岩井志麻子「オンナのウラガワ ~名器大作戦~」

第316回 心残りな事件の男たちのウラガワ(1)

2022/04/30 20:00 投稿

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オンナのウラガワ ~名器大作戦~

◆もくじ◆

・心残りな事件の男たちのウラガワ(1)

・最近の志麻子さん 
 5/8(日)「オメ★コボシ69」開催
 公式アパレルグッズ発売中!
 『遊星王子』「日テレプラス」で連ドラ放送
 5/6(金)公開の映画『死刑にいたる病』に出演
 「夕やけ大衆」で「四畳半ホラー劇場」を連載中
 『でえれえ、やっちもねえ』角川ホラー文庫より発売中

 カドカワ・ミニッツブック版「オンナのウラガワ」配信中
 MXTV「5時に夢中!」レギュラー出演中

・著者プロフィール

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前回まで綴ってきた「心残り」な事件たち。
それらの主役はみんな女性だったが、もちろん男たちの事件でも、数々の「心残り」を感じている。

昔は雑誌に文通コーナーがあって、見知らぬ人との出会いの場になっていた。
まだ携帯やパソコンがない時代、それで出会った男女間で事件が起こってしまい……。

バックナンバーはこちらから↓
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2014年11月~20年12月のバックナンバーは、「月別アーカイブ」の欄からご覧ください。
2021年1月「ゆるく共存していくことを考えさせられるウラガワ
2月「いつの間にか入り込む怖いもののウラガワ
3月「もはや共存するしかないあれこれのウラガワ
4月「変わらぬもの、変わりゆくもののウラガワ
5月「子どもっぽい大人、大人になっても子どもな人のウラガワ
6月「ドライになり切れないウェットな物事のウラガワ
7月「ホラーの夏なので怖い怪談実話なウラガワ
8月「夏といえばの怖い話・奇妙な話のウラガワ
9月「歳を取れば大人になれるわけではないウラガワ
10月「この歳になって初めて知ることもあるウラガワ
11月「「どこで逸れたんだろう」と考えてしまうウラガワ
12月「人生そのものがお楽しみ会のウラガワ
2022年1月「まだ楽観視できない未来を思うウラガワ
2月「記憶が混乱するアレコレのウラガワ
3月「どうしても心残りなウラガワ


※2014年10月以前のバックナンバーをご購入希望の方は、本メルマガ下部記載の担当者までお知らせください。リストは下記です。

2013年7月~12月 名器手術のウラガワ/エロ界の“あきらめの悪さ”のウラガワ/エロとホラーと風俗嬢のウラガワ/風俗店のパーティーで聞いたウラガワ/エロ話のつもりが怖い話なウラガワ/風俗店の決起集会のウラガワ
2014年1月~10月 ベトナムはホーチミンでのウラガワ/ベトナムの愛人のウラガワ/永遠のつかの間のウラガワ ~韓国の夫、ベトナムの愛人~/浮気夫を追いかけて行ったソウルでのウラガワ/韓国の絶倫男とのウラガワ​/ソウルの新愛人のウラガワ​/風俗嬢の順位競争のウラガワ​/夏本番! 怪談エピソードの数々のウラガワ​/「大人の夏休みの日記」なウラガワ​/その道のプロな男たちのウラガワ​

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 四月といえば、なんたって花見。それが忌々しい新型肺炎のせいで、2020年から大っぴらにできなくなってしまった。
 桜の下でべろんべろんに酔ってご機嫌で大勢で騒いだ昔日の春は、もうめぐって来ないのだろうか……能天気な私も、いろいろ大人しくならざるを得ない。

 さて、大好評につき、というわけでもないが、今月は先月の続きみたいな雰囲気でまとめてみる。先月は、春にも自分にも関係ないのに、何か春のモヤモヤを感じさせる心残り、みたいなものを書いてきた。改めて読み返してみると、主役がみんな女性だった。 

 そんなこんなで今月は、男を主役に据えてみる。先月と同じく、私には直接の関係がないのに、何か失われた春のように胸の中に霞む景色を見せてくれる男達だ。これも先月と同じく、登場人物は全編に渡って仮名か匿名で、背景にもちょっと脚色を加えてある。

                    ※

 携帯電話、パソコンなど影も形もない時代、雑誌に文通コーナーなるものがあった。平成生まれには信じられないだろうが、住所も実名もすべてばっちり掲載されていた。

 今現在のネット、スマホでも、見知らぬ人といきなり繋がれて会えたりする。昔よりもお手軽に、より多くの人と。とはいえ、誰もが閲覧できるところに公人、有名人でもない人達が個人情報を丸出しにしていたのは、昭和も遠くなりにけり、ってな感慨を抱く。

 私は雑誌の文通も、SNSの出会いも、本当にやったことがない。ものすごく警戒心が強い、というのではない。旅先で出会った見知らぬ人と一晩だけのお付き合いなんてのも、毎回とまではいかないが、そこそこ楽しんできたし。

 私はたとえ初対面でも、名前も素性もわからなくても、今目の前にいる、というだけで無防備におもしろがってしまう。最初に写真や声だけ、あるいは画面越しの動画では、なんとなくごちそうではなく、食品見本を見せられている気分になるのだわ。

 もちろん、ペンフレンドだのメル友だの出会系だの、それらを楽しむ人達を否定する気は全然ないし、そこで素晴らしい友達や恋人、配偶者と巡り会えた人達も知っている。 

 とはいうものの、出会い系やネットゲームで出会った人に直接会ってひどい目に遭った、事件に巻き込まれた、というニュースも定期的に見させられてしまう。

 表に出ていないヤバいあれこれも、もっとあると想像するが、いいこともいい人との出会いもまた、私の想像以上にあるらしい。

 携帯やパソコンがない時代も、やっぱりそういうことはあった。いいことも悪いことも。
 この事件は、私が小学生の頃に起きているから、相当な昔だ。リアルタイムでニュースを見た記憶はないが、後で何かで読んで強く印象に残っている。

 当時37歳の郁夫は、独身の一人暮らし。東京のラブホテルで清掃係をする彼の趣味は文通で、各地の女性と手紙のやり取りをしていた。その中に、19歳の裕子がいた。

 高校を出て大阪で就職したばかりの裕子は、一度も会ったことがなく、写真も見ていない郁夫に恋をしていた。というより、恋に恋していたのだ。

 郁夫は25歳と一回りもサバを読み、東京の有名ホテルの営業部長だなどと、嘘に嘘を重ねていた。なのに裕子に、会おうと誘ってしまう。裕子はちょっとだけ年上の素敵な彼を胸に描いて、大阪から出てきてしまった。

 想像していた人とは全然違う郁夫に驚き、戸惑ったはずだが、裕子は郁夫と都内をデートし、夜は新宿の安ホテルに泊まった。けれど大阪に戻った裕子は、もう会うことも文通もやめたい、という内容の手紙を出す。幻滅と、怒りもあったはずだ。

「次からは、正直に接します。裕子さんは、きっとぼくを受け入れてくれるでしょう」
 郁夫はそんな返事を送ったが、無視されたので大阪まで出向く。たどり着いたアパートで裕子にきっぱり断られ、逆上した郁夫は部屋に上がり込むと台所の包丁で裕子を刺すのだ。その後、郁夫は近県の線路を走る電車に飛び込んでしまった。

 

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