オンナのウラガワ ~名器大作戦~
第146回 ほんのり怖い人達のウラガワ(2)
◆もくじ◆
・ほんのり怖い人達のウラガワ(2)
・最近の志麻子さん
太田出版よりイヤミス『嘘と人形』発売
8/1(火)『噓と人形』発売記念トークショウ&サイン会開催
8/6(日)「オメ★コボシ39」開催
角川ホラー文庫より『現代百物語 不実』発売中
TV「有吉反省会」にヒョウ姿でひきつづき出演中
「岩井志麻子のおんな欲」連載中
カドカワ・ミニッツブック版「オンナのウラガワ」配信中
MXTV「5時に夢中!」レギュラー出演中
・著者プロフィール
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「普通の人達のちょっとした怖さ」をつづる今月。
四十になってから勤めを辞め、退職金を持って東南アジアのZ国に渡った百合。
第二の人生は順風満帆だったが、若い男の涼と深い仲になってしまった。
あるとき、ふとした用件で涼の机の引き出しを開けたところ……
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2014年11月~15年12月のバックナンバーは、「月別アーカイブ」の欄からご覧ください。
2016年1月「会えなかったけど気になる女たちのウラガワ」
2月「接点がないのに気になる人たちのウラガワ」
3月「嘘をつかずにいられない人たちのウラガワ」
4月「春のおかしなお便りの数々のウラガワ」
5月「距離感のおかしい人たちのウラガワ」
6月「台湾から連れてこられたある女性のウラガワ」
7月「大人の夏の観察日記のウラガワ」
8月「大人だからわかる怖い話のウラガワ」
9月「『志麻子のヤバモンGO』なウラガワ」
10月「取り返せない夏の思い出のウラガワ」
11月「常夏の国で生きる女の秋のウラガワ」
12月「冬を生きながら春を待つ女達のウラガワ」
2017年1月「自分を重ねてしまう若者たちのウラガワ」
2月「冬に聞いた奇妙な怪談のウラガワ」
3月「春のさなかに聞いた怖い話のウラガワ」
4月「木の芽時な人達のウラガワ」
5月「五月だけどさわやかになれない人たちのウラガワ」
6月「面識なしでも喜怒哀楽を喚起する人々のウラガワ」
※2014年10月以前のバックナンバーをご購入希望の方は、本メルマガ下部記載の担当者までお知らせください。リストは下記です。
2013年7月~12月 名器手術のウラガワ/エロ界の“あきらめの悪さ”のウラガワ/エロとホラーと風俗嬢のウラガワ/風俗店のパーティーで聞いたウラガワ/エロ話のつもりが怖い話なウラガワ/風俗店の決起集会のウラガワ
2014年1月~10月 ベトナムはホーチミンでのウラガワ/ベトナムの愛人のウラガワ/永遠のつかの間のウラガワ ~韓国の夫、ベトナムの愛人~/浮気夫を追いかけて行ったソウルでのウラガワ/韓国の絶倫男とのウラガワ/ソウルの新愛人のウラガワ/風俗嬢の順位競争のウラガワ/夏本番! 怪談エピソードの数々のウラガワ/「大人の夏休みの日記」なウラガワ/その道のプロな男たちのウラガワ
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パソコンもスマホもDVDもなかった岡山の子ども時代、七月になれば夏休みが来るとか海水浴に行けるとかいろいろな楽しみがあったが、テレビや雑誌で怪談特集が組まれるのもその一つだった。
大人になって年がら年中ホラーを好きなときに楽しめるようになっても、七月が来るたび感じるときめきは変わりない。とはいうものの、大人になって行動半径もいろんな経験も得られる情報も広くなっていき、変わってしまったことはある。
やっぱり、生きた人が怖いという現実と。ときには強烈な血まみれホラーより、人によっては何が怖いんだかわからないような話の中にこそ私好みの恐怖が隠れているということだ。今月はそんな、一見すると「普通の人達のちょっとした怖さ」を書いてみる。
例によってすべての人や物の名前はここだけの仮名で、背景なども少々変更してある。
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ずっと独身で会社勤めをしてきた百合は、四十になってから一念発起して勤めを辞め、退職金を持って東南アジアのZ国に渡った。
何年かは、仕事をせずに暮らせるほどの貯金もあった。現地の大学院に入り、元々がんばり屋で優秀な百合は難なく修士号を獲得した。やがて現地のきちんとした会社にも入れ、第二の人生は順風満帆だった。
可愛らしくて優しい彼女は付き合った男性も何人かいたが、なんとなく問題も決め手もないままに結婚まで至らず、このまま独身でもいいと思っていたのだが。意外な雰囲気の男と深い仲になってしまった。
一回りほど若い涼は高校を出ても就職せず、東南アジアをバックパッカーするうちにZ国が特に気に入ってしまった。東南アジアによくいるタイプだが、日本で短期のバイトをして稼いで物価の安い国に渡り、何をするでもなく安宿に沈んでいる。
本来は百合と何ら接点もないし、はっきりいって軽蔑すらしてしまう種類の男なのだが、妙な人なつっこさとときおり漂わせる危険な陰りのようなものに心惹かれた。
川沿いの屋外のカフェでナンパされたのだが、その日のうちに彼の泊まっていた宿で関係を持ち、次の日には彼が百合の高級アパートに転がり込んできた。
そうして、なし崩し的に内縁関係になった。百合は会社を作って涼を社員とし、Z国の滞在許可も得てやった。涼はそれなりに仕事もするようになり、百合は正式に結婚することまで考えるようになったが、微妙な迷いと不安があった。
涼は気さくで陽気で、悪くいえば軽いところもある上に、何といっても若い。現地でなじみのホステスを作ったり、どこで知りあったかラインなどやっている女達が複数いるのも百合は知っていたが、本気にならない限りは目をつぶることにしていた。
立場も歳も上の女が、若い男のつまみ食いにぎゃあぎゃあ目くじら立てるのはかえってみっともないというプライドもあった。
そんなある日、涼が仕事で不在になり、たまたま在宅で仕事をするため百合も自宅で一人になった。ふとハサミが必要になって、涼の机の引き出しを開けた。
百合は涼のスマホも見たことはなく、引き出しやカバンを開けたこともなかった。昔、付き合っていた男のそれらを見てしまったことはあったが、見てうれしくなるものなどほとんどなく、見なきゃよかったというものばかりだったのを心の傷にもしていた。
ともあれ、初めて涼の机の引き出しを開けてみれば。油性ペンがごろごろと何十本も転がっていた。普通の細い筆記用ではなく、一番太いタイプのものだった。Z国ではポピュラーなブランド、ソーダのペン。
「ソーダのペンはZ国ならどこにでも転がってるし、私も使っていたけど。涼が持ってたのは、すべて極太タイプだったの。普通のノートには使えない。
このタイプを涼が使う場面なんか、公私ともにないわけよ。だから、怪しいというより違和感を覚えて。つい、蓋を開けてしまったのね」
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