お世話になっております。
ループス直人です。
最近はそうでもないのですが、ブログマーケティングをやっていると「ブログであんなにノウハウを無償公開してしまって大丈夫なのですか?」という質問をいただくことがあります。実際、ぎりぎりなんとかなるのですが(・・・今のところは)、今日はその理由を考えてみました。
ひとつの結論→ノウハウよりその源泉に価値がある
色々思いつくのですが、今日はその中でもノウハウを生み出す「組織能力」の存在に焦点を当ててみたいと思います。
ブログで公開されているのは「具体的」な手続き
ノウハウとは、外部のある事象に対する直接適用可能な知識です。
ソーシャルサービスの活用に関するノウハウというと、例えば「Facebookではこういう投稿の仕方をするとインプレッションが上がる」とか、「○○社はこういうやり方のソーシャルプロモーションで成功を収めた」のような感じの、具体的な「手順」「手続き」に言及しているものです。こういった手続き的知識が重宝がられるのは、汎用的・抽象的な知識に比べて適用・実践しやすいからです。また、ノウハウの中でも、特に成功事例の表層にフォーカスしていることから、ここでは「ベストプラクティス」と表記するのがより適切でしょう。
「理論」を活用するのはめんどいし
ベストプラクティスに比べて、より本質的な(もしくは、そうであると考えられている)知識は汎用的である代わりに適用が難しい面があります。前述の例はいずれも「顧客が好ましい反応をする何か」という本質を捉えていたり、背景にある理論に裏打ちされている可能性がありますが、例えばそれらの共通項が「人に話したくなる “何か” があること」みたいな抽象的なものだったりするととたんに実践のためのハードルが上がります。実践するためには、理論という戦術生成機に実践者個別の外部環境や内部環境といったインプットを加え、カスタマイズされた(しかも未検証の)アウトプットを得るというプロセスを必ず経る必要があるためです。
気合の入ったブログ記事や書籍では、「ベストプラクティス」ではなく、その組織が実践を通じて得られた「理論」まで公開されていることもあるのですが、適用には前述のような手間に加えてアウトプットの妥当性検証に専門的な判断が必要となるため公開が競争力を完全に奪うまでに至ることはそれほど多くないはずです(多くのコンサルティングファームがフレームワークを堂々と公開しているのもこういった理由だと思います)。
ベスト・プラクティスは陳腐化しやすい
つまり、(だいぶ乱暴ですが、)前述したような知識において「適用・実践のしやすさ」と「汎用性」はトレードオフの関係にあると言えます。特に、テクノロジーの衰勢サイクルが早いIT業界においてはある時点でのベストプラクティスが陳腐化するのも早いです。頻繁に行われる検索エンジンのアルゴリズム変更はそれ以前は一般的とされてきた(または “なんとかうまくいっていた” )やり方に変更を迫りますし、ソーシャルサービスへの投稿時間最適化も「特に効果的なある時間帯」が世に広く知られると逆に投稿が集中して見られづらくなったりと外部環境の影響をモロに受けます。そのような環境や前提条件の変化が起こった場合、手続きのレベルまで具体化された知識だけでは応用が効かず、手の打ちようがありません。
見方を変えると、ひとつのベストプラクティスがあらゆるケースで有効となれば、世の中はとっくの昔に成功事例で埋め尽くされているでしょう。ベストプラクティスとそれが効果的に働く環境要因は、本来セットで語られるべきだと思うのですが、シンプルさを追求するあまり多分に一般化されているケースも少なくありません。当然、その暗黙的な前提を看破できなければ適用しても成功はおぼつかないでしょう。
そのようなトラップを乗り越えるために大切となるのは、あるベストプラクティスを生み出した「背景にある理論」や、それを実現する「組織のルーティン」だったりします。この場合、ベストプラクティスとして「何をやっているか」は、組織として「何を持っているか」に対して副次的な存在とみなすことができるでしょう。
競争力は手続き的知識より組織能力
話が長くなりましたが、結局、「ベストプラクティスを公開し続ける」ことができるのは、それを生み出す組織能力(Organizational Capability)に本質的な強みがあるからです。
このことはむしろ、持続的なメリットを後押しする側面もあります。それは、静的なノウハウを外に出し続けることでストックがなくなり、新しく生み出す必然性が生まれるため、対応し続けるうちにベストプラクティスを開発する組織の力が養われるというものです。
最近になって、マーケティングの一環としてブログを書いている企業の方とお話をさせていただく機会が増えたのですが、どこの会社さんでもブログのネタ探しやノウハウ構築を繰り返す過程で、その一部を組織としてのルーティンに組み込んでいるように感じました。それは例えば継続的な情報収集だったり、分析活動だったり、社員教育の一環だったりするのですが、外部に情報を発信することでそれを生み出す力が鍛えられ、ノウハウのような具体的な手続き的知識を組織としての血肉に変えていると言えるでしょう。
このような組織能力としての強みは、静的なベストプラクティスのような表面的な知識に比べて外部環境の変化による陳腐化に強いだけでなく、経路依存性(Path Dependency)があるため他社に模倣されづらいという長所があります。
ブログ公開による副次的な効果
ベストプラクティスを公開することによって得られる副次的な効果として、「外部からのフィードバック」があります。これはベストプラクティスのケーススタディとして、理論の仮説検証として、公開者に様々な恩恵をもたらすでしょう。
補足
Twitterやはてブのコメントに「ブログで陳腐化した情報を公開していること」を前提としたものがありましたが、このエントリで問題にしているのは公開後の「鮮度」の方です。公開時はまさにベストプラクティスだったものが、数ヶ月後には意味をなさなくなっている可能性が高い分野(例えばITなど)では、競争力の源泉はベストプラクティスを「生み出すことができる組織」の方に、より価値があるのではないか、ということを申し上げたかったです。
以上です。
以上、つれづれなるまま、という趣ですが、ブログでノウハウ(特にベストプラクティス)を公開しても企業としての強みが維持できる理由について、考えてみました。ご意見・ご感想等ございました是非Facebookページやコメント欄までお寄せいただけますと幸いです。
また、このサイト自体前述のような企業努力によって情報発信を可能としている様々なコンテンツホルダーの皆さんに支えられて運営できております。この場を借りてお礼申し上げます。
本ブログの執筆にあたっては以下の書籍で大きなインスピレーションをいただきました。競争戦略という小難しいテーマを扱っているにも関わらず大変面白く、読みやすく、勉強になる本です。全てのビジネスマンにお薦めできます。よろしければご一読ください。
それでは、よろしくお願い致します。