企業創業者は、経営者であるとともに株主でもあり、自らの給与に対して大きな決定権を持っている。自分自身に高い報酬を払うか、それとも安く抑えてよりハイクラスな人材を雇うのか。スタートアップ創業者にとって頭を悩ます難問のひとつだ。

 

では、実際に彼らはどれくらいの報酬を得ているのか。IPOないし株式売却を目指すスタートアップにとって、報酬とは現金(給与やボーナス)によるものとエクイティ(ストックオプションなど)によるものの二通りがあるが、ここでは現金報酬に対象を絞り、スタートアップ創業者のサラリー実態を明らかにしたい。なお、当記事のデータ元は COMPASSWealthfrontThe Founder’s Dilemmas であり、TNW (What salary does the founder of your favorite startup get?) 記事を参考にしている。

 

 

スタートアップ創業者の報酬はどれくらい?

 

COMPASS社が収集している全世界11,160社のデータによると、71%(7,964社)ものスタートアップ創業者は自らの給与を年収500万円(1ドル100円で換算、以下同)より低く設定しており、年収1000万円を超える創業者はわずかに11%にすぎないことがわかった。なお、シリコンバレーのスタートアップに限定した場合にも傾向は類似しており、66%の創業者は年収を500万円以下にしている。サンフランシスコ近辺は不動産や物価が高いことで知られており、彼らが質素な生活スタイルで創業に没頭しているさまが見てとれる。国別平均に見ると、最も高いのがオーストラリアで約720万円、低いのがインドで約300万円だった。

 

続いて、集まったお金の規模で創業者のサラリーを分類したのが下記の図だ。投資金額で5億円未満では年収500万円を下回っており、10億円を集めた創業者でも平均で年収800万円強であることがわかった。

 

さらに、プロダクトがどのようなフェーズにあるかも、創業者の年収には大きく影響している。製品が開発途上ないし限定的稼働にとどまっている場合には、いずれも創業者の年収は500万円を下回っている。

 

ただし、このデータにはストックオプションなどのエクイティ報酬は含まれていないことに注意したい。創業者の主たるインセンティブは、あくまでIPOないし株式売却時のキャピタルゲインにあり、自らが出資した株式および報酬で得られるストックオプションがその原資となる。スタートアップ創業者とは、大きな夢を持ち、一攫千金を狙うリスクテイカーなのだ。

 

 

スタートアップに就職する人材の報酬はどれくらい? 

 

彼らの多くは、自らの現金報酬を下げてまで、できるだけ優秀な人材を集めようと努力している。その報酬は彼ら自身のものより高額であることが多い。参考までに、SECに登録されているオンライン投資顧問会社 Wealthfront が、スタートアップ企業の各職種における給与ボーナス(CASH)とストックオプション(EQUITY)のレンジをあらわすチャートを発表しているので、この記事に組み込んでご紹介したい。

 

 

この図、上部の4パラメータは入力可能で、かつグラフ内の職種にマウスオーバーすると詳細データが表示されるようになっている。職種とジョブレベルによっては4,000万円を超えるものもある。創業者はそれだけ優秀な人材集めに苦労しているのだ。

 

ただし、これはあくまで創業者の話であり、株式を持たない外部CEOにはあてはまらないことに注意したい。書籍 “The Founder’s Dilemmas” には、外部から派遣されたエグゼクティブの報酬やストックオプションの比率が紹介されている。これによると、マーケティングのVP(Vice President)を基準とした場合、CEOの給与は平均で1.7倍、ストックオプションは平均で6.2倍となっており、外部から派遣されたCEOは、他の役員・社員に対しても高い報酬を得ていることがわかる。

 

これらの貴重なデータは、あなた自身が、自ら夢を求めてスタートアップを興すべきなのか、それとも専門能力を高めてスタートアップに高給で雇われる道を選ぶのか、そんな悩みにに対して、大いなる示唆を与えてくれるものかも知れない。

 

 


by 斉藤 徹
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