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本気のインナーブランディング〜「事業コンシェルジュ」を目指す弥生の企業文化づくり<後編>

2014/05/09 09:30 投稿

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弥生のインナーブランディングへの取り組みは決して平坦な道ではなかった。岡本社長が掲げたミッション、ビジョンを社員ひとりひとりが自分のこととして理解し、行動に反映させるために、バリュー再定義プロジェクトを開始した。

 

後編では、推進チームを担った青木宏之さん、鈴木仁さん、谷口祥子さん(以上、マーケティングコミュニケーションチーム)、辻元弘幸さん(人事総務部)に、具体的な実施内容を伺った。聞き手は前編に引き続き、ループス・コミュニケーションズ代表の斉藤徹でお届けする。

 

 

ミッション、ビジョンを「誰か別の人のやる仕事」にしない

 

斉藤:当初、社員の方々は「事業コンシェルジュ」というビジョンをなかなか理解せず、共感度も低かったとのことですが、どのような背景があったのでしょうか。

 

青木:私は岡本が社長に就任する1年前に営業として入社しました。岡本の社長着任時の所信表明として「当社はこうありたい」というミッション、ビジョンを発表したのですが、営業担当としては率直によく分からないと感じました。岡本の話にもありましたが、やはり私自身が高単価製品にシフトしようとしていましたから(前編を参照)。やはり納得するまでには時間がかかりました。

 

鈴木:岡本は理路整然と説明される方ですし、実際に結果もついてきていました。一方で、現場が自分のこととして受け止めていたかというと、若干の乖離がありました。事あるごとに岡本は「事業コンシェルジュ」と言っていたのですが、誰か別の人がやる仕事、といったような空気でした。

 

このままではまずい、社員全員で動かなければ、ということで、まずミッション、ビジョンを腹落ちさせることからスタートしました。2012年秋の社員総会を「事業コンシェルジュ」に向かうための社員全員の決起集会と位置づけました。各部門長の言葉で「事業コンシェルジュ」を説明したり、私たちの事業が外からどう期待されているかを知ることもできるように、初めて外部の方を招いたパネルディスカッションを実施しました。

 

社員総会後にアンケートをとりました。9割の社員が「ミッション、ビジョンは理解でき、自分も努力したい」と回答したのですが、「実際の現場で自分が何をしたら良いのかがわからない」という課題も浮き彫りになりました。

 

弥生のインナーブランディング推進チームと岡本社長
左から辻元弘幸さん、鈴木仁さん、岡本浩一郎社長、青木宏之さん、谷口祥子さん

 

 

浸透のフェーズごとに壁を打ち破る

 

辻元:弥生は社員の95%が中途入社で、核となる企業文化がありません。そこで社長がミッション、ビジョン、バリューを掲げただけでは浸透しづらい状況でした。人事としては、行動指針と評価を密接に連動させなければならないわけで、もし行動指針と評価指標にブレがあったら、目指す方向には進みません。そこで、「行動が企業文化をつくり、企業文化が行動を促す」ということを打ち出しました。ミッション、ビジョンと違い、バリューは変わることもあります。つまり、ミッション、ビジョンと企業文化の架け橋がバリューであると考えました。

 

ところが、そう簡単には浸透しません(笑)。浸透には4つのフェーズ、「認知」「理解」「行動」「定着」がありますが、その間に3つの壁があると認識しました。つまり、「分かったけど、だから何?」「自分は関係ない」といった強要への抵抗感、「じゃあ、実際に何をしたらいいんだ」という言葉の抽象性、そして「でも結局、変わらないじゃない」というテンションの低下です。

 

そこで、まず「バリューは一部の社員が勝手に考えること」という状況をなくすために、みんなで一つのものを作ることにしました。また、浸透のために評価に結びつけようとしています。さらにモチベーションの低下を避けるために社員表彰制度を作りました。フェーズごとに壁を突き破るような作戦です。

 

(クリックで図を拡大)

 

斉藤:人事評価ではどのようなことをされているのでしょうか。

 

辻元:今期から目標設定制度と評価制度を変えました。バリューに沿って、常日頃の業務が一体になるように目標を考えるようにしてもらっています。定着にはまだまだ時間がかかると思いますが、変わり始めているという実感があります。

 

 

4つの視点で議論しよう〜バリューの再定義プロジェクト

 

鈴木:バリュー再定義は、マイルストーンを設定しないと無制限に時間がかかってしまうので、2014年4月の消費税率引き上げに伴う繁忙期を「14危機」と位置づけ、「14危機を乗り越えるために」ということでプロジェクトをスタートしました。全社員が集まる機会を作るのは難しいため、ミドルマネジメント層の26名が参加して、2013年1月から3月にかけて5回ワークショップを実施し、最終的に4月下旬に全社で発表しました。

 

斉藤:参加メンバーの方たちは立候補されたのですか。

 

鈴木:もともと1年前から、チーム変革のためにピーター・センゲの『学習する組織』を使った社内研修を実施していて、さまざまな部門のミドル層が参加していました。勉強会を通じて次のステップに進めるような雰囲気になっていたので、同じメンバーでバリューを考えることになりました。

 

斉藤:ディスカッションではどのような内容を話されたのでしょうか。

 

鈴木:参加メンバーには、「一人の社員として」「各部門の代表として」「チームマネジャー、リーダー、先輩として」「弥生の代表として」という4つの視点を持って議論に参加しようと呼びかけました。

 

また、バリューの文案を考える前段階として、弥生がなぜ一つにならなければいけないのかといった議論もしました。最終的には、参加者から出てきた文案を組み合わせて、外部のコピーライターにも手伝っていただき、文章化しています。

 

斉藤:プロセスの途中段階でトップとすり合わせはされたのでしょうか。すり合わせがないと、最後に「なんだこれは!」となってしまうこともありますよね。

 

鈴木:協議プロセスをオープンにするように努めていたのですが、その上で岡本にはときどき報告していました。また、プロジェクトチームの素案を本部長会でも検討してもらい、最終的な内容で社長からOKをもらいました。

 

斉藤:なるほど。体感として、自分のことになってきた感じはありますか。

 

青木:以前に比べると格段に浸透してきていると思います。

 

辻元:つい先日、当時のプロジェクトメンバーを対象にアンケートを実施しました。1年が経ち、バリューをどの程度活用しているかという内容です。「14危機」では、さまざまな部署と連携しなければならない場面が多発しました。そのような新規プロジェクトのキックオフで皆のベクトル合わせに使った、部下を評価するときの判断基準にした、など、バリューによって意思決定したというエピソードがいくつも上がっています。

 

(クリックで図を拡大)

 

 

プロダクトアウトから「事業コンシェルジュ」の体現へ

 

斉藤:お客さまへのサービスで変化はありましたか。

 

青木:今までのカスタマーサービスは受け身なところがありましたが、導入間もないお客さまに、悩みがないかこちらから聞いてみようというアクティブサポートを始めました。

 

斉藤:え! こちらから電話をかけるんですか? それはびっくりされますよね。

 

谷口:はい。びっくりされてしまうこともあるようですが、「何かお困りのことはございませんか」というお電話をカスタマーセンターからすることで、実際に「使い始めたばかりで分からないことを相談できてよかった」などの声をいただくなど、手応えを感じています。

 

青木:その他でも、マニュアル一つとっても、用語の使い方や提供する情報の内容など、お客さまの視点を取り入れるように努力しているところです。お客さまは何に困っていて、何を解決したいのだろう、と。操作感や使い勝手など、製品開発にも活かされていると思います。

 

斉藤:これまでは製品の機能面でプロダクトアウト的に見ていたものを、バリューに沿った視点で見なおしてみようということですね。

 

鈴木:会社全体でお客さまの視点に立ち、異なる部門のメンバーも一緒に推進することを心がけるようになりました。

 

また、昨年の社員総会では、バリューを体現しているプロジェクトのチームを表彰しようということで、6チームを本部長の推薦で「弥生賞」の候補としました。その中から投票で最優秀チームを決め、どのような行動がこれからの弥生にふさわしいかを社員皆で共有できるよう、遊びの要素も入れて企画しました。

 

辻元:以前は部門の壁があって、表彰制度がタスク化していたところもありました。今回は、ボトムアップで自らが他の部門のために何ができるかという視点が入り、大きく変わったと思います。

 

 

斉藤:なるほど。社長からお話いただいた熱い志、そして現場のみなさまからのボトムアップの思い。社としての一体感を見事に実現されるまでに、ずいぶんといろいろなご苦労があったことがよく理解できました。

 

僭越ながら弊社もパートナーとして御社とお付き合いさせていただいておりますが、最近、現場社員の皆さまが非常にポジティブで積極的になられたと社内でも話題になっておりました。「本気のインナーブランディング」がいかに組織風土を変える力を持っているか、この目と耳で確かめられて、我々としても大いにお力をいただくことができました。本日は誠にありがとうございました!

 

(構成・文:in the looop編集部)

 


 

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