岩井志麻子「オンナのウラガワ ~名器大作戦~」

第325回 「もう」と「まだ」の間のあれこれのウラガワ(1)

2022/07/31 13:00 投稿

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オンナのウラガワ ~名器大作戦~

◆もくじ◆

・「もう」と「まだ」の間のあれこれのウラガワ(1)

・最近の志麻子さん 
 『岡山女』新装版、単行本『煉獄蝶々』発売中
 『5分で読める! ぞぞぞっとする怖いはなし』に寄稿
 『週刊大衆』で「熟成肉女 召し上がれ」連載中
 「カクヨム」で田原総一朗・二次創作小説を発表
 『でえれえ、やっちもねえ』角川ホラー文庫より発売中

 カドカワ・ミニッツブック版「オンナのウラガワ」配信中
 MXTV「5時に夢中!」レギュラー出演中

・著者プロフィール

===

七月になると、もう今年も後半だと焦るような諦めるような。
まだ半分あると考えるようにはしているが。
そんな「もう」と「まだ」の間にあるあれこれ。


近所にある公園とその周辺は、店に所属せず客を引く女性達が立っていることで知られている。
いわゆるホームレスらしき女性も見かける。
今年新たに現れた気になる女性は、ぱっと見は七十代だが実際のところは分からない。
毎日ではないがちょいちょい来ては、一人でいる中年以上の女にだけ声をかけるのだ……。


※担当者の不調により更新が長く滞り大変申し訳ございませんでした。
順次記事公開いたします。

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2月「いつの間にか入り込む怖いもののウラガワ
3月「もはや共存するしかないあれこれのウラガワ
4月「変わらぬもの、変わりゆくもののウラガワ
5月「子どもっぽい大人、大人になっても子どもな人のウラガワ
6月「ドライになり切れないウェットな物事のウラガワ
7月「ホラーの夏なので怖い怪談実話なウラガワ
8月「夏といえばの怖い話・奇妙な話のウラガワ
9月「歳を取れば大人になれるわけではないウラガワ
10月「この歳になって初めて知ることもあるウラガワ
11月「「どこで逸れたんだろう」と考えてしまうウラガワ
12月「人生そのものがお楽しみ会のウラガワ
2022年1月「まだ楽観視できない未来を思うウラガワ
2月「記憶が混乱するアレコレのウラガワ
3月「どうしても心残りなウラガワ
4月「心残りな事件の男たちのウラガワ
5月「好きと心地よいは違う、温度差を感じるウラガワ
6月「ドライなのかウェットなのかわからないウラガワ


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 いつから、七月になるとお約束のように「もう今年も完全に後半に入ってしまった」と嘆息し、焦るような諦めるような顔をして見せるようになったのか。

 子どもの頃は長雨に降られても、夏というだけでひたすら気分は上がり、もうすぐ夏休みだと浮き浮きしていた。だって子どもの頃は、時間は無限にあると感じていたもの。あらゆる今の状態が、永遠に続くとも信じていたし。

 取り急ぎ今も、「まだ半分ある」と考えるようにしている。何か具体的に期待しているのでも、特に目標を立てているのでもないけれど、限りが見えて来たからこそ楽しまなきゃ、と口にした方が、眉間の皺の深まりも抑えられる。

 そんな今月は、「もう」と「まだ」の間にあるあれこれを書いてみたい。毎度のことながら、全編に渡って登場人物はみな仮名か匿名、背景にも脚色や変更を加えてある。 

                    ※

 うちの近所にあるその公園と周辺は、店に所属せず客を引く女性達が立っていることでも知られている。取り締まりで数は減ったが、今も何人かはいる。

 彼女らとは別に、いわゆるホームレスらしき女性も見かける。彼女らのそばでは、普通にランチ休憩やボール遊び、ダンスの練習などする人達もいて、あまり殺伐とした空気はない。と、あくまでも近くに住むだけの私の目には映る。

 以前にも書いたが、仲間を殺して逮捕されることになるSが立っていた頃の記憶もあり、通りすがりの目には見えない景色も広がっているのは知っている。それでも健全なイベントも定期的に開催され、掃除だって行き届いている。

 私は今のところ、家と家族と仕事と多少の金はあるが、もしどれも失ったら、とりあえずその公園に行ってみるかもしれない。今までとは違う心を抱えて行けば、それまでは見えなかった景色が展開するはずだ。

 立っている女性は、かなりの年配者でも声がかかっているし、ホームレス女性には誰かがパンやジュースなどあげている。どちらかになった場合、を想定してみるが、やっぱりまだ現実味がないので、見える景色は平坦だ。

 前述した、仲間殺しで服役中のSは、まだ事件を起こす前から異様な陰鬱さを漂わせており、ずっと気になっていた。後出しじゃんけんみたいだが、本当だ。

 そして今年に入り、新たに気になる女性が現れていた。ぱっと見は七十代だが、実は同世代、もしかしたら私より若かったりするのかもしれない。

 私はその公園に長居したことはないが、よく通りかかっているので、知り合いがその女性の目撃談を話したとき、ああ、あのおばあちゃんだとすぐわかった。

 

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