日本の支配層の源流
――乞食と貴族の〝ねじれ〟現象
グローバリズム批判で知られる政治学者スーザン・ジョージを引くまでもなく、陰謀論という概念はすでに無効化されている。政治経済上の人工的営為について、本当の意味での秘密などはないのであって、あるとすればそれはまだ公開の時期が来ていないだけである。そして公開の時期が来ていない物事について私たちは知る必要がなく、すでに公開されたことを知るだけでよいのである。
なぜなら、たかだか人間のやることに大きな変化はないのであって、およそ同じパターンの繰り返しか、さもなければ趣向の違いがあるだけである。つまりは〝様々なる意匠〟が跋扈するだけの世のなかが延々と続くだけなのだ。ということは、すでに公開されたパターンを知るだけで、まだ公開されていない〝秘密〟についても大方見当がつくのである。これまでに見たことのない陰謀などは、あった試しがないわけで、たとえば金貸しが世のなかを牛耳るなどというシステムは、日本における中世社会のしくみにすぎない。
日本では都合の悪いことを何でもアメリカのせいにする言説が盛んにあるが、それでシメシメと喜ぶのは日本の支配層にほかならない。自分たちが何をやっても、すべてアメリカのせいにしてくれるという顛末だからだ。思えば1980年代末期のバブル期には、アメリカでは日本の脅威が叫ばれていた。「日本はアメリカをすべて買い占めるつもりだ」「アメリカの軍需産業は日本が支えている」「ついにアメリカは日本の属国になった」……そんな言説が噴出していた。21世紀は日本が世界を支配すると言われてイイ気になっていた日本人の馬鹿さ加減が、いまは逆に働いているだけである。
江戸時代まではともかく、近代化した日本は外国との関係なしには存在を維持できない。それは必然的に大国への依存を意味し、さもなければ軍事力による版図拡張主義に向かうしかなかった。しかし、つまるところ日本は大国に付かなければやっていけないだろうというのは、戦前に岸信介が言っていたことである。アメリカとソ連、どちらの属国になるのが有利かというのが戦前の支配層の隠れた命題だった。その問題を発見した先駆者は後藤新平である。彼は明治期の早い段階で近未来にロシアとアメリカが超大国化して覇権を競うことを見抜いていた。それは在米ドイツ人のエミール・シャルクが著書で予言していたことで、後藤はその著書をいちはやく読んで影響を受けていたのである。
ロシア革命後に後藤はソ連との国交回復に尽力するなど、終生ソ連と結ぶ方向で働いた。後藤は新世界秩序の盟主としてアメリカが急成長するとの読みから、日本が生き残るためには旧世界秩序を統合してその一員となるしかないと考えた。一方で大正期の日本は日米協調主義を進めており、アメリカはソ連を承認していなかった。つまり後藤の動きは表のシナリオではなかったが、これは当然ながら両天秤をかけていたのである。岸信介が満州国経営にあたり、東洋のアメリカを作ると標榜しながら、ソ連を模した計画経済システムを取り入れていたのも同様である。
戦後もその姿勢は変わらず、日本はアメリカに付く一方で、ソ連とのパイプを常に残していた。岸信介が赤坂の料亭の女将にそのことをしゃべり、数年前にその料亭が閉店したとき、NHKのインタビューに応じた女将がカメラの前でそのことをしゃべった。NHKは短いニュースのなかで平然とその話を流したが、誰も気づかなかったのか、いまでも岸信介というとCIAのスパイだとばかり言われている。大衆はいつまでもそう思っていればいいだろう。本当のことは知らなくていいのである。
日本の支配層は、日本がどこの属国であっても基本的にはかまわないという心性の人々である。というのも、彼らの根っこをたどると、折々の為政者にくっつくことで実質的には為政者の首根っこをつかみ、事実上支配するというやり方だからである。というと、その〝彼ら〟というのはやはり藤原氏とか何とか、そういう人たちなのかと思われるかもしれないが、もちろんそれもひとつのグループである。しかし、我々の目には見えない人々がいて、その人たちの素性を一口に言うと、要するに〝乞食〟なのである。
乞食がなぜ支配層なのか。その秘密の答えが核心になってくる。それはこうである。
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