【谷川貞治の人生のホームレス】 第１回

1.『続・平謝り』 〜格闘技界を狂わせた大晦日10年史〜

皆さんのおかげで、ベースボール・マガジン社から発売されている拙著『平謝り』の売れ行きが非常に良く、発売2週間で重版となりました。この場をお借りして、改めてお礼申し上げます。まだ読んでない方は、ぜひ書店に立ち寄った際、手にとってみてください。面白いですよ〜。

さて、破産したとはいえ、自分では一日一日一生懸命やって来たため、『平謝り』でも書いていないエピソードがまだまだたくさんあります。そこで、『かみぷろ』のメルマガでも、『続・平謝り』としてそんなエピソードの数々をより詳しく綴っていこうと思います。

中でも『かみぷろ』では、大晦日10年史として、格闘技界を狂わした大晦日イベントを2001年から2011年まで、年代にそってまとめていきます。今の格闘技バブルが弾けたのも、一番の原因は「大晦日」にあります。もし、大晦日がなければ、ファイトマネーの高騰も、PRIDEとの喧嘩も、モンスター路線もなかったでしょう。テレビ局が混乱したのも、この大晦日があったからです。その大晦日の幻想は今もなお続いています。今年はグローリーが12月2日の日本イベントを延期してまで、DREAMと組んで大晦日イベントに挑戦します。海外の団体まで、いまだに大晦日幻想を持っているのです。

では、その大晦日とは何だったのか？

書きながら、思い出しながら、それを検証してみようと思っています。今、『水道橋博士のメルマ旬報』でも、『平身低頭』というタイトルで連載をさせていただいて、一部その加筆になるところもあるかもしれませんが、何卒ご容赦下さい。

●第1回　2001年（前編）　はじまり

ご存知のように一番最初に大晦日イベントを開いたのは、2001年ではなく前の年の2000年。桜庭vsホイスが行われ、桜庭人気と共にPRIDEがブレイクした年に大阪ドームで開催しました。その時のタイトルも『イノキ・ボンバイエ』。すでにPRIDEには、猪木さんと百瀬さんのコンビも定着し、この時はドリーム・ステージが中心となって「プロレス」のイベントとして行われました (主催はステージア)。

地上波テレビの生放送もなかったため、この大会はPRIDEファイターとプロレスラーの融合をお祭り的にやるというのがコンセプト (毎日放送が録画で放送)。一番の目玉は猪木さんの108ビンタ。20世紀から21世紀にかけてのまたぎに、実はこれがやりたくて開いたようなものです。もちろん、いざやるとなるとやっぱり直前はバタバタするもの。でも、僕なんかは当日VIPルームで呑気に観戦し、百瀬さんたちと年越しそばを食ってたことしか、あまり覚えていません。でも、このイベントも案外うまくいったので、それがのちのWRESTLE-1につながっていったのです。WRESTLE-1が生まれたのも、この大晦日が原因だったんですね。も〜。

明けて2001年。この年からTBSでのK-1の放送が始まりました。シリーズは、イケメンで実力派の魔裟斗を中心としたミドル級の「K-1 MAX」。
石井館長が脱税事件に追われていることもあり、僕はこの頃すでにK-1に毎日出社して手伝っていたのですが、僕がMAXをプロデュースする上で最も注意したことは、いかにキックボクシングにならないようにするかということでした。

K-1MAXがキックボクシングと同じように見られたら、絶対に人気は上がらない。その時、「こいつだ」と隠し味として起用したのが、須藤元気。元気君はその期待にしっかり答えてくれて、小比類巻貴之とキックではない試合をやってくれた。今見ても、これは面白い試合です。後に山本KIDという天才児が出て来ますが、彼らのような異分子を注入したことがMAX成功のポイントなのです。

ヘビー級に続き、ミドル級のシリーズを好スタートさせたK-1でしたが、当時は正直にいうと、後発のPRIDEがグングンと力をつけ、格闘技界的にはK-1を上回る勢いでした。そうなると、当然面白くないのは石井館長。もともと、K-1だけでなく、総合も、そしてプロレスも牛耳って天下を取りたいという野心が強かったお方。PRIDEの躍進は、石井館長にとって目障りなものでした。