オンナのウラガワ ~名器大作戦~
第274回 いつの間にか入り込む怖いもののウラガワ(1)
◆もくじ◆
・いつの間にか入り込む怖いもののウラガワ(1)
・最近の志麻子さん
【配信版】月刊オメ★コボシ 3/19(金)開催
2/25発売『再生 角川ホラー文庫ベストセレクション』に作品収録
映画『遊星王子2021』に出演
TV「有吉反省会」にヒョウ姿でひきつづき出演中
「岩井志麻子のおんな欲」連載中
カドカワ・ミニッツブック版「オンナのウラガワ」配信中
MXTV「5時に夢中!」レギュラー出演中
・著者プロフィール
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感染症のウイルスにはまだまだ悩まされている日々だが、ウイルスみたいに目には見えないけれど、虎視眈々とこちらを狙っているものはいる、というお話。
ケイ子さんが話してくれた、マサヨちゃんという小学校の同級生。ぱっと見は普通の子だったが、ときどき「うちの親は本当の親じゃない」などと言うのが気になっていた。
そんなある日、マサヨちゃんの家が……。
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2020年1月「愛しい南国の怖い話のウラガワ」
2月「ひきつづき東南アジアの怖い話のウラガワ」
3月「どこか心残りの別れのウラガワ」
4月「未経験な世の中のあれこれのウラガワ」
5月「「あの人実は」「あの人やっぱり」のウラガワ」
6月「アマビエ的なものや人のウラガワ」
7月「怖い話をエンタメとして楽しみたいウラガワ」
8月「どこか楽しめる怖い話のウラガワ」
9月「エンタメとして味わいたい人の怖さのウラガワ」
10月「いい大人なのに未経験のウラガワ」
11月「まだ猶予があるのかもという気分のウラガワ」
12月「私なりに引っかかる物事のウラガワ」
2021年1月「ゆるく共存していくことを考えさせられるウラガワ」
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2013年7月~12月 名器手術のウラガワ/エロ界の“あきらめの悪さ”のウラガワ/エロとホラーと風俗嬢のウラガワ/風俗店のパーティーで聞いたウラガワ/エロ話のつもりが怖い話なウラガワ/風俗店の決起集会のウラガワ
2014年1月~10月 ベトナムはホーチミンでのウラガワ/ベトナムの愛人のウラガワ/永遠のつかの間のウラガワ ~韓国の夫、ベトナムの愛人~/浮気夫を追いかけて行ったソウルでのウラガワ/韓国の絶倫男とのウラガワ/ソウルの新愛人のウラガワ/風俗嬢の順位競争のウラガワ/夏本番! 怪談エピソードの数々のウラガワ/「大人の夏休みの日記」なウラガワ/その道のプロな男たちのウラガワ
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思えば去年の二月はまだ、新型肺炎はすでに感染者は出ていたものの、そこまで騒がれていなかった。マスクの買い占めや義務化もなく、自粛という言葉すら聞かなかった。
私も大勢の前で講演会もしたし、テレビにも普通に出ていた。仕事の会食も友達との飲食も、ほぼ気を遣わずに楽しんでいた。それらができなくなったのは、四月からだ。
その頃もまだ、なんとなく鬼もウィルスも誰かが豆で追い払ってくれるように思っていた。いや、鬼はさておきウィルスは外にいても安心な奴ではなく、隙あらば家の中に忍び込もうとしている。
という今月は、ウィルスみたいに目には見えないけれど、虎視眈々とこちらを狙っているものはいる、という話を書いてみる。例によって全編に渡り、登場人物はすべて名前を伏せ、背景なども微妙に変更、脚色してある。
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幽霊も超常現象もない「現実にあった話」の方が、ずっと怖い。それは私自身も体験したし、いろんな人にいろんな話を聞いて身に染みている。物の怪、妖怪、宇宙人の類ではなく、同じ人間の方が、はるかに不可解であることは確かだ。
しかも、あきらかにおかしい、はっきりと異常をきたしている人よりも、変だけどあり得るかも、とか、突拍子もないようだけどわからなくはない、といった微妙なズレ、ちょっとした違和感の方が不気味さを増していったりもする。
同郷でも同級生でもないが、同世代で同じような田舎町で生まれ育ったケイ子さんが、
「小学校のとき、マサヨちゃんて同級生がいたのね。ぱっと見は普通の子だった。
可愛くもなくブサイクでもなく、勉強も運動も音楽や図画工作も、すべて平均点。高い物も持ってないけど、粗末な身なりってこともなく」
という話をしてくれた。参観日や運動会に来ていた両親は、良くも悪くも目立つところはなく、優しそう、真面目そう、といった無難な人物評しかできない感じだったと。
マサヨちゃんには歳の離れた姉がいて、ケイ子さん達が小学校に入る頃は、そのお姉さんは中学校に上がっていた。だからケイ子さん達は、見たことがなかった。
「マサヨちゃん、ときどき変なことをいってたんです。うちの親は本当の親じゃないとか、本当の親は外国にいるとか、お姉さんだけは親の本当の子で、だからお姉さんばかり可愛がられているとかなんとか」
そういう夢想は、子どもの頃に誰でも抱くものではないか。私も幼い頃は、親がもっと金持ちで素敵だったらいいのに、くらいは夢見た。うちの子だって、私を見てそう願っただろう。さすがに、この親は本当の親ではない、と思ったこともいったこともないが。
しかし昔のお伽話、古典的な物語から、かつての大映ドラマ、そして人気の韓国ドラマに至るまで、その手の話はみんなをときめかせる。
貧しい孤児が実は財閥の子だった、王子が貧しい町民に身をやつしていた、本当はお姫様なのに意地悪な継母にこき使われていた、みたいな話は古今東西、数えきれない。
「でもなんというか、マサヨちゃんの話そのものより、マサヨちゃんの語り口というのか、それをしゃべっているときの表情が妙に生々しくてリアルで、怖いとすら感じたのね。マサヨちゃんは心底から、平凡な自分と親を憎み、人生をリセットしたがってた」
だから、嘘つきと責めもせず、根掘り葉掘り聞きもせず、マサヨちゃんがその話を始めるとみんな、話を逸らせたり聞かなかったふりをしたそうだ。
そんなある日、マサヨちゃんの家が全焼してしまう。家族は逃げて無事だったが、一夜にしてマサヨちゃんは家と家財道具だけでなく、これまでの思い出の物もすべて失った。
赤ちゃんの頃からのアルバム、成績表、賞状、好きな本や幼い頃から大事にしていた人形、そのとき身に着けていたもの以外の服や靴、みんなみんな。
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