カカオジャパンの広報様より、日本国内ユーザー数は870万人になっているとご連絡いただきましたので訂正しました。
2012年、IT業界ではLINEに代表されるメッセージングサービスの急成長が大きな話題を呼んだ。日本での中心となるLINEは、2011年6月にサービスイン。翌2012年1月に全世界で1,500万ダウンロードを超え、2012年11月末には全世界で8,000万人、日本国内で3,600万人の登録者を数えたという。
一方、昨年10月にヤフーが50%の出資を行い大きな話題となったカカオジャパンが提供する「カカオトーク」も各メディアでの露出を強化し、急速にユーザー数を伸ばしている。本記事では、同社代表朴氏へのインタビューを元にカカオトークというサービスが目指す方向性や、LINEやcommといった他サービスとの違いを考察してみたい。
・ヤフーがカカオジャパンに資本参加–「カカオトーク」を共同展開
カカオトークの概要
カカオトークは、利用しているユーザー同士であれば国内・海外、通信キャリアを問わず、無料で音声通話・チャットが楽しめるスマートフォンアプリだ。無料通話や無料メッセージ以外にも、「5人グループ通話」や「トークPlus」「着せ替えテーマ」「動くスタンプ」などの機能、サービスが無料で提供されている。
カカオトークの公開は2010年3月。日本ではLINEの方がメジャーだが、実はカカオトークの方が1年以上前に公開されており、アプリとしての歴史は長い。2011年7月に日本法人である「カカオジャパン」を設立し、日本における本格展開を始めた。プレスリリースによると、当時の利用者数は1,900万人だったという。それから1年以上が経過した2012年12月時点における全世界での利用者数は7,000万人以上。日本国内におけるダウンロード数は750万件ということだ。
日本国内におけるモバイルコミュニケーションサービス
リリース自体はカカオトークの方が1年以上早かったものの、日本での展開は先行するLINEの後塵を拝している状態だ。この分野では、LINE・カカオトークの他に DeNA社が提供する comm、GREEが先日海外でリリースしたとされる GREE Messenger 、中国を中心に人気があるWechat・Whatsapp などがあるが、日本での伸びが著しい3サービスについてわかっていることをまとめてみた。
上記表は各社プレスリリースや直接のヒアリングを元に作成したが、メッセージ流通量や登録者数などの用語定義、発表日や集計期間は各社異なる可能性があるため必ずしも比較が妥当とは言えない点に留意していただきたい。
要点だけまとめると、ヤフー株式会社と連携しているカカオトークは上記3アプリの中では最古参。グローバルでの利用はLINEと拮抗しているものの、日本市場を支配しているのは1年以上後にリリースされたLINE。日本国内におけるLINEのシェアは日本のスマートフォン普及台数とほぼ一致する支配的なものだ。DeNAが提供する最後発の comm はリリース後2ヶ月足らずで国内におけるカカオトークの利用者数と同程度のダウンロード数を目指すという野心的な目標を掲げている。10億円という巨額のプロモーション費用が投じられ、マスメディアでの露出はカカオトークの4倍くらいになるのではないかと言われている(業界関係者談)。表中には記載がないが、LINE・カカオトークのいずれも欧米よりはアジアへの参入に積極的だ。LINEは台湾で、カカオトークは韓国でそれぞれ支配的なシェアを達成している。機能やマネタイズ面ではLINEとカカオトークは比較的似ているように見える。ゲーム、公式アカウント、スタンプが中心だが、普及を進める施策との兼ね合いかその強弱には違いが見られる。commはシンプルに徹し、現時点では直接的なマネタイズを全く考えていないようだ。いわゆる最大化戦略を考えているのだろうと推測される。 業界では国内よりもむしろ海外戦略を優先して進めていくという噂もある。
カカオトークは全世界でのデイリーアクティブが2900万人と非常に活発に利用されている。もっとも普及している韓国での1日辺りの利用時間50分。上位20%のユーザーは毎日3時間もカカオトークやっており、平均起動回数30回以上と非常にアクティブだという。
カカオトークのコンセプトは?
「インターネットのビジネスは、入り口を押さえることがまず重要だと考えました」
カカオジャパン朴社長は、カカオトークを世に出した基本となるコンセプトについて、このように語ってくれた。検索の時代、ユーザーのホームページはGoogleだった。人々はGoogleから、インターネットの世界にある既知・未知の情報にアクセスした。遡ってポータルの時代には、Yahooを始めとするポータルサイト(当時はディレクトリサービスだったと思う)がインターネットの世界への入り口だった。これらはいずれも、「人とW情報を繋ぐ」というコンセプトが背景にある。
しかし、すでに始まりつつあるモバイルの時代、インターネットの入り口は「ホームページ」ではない。スマートフォンの「ホーム画面」を入り口として、各種ツール、WEBサービス、ネイティブアプリも含むあらゆる世界につながっている。そして、ユーザーが持つモバイル端末は、別のユーザーの端末へとつながっている。
モバイルの世界で勝者となるためには、入り口である「ホーム画面」を制し、「人と人をつなぐ」ことを実現しなければならない。これがカカオトーク開発の原点となる着想だったそうだ。
ライバルである comm は、ユーザーの可処分時間の使い方に着目していた。mobageでリーチできるユーザー層に限界を感じていたDeNAはユーザーのか処分時間の過ごし方を調べ、そこでもっとも割合の多い「コミュニケーション」を制するべきだと考えた。
この、カカオトークとcommの着想の違いはわずかに見えるが、実は戦略に色濃く反映されている。
カカオは主力となるカカオトークに加え、写真共有の Kakao Story やファッション通販の Kakao Style などをコンセプトの違うプラットフォームをそれぞれ別のアプリとして提供している。ユーザーのホーム画面を「入り口」と捉えるからこそ利用ニーズの違いをそれぞれ分離しているのだ。
一方、ユーザーがコミュニケーションに費やす可処分時間に狙いを定め、全世界のコミュニケーションインフラを目指す comm は今のところゲームやECへの関与は送客だけに留め、自前では展開しない方向性を明確にしている。
では、LINEと比較した場合はどうだろうか。
「LINEが、カカオトークと方向性が違うな、とはっきり感じたのはタイムライン機能をリリースした時でした。LINEはLINEアプリ自体を入り口と捉え、プライベートコミュニケーションもパブリックコミュニケーションも、クーポンやエンタメも内包しようとしている。これからはこの違いがもっと明白になってくるはずです。(朴社長)」
現時点では似通った機能を実装しているかに見えるカカオトークとLINEだが、根底に流れるコンセプトは大きく異なっていることが感じられる。カカオトークが深掘りしていくのはどういう点なのだろうか。さらに詳しく聞いてみた。
LINE、カカオ、comm。サービスにおける方向性の違い
「我々がユーザーに提供できる新しいコミュニケーションの体験は何か、ということを常に考えている。カカオトークも最初から正解が見えていたわけではなく、1対Nのコミュニケーションができるカカオアジト、N対NのコミュニケーションができるTwitter的なカカオスダ(おしゃべり)などコンセプトの異なる複数アプリを同時にリリースし、ユーザーのリアクションを見た上で、最も反応のよかったカカオトークに注力しようと決めた。私達は仮説と提案はできるが、答えを持っているわけではないということを自覚している。(朴社長)」
この「新しいコミュニケーション体験」という言葉の印象は、comm や LINE とはまた違った未来を予感させる。comm が目指すのはコミュニケーションインフラで、その目指すイノベーションは「実名で探せること、話したい時に話したいひととすぐ繋がれること、そして安定した品質のコミュニケーションを提供できること」。「コミュニケーションの品質」と「ユーザーのデータベース」的な部分にある。
LINEについては、各種報道を見た上での憶測だが、まずは近しい人の絆をつなげるコミュニケーションインフラ。そしてその先に見ているのはモバイルインターネットにおけるマスメディアではないかと思う。マネタイズにおいても施策においても、「メディア」を感じさせるものが多い。そこには、暗黙的に「企業とユーザーの接点」というペイドメディア的ニュアンスが含まれる。
多分に筆者の主観を含むが、例えるなら、電話のような信頼できる安定したグローバルなインフラを目指す comm、人と人をつなぐ手段に新機軸を提案するカカオトーク、モバイルにおける新しいマスメディアのあり方を模索するLINE、というようになるだろうか。
マスプロモーションの成果
前述した通り、日本国内ではLINEを追いかける格好のカカオトークだが、12月13日からは土屋アンナさん、劇団ひとりさんを起用したCMもはじまり、首都圏ではOOHも含めた大規模なマスプロモーションが展開されている。
「韓国ではノンプロモーションで普及したが、LINEがシェアを握る日本では簡単でないと考えている。どのような点で差別化するかという点については議論を重ねた。」
テキストメッセージ+無料通話という基本機能は変わらないものの、細かい仕様ではLINEと異なる部分も多い。特に、プロモーションでは「5人同時通話」という点が打ち出された。
これは、先に述べた通り「友達みんなを巻き込む」ための訴求だったと考えられる。メッセージングサービスは友達が使っていないと意味が無いサービスであるため、これを友人に先駆けて一人で導入したいと考えるユーザーはいない。特にアーリーアダプターではなくマジョリティをターゲットにしているサービスであれば尚更ではないかと思う。
これらの問題をクリアするために考えられたプロモーション施策が「5人同時通話」と「ジャンボカカオくじ」だろう。狙いはシンプルで、前者は「5人同時通話やりたいね、みんなでインストールしようよ」という行動喚起を期待したメッセージ。友人7人に毎日くじを送ることができ、受け取った相手と自分が両方ともプレゼントを貰える「ジャンボカカオくじ」はアクティブ率向上と、一人で登録した友達のいないユーザーからの紹介につなげる効果を期待した施策だと考えられる。
期待される「認知獲得→インストール→くじ招待」という流れはどこまで会員数増加に貢献するのか。今後のユーザー数の伸びに注目したい。
カカオトーク、機能面の特徴
LINEと比較したカカオトーク機能面の特徴は以下のようなものだ。
- 5人同時での無料グループ通話
- トークPlus
- 動く・しゃべるスタンプが全て無料
- カカオゲーム
- 着せ替えテーマ
5人同時通話
カカオトークでは、1対1の無料通話だけでなく、最大5人までの同時通話機能を提供している。この機能を他のメッセージングサービスとの大きな差別化要素として打ち出していくようだ。
この「5人同時通話」は、いったいどのような利用方法を想定したものだろうか。朴社長は「家族や友達との会話、会議などのビジネス利用など色々な用途が考えられる。ただ、我々の使命は新しいコミュニケーションのインフラを提案すること。思っても見なかったような画期的な利用方法がユーザーの側から生み出されることを期待している。」と語った。
筆者の所感だが、カカオの考え方として、アプリケーションのローンチに関しては非常に実験的なアプローチを好むように感じられる。サービス提供者側がガチガチの仮説を立ててピンポイントの機能提案をしていくよりは、ひとまず機能をリリースし、ユーザーの利用動向をつぶさに観察して仮説を検証していくようなやり方だ。インタラクティブといってもいいだろう。このようなアプローチはソーシャルゲーム開発やリーンスタートアップにも通じるものがある。
トークPlus
トークPlusはカカオトークのトークルームから外部のアプリやサードパーティアプリとシームレスに連携できる機能。
トークルーム画面を右にスワイプするだけの簡単な操作で、トークの流れを中断する事なく多様なパートナーアプリと連携できるそうだ。
また、アプリ連携機能のほか、グループで手軽にスケジュールが調整できる新機能も追加されている。
パートナーアプリは今後も随時拡大を行っていくようで、「Yahoo!オークション」や「Yahoo!ショッピング」等、Yahoo! JAPANの提供する各種サービスや、撮った写真を漫画風に加工する「漫画カメラ」や、様々な検定や診断で遊べる「みんなでケンテイ」など、スマートフォンユーザーに人気のあるサービスとも連携していくようだ。
動く・しゃべるスタンプが全て無料
カカオトークでは基本スタンプから動くスタンプ、喋るスタンプまでを全部無料で提供している。
1,000種類以上のスタンプの中では「カオフレンズ」というオリジナルキャラクターはもちろん、「スヌーピー」、「009 RE:CYBORG」、「ゲゲゲの鬼太郎」、「豆しば」など有名キャラクターと提携したスタンプもありましてユーザーに人気を博しているそうだ。
どのスタンプも有効期限があるので将来的に有料化される可能性はあるかもしれないが、スタンプのラインナップが少ない競合の comm に対しては国内における優位性となるだろう。
カカオゲーム
日本ではソーシャルゲームプラットフォームが4半期で400億円を超える売上を出している。モバイルコミュニケーションの分野でも、カカオゲームはアイテムの月間売上が30億円を超えるなど好調のようだ。LINEもLINE POPがGoogle Playの売り上げランキング上位に入るなど、恐らく月商で億単位の売上は上げていると推測される。
LINEも、今後APIを公開していくようだが、カカオジャパンではすでに日本でも問い合わせベースでAPI提供をはじめているとのこと。
日本国内ではMobage、GREEが拡大する際にSAPの争奪戦が話題になりましたが、カカオトークではSAPに対する営業はどのように行なっているのだろうか。
「基本的に、APIを公開するので使ってください、というスタンスで積極的な営業活動は行わない方針です。今は、日本国内におけるプラットフォーマーとしてのプレゼンスをきっちりと確立したい。SAPのみなさんに対してはそれが一番の魅力になるはずですから。(朴社長)」
複数のゲームプラットフォームが乱立した際、ユーザーが選ぶ基準は魅力的なゲームのラインナップになる。特にコンシューマーゲームメーカーや、IPを持っている出版社がどこを選ぶのか。ソーシャルゲームで莫大な収益を上げるMobage、GREEもスマートフォンのゲームプラットフォーム展開については過渡期の段階と考えられますが、互換性のないAPIにベンダーを引き込むには苦労するかもしれない。
着せ替えテーマ
カカオトークでは、自分の気分やお好みに合わせメニューデザインや背景を全体的に変えられる「無料着せ替えテーマ」を提供している。
LINEでもトークルームをカスタマイズできるが、カカオトークではトップ画面や設定画面までも好みのテーマを適用できる。このような「見た目」を変更できる機能は、特に女性には支持されるだろう。
インターネット業界に長く携わる筆者に、この機能はYahoo!メッセンジャーのテーマ機能を彷彿とさせる。テーマの外部提供やマネタイズなどのアライアンスビジネスがあり得るとしたら、ヤフーとの連携も更に生きてくるのかもしれない。
運営組織
アプリケーション開発において、外から見えるUIや機能的特徴を「外部設計」と呼ぶ。
この「外部設計」やそのコンセプトは利用者だけでなく競合からも丸見えであるため、非常に模倣が容易くなかなか差別化要因にはつながらない。当初はサービスごとに異なるUIも、ベストプラクティスが確立すると途端に各社横並びになってくる。スマートフォンのインターフェースや、ソーシャルゲームの基本設計などを考えてみて欲しい。良い外部設計は、いずれ真似される運命にある。
一方、システム開発において競合にもっとも模倣されづらいのは「組織」やその文化だったりする。目に見える部分をどんなに真似しようとも、承認プロセスの冗長な組織は改善サイクルがユーザーニーズに追いつかないし、リスクを許容しない文化を持つ組織は常に確立したビジネスモデルに後発としてしか参入できない。
各社に通った機能を提供している今、差別化要因を生み出す組織の体制はどのようになっているのだろうか。
目黒区にオフィスを構えるカカオジャパンの人員は現在60名程度。そのうち20名がヤフーからの出向で、そのほとんどがエンジニアだという。ヤフーの人材について、カカオジャパンの朴社長は「すごいエンジニアを揃えているな、というのがヤフーに対する今の印象」と満足気だった。
一方、機能追加の方向性やプロモーションの主導権など、サービスやプロダクトの企画・開発体制は完全にヤフーから独立しているようだ。ただし、プロモーションでヤフーの媒体やリソースを利用する際は都度調整しているという。
また、組織を作る上では現場の意見をなるべく経営に取り込めるように配慮されているのだそう。社長をはじめ全社員に英語のニックネームがある。社長のことを「社長!」と呼ぶ社員はおらず、みんな「Frodo!」とニックネームで呼び合うとのことだ。
また、社内の意思決定プロセスはわずか2段階。チームで話し合ってチームリーダーが承認、それを社長が承認すれば方針は決定となる。
「ネットの経験は豊富にある経営陣でも、モバイルでユーザーが求めるコミュニケーションが何かなんてものは想像でしかない。現場主導で仮説を立て、とにかく試してみることが重要だと考えている。(朴社長)」
チームは開発・デザイン・企画といった機能ではなく、目的によって分けられている。プランナーもデザイナーもエンジニアもみんな一緒に話合い、決めたことはみんなでやる。そういう文化を大切にしているのだそうだ。
メッセージングサービスのこれから
エンタメ、情報、教育、あらゆるコンテンツビジネスには 商品となる「コンテンツ」とユーザーへデリバリする「流通」の2つの要素が必ず存在する。メッセージングサービス、コミュニケーションインフラはそれ自体ではマネタイズを行わないものの、この「流通」を押さえることでペイドメディア的な広告ビジネスも、手数料を取るようなコンテンツビジネスも仕掛けられる、大きな可能性を秘めている。
実際、現在でも各メッセージングサービスは通話やSMSのような基本的なニーズを満たしつつ、マネタイズはデジタルコンテンツの販売や公式アカウントによる広告的なビジネス、そしてゲームなど、通話やメッセージとは別の部分で行なっている。そしてそれをなし得た背景には、非常に安いインターネットの通信コストがあることには注意を払っておきたい。通信キャリアが自社ビジネスと競合するジレンマを乗り越えてこの分野に参入してきたり、インターネット通信料を従量課金に変更した場合に大きなインパクトがあるからだ。
いずれにせよ、メッセージングサービスという分野は次世代モバイルコンテンツビジネスの流通網の主導権争いという非常に大きな可能性を秘めた分野だ。カカオトークも含め、各サービスがどう展開するかだけでなくFacebookや通信キャリア、OSを提供する企業などがどう参入してくるかも含めて引き続き注目していきたい。
ITL編集部
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