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【平直行「東方武術見聞録」】その16 グレイシー一族の血筋。(後半)

2014/10/03 16:40 投稿

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その16 グレイシー一族の血筋。(後半)


護身術としてのグレイシー柔術をベースに寝技から自分を守るスタイルを作り出し、喧嘩のように相手を殴りまくる。いつの間にか試合で磨きぬかれ新しいスタイルが生まれた。これが今の総合の人気選手のスタイル。立っても寝ても打撃で攻める。喧嘩が強い奴は、大概、拳を見せてニヤっと笑いながらこう言う。「漢(おとこ)はこれで勝負だろ」って。妄想で暴走昭和の番長伝説に出てきそうな感じの映像が今見えた気がする(笑)。


護身術から始まったグレイシー柔術……これも妄想で暴走。三つ子の魂百までもじゃないが、グレイシー一族には喧嘩番長の遺伝子はないのかもしれない。毎日喧嘩して腕を磨くような連中が護身術のカラクリを知って、その罠にかからなくなったら、ボコボコに殴られてしまう。


今の総合格闘技の状況が正にそのまま当てはまる。前田先生がカーロスに伝えたかったのは、筋肉の塊の化け物のような連中と同じように身体を作り、どんな状況でも逃げずに真っ向から殴りあうようなスタイルではなかったはずだ。大金持ちの息子にそんな将来をプレゼントするはずがない。


背筋の伸びた紳士、健康で体力も旺盛な事業家。柔術を通じて身体を鍛え、技を通じて変化に敏感な優れた感性を持ち、格闘技を通じて人の痛みを知った強さと優しさを兼ね備えた好人物。大人になったカーロスは、大物だったガスタオンの事業を引き継ぎ更に拡大する優れた事業家になるのだ。前田先生はそうなるような教え方をしたのだ。そう思うのだ。妄想で暴走なのだ。書き方が変なのだ。


実際、護身術としてのグレイシー柔術は素晴らしいものだ。初期のUFCでそれは完璧に証明された。喧嘩自慢の集まりでも圧倒的に勝ってきた。そして喧嘩自慢がグレイシー柔術を吸収した時に、グレイシー柔術の姿は消えるように小さくなってしまった。そして喧嘩自慢に勝てなくなってしまった。


普通に考えてみれば当たり前なのだ。喧嘩が強い奴が技術を覚えてしまったら普通の人は勝てるはずがない。前田先生が伝えようとした柔術は喧嘩自慢を作るためのものではない。


しかし、そこに不思議な偶然が悪戯をした。カーロスはとても素質があったのだ。きっと前田先生は必要以上に教えてしまったのかもしれない。教えるのが楽しくなったのだ。ニコニコしながらカーロスに教えてしまって、少し後悔して、まあ良いかなどと笑う前田先生がいたような気もする。そしてカーロスは素質に恵まれた以上に、柔術が大好きになったのではないか。柔術と共に暮らす決意をしたのだから、相当好きだったんだろう。普通なら大好きでも、柔術と共に暮らそうと思ったとしても、経済的にそれはなかなか叶わない。


ところが、カーロスは大資産家であるガスタオンの息子だったのだ。不思議な運命の偶然がグレイシー柔術を作り上げた。リオの郊外に24ものベッドルームのある豪邸を建て、一族で移り住み、柔術と共に暮らしたのだ。それだけ大好きなのだから、当然柔術も磨かれる。


護身術として伝えられた柔術は、とてつもない強さを持つグレイシー柔術となったのだ。世界中の喧嘩自慢のような格闘家がその技術を手にするまで、グレイシー柔術は圧倒的な強さを誇った。そしてある時からグレイシー柔術は勝てなくなった。護身術は相手がそのカラクリを知れば通用しないからだ。


時空を超えた妄想で暴走の景色が見える。ブラジルで見たテラズアポレスの景色が時空を超えてまたやって来る。前田先生がカーロスに伝えたかった柔術のもう一つの要素。身体を強健に健康にする柔術。この要素は誰も気が付いていない。僕は妄想で暴走でそれに気が付いた。


 

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