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【VOICEROID二次創作SS】葵ちゃんが茜ちゃんの血をチューチュー吸って戦うお話_9話_紅の瞳の少女

2017/09/24 00:27 投稿

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バトルが始まりそうなバトルアクション
最初→プロローグ
前→8話_月の願い
次→まだ
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 それは、人の溢れる街からは外れた場所にあった。
 割れたままのガラス。所々剥がれ落ちた壁。地面に近い部分には蔦が這い、遥か上空には鉄筋がむき出し突き出している。
 4階建てでそこそこ大きなその建築物は、元がどういう用途に使われていたのか判らぬほどの朽ち果て振りを見せていた。

 それは、いわゆる廃ビルであった。
 予算の都合か時間の都合か、崩しもせずに放棄されてしまった建造物。
 元々は何かの役に立っていたはずのそのビルは、いまや人々に忘れ去られ、ただ朽ちていくのを待つだけのモノとなっていた。

 そんな廃ビルに、珍しい客人がやって来た。
 現代では珍しい物となってしまった、和装……の雰囲気を残した戦闘装束に身を包んだ二人の少女。
 瓜二つであるのに、全く印象の違う顔立ちを持つ少女達。
 そんな二人……茜と葵の二人は、月明かりを浴びて佇む廃ビルを見上げていた。

「ここが、目標が居るって言う場所? 確かに、いかにもあいつらが居そうな場所やけど」
「そうだね。明かりも何も見えないし、人の気配なんて全くしない。ってことは、アイツ等にとっては住みやすいだろうしね」

 今は既に陽も落ちていて、人里から外れている此処は街灯というモノも無く、ゆえに辺りは月明かりが照らすのみ。

 それはビル内も同様で、外から見える所に明かりは無い。
 明かりが無いなら人は居ない……とは言えないのかもしれないが、少なくともこのような廃ビルには居ないだろう。

 こんな所に、しかも陽が落ちてから来るなど、肝試しの学生くらいである。その学生達にしても、明かり無しで徘徊する事などありえない。最低でも懐中電灯の一つや二つ持っているはずだ。
 つまりは、今この廃ビルに人など居るはずが無いのであった。

 しかし。

「……なんやろう」
「? なに、お姉ちゃん?」
「なんか……見られてる、気ぃする」

 その言葉を受けて、葵は頭上を見上げた。
 月に照らされ浮き上がった廃ビルが、星空を切り取り視界を占領する。
 その壁に並ぶのは無数の穴。
 規則正しく並んだ四角の穴、一部割れたガラスが残っているその穴の奥は、月の明かりも届かぬ漆黒だ。
 そして、その黒の中で。

「……居るね」

 何かが動いた。茜達を上から見ていたのか、その影は直ぐに闇の奥へと引っ込んでしまったが。
 確かに、何かが居たのだ。人の居ないはずのそのビルの中に、動く影があったのだ。

 人が居ないはずの場所に、動くモノが居る。
 それはつまり。そのモノは人ならざるモノであるという証であった。

「向こうには気付かれたか。これは、ちょっと気を引き締めて行かないとね」
「葵……」
「大丈夫だって。それより、ほら。いつものやつ」

 戦いを前に明るく言う葵に、茜は仕方がないと言った感じで、自らの腕を差し出す。

「もう、そっちじゃないって!」
「あんたなぁ……」

 観念したように溜め息を一つ吐き、茜は衣服の襟を引っ張り首筋を露にする。
 それを見た葵は、すぐさま姉に抱きついて。

「頂まーす」
「食べ物やあらへんって、うんっ……」

 かぷっと首筋に噛み付き、血を吸う葵。
 茜は噛み付かれた痛みよりも、首筋を吸われる感覚に声を漏らす。
 もう何度も繰り返された行為ではあるが、この感覚はどうも慣れないらしい。
 
 葵の喉がこくりと鳴って、ぷはっと息を吐きながら口が離れた。
 茜の首筋には赤い傷跡が二つ残っている。

「ご馳走様っ」
「うう、またこんな目立つ場所に……、この傷なんでかなかなか治らんのに……」
「あー、私の噛み傷はねぇ……。ま、朝には治ってるから良いじゃん」
「はぁ、もうええけど」

 にっこりと微笑む葵に対して、茜は溜め息混じりに応えていた。
 本音を言えば血晶を使ってもらいたい。せめて手から吸ってもらいたい。
 そうは思うのだが、これが葵のやる気にも繋がるのならと、茜も拒否するのは諦めていた。

「さてっと。それじゃあ」

 廃ビルを見上げ薄く笑みを浮かべる葵。
 血を吸った彼女の瞳が、爛々と紅に輝く。完全にスイッチが入った証だ。
 そこに居たのは姉想いの少女ではなく、魔を狩る狩人だった。

「任務開始と行きましょう」

 宣言する葵に、茜も軽く頷いて。二人は、「魔」の待つ廃ビルへと入っていった。

 ◆

 朽ち果てた廃ビルに潜り込み、「魔」を探して探索する二人。
 奇襲等も想定し、葵を前として慎重に進んでいく。
 そうして一階、二階と探索をして。
 何もない事から、そろそろ接敵するだろうと葵が最大限の警戒をしつつ上がった三階。
 階段を上った直ぐにある扉を開けた、その先。

 そこはまるでホールのように広い空間だった。遮蔽物は一定間隔に並ぶコンクリートの柱のみで、自分達の入って来た階段以外には部屋も無い。
 ただビルの外壁のみが四角に空間を囲っている。つまりは、三階は丸々その空間となっていた。
 外壁には全面にガラスの抜かれた窓枠のみが並んでおり、外には地面と比べて近くなった月が輝いていた。それが行動するに十分な明かりを投げかけて、その空間一面が青白く浮かび上がっている。

 もちろん廃墟には変わりないため、剥き出しのコンクリートに原型をとどめぬ金属片やらなんやらが散乱してはいるのだが。
 それでもそこは、どこか神秘的な空間となっていた。現実とは隔絶された、異質な空間だったのだ。

 そんな空間に足を踏み入れて。葵達は言葉を失いその場に立ち尽くしている。
 それは、その光景に目を奪われたから……ではない。

 そこにいたモノに、目を奪われたからだった。


 そこに、ソレは居た。
 葵が奇襲に備え、すぐさま戦闘に移れる様に準備して。後ろの姉を守るためにも、最大限の注意を払っていて。

 しかし、そんな警戒も無駄になるくらいに。

 ソレは、堂々とそこに居た。


「あ、いらっしゃい」

 と、まるで友人を迎えるかのように葵達を迎える。

 ソレは、白いワンピースに身を包んだ黒髪の少女であった。
 一言で言えば、可憐な少女であった。可憐で、端麗で、こんな廃墟に居るのは明らかに異常な少女。

 肌は病的に白く、体の線も細く華奢だ。年齢は葵達よりも下だろうか、背も葵達より少し低い。
 そしてその表情は子供の様に幼く、まるで人形のように綺麗で、しかしどこか作り物めいていた。
 例えるなら、まるで漫画やアニメのキャラクターのような。人気が出るように、長い時間をかけて容姿を設計されたような。
 完璧で、完璧すぎて、もはやヒトを辞めてしまった様な造形美がそこにはあった。

「もう、思ってたより遅かったね。結構あからさまにヒントを残してたのに。政府の暗部ってのも案外無能なのかな? 途中でニアミスしてたみたいだし……お陰で待ちくたびれたよ。まあ、こうしてちゃんと君達が来たって事は、私の調整も上手く行ったって事だよね」

 ニコニコと笑いながら話す少女。
 話している内容はともかくとして、その口調は友好的なものであった。とてもではないが、狩人と標的の会話ではなかった。

 これで、葵達も笑顔で応えていれば。それは少女達の団欒に過ぎなかったのであろうが。

 葵達は、一言も言葉を発しなかった。一言も、発せなかった。

「ん? どうしたの? あ、もしかして緊張してる? やだなー、イキナリ襲ったりしないから大丈夫だよ。話したい事もあるんだしさー」

 少女が朗らかに言葉を紡ぎながら、葵達に歩み寄ってきた。ゆっくりと、一歩一歩歩みを進めてにじり寄る。
 その足を進める度に、少女の足元から、ぐちゃり、ぐちゃりと不快な音が響き渡った。

 月光に映える真っ白なワンピース。少女が身に付けているのはそれだけだった。素足で、靴すら履いていない。
 その足が、ぐちゃりぐちゃりと、何かを踏みつける。踏みつけるたびに、ぐちゃりぐちゃりと、何かが潰れる音がする。

 潰れて、弾けて。赤黒い粘着質な液体が辺りに散った。それは回りのモノに飛び散り、少女の足をも汚していく。
 そのせいで、少女の膝から下は赤い液体で汚れきっていた。
 それはまるで、赤いブーツを履いているかのようだった。
 真っ白な服にはちょっと合わないかもしれないけど、その可憐な少女には良く似合った、赤い靴のようだった。

 そう、似合う。本当に良く似合う。

 その異質な少女にはぴったりな、真紅の靴。
 ソレの正体に、気付かなければ。
 もしかしたら受け入れる事も出来たかもしれない。その少女と友好的な関係を築けたかもしれない。

 でも、ダメだ。ソレに気づいてしまえば、そんな選択は有り得なかった。有り得る筈が無かった。
 どんな理由があろうと、どんな目的があろうと、もしかしたらその裏に何か崇高な想いがあったとしても。
 その少女と仲良く談笑するくらいなら、自ら死を選ぶ方が遥かに人として正しいと思った。

 理性どころか本能すらソレを拒否していたのだ。
 いや、むしろ己の根源こそが、その光景を徹底的に否定していたのだ。


 そこにあったのは。

 夥しいほどの。
 噎せ返るほどの。

 死体。
 
 死体。

 死体。死体。死体。死体。

 一体何処から集めてきたのか不思議なほどの。まるでこの街の人を全員持ってきたのではないかと錯覚するほどの。
 少女の、少年の、青年の、女性の、親子の、夫婦の、老人の、老婆の、死体。

 月に照らされたその広い空間の向こう半分は、死体の海に埋もれていた。
 その海を踏み潰しながら、少女がゆっくりと歩み寄ってくる。
 真っ赤な海で足が汚れるのを全く気にせずに、少女が歩み寄ってくる。
 人の死体を踏み潰しながら、少女が歩み寄ってくる。

 人の死体。
 人達の死体。
 きっと幸せに暮らしていた人の死体。
 もしかしたら苦しいかもしれないけど、それでも充実した生活をしていた人の死体。

 大好きな両親に見守られてすくすくと成長していた人の。
 友人に囲まれ眩しい青春を謳歌していた人の。
 愛する人と結婚の約束をして人生の絶頂に居た人の。子が生まれて親となる喜びを噛みしめていた人の。奔放だけど愛しい子との触れあいに磨り減る心を救われた人の。成長した子が巣立つのを見届けてもう一度自分達の人生を歩み始めていた人の。親族に囲まれて穏やかに天命を待っていた人の。

 変わり果てた姿。

 幸せに在るはずだった。ただの普通の幸福で満たされていた。ソレを理不尽に奪われた人達。
 だって、その顔は。
 例外無く。一つの例外も無く。
 苦痛に歪みきっていたから。

「……っ!」

 吐き気のようなおぞましい感覚が沸き上がって来る。そしてそれ以上に煮え滾る熱が底で暴れている。でも、それを開放する事は許されない。
 色々な感情がごちゃ混ぜとなる中、一つの感覚が葵に警鐘を鳴らし続けていた。今までの訓練で研ぎ澄まされた感覚が、彼女に必死で訴えていた。

 今直ぐ。全てを捨ててでも。
 ここから逃げ出せ、と――。

「ねえ、そんなに慌てないでよ。夜は長いんだから、まずはお話をしましょうよ。色々と聞きたい事があるんだし、君達もきっと私に聞きたい事とかあるんじゃない? ねぇ?」

 そんな葵を見透かすように少女が語る。
 地獄に似合わぬ鈴のような愛らしい音色が響く。
 ぐちゃぐちゃと悲しくなるような音を響かせながら。

 少女が歩み寄ってくる。その少女の視線と、葵の視線が、真正面からぶつかり合った。

 その少女の瞳は。
 紅色に輝いていた。



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