ゲームの力が会社を変える -ゲーミフィケーションを仕事に活かす-
「ゲーミフィケーション」は昔からある概念
「ゲーミフィケーション」は、特に新しい概念というわけではありません。こういってしまうと、「ゲーミフィケーション」とは何か、その新しい概念について知りたいと思って本書(「ゲームの力が会社を変える -ゲーミフィケーションを仕事に活かす-」)を手に取った方は、驚かれるかもしれません。
しかし、これは重要な点です。ゲーミフィケーションは決して新しい概念ではなく、すでにあらゆる業界やさまざまな場面に取り入れられており、私たちの誰もが必ず体験したことがあるものなのです。例えば、TSUTAYAのポイントカードやブログのアクセスランキング、もっと広義ではラジオ体操のスタンプカードもゲーミフィケーションの一種です。このように多数の事柄に導入され、多くの成果を上げている概念が、改めて注目を浴びているのが今の状態なのです。
そもそも「ゲーミフィケーション」とは、ゲーム以外の分野にゲーム的要素を組み込むことで、ユーザーのモチベーションやロイヤリティなどを高める手法を指す言葉です。当然、テレビゲームやソーシャルゲームの中にも組み込まれていますが、それ以外の幅広い分野にも取り入れられています。ゲームに夢中になった経験がある人は多いでしょう。古くはファミリーコンピュータ、プレイステーション、ニンテンドーDSやWii、オンラインゲームやアーケードゲームなど、さまざまなゲームが存在してきました。ついつい時間を忘れて、1日中ゲームに没頭してしまう人も多いでしょう。最近では、ソーシャルゲームに熱中する人たちが増えており、手持ちのスマートフォンで気軽に始められるために、ゲーム人口の裾野を広げています。
このように多くの人がゲームに熱中するのは、単に面白いからだけでなく、ゲームの中に、それだけの仕掛けや仕組みがあるからです。そして、そのような仕組みは、生活やビジネスなど多くの場面で活用されているのです。本書では、その中でも主に企業内での活用シーン、つまり社員のモチベーションを高めて仕事の効率を上げたり、社員や顧客の声を共有して社員教育に役立てたり、会社の知名度をアップしてブランディングするなどの活用法に注目していきます。
本書を読み進める前に、ぜひ、ご自身の会社について振り返っていただきたいことがあります。
- 御社では、社員の士気は高いでしょうか。
- 売上のみにフォーカスして、ギスギスした感じはないでしょうか。
- 社内に笑顔や会話があふれていますか。
- 自主的に他の社員と関わったり、会社を良くするようなアイデアを出したり、行動を起こす社員はいるでしょうか。
- 愚痴ばかりで、社内が鬱々とした雰囲気に包まれてはいないでしょうか。
- 毎日のように遅刻する社員がいたり、離職率が高かったりはしないでしょうか。
もし1つでも思い当たることがあるなら、ぜひ本書を読んで御社に取り入れてもらいたい仕組みがあります。それが、「ゲーミフィケーション」です。本書では具体的な成功事例を紹介しつつ、その仕組みを知っていただこうと考えています。
なぜ、ゲーミフィケーションは強力なのか?
話を進める前に、まず基本的な疑問を解消しておきましょう。それは、「ゲーミフィケーションは、なぜ効果が出るのか」ということです。
2011年11月25日、米国のゲーミフィケーションサミット主催者の1人であるゲイブ・ジッチャーマン氏が来日し、ゲーミフィケーションセミナーに登壇しました。私も、ゲイブ氏、テックブロガーのイケダハヤト氏、NHK出版の久保田大海氏、ゆめみ代表取締役社長の深田浩嗣氏と共に、パネルディスカッションに登壇させていただきました。大変勉強になるとても良いイベントだったのですが、そのときのゲイブ氏のプレゼンが分かりやすかったので、紹介させていただきます。
「なぜゲーミフィケーションは強力なのか?」というテーマに対して、ゲイブ氏はこのように答えています。
人は、元来何かを学び、習得したいという欲望を持っています。
つまり、何かを習得したいという欲望を感じ、インセンティブを目的としてチャレンジし、達成したり、達成することで報酬を受け、やる気になるようなフィードバックを受けるうちに、最終的に習得に至るというわけです。例えば、第1志望の大学に合格したい→夢の大学生活を想像する→小テストや実力テストを受ける→徐々に点数や判定結果が高くなる→目標に近付いていることを感じ、勉強に対するやる気がアップする→第1志望の大学に合格する、などといったことも、この流れに則っています。
必ずしも直線的にこの段階を経るわけではなく、返ってきたフィードバック自体がインセンティブとなり再チャレンジにつながるなど、段階がループすることがあります。このプロセスは何度も何度も繰り返されていきます。このループを繰り返し行ううちに、自分の中に「習得している」「成長している」「進歩している」という感覚が生まれます。この「進歩している」という感覚自体がインセンティブになり、同時にモチベーションになるというわけです。
ゲームをしていると、徐々にゲーム内でのスキルが上がっていきます。ゲーム内では、ミッションをクリアしたり、モンスターを倒すなどの経験が求められます。そのような経験を経ることで、ゲーム内のキャラクターのレベルや体力などのパラメータが上がったり、新しいスキルを覚えたり、新しいエリアに行けるようになったりするなど、文字通り成長していきます。キャラクターが成長することで、「成長している」「進歩している」ことが実感でき、やりがいを生み出すというわけです。
ゲームを続けるのが楽しいのは、このような仕組みが働くからなのです。また、ゲームでは快楽を伴う達成感を味わえることも、強力な効果を発揮する理由です。そもそも人間の行動プロセスは、以下のようになっています。
人間は、「行動」によって賢くなります。行動した結果、達成感を感じると、その人の脳内にはドーパミンが分泌され、快楽を感じます。快楽を伴う達成という体験をすると、脳はその体験を再び味わいたいと感じ、同様の行動を求めるようになります。そうすることで、行動自体にも変化が生じるようになります。
例えば、具体的には次のような流れを経るでしょう。
- サッカーの試合で勝利する
↓
- 勝利による達成感、満足感を味わう
↓
- 再びその快感を味わいたいと感じる
↓
- サッカーの練習に熱心に励むようになる
ゲーム自体、行動→達成感→欲求→挑戦という人間の行動プロセスと同様のパターンから成り立っています。その上、ゲーム自体が最初の「行動」を生み出すこともできます。例えば、ゲームをしていてミッションやダンジョンなどをクリアしたり、ボスを倒したりした場合、達成感を感じることができます。それによって「ゲームが面白い」「達成感を再び感じたい」と感じることで、さらに熱心にゲームに取り組むようになるというわけです。ゲーム的要素は、このように人をやる気にさせる仕組みを持っています。実際、ゲーミフィケーションはあらゆる場所に利用できます。ゲーミフィケーションは、このゲーム的要素を、ビジネスに活用できないかという試みなのです。
余談ですが、ガートナーの、ハイプ・サイクルに関する一連のスペシャル・レポートで1900を超えるテクノロジを76のハイプ・サイクルに分類し、それらの成熟度、企業にもたらすメリット、今後の方向性に関する分析情報を、毎年、「先進テクノロジのハイプ・サイクル」としてレポートしています。ハイプ・サイクルとは、新技術が実際に普及するまでの間、ユーザーやメディアの期待度や認知度が時間経過とともに、どのように変化するかを示した図のことです。ハイプ・サイクルには、「黎明期」「流行期」「反動期」「回復期」「安定期」の5つの段階があります。最新のレポートである「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2011」では、ゲーミフィケーションは「ピーク期」にさしかかっているとされ、ゲーミフィケーションが、今まさに流行していることがよく分かると思います。
それでは、今度はゲームの世界から、ビジネスの世界に目を向けていきましょう。
ビジネスにおけるゲーミフィケーション
消費者だけでなく、企業の社員もゲーム化の対象となっています。ゲームの仕組みを利用して仕事をもっと面白くしたり、成果などを見える化して生産性を上げたり、社員に対する報奨システムとして活用することもできます。では、ゲーミフィケーションは、ビジネスのどのような場面で取り入れられているのでしょうか。
最も典型的な例が営業です。営業マンは、受注や売上と連動して報奨金を得られるような給料体系となっていることが多いものです。これも、受注や売上へのモチベーションアップにつなげるためなのはいうまでもありません。それ以外にも、壁にランキングや売上に関するグラフを作成して、売上を上げたら星をつけるようにしている会社が多くあります。自らの売上の伸びを見える化して実感できるようになるだけでなく、他者と比較することにより、モチベーションを高めようという仕組みです。営業マン単位だけでなく、店舗単位、部門単位などで競争が行われることもあります。
つまり営業マンは、報奨を受け取ったり、他者と競ったり、他者から評価されたりすることで、大きな喜びややる気を得ることができる仕組みになっているのです。
私の知っている会社で、ホテルやホールなどを借り切り、照明や音響などに凝って、表彰イベントをやっているところがあります。芸能人などのゲストが来ることもあり、表彰式というよりもはや商業イベントです。社員の方に話を聞くと、参加するとやはり感動してモチベーションが上がり、気分が高揚するのを感じるそうです。
競争は、営業でのみ行われているわけではありません。例えば、工場ごとに節電を競わせているメーカーもあります。東日本大震災による節電の必要性ということもありますが、それだけでなく、工場ごとに競わせることで、コスト削減の拡大をねらっているというわけなのです。私が聞いたところによると、工場ごとに、間引き運転、蛍光灯を間引きし昼休みと勤務時間外は消灯する、エアコンの空調温度設定を夏は高め、冬は低めにする、寒暖は作業員の衣服で調整する、エレベーターは極力使わず階段を利用する、自販機の照明を切る、などの工夫が見られたそうです。さらに、人件費の節約にもなるので残業をやめるなどした結果、かなりの節電とそれに伴うコスト削減ができたのです。
他にも、アルバイトのティッシュ配りで、次のような例を聞いたことがあります。そもそも多くのアルバイトは責任感が乏しく、また昇進もないことから、やる気を出させるのが難しいものです。それゆえ、実際には配らずにこっそりとゴミ箱に捨てたにもかかわらず、「配りました」と嘘の報告をする人もいるくらいです。そこで、彼らが配るティッシュに1つずつ目印をつけておくことで、アルバイトのやる気を起こさせることができます。配布前に、担当者が分かるように、1、2、3、4、5などと目印をつけておきます。来店したお客さんがティッシュを持ってきた場合、ティッシュの数字を確認し、「1」とついていれば、「1」のティッシュを配ったアルバイトの担当者が、時給プラスアルファとしてボーナスを受け取れるという仕組みです。アルバイトはボーナスがほしいですから、来店につながりそうな顧客に積極的にティッシュを配るようになるというわけです。
これらはすべて「ゲーミフィケーション」を活かした例です。これでおわかりと思いますが、ゲーミフィケーションは決して新しい概念ではなく、これまで多くの場面で実践されてきたことなのです。
続きは本書でお読みください。
ゲームの力が会社を変える -ゲーミフィケーションを仕事に活かす-
日本実業出版社 岡村 健右
本書ではANA、マクドナルド、ユナイテッドアローズなど、さまざまな企業の実例を紹介しながら、ゲーミフィケーションをビジネスに取り入れる方法を解説しています。
社内ゲーミフィケーション トークイベント
2013/10/30 (水) 16:30〜
会場:アマゾンデータサービスジャパン会議室(目黒駅徒歩5分)
参加費:無料
登壇者:ゆめみ 代表取締役 深田浩嗣
シンクスマイル 五十嵐政貴
ループス・コミュニケーションズ 岡村健右
ITL編集部
">by ITL編集部