オンナのウラガワ ~名器大作戦~
第223回 まだ挽回できるかどうか気になるウラガワ(1)
◆もくじ◆
・まだ挽回できるかどうか気になるウラガワ(1)
・最近の志麻子さん
江平洋巳さんとコラボした『怖ろし譚』発売
11/3(日)「オメ★コボシ47」開催
『小説 エコエコアザラク』が発売中
角川ホラー文庫より『忌まわ昔』発売中
TV「有吉反省会」にヒョウ姿でひきつづき出演中
「岩井志麻子のおんな欲」連載中
カドカワ・ミニッツブック版「オンナのウラガワ」配信中
MXTV「5時に夢中!」レギュラー出演中
・著者プロフィール
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今年も後半という思いを強める人も多いであろう九月。
前半にやり残していること、まだ挽回できるかな……ということをつらつら考えてしまう。
人生でも、そういったことは多々あるもの。
会社員の本坂さん(仮名)は、妻とも子どもともあまり顔を合わせず、ひとりでテレビを見たりパソコンに向かうのが好きな、平凡な人物だったが、実はSNS上で別の顔を持っていた……。
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2014年11月~17年12月のバックナンバーは、「月別アーカイブ」の欄からご覧ください。
2018年1月「命や生きることについて考えたウラガワ」
2月「人はなかなか変わらないのウラガワ」
3月「きれいに卒業できない女たちのウラガワ」
4月「新たな出会いの不気味なウラガワ」
5月「良い季節でも人は病むウラガワ」
6月「『有名な男の女』だった二人のウラガワ」
7月「怪談の季節! ゾッとする実話なウラガワ」
8月「嘘と本当のあわいの怖い話のウラガワ」
9月「大人になりきれない人達のウラガワ」
10月「ベトナム旅行チン道中のウラガワ」
11月「しみじみしんみりな出来事のウラガワ」
12月「来年まで引きずりそうなアノ人のウラガワ」
2019年1月「去年に縁があったあれこれのウラガワ」
2月「台湾で初めて会った人たちのウラガワ」
3月「胸に引っかかる人を思う春のウラガワ」
4月「こういう人いるよねという出会いのウラガワ」
5月「働くということについて考えたウラガワ」
6月「私なりのプロファイリングをしてみたウラガワ」
7月「芸事業界の人たちの願いごとのウラガワ」
8月「怖さひかえめな怖い話のウラガワ」
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2013年7月~12月 名器手術のウラガワ/エロ界の“あきらめの悪さ”のウラガワ/エロとホラーと風俗嬢のウラガワ/風俗店のパーティーで聞いたウラガワ/エロ話のつもりが怖い話なウラガワ/風俗店の決起集会のウラガワ
2014年1月~10月 ベトナムはホーチミンでのウラガワ/ベトナムの愛人のウラガワ/永遠のつかの間のウラガワ ~韓国の夫、ベトナムの愛人~/浮気夫を追いかけて行ったソウルでのウラガワ/韓国の絶倫男とのウラガワ/ソウルの新愛人のウラガワ/風俗嬢の順位競争のウラガワ/夏本番! 怪談エピソードの数々のウラガワ/「大人の夏休みの日記」なウラガワ/その道のプロな男たちのウラガワ
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子どもの頃から九月になると「今年も後半に入った」としみじみし、なんだか焦りを覚え、無性に悲しくなったりする。前半に何かやり残している。まだ挽回できるかな。もう遅いかな。来年こそはなんとかしよう……。
考えてみたらそれって、正確には六月が終わる頃に思うことだろう。
たぶん、七月半ばに始まる夏休みを基準にしているのだ。六月が終わっても、まだ夏休みは始まらない。ぎらつく八月の夏休みが終わって、ああ、後半だ、となる。いまだに。
そんな今月は、宿題が終わってなくても、何か思い残すことがあっても、もう収束と終息に向かっている、というあきらめと安堵の気分を書いてみる。
全編に渡って登場人物はすべて仮名の上、年齢や職業、出身地に容姿などなど、若干の脚色やほどほどの変更を加えてあるのを最初におことわりしておく。
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私は親しい人とのラインは楽しんでいるが、不特定多数に向けたSNSは一切やらない。私のことだから、朝から晩まで夢中になって日常生活に支障を来すに違いないからだ。
それと、昔はよくハンドル握ると人が変わる、なんてことがいわれていた。普段は温厚な人が、車を運転させると急に怒りっぽい乱暴者になる、みたいな。今はSNS上で人が変わるっていうのが話題になり、実際よく目撃させられている。
友人、知人でツイッターやってる人はたくさんいる。たいていが良識ある楽しみ方、関わり方をしているけど、一日中見知らぬ人達と罵り合ってるのもいるんだわ。
その手の友人知人はほぼすべて、実生活では知性も良識も礼儀も兼ね備えた善男善女ばかりだ。逆にリアルではヤバい奴なのに、ツイッターでは上品な紳士淑女になる、というのはいない気がする。
ともあれ豹変してしまう友人知人を見ていると、私はやめておこう、となるわけだ。
その反面教師となった一人に、本坂さんがいる。私と同い年で、関東のある街の公務員をしている。同い年の妻とはやや結婚が遅かったので、二人の子どもはまだどちらも中学生だ。庭付き一戸建てに、その四人で暮らしている。
一見すると、平凡であることが幸せと結びつく家族と生活だ。
本坂さんは決してイケメンではないが、お地蔵さんみたいな庶民的で親しみやすい顔のオジサンで、見知らぬ人によく道を聞かれるし、満員電車でも女性は安心して隣に来る。
仕事もまずまず無難にこなし、家族仲もよく、職場にも家庭にも小さな不平不満をいえばきりがないが、大きなトラブルや不幸、心配事はなかった。そのはずだ。
なのにいつからか、順調に回っていた歯車がガタつき始めた。
本坂さんは職場でも家でもひたすら大人しく、友達もいないし妻とも子どもともあまり顔を合わせず、一人でテレビを見たりパソコンに向かうのが好きだった。
酒癖が悪い、ギャンブルで借金する、浮気を繰り返す、家族に手をあげる、といったわかりやすい悪いところもない。誰もが本坂さんを、家具の一つとして見ていた感じだ。
そんな本坂さんが突然、会社に休職届けを出してしまった。ちゃんと、鬱病だという診断書も添えていた。同僚も家族も、驚き戸惑った。
本坂さんは元々が無口で休日も引きこもりがちだったので、鬱病だといわれてもああそうだったの、としかいえなかった。家族だけでなく、職場の人もだ。
ともあれ、本坂さんは会社に行かなくなった。妻も働いているし子どもも学校があるし、日中は家に本坂さん一人になる。作り置きしたご飯食べるだけで、後は何もしない。
最初は妻も心配し、親身になって向き合おうとし、励ました。しかし本坂さんは相変わらず地蔵のような無表情さで、ああ、うん、しかいわない。
妻も次第に、いらだってくるようになった。子どもはまだ中学生だ。これから高校大学とお金もかかる。家のローンもある。妻だけの収入で一家は、安楽には暮らせない。
これからどうするの、どうするつもりなの、妻はいらだちを夫にぶつけた。本坂さんは休職する前と後、ほとんど変わりない。のらくら、言葉を濁すだけだ。
二人は、見合いで結婚していた。妻はごく普通の家の娘で経歴も普通だが、ただなんとなく独身でいるうちに世間でいうところの適齢期をかなり超えてしまい、子どもを生めるうちに結婚しなきゃと焦りだしたところに現れたのが本坂さんだった。
行き遅れのあんたにはもったいない、いい条件の人よ。こんなことを仲人にも親にもいわれ、決めてしまった。とんだ見切り発車だったわ、と今頃になってため息をつく。
本坂さんは後から、断られなかったから、それだけの理由だと淡々と語った。
惚れたはれたでくっつくより、そういう夫婦の方が長持ちすると双方の親からもいわれ、途中まではまったくその通りだった。
これまで家の中は、一応は平穏ではあったのだ。今も本坂さんはただじっと家の中にいるだけで、暴れたりしない。だから浪費もしないし、反社会的な交友関係もできない。
なんとなく、家にお父さんがずっといるのが当たり前、みたいな雰囲気にもなってきた。人は、環境に慣れていくものだ。そして現状維持がいいと、低いところで落ち着くことも多い。このままでいれば、これ以上悪くなることはないのだ。
ところがしばらくして妻は、予想もしなかったとんでもない事態が起こっているのを知らされる。
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