って説得力のある議論を行っているものとして必読です。今年は常見の当たり年と言えるでしょう。まあワースト次点圏外ではありますが『アラフォー男子の憂鬱』(日経プレミアシリーズ、2013年)なんていうどうしようもない本もありますけど…。

教育系としてベター5を挙げましたが、こちらは教育をめぐる政策哲学の理論書として重宝すべきものです。そもそも現代の教育政策がどのような歴史のもとにあって、そしてどのように進められているかを見ることは、目前の「学力」に左右されない長期的視座を得る上で貴重です。言論系としてはベター3,4,10を。3は現代の若者論における社会構築主義的視点の欠如、4は「心の闇」という言葉が安直に使われる事による社会への悪影響、10は「食」をめぐる政治を書いており、若者論におけるニセ科学の蔓延を考える上でも重要なものが揃っていると言えるでしょう。ベター1は統計学。ここまで「データとか好きだから!」的な本をいくつか紹介してきましたが、本書は統計学そのもののダイナミズムを描いた本として、是非とも統計学を使いたい人には読んでほしいものです。ベター6は、祝!東北楽天優勝!ということで、主に旧近鉄の視点から現在の楽天の、創設時から今年のリーグ優勝に至るまでの流れを記した本をセレクトしてみました。優勝の余韻に浸りたい人はもちろん、2000年代後半~現在の球史に関する読み物としても高い完成度です。

続いてワーストですが、昨年に続き、若者擁護論系を中心にセレクトしました。とりわけワーストに挙げた『誰も戦争を教えてくれなかった』の酷さは今の「若手論客」の一つの完成形として見るべきだと思います。社会学者を名乗っているのにわずかばかりの社会学的要素もないならまだいいのですが、代わりにあるのが宿命論的な世代論だとしたら救いようがない。しかもそれを「1985年生まれの戦後」とか持ち上げる側もまた然り。それどころか帯やカバーに著者の写真とか、最早著者はアイドルですか?同書には本物のアイドルである「ももいろクローバーZ」の5人が出てきますが、こういう「若手論客」の宿命論に付き合わされるなんてむしろももクロが心配になります…。古市憲寿はワースト次点2にも出てきますが、これも岡田斗司夫というある種の若者特殊論でのし上がった人物が、より若い世代に対してステレオタイプを固定化させてしまう典型例と言え、そこにホイホイ入っていく古市は果たして社会学者として適切かどうか。ワースト次点3は、「日本はこんなに出遅れている!」とか言っておきながら、結局のところ「グローバル」を振りかざして、ひたすら「日本社会」に対するバッシングを煽るだけ。谷本とか、あるいは田村耕太郎とかちきりん=伊賀泰代とかイケダハヤトとかもそうですけど、「意識の高い人間を煽るスキル」だけは長けているけれど社会についてはまったく考えていない、そんな若者擁護論者の「活躍」が目立ちました。

唯一バッシング系としてノミネートしたワースト次点1は、まさに若い世代の精神病理に関する言説がいかにして世代論を得て、差別的なニュアンスを帯びていくかを考えること「だけ」については必読と言えるかもしれませんね。ってかここにも古市が出てきている。いい加減にしろ。


選評は以上です。今年の私は5年ぶりの商業新刊のほか、社会学系にも手を出すようになり、主に理論面での強化を図ってきました。そのため、商業の『「あいつらは自分たちとは違う」という病』と、その副産物的な位置づけである同人誌の『古明地さとりの自己形成論講義』『「働き方」を変えれば幸せになれる?』は、今までの私とはかなり色の違う本になったかもしれませんが、それが一つの収穫だと思います。これらの本を書くことによって、かえって今まで無視してきた「若手論客」たちの問題点がより一層見えてきました。

それは彼らがメディアにおける若年層劣化言説やニセ科学と決して対峙しない、そして「新しい若者」というここ40~50年ほどの若い世代に対する幻想を投影するにはちょうどいい存在であるということです。特にワースト・次点に何回も登場している古市憲寿は、まさにそのような手法で上り詰めてきた論客と言えるでしょう。しかし、彼の言説を「若者代表」としてもてはやしていると、かえって若い世代に対する偏見を強めたりしまいか――。そういう疑念が強まった1年でした。

理論系の社会学という、今まで苦手な分野に踏み込んでこそ、改めて若者論の問題点がわかったので、これからはさらに新しい分野に進撃していこうと思っています。手始めに、1月には弊サークルは艦これジャンルに進出し、また来年中に東方Projectの二次創作で政治哲学の解説書を出す予定です。お楽しみに。

【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第39回:【年頭所感】「無視」してはいけない――俗説といかに対峙するか(2014年1月5日配信予定:「SUPER ADVENTURES 70」のサークルペーパーとして配信します。)
第40回:【政策】PISA2011年調査を読む(2014年1月15日配信予定:「仙台コミケ214」のサークルペーパーとして配信します。)
第41回:未定(2014年1月25日配信予定:「こみっく☆トレジャー23」のサークルペーパーとして配信します。)

【近況】
・「コミックマーケット85」新刊の『統計同人誌をつくろう!――調べて、分析して、書きたい人のために』『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム――市民のための統計学Special2』が、メロンブックス・とらのあな・COMIC ZINにて委託販売中です。詳細は各同人誌の情報ページをご覧ください。
『統計同人誌をつくろう!』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717450615.html
『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717449750.html

・「SUPER ADVENTURES 70」にサークル参加予定です。
開催日:2014年1月5日(日)
開催場所:ビッグパレットふくしま(福島県郡山市)
アクセス:JR各線「郡山」駅前1番バス停より福島交通バスで「ビッグパレット前」下車すぐ/JR東北本線・水郡線「安積永盛」駅より徒歩15分程度/東北自動車道「郡山南」インターチェンジより車で15分程度
スペース:「B」ブロック17

・「仙台コミケ214」にサークル参加予定です。
開催日:2014年1月12日(日)
開催場所:夢メッセみやぎ(宮城県仙台市宮城野区)
アクセス:宮城交通バス「仙台港フェリーターミナル」行きバス停「夢メッセみやぎ前」下車すぐ/JR仙石線「中野栄」駅より徒歩20分程度/仙台東部道路「仙台港」インターチェンジより車で5分程度
スペース:「D」ブロック18

・「こみっく☆トレジャー23」にサークル参加予定です。
開催日:2014年1月19日(日)
開催場所:インテックス大阪(大阪府大阪市住之江区)
アクセス:大阪市交通局南港ポートタウン線「中ふ頭」駅より徒歩3分程度
スペース:「ケ」ブロック14a

・「海ゆかば2」(艦隊これくしょんオンリーイベント)にサークル参加予定です。
開催日:2014年1月26日(日)
開催場所:大田区産業プラザPiO(東京都大田区)
アクセス:京急本線・空港線「京急蒲田」駅より徒歩3分程度
スペース:未定
備考:新刊『提督のための統計学――艦隊決戦統計解析論序説』(仮題)刊行予定です。

・「コミティア107」にサークル参加予定です。
開催日:2014年2月2日(日)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:前掲
スペース:「S」ブロック26b
備考:二次創作関係作品を頒布しません。また、商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』(日本図書センター)を頒布予定です。

・「東方紅楼夢9.5 遠野物語」にサークル参加予定です。
開催日:2014年3月2日(日)
開催場所:あえりあ遠野(岩手県遠野市)
アクセス:JR釜石線「遠野」駅から徒歩10分程度/釜石自動車道「宮守」インターチェンジから車で30分程度
スペース:未定
※JR釜石線「遠野」駅は、東北新幹線「新花巻」駅から快速列車で40分程度、普通列車で1時間程度。

・「幻想郷フォーラム2014」(東方Project情報・評論系オンリーイベント)にサークル参加予定です。
開催日:2014年3月30日(日)
開催場所:名古屋市国際展示場(ポートメッセなごや)(愛知県名古屋市港区)
アクセス:名古屋臨海高速鉄道あおなみ線「金城ふ頭」駅より徒歩5分程度/伊勢湾岸自動車道「名港中央」インターチェンジより車で5分程度
スペース:未定

・日本図書センターより5年ぶりの商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』が刊行されました。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。
Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4284503421/
楽天ブックス:http://books.rakuten.co.jp/rb/12468953/

(2014年1月1日)

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第37回:【科学・統計】回帰分析で見る「艦これ」遠征
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年1月1日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/

Twitter:@kazugoto
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