後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第34回:【政策】国際成人力調査をどう読むか/第35回:【書評】秋の書評祭り
第34回 【政策】PIAAC(OECD国際成人力調査)をどう読むか?
「SUPER ADVENTURES 69」(2013年10月27日、ビッグパレットふくしま)で配布したサークルペーパーです。
さて今回のFree Talkですが、先日発表された、OECD国際成人力調査(PIAAC)の結果について、若者論研究の視点から(?)いくつか解説を加えてみたいと思います。PIAACについては、先日発行された、国立教育政策研究所『成人スキルの国際比較――OECD国際成人力調査(PIAAC)報告書』(明石書店、2013年)という報告書がありますので、こちらを見ていくことにします。
「成人力」と言うと20歳以上を対象にしているように聞こえるかもしれませんが、実際には16歳~65歳が調査対象となっています。同じOECDが行っているPISAは15歳時の学力(PISAの規定する学力は我が国の一般的な学力調査で考えられているものとはだいぶ違うので注意が必要ですが)を測るので、PIAACの被験者にはPISAを受けた年代の人も含まれます。日本では5,278票が回収され、また言語や移民などの社会的背景を考慮したオーバーサンプリングは行われていません。
PIAACは「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3科目で行われ、原則としてコンピュータで行われます(ただしコンピュータが苦手である被験者に対してはペーパーテストで受けることもできる)。対象国は下記に掲げる24国・地域で、調査時期は日本は2011年8月から2012年2月にかけて行われています。
対象国・地域
国:オーストラリア、オーストリア、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、韓国、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スロバキア、スペイン、スウェーデン、アメリカ
地域:ベルギー・フランドル地域、イギリス・イングランド及び北アイルランド
OECD非加盟国:キプロス、ロシア
順位は全体と16~24歳に限定したものが掲載されています。それぞれの順位を見て見ましょう。まず全体では、「読解力」が296点で1位(他に有意差がない国はなし)、「数的思考力」が288点で1位(他に有意差がない国はなし)でした。「ITを用いた問題解決能力」は総合的な順位は出されていないのですが、習熟度レベルをランク分けしたときに、高い水準であるレベル2・3の割合は日本は35%で10番目(高い順番からスウェーデン、フィンランド、オランダ、ノルウェー、デンマーク、オーストリア、カナダ、ドイツ、ベルギー)であり、他方でコンピュータで受検した被験者の平均点は日本が294点で最も高くなっています。
次に16~24歳ですが、順位が算出されている「読解力」「数的思考力」では、それぞれ1位(299点。2位のフィンランドと有意差なし)と3位(283点。1位~10位のオランダ、フィンランド、ベルギー、韓国、オーストリア、エストニア、スウェーデン、チェコ、スロバキアと有意差なし)になっており、全体及び若い世代の両方でトップクラスの成績となっています。まあ、案の定「若い世代に課題」とか言う「分析」も多いんですけど、若い世代が低く、20代後半~30代くらいが最もピークになるという傾向は我が国のみならずOECD平均でも見られますので、安直に若い世代が上の世代と比べて劣っている、という表現は慎んだ方がいいかと思います。
少し前に、大学生の学力低下が話題になっていたときに、ある学者はチートを使ってまで我が国の大学生の学力が低いと言うことを躍起になって「立証」していましたが、政策志向で設計され、PIAACという国際的にもある程度の説明責任が求められる調査においてこのような結果が出たことに対してどのような態度を見せるのか、是非とも見てみたいものです(なおこの「学力調査」については、『現代学力調査概論――平成日本若者論史3』を参照されたい)。
閑話休題、続いてPISAとPIAACの結果の比較を見てみましょう。PISAとPIAACを比較する際に、それぞれのPISAに対応するPIAAC受検時の年齢は次の通りになります。
PISA2000:26~28歳
PISA2003:23~25歳
PISA2006:20~22歳
PISA2009:17~19歳
分析が行われているのは「読解力」「数的思考力(PISAでは数学的リテラシー)」ですが、読解力では、興味深いことに、全てのPISAとの比較で、PIAACでの順位を挙げているのです(対PISA2000:6位→1位、対PISA2003:9位→2位、対PISA2006:11位→2位、対PISA2009:4位→1位。ただしPISAの順位はPIAAC参加国のみ)。またフィンランドは各PISAとPIAACの両方で高い順位を出している一方で、カナダはPISAは高いのですがPIAACは低いという結果となっているなど、PISAの順位が高い国でも一筋縄では行かないと言うことがわかると思います。数的思考力(数学的リテラシー)では、読解力でのフィンランドと似たような傾向で、双方で高い順位というものになっています(対PISA2000:1位→2位、対PISA2003:4位→3位、対PISA2006:5位→2位、対PISA2009:3位→4位)。
また我が国の特徴として挙げられているのは、成人教育・訓練の参加率(42%程度。OECD平均は52%程度、フィンランドは65%程度)に比べて成績が遥かに高いことです。ここから、我が国の成人は、学校教育修了時点でOECDの視点から見て、社会参加に必要な最低限の学力を兼ね備えていると言うこともできると思います。
以上から考えると、少なくともOECDの考える(成人)教育の役割から考えれば、我が国の中等教育以上の教育は、成人時の教育訓練をそれほど受けなくとも社会三角のための最低限の知識が得られるようになっているという側面から見れば、それなりに成功を収めていると言うことはできると思います。もちろんOECDやこの報告書の書き手である国立教育政策研究所にしてもこれら以外の分析結果を発表してはいるのですが、少なくとも我が国の高校生(義務教育修了者)以上の、社会に必要な学力については現時点である程度保障されていると考えるべきではないでしょうか。安直な教育叩き、若年層叩きの前に、これは確認しておきたいと思うのです。
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第35回 【書評】秋の書評祭り
「杜の奇跡21」(2013年11月3日、仙台市情報・産業プラザ)・「第十七回文学フリマ」(2013年11月4日、東京流通センター)で配布したサークルペーパーです。
1. ロジャー・グッドマンほか:編『若者問題の社会学――視線と射程』明石書店
http://www.amazon.co.jp/dp/4750338281/
日本においては青少年問題を構築主義的に考えるアプローチは、マスコミはおろか、社会学の場においてもあまり普及していないように思える。理由は評者の商業新刊や、あるいはこの後に書評する予定の浅野智彦の『「若者」とは誰か』にもその一端が示されているように、主に1970年代以降の青少年研究が、若い世代の「新しさ」に過剰に注目し、さらに近年になってそこに「寄り添う」アプローチが強化されたというものがあるだろう。そのため「若者」の概念は無駄に拡大し、また「若者」と非「若者」の間の言説の上での断絶は強まっているように見える。
我が国ではこういった若者論の状況があるため、本書のような視点で書かれた研究は極めて貴重だ。本書では「引きこもり」や「ニート」などと言った一時期の若者論を騒がせたテーマから、帰国子女へのまなざしなど一見すると若者論とはあまり関係のないテーマに至るまで、主に言説や社会環境の変遷から検証していくものである。そこでは若い世代を「特殊」と見なすような我が国の若者論の「文化」から離れて、若い世代の「特殊性」を強調する文脈から若年層の問題を切り離すものとして役に立つだろう。
しかし気になるのは本書が社会学の側においてどのように受け止められるかである。本書の日本語版には古市憲寿が序文を寄せており、古市は《「若者を弱者として発見するまなざし」自体を、本書は問題化する》と、古市の従前の主張である「ロスジェネ」系言説への批判(皮肉)に寄り添って書いているが、それは本書の一部でしかなく、実際には「若者を社会から切り離された特殊な存在として発見するまなざし」を問題化するものであり、なおかつ古市はそのような「まなざし」の中で持ち上げられてきたのではなかったか(このように、「若者=弱者」的なロスジェネ系言説を批判するそぶりを見せながら、結局「若者=特殊」という根本的な構造を疑おうとはしない古市の態度はこの解説にも頻出する)。また本書の帯にも「ニッポンの外から見るとこう見えるのか」と書かれており、あくまでも「外部」であることが強調されているように見える。
しかし、本書によるアプローチを「特殊」「外部」としてはねつけ続けてきたことこそ、我が国の社会学において「若者問題の社会学」を困難にするものではなかったか。同書の提示した視点を、特に我が国の若者研究に関わる人間は「外」のものとして処理するのではなく、正面から向き合ってほしいと思う。
2. 浅野智彦『「若者」とは誰か――アイデンティティの30年』河出ブックス
http://www.amazon.co.jp/dp/4309624618/
自己の社会学を専門分野とし、なおかつ若者論にも詳しい社会学者の最新刊であるが、取り扱っている時期が評者の商業新刊と大筋で重なっている。1980年代以降は「若者」というものに向けられるイメージが現在のものに固定化していく端緒を生み出した時期というものも、本書と共通しているものである…だからといって決して本書に価値がないと言いたいわけではありませんからね!特になぜ「アイデンティティ」が問題化されたのかについての整理が非常に著者の専門性を感じさせる出来となっている。
「アイデンティティの30年」とサブタイトルにある通り、本書はアイデンティティ論の関係からここ30年ほどの若者論を照射し、それを「語る」上での環境にどのような変化があったかについてまとめている。特にオタク論とコミュニケーション論の関わりや、「過剰なコミュニケーション」について述べられているところは一読に値するだろう。
ただ他方で、社会学系の議論そのものに対してはどちらかというと肯定的に引用されていたり、あるいは「自己の多元化」が「ある」ということから「やはり若者は変化しているのだ」ということを主張したいあまり、「それは社会を論ずるにあたってどれだけ重要なのか」という視点が抜け落ちているのではないかという疑問は残った。このあたり、現代の若者論をめぐる社会学の宿痾なのかもしれない。
3. 荻上チキ、飯田泰之『夜の経済学』扶桑社
http://www.amazon.co.jp/dp/4594069169/
社会学的なテーマをわかりやすく扱うのは難しい。特にデータが絡んでくるものはさらに難しくなる。特に若者論関係においては、データに基づく議論よりも若い世代の「新しさ」「リアル」を強調する言説のほうが「受ける」からだ。そのような状況にあって、メディア露出も多い社会科学系の論客で最強と言えるこのコンビが組んだ本書は極めて画期的なものであると言える。
評者の専門分野である若者論に関する分野で言うと、第4章の「幸福な若者」を扱った章、第5章の生活保護に対する意識、そして第6章のデマの伝搬に関する調査は極めて収穫が大きいものであった。例えば第4章においては、「幸福な若者」なる存在を扱うにあたって、そもそも「幸福度」とはどういう風に調べるのかという問いからスタートし、さらに(大学生限定ではあるが)アンケート調査や分析を通じて「どういう層が」幸福を感じているのかという、「幸福な若者」論ではほとんど見られなかった定量的アプローチがなされるという実に親切な設計である。生活保護に関する意識調査にしても、やはり特定の層を十把一絡げにするのではなく、調査の分析を通じて「どういう層が」「どのくらい」を優先して明らかにしていく様は、まさに社会科学的なジャーナリズムの可能性を感じさせるものであった。
データの元が雑誌(『週刊SPA!』)の連載であり大規模なデータや分析は望めないものの、いやそれだからこそ限られたデータの中でいかに重要な知見を見つけていくかというこの手の調査の強みを最大限発揮しているし、また各章を追うことによって、調査のデザインから分析結果に至るまでを追体験できる、まさに構築主義的な社会論の一般向けの最高峰と言って差し支えないだろう。
4. 常見陽平『普通に働け』イースト新書
http://www.amazon.co.jp/dp/4781650120/
どちらかと言えば当たり外れが大きいという印象のある著者だが、本書は大当たり。タイトルこそ「普通に働け」なのだが、実は「普通に働く」ってどういうことか、ということが不明確になっているという問題意識から始まる。そしてそこから、「新しい働き方」を煽るような言説に対して、言説研究や各種データを用いて検証していく様はまさに著者の手腕のよさを感じさせるものである。特に「普通に働く」ことをある種特殊なもの、もしくは後進的なものと捉えることにより、かえって就職活動の問題が深刻化したり、あるいは所謂「ブラック企業」を受け入れてしまうような情勢ができてしまっているという第1,3章の指摘は興味深かった。
また第2章は若い世代の労働問題についてであるが、「若年労働問題」としてメインで論じられるようなロスジェネ世代ではなく、さらに若い世代である現在の20代周辺を扱っているのは、この手の一般書では意外にも少ないという印象があるため、この点でも貴重である。特に第2章の最後にある「ニッポンのジレンマ」に対する皮肉(この番組に出てくるような論客が持ち上げられることこそ「ジレンマ」である)には笑ってしまった(笑)。確かに、特にロスジェネとかその当たりの論客から「自分は若者だ」という意識が肥大化しているような気がするよなぁ。
5. 濱口桂一郎『若者と労働――「入社」の仕組みから解きほぐす』中公新書ラクレ
http://www.amazon.co.jp/dp/4121504658/
厚生労働省の官僚や労働政策研究・研修機構の研究員として長い間労働政策の研究に関わってきた著者による、若年労働政策の概説書として最高のものと言うことができる。まずこのような仔細な解説が新書という形で読めることに感謝したくなる。そもそも我が国においてなぜ若年労働問題が「認識されてこなかったか」について始まり、欧州との若年労働問題の「問題化」の過程の違い、さらに周辺の問題である大学教育や社会保障などといった問題に至るまでが若年労働問題と有機的に接続された形で書かれており、これを読まずして若年労働問題を語ることなかれと言えるほどの出来に仕上がっている。
【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第36回:未定(2013年11月15日配信予定:「おでかけライブin盛岡183」のサークルペーパーとして配信予定です)
第37回:【思潮】古市憲寿『誰も戦争を教えてくれなかった』をどう読むか(仮題)(2013年11月25日配信予定:「地底の読心裁判 上告」「仙台コミケ214」のサークルペーパーとして配信予定です)
第38回:未定(2013年12月5日配信予定:「新潟東方祭13」のサークルペーパーとして配信予定です)
【近況】
・「コミックマーケット85」に当選しました。
開催日:2013年12月29~31日
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅徒歩すぐ、東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩5分程度
スペース:3日目(12月31日)西館「ふ」ブロック15a
委託などについても調整中です。
・「おでかけライブin盛岡183」にサークル参加します。
開催日:2013年11月10日(日)
開催場所:岩手県産業会館(岩手県盛岡市)
アクセス:JR各線・IGRいわて銀河鉄道「盛岡」駅より岩手県交通都心循環バス「盛岡城城跡公園」下車
スペース:「G」ブロック10
・「地底の読心裁判 上告」(東方Project四季映姫・古明地さとりオンリーイベント)にサークル参加します。
開催日:2013年11月17日(日)
開催場所:川崎市産業振興会館(神奈川県川崎市幸区)
アクセス:JR各線「川崎」駅、京急本線・大師線「京急川崎」駅より徒歩5分程度
スペース:「読心」ブロック19
・「新潟東方祭13」にサークル参加予定です。
開催日:2013年12月1日(日)
開催場所:新潟卸センター(新潟県新潟市東区)
アクセス:新潟交通「万代シテイバスセンター」バス停より新潟交通バスで「卸会館前」下車徒歩すぐ/JR各線「新潟」駅よりタクシーで15分程度/磐越自動車道「新潟中央」インターチェンジより車で15分程度
スペース:「文」ブロック8
・日本図書センターより5年ぶりの商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』が刊行されました。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。
Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4284503421/
楽天ブックス:http://books.rakuten.co.jp/rb/12468953/
・「第9回東方紅楼夢」新刊同人誌『西行寺幽々子の生命保険数学基礎講座』の予約がメロンブックス・とらのあな・COMIC ZINにて発売中です。電子版もメロンブックスDLにて配信中です。
告知ページ http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11625231924.html
メロンブックス通販ページ http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001066173
とらのあな通販ページ http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/15/52/040030155205.html
COMIC ZIN通販ページ http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=18054
(2013年11月5日)
奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第34回:【政策】国際成人力調査をどう読むか/第35回:【書評】秋の書評祭り
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2013(平成25)年11月5日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
Twitter:@kazugoto
Facebook…
個人:http://www.facebook.com/kazutomo.goto.5
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第34回:【政策】国際成人力調査をどう読むか/第35回:【書評】秋の書評祭り
第34回 【政策】PIAAC(OECD国際成人力調査)をどう読むか?
「SUPER ADVENTURES 69」(2013年10月27日、ビッグパレットふくしま)で配布したサークルペーパーです。
さて今回のFree Talkですが、先日発表された、OECD国際成人力調査(PIAAC)の結果について、若者論研究の視点から(?)いくつか解説を加えてみたいと思います。PIAACについては、先日発行された、国立教育政策研究所『成人スキルの国際比較――OECD国際成人力調査(PIAAC)報告書』(明石書店、2013年)という報告書がありますので、こちらを見ていくことにします。
「成人力」と言うと20歳以上を対象にしているように聞こえるかもしれませんが、実際には16歳~65歳が調査対象となっています。同じOECDが行っているPISAは15歳時の学力(PISAの規定する学力は我が国の一般的な学力調査で考えられているものとはだいぶ違うので注意が必要ですが)を測るので、PIAACの被験者にはPISAを受けた年代の人も含まれます。日本では5,278票が回収され、また言語や移民などの社会的背景を考慮したオーバーサンプリングは行われていません。
PIAACは「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3科目で行われ、原則としてコンピュータで行われます(ただしコンピュータが苦手である被験者に対してはペーパーテストで受けることもできる)。対象国は下記に掲げる24国・地域で、調査時期は日本は2011年8月から2012年2月にかけて行われています。
対象国・地域
国:オーストラリア、オーストリア、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、韓国、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スロバキア、スペイン、スウェーデン、アメリカ
地域:ベルギー・フランドル地域、イギリス・イングランド及び北アイルランド
OECD非加盟国:キプロス、ロシア
順位は全体と16~24歳に限定したものが掲載されています。それぞれの順位を見て見ましょう。まず全体では、「読解力」が296点で1位(他に有意差がない国はなし)、「数的思考力」が288点で1位(他に有意差がない国はなし)でした。「ITを用いた問題解決能力」は総合的な順位は出されていないのですが、習熟度レベルをランク分けしたときに、高い水準であるレベル2・3の割合は日本は35%で10番目(高い順番からスウェーデン、フィンランド、オランダ、ノルウェー、デンマーク、オーストリア、カナダ、ドイツ、ベルギー)であり、他方でコンピュータで受検した被験者の平均点は日本が294点で最も高くなっています。
次に16~24歳ですが、順位が算出されている「読解力」「数的思考力」では、それぞれ1位(299点。2位のフィンランドと有意差なし)と3位(283点。1位~10位のオランダ、フィンランド、ベルギー、韓国、オーストリア、エストニア、スウェーデン、チェコ、スロバキアと有意差なし)になっており、全体及び若い世代の両方でトップクラスの成績となっています。まあ、案の定「若い世代に課題」とか言う「分析」も多いんですけど、若い世代が低く、20代後半~30代くらいが最もピークになるという傾向は我が国のみならずOECD平均でも見られますので、安直に若い世代が上の世代と比べて劣っている、という表現は慎んだ方がいいかと思います。
少し前に、大学生の学力低下が話題になっていたときに、ある学者はチートを使ってまで我が国の大学生の学力が低いと言うことを躍起になって「立証」していましたが、政策志向で設計され、PIAACという国際的にもある程度の説明責任が求められる調査においてこのような結果が出たことに対してどのような態度を見せるのか、是非とも見てみたいものです(なおこの「学力調査」については、『現代学力調査概論――平成日本若者論史3』を参照されたい)。
閑話休題、続いてPISAとPIAACの結果の比較を見てみましょう。PISAとPIAACを比較する際に、それぞれのPISAに対応するPIAAC受検時の年齢は次の通りになります。
PISA2000:26~28歳
PISA2003:23~25歳
PISA2006:20~22歳
PISA2009:17~19歳
分析が行われているのは「読解力」「数的思考力(PISAでは数学的リテラシー)」ですが、読解力では、興味深いことに、全てのPISAとの比較で、PIAACでの順位を挙げているのです(対PISA2000:6位→1位、対PISA2003:9位→2位、対PISA2006:11位→2位、対PISA2009:4位→1位。ただしPISAの順位はPIAAC参加国のみ)。またフィンランドは各PISAとPIAACの両方で高い順位を出している一方で、カナダはPISAは高いのですがPIAACは低いという結果となっているなど、PISAの順位が高い国でも一筋縄では行かないと言うことがわかると思います。数的思考力(数学的リテラシー)では、読解力でのフィンランドと似たような傾向で、双方で高い順位というものになっています(対PISA2000:1位→2位、対PISA2003:4位→3位、対PISA2006:5位→2位、対PISA2009:3位→4位)。
また我が国の特徴として挙げられているのは、成人教育・訓練の参加率(42%程度。OECD平均は52%程度、フィンランドは65%程度)に比べて成績が遥かに高いことです。ここから、我が国の成人は、学校教育修了時点でOECDの視点から見て、社会参加に必要な最低限の学力を兼ね備えていると言うこともできると思います。
以上から考えると、少なくともOECDの考える(成人)教育の役割から考えれば、我が国の中等教育以上の教育は、成人時の教育訓練をそれほど受けなくとも社会三角のための最低限の知識が得られるようになっているという側面から見れば、それなりに成功を収めていると言うことはできると思います。もちろんOECDやこの報告書の書き手である国立教育政策研究所にしてもこれら以外の分析結果を発表してはいるのですが、少なくとも我が国の高校生(義務教育修了者)以上の、社会に必要な学力については現時点である程度保障されていると考えるべきではないでしょうか。安直な教育叩き、若年層叩きの前に、これは確認しておきたいと思うのです。
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第35回 【書評】秋の書評祭り
「杜の奇跡21」(2013年11月3日、仙台市情報・産業プラザ)・「第十七回文学フリマ」(2013年11月4日、東京流通センター)で配布したサークルペーパーです。
1. ロジャー・グッドマンほか:編『若者問題の社会学――視線と射程』明石書店
http://www.amazon.co.jp/dp/4750338281/
日本においては青少年問題を構築主義的に考えるアプローチは、マスコミはおろか、社会学の場においてもあまり普及していないように思える。理由は評者の商業新刊や、あるいはこの後に書評する予定の浅野智彦の『「若者」とは誰か』にもその一端が示されているように、主に1970年代以降の青少年研究が、若い世代の「新しさ」に過剰に注目し、さらに近年になってそこに「寄り添う」アプローチが強化されたというものがあるだろう。そのため「若者」の概念は無駄に拡大し、また「若者」と非「若者」の間の言説の上での断絶は強まっているように見える。
我が国ではこういった若者論の状況があるため、本書のような視点で書かれた研究は極めて貴重だ。本書では「引きこもり」や「ニート」などと言った一時期の若者論を騒がせたテーマから、帰国子女へのまなざしなど一見すると若者論とはあまり関係のないテーマに至るまで、主に言説や社会環境の変遷から検証していくものである。そこでは若い世代を「特殊」と見なすような我が国の若者論の「文化」から離れて、若い世代の「特殊性」を強調する文脈から若年層の問題を切り離すものとして役に立つだろう。
しかし気になるのは本書が社会学の側においてどのように受け止められるかである。本書の日本語版には古市憲寿が序文を寄せており、古市は《「若者を弱者として発見するまなざし」自体を、本書は問題化する》と、古市の従前の主張である「ロスジェネ」系言説への批判(皮肉)に寄り添って書いているが、それは本書の一部でしかなく、実際には「若者を社会から切り離された特殊な存在として発見するまなざし」を問題化するものであり、なおかつ古市はそのような「まなざし」の中で持ち上げられてきたのではなかったか(このように、「若者=弱者」的なロスジェネ系言説を批判するそぶりを見せながら、結局「若者=特殊」という根本的な構造を疑おうとはしない古市の態度はこの解説にも頻出する)。また本書の帯にも「ニッポンの外から見るとこう見えるのか」と書かれており、あくまでも「外部」であることが強調されているように見える。
しかし、本書によるアプローチを「特殊」「外部」としてはねつけ続けてきたことこそ、我が国の社会学において「若者問題の社会学」を困難にするものではなかったか。同書の提示した視点を、特に我が国の若者研究に関わる人間は「外」のものとして処理するのではなく、正面から向き合ってほしいと思う。
2. 浅野智彦『「若者」とは誰か――アイデンティティの30年』河出ブックス
http://www.amazon.co.jp/dp/4309624618/
自己の社会学を専門分野とし、なおかつ若者論にも詳しい社会学者の最新刊であるが、取り扱っている時期が評者の商業新刊と大筋で重なっている。1980年代以降は「若者」というものに向けられるイメージが現在のものに固定化していく端緒を生み出した時期というものも、本書と共通しているものである…だからといって決して本書に価値がないと言いたいわけではありませんからね!特になぜ「アイデンティティ」が問題化されたのかについての整理が非常に著者の専門性を感じさせる出来となっている。
「アイデンティティの30年」とサブタイトルにある通り、本書はアイデンティティ論の関係からここ30年ほどの若者論を照射し、それを「語る」上での環境にどのような変化があったかについてまとめている。特にオタク論とコミュニケーション論の関わりや、「過剰なコミュニケーション」について述べられているところは一読に値するだろう。
ただ他方で、社会学系の議論そのものに対してはどちらかというと肯定的に引用されていたり、あるいは「自己の多元化」が「ある」ということから「やはり若者は変化しているのだ」ということを主張したいあまり、「それは社会を論ずるにあたってどれだけ重要なのか」という視点が抜け落ちているのではないかという疑問は残った。このあたり、現代の若者論をめぐる社会学の宿痾なのかもしれない。
3. 荻上チキ、飯田泰之『夜の経済学』扶桑社
http://www.amazon.co.jp/dp/4594069169/
社会学的なテーマをわかりやすく扱うのは難しい。特にデータが絡んでくるものはさらに難しくなる。特に若者論関係においては、データに基づく議論よりも若い世代の「新しさ」「リアル」を強調する言説のほうが「受ける」からだ。そのような状況にあって、メディア露出も多い社会科学系の論客で最強と言えるこのコンビが組んだ本書は極めて画期的なものであると言える。
評者の専門分野である若者論に関する分野で言うと、第4章の「幸福な若者」を扱った章、第5章の生活保護に対する意識、そして第6章のデマの伝搬に関する調査は極めて収穫が大きいものであった。例えば第4章においては、「幸福な若者」なる存在を扱うにあたって、そもそも「幸福度」とはどういう風に調べるのかという問いからスタートし、さらに(大学生限定ではあるが)アンケート調査や分析を通じて「どういう層が」幸福を感じているのかという、「幸福な若者」論ではほとんど見られなかった定量的アプローチがなされるという実に親切な設計である。生活保護に関する意識調査にしても、やはり特定の層を十把一絡げにするのではなく、調査の分析を通じて「どういう層が」「どのくらい」を優先して明らかにしていく様は、まさに社会科学的なジャーナリズムの可能性を感じさせるものであった。
データの元が雑誌(『週刊SPA!』)の連載であり大規模なデータや分析は望めないものの、いやそれだからこそ限られたデータの中でいかに重要な知見を見つけていくかというこの手の調査の強みを最大限発揮しているし、また各章を追うことによって、調査のデザインから分析結果に至るまでを追体験できる、まさに構築主義的な社会論の一般向けの最高峰と言って差し支えないだろう。
4. 常見陽平『普通に働け』イースト新書
http://www.amazon.co.jp/dp/4781650120/
どちらかと言えば当たり外れが大きいという印象のある著者だが、本書は大当たり。タイトルこそ「普通に働け」なのだが、実は「普通に働く」ってどういうことか、ということが不明確になっているという問題意識から始まる。そしてそこから、「新しい働き方」を煽るような言説に対して、言説研究や各種データを用いて検証していく様はまさに著者の手腕のよさを感じさせるものである。特に「普通に働く」ことをある種特殊なもの、もしくは後進的なものと捉えることにより、かえって就職活動の問題が深刻化したり、あるいは所謂「ブラック企業」を受け入れてしまうような情勢ができてしまっているという第1,3章の指摘は興味深かった。
また第2章は若い世代の労働問題についてであるが、「若年労働問題」としてメインで論じられるようなロスジェネ世代ではなく、さらに若い世代である現在の20代周辺を扱っているのは、この手の一般書では意外にも少ないという印象があるため、この点でも貴重である。特に第2章の最後にある「ニッポンのジレンマ」に対する皮肉(この番組に出てくるような論客が持ち上げられることこそ「ジレンマ」である)には笑ってしまった(笑)。確かに、特にロスジェネとかその当たりの論客から「自分は若者だ」という意識が肥大化しているような気がするよなぁ。
5. 濱口桂一郎『若者と労働――「入社」の仕組みから解きほぐす』中公新書ラクレ
http://www.amazon.co.jp/dp/4121504658/
厚生労働省の官僚や労働政策研究・研修機構の研究員として長い間労働政策の研究に関わってきた著者による、若年労働政策の概説書として最高のものと言うことができる。まずこのような仔細な解説が新書という形で読めることに感謝したくなる。そもそも我が国においてなぜ若年労働問題が「認識されてこなかったか」について始まり、欧州との若年労働問題の「問題化」の過程の違い、さらに周辺の問題である大学教育や社会保障などといった問題に至るまでが若年労働問題と有機的に接続された形で書かれており、これを読まずして若年労働問題を語ることなかれと言えるほどの出来に仕上がっている。
【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第36回:未定(2013年11月15日配信予定:「おでかけライブin盛岡183」のサークルペーパーとして配信予定です)
第37回:【思潮】古市憲寿『誰も戦争を教えてくれなかった』をどう読むか(仮題)(2013年11月25日配信予定:「地底の読心裁判 上告」「仙台コミケ214」のサークルペーパーとして配信予定です)
第38回:未定(2013年12月5日配信予定:「新潟東方祭13」のサークルペーパーとして配信予定です)
【近況】
・「コミックマーケット85」に当選しました。
開催日:2013年12月29~31日
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅徒歩すぐ、東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩5分程度
スペース:3日目(12月31日)西館「ふ」ブロック15a
委託などについても調整中です。
・「おでかけライブin盛岡183」にサークル参加します。
開催日:2013年11月10日(日)
開催場所:岩手県産業会館(岩手県盛岡市)
アクセス:JR各線・IGRいわて銀河鉄道「盛岡」駅より岩手県交通都心循環バス「盛岡城城跡公園」下車
スペース:「G」ブロック10
・「地底の読心裁判 上告」(東方Project四季映姫・古明地さとりオンリーイベント)にサークル参加します。
開催日:2013年11月17日(日)
開催場所:川崎市産業振興会館(神奈川県川崎市幸区)
アクセス:JR各線「川崎」駅、京急本線・大師線「京急川崎」駅より徒歩5分程度
スペース:「読心」ブロック19
・「新潟東方祭13」にサークル参加予定です。
開催日:2013年12月1日(日)
開催場所:新潟卸センター(新潟県新潟市東区)
アクセス:新潟交通「万代シテイバスセンター」バス停より新潟交通バスで「卸会館前」下車徒歩すぐ/JR各線「新潟」駅よりタクシーで15分程度/磐越自動車道「新潟中央」インターチェンジより車で15分程度
スペース:「文」ブロック8
・日本図書センターより5年ぶりの商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』が刊行されました。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。
Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4284503421/
楽天ブックス:http://books.rakuten.co.jp/rb/12468953/
・「第9回東方紅楼夢」新刊同人誌『西行寺幽々子の生命保険数学基礎講座』の予約がメロンブックス・とらのあな・COMIC ZINにて発売中です。電子版もメロンブックスDLにて配信中です。
告知ページ http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11625231924.html
メロンブックス通販ページ http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001066173
とらのあな通販ページ http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/15/52/040030155205.html
COMIC ZIN通販ページ http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=18054
(2013年11月5日)
奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第34回:【政策】国際成人力調査をどう読むか/第35回:【書評】秋の書評祭り
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2013(平成25)年11月5日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
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