SOHIKO BLOMAGA

小池壮彦 怪奇探偵ブロマガ vol.31

2013/11/25 20:39 投稿

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  • vol.31大魔神の正体
  • 歴史と社会
 大映映画『大魔神』が1966年に公開され、その翌年に『騎馬民族国家』が出版される。当時すでに江上波夫説を紹介した岡正雄たちとの対論『日本民族の起源』は版を重ねており、また松本清張が雑誌に連載していた古代史論をまとめた『古代史疑』が1968年に刊行される。60年代というのはそういう季節だった。そして70年代には古田武彦の九州王朝説や梅原猛の古代史論が注目され、高松塚古墳の発見もあった。だからいまの年配の人たちは古代史に関して一家言のある人が多い。しかし、なんだかんだで邪馬台国の話に時間を割きすぎたとお思いにならないか。そのように誘導されたと、いまになってお思いにならないか。

 映画の『大魔神』は、古代の神がよみがえって悪人を滅ぼす話であるが、あの魔人の姿が古代の埴輪をイメージしたものであることは誰でもわかる。しかし、あの埴輪の姿というのはいったい何かということまではあまり気にされない。そして、なぜかあの姿の埴輪が関東で出土することもあまり気にされないようである。みんな近畿と九州に目が行っていて、古代の関東には何もなかったように思われているのかもしれないが、けっこう先進的で奇抜な品物は北関東の地下から出てくるのである。よく知られる大魔神スタイルの武人埴輪も、群馬県太田市で出土した。この埴輪は『日本民族の起源』が刊行された1958年に国宝に指定されている。

 大魔神が着ている鎧は〝挂甲〟(けいこう)といって、騎馬民族の武人の姿をかたどったものである。だから制作者の意図は別にして、結果的にあの映画というのは、騎馬民族の神が現れて悪人を滅ぼす話だったことになる。そこでこの騎馬民族という言葉だが、これは至って便宜的な言葉であって、要は紀元前の東北アジア、つまり満州あたりにいたツングース系遊牧民のことである。日本国天皇もさかのぼればそのなかの一族だったというのが江上波夫の説であるが、その一族の騎馬軍団が南下して一気に日本を征服したかのような大胆な説明がなされたために、そんな痕跡はないだろうということで、学界の承認する説にはなっていない。

 私が学生だった1980年代の頃も「そんな説もあったね」ぐらいのもので、江上説はほとんど読まれていなかったという話を前回したが、実は読むだけはみんな読んでいて、これは認めてはいけないだろうという自衛的な判断が働いていたということもある。大筋においては、たぶんそんなところだろうと思いながらも、具体的な証拠には乏しいようだし、単純化すると誤解や曲解を生んで危険な説になるとも思われた。だからこの説は相手にしない方が身のためだということで片付けていた節もある。しかし、1991年に江上波夫が文化勲章を受章すると、またぞろ騎馬民族が来たか来ないかという議論がリバイバルしたのである。

 そして、これは偶然ではないのだが、江上波夫が文化勲章を受ける前年に、当時自民党の最高実力者といわれていた金丸信が北朝鮮を訪れた。いわゆる金丸訪朝団である。このときに金丸と金日成がなにやら密談し、何を話したのかは明らかにされていない。そして同じ年になぜか「北朝鮮で前方後円墳が相次いで発見」というニュースが流されたのである。これは日本特有とされる前方後円墳と同じものが見つかったわけではなく、形状の似た積石塚(つみいしづか)が見つかったというニュースであったが、実は向こうではとっくに知っていたことである。しかし、なぜかこのタイミングでニュースになった。

 この時期に北朝鮮のインフラ開発を目論んで日朝国交正常化が模索されていたわけだが、当時自民党の幹事長として辣腕をふるった小沢一郎が天皇についてどういう考えを持っているかは、2009年に氏が韓国の大学で行った講演によって明らかである。すなわち、江上波夫の騎馬民族説の支持者である。思うに、江上説を単純化したような説明を素朴に信じている政治家は案外多いのかもしれない。金丸信は絶対的な天皇崇拝者だったともいわれているが、本音のところはどうかわからないし、竹下登や中曽根康弘もしかりである。

 問題は何かというと、まるで昭和の終わりを待ったかのように、1990年代前半に日本最大の〝特定秘密〟である天皇について、江上説に基づいたような段階的な暴露を思わせる動きがあったことである。そしてこの動きは1992年の金丸失脚と1994年の金日成死去によって白紙となった。それ以後は御存知のとおり、拉致問題と核問題で日本と北朝鮮の関係は最悪になった。2002年から2004年に小泉純一郎がまたぞろ日朝国交利権に動いたわけだが、このときも小泉と金正日がなにやら密談し、あなたのお父さんも仲間だったんだし……みたいなことを金正日にいわれたという話が伝わる。

 この金王朝というのが何様なのかというと、実は彼らも騎馬民族説でいう天皇の祖形と同じ出自であるという自負がある。もちろん実際にはインチキなのだが、それをいったらお宅の倭王と天皇の関係だってナニじゃないの?というボールを投げる用意が向こうにはある。だからこの〝特定秘密〟というのは、歴史問題ではなくて政治問題なのである。つまり、何が真実かが問題なのではなくて、何を真実と見なすかという話である。したがって真実を追究しても無駄であり、何を真実とするかという駆け引きだけが古代史学の意味になる。そしてときに高松塚古墳などが発見されて壁画がもろに高句麗流であることがバレてしまうと、なぜか関係者が次々と死亡するのである。

 その意味でいうと、江上波夫の説は駆け引きの材料として大きなパワーを持ってきたのだ。いまでも騎馬民族説を親のカタキのように批判する学者がいる一方で、古代の加羅エリアすなわち朝鮮半島南部に倭王権の支配が及んでいたことは明らかである。加羅と大和王権との関係が深かったことも明らかである。事実上の初代天皇とされる崇神天皇の和名がミマキイリヒコであることから、その名のミマキを任那(みまな)と見て、崇神天皇を任那の王と見る説がある。これも事実かどうかは問題ではなくて、事実と見なすかどうかなのである。この説をなんとしてでも否定したい人も多いので、さまざまな工作に躍起になっている係りの人が雇われている次第でもある。

 前回述べた〝辰王〟に関しても、私が学生のときに聞いた奇妙な話がある。これは江上説を表向きには否定する研究者の〝本音〟として聞いたのだが、天皇と北朝鮮にまつわる話であった。だから私はその人の立場も考えて「この話は聞かなかったことにいたします」と社交辞令を述べた。この話に関してもいずれ書いていくつもりだが、それには少々手続きが必要なので、まずは予備知識を書いているのである。私が思うのは、こういう〝特定秘密〟をこれから日本はどうしていくつもりなのかということなのだ。支配層は秘密を守るためなら国民を犠牲にするのかもしれないが、しまいには日本を消滅させて日本人をすべて抹殺してでも守らなければならないものがあるのかという疑問である。
 

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