エンタープライズソーシャルとはなにか?
エンタープライズソーシャル関しては様々な解釈があり、目的があり、それを用いたゴールは企業によって様々あり得ます。例えばSCSKという会社の中で言えば、数年前より社内ブログがあり、その中では述べ25000を超す投稿が今なお毎日更新され続けています。その中でわたしたちが目指しているものは、一言で言えば良い会社の雰囲気づくりです。例えばそれは社員たちが気軽に自由な会話が出来る環境であったり、いろいろな考えを持つものが発表できる場であったりと色々な事が挙げられますが、社員が楽しく仕事に取り組めるようになることや、社内にいろいろな人がいることがわかることで自分の会社が好きになったりすることの効果はとても大きなものです。それらは、目下のビジネスとは直接関係の無いものかもしれませんが、長い目で見ていくと結果として社員一人ひとりの心の通じ合いが「三方良し」と言われるような多方面の幸せを呼ぶものだと考えています。その意味で私たちは社員が繋がっている現在の状況自体をとても高く評価しています。
もちろん会社組織の存在意義を考えると、利益を上げていくということは重要な課題となります。以前にインフォメーションアーキテクチャとソーシャル というチャート(海図)の中で、企業の成長を考える上で重要な4つの要素を掲げました。
1.Employee engagement(社員エンゲージメント)
2.Retention(つなぎとめる)
3.Motivation(やる気)
4.Innovation(イノベーション)
前述の状況がここでいう社員エンゲージメントです。そして、そうした状況下では、今までになかった多様な考えを持つ人々が現れ、また自然にその考えを理解してくれたりするものも出てきます。多数の人々からのフィードバックはなにより自分の仕事を楽しいものに変えていきます。以前であれば、自分の考えやアイデアなどを発表する機会はありませんでしたし、面白いアイデアややる気をもった社員がいても、それを理解してくれる人やチームに巡り会わなければ、必然的にそのエネルギーはヨソのところへ向かうしかないということになりました。その意味でやる気を持っていても機会を持たない人々にきっかけを与えていくような風土整備が重要になってきました。また、異なる考えやアイデアなど激しい個性をもつ者同士の間に共感が生まれると、物凄いパワーが発揮されることもわかりました。「個性」というのは日本の社会では長らくネガティブな印象でとらえられましたが、「個性」を持った人には、人に負けないパワーを持っています。きっとこういう人たちが未来を作っていくのだろうなと感じています。この循環が社員に力を与え、企業力の高めるという重要な考え方になります。
よく「エンタープライズソーシャルとメールやポータル等との棲み分けは?」「メールに比べて生産性は上がるのか?」と言う話を耳にすることがありますが、同じ企業の成長いう目標を持っていても、それに対する考え方とアプローチは様々あります。この場合、ここに挙げた視点は優秀な人材が長期に渡りその高い能力を発揮し続ける上で欠かすことのできないものであり、共創と成長を支える柱となっています。
ただ、一方ではそういう見方をされない方も勿論いらっしゃいます。私はコラボレーションツールとしてもYammerを評価していますが、実際にメールやIMといったものに比べとても効果をあげています。しかし、一般にコラボレーションツールは 企業の会計システムのように無ければ会社が成り立たないというものではありませんので、それを企業の中で正当化することは容易ではありません。つまりは「ROIはどうなっているのだ」ことを含め様々な説明機会が出てきます。
ROIには3つの意味が含まれます。ひとつはオペレーションROIと呼ぶものですが、従来のオペレーションが変わることによって、通信費が下がった、あるいは出張費がさがった、会議時間が削減されたというような、いわゆる「コストカット」による効果です。次にくるのがプロダクティビティ(生産性)ROIになります。例えばこれをすることによって、「これまで一日5件しかまわれなかったお客様へ10件回れるようになった」という比較的わかり易い効果から、「幅広い人間関係からなるコラボレーションにより、今までにない製品開発に結び付いた」あるいは、「人々の協力関係によって顧客満足度が大きく向上した」などと言ったコラボレーションの効果もこれに含まれます。最後にイノベーションROIといっていますが、これはすぐに効果として現れるものではありません。投資効果としては非常に見えづらい部分になりますが、これは現在私たちもどのようなイノベーションというものが生まれるか楽しみにしているところであり、その可能性は社員のひとりひとりが大切に育てているところです。
いくら儲かりましたか?という質問に対して
「いくら儲かりましたか?」という直接の回答は、私を含めYammerだけで仕事をしているわけではありませんので、出せてもそれは恣意的なデータにしか成り得ません。客観的なデータが必要であればガートナーなどに頼んでみるのも一つの方法です。
ただ、いろいろな考え方があります。以前に私はアリの群れの行動について取り上げましたが、生物学者によれば、アリの群れはよく観察してみると3~5%くらいは、無目的でランダムでノイジーな動きをしているようです。でもそれが天変地異、気候変動や、巣が潰されたりする危機的状況のとき、その3~5%がたまたま別の場所にいてくれるので種として生き残れるのだといいます。
これは企業についても同じことが言えるのではないでしょうか。例えば売上において特定の製品への依存度が高い場合、IT業界のようにコモディティ化が激しい業界で戦わねばならない場合、カリスマ社長が社員全員を牽引している場合など、いろいろなケースで言えますが、何かへの依存度が高ければ高いほど変化が起きた際、それは必然的に大きなリスクとなります。なにかの事態が発生した場合でも、例えばまったく異なる場所から出てくる新しい知があったり、変化の対応に強いチームが編成できたり、トップが変わってもひとりひとりの力強いモチベーションにより進んでいける社員がいる場合とそうでない場合、それは事業継続(BCP)の観点から見ても、実際には大きく状況が変わってくるのではないでしょうか。その意味で、いつ、どのようにして、いくら儲かりたいですか? ということによって、エンタープライズソーシャルのもたらす価値への捉え方も変わってくるはずです。
イノベーションとエンタープライズソーシャルはどう関係するのか?
現在企業における長期的な成長を高める手段として度々協調されるのがイノベーションであり、多くの企業経営者にとってのコンセンサスになっていると言えるでしょう。しかし、シュンペーターによればイノベーションの本質は新しい技術の発明や特許を生み出すことではないということでした。古代中国の発明として、羅針盤、火薬、紙、印刷がありますが、これらは新しい産業を生み出しませんでした。印刷を新しい産業として成功させたのはグーテンベルクであり、グーテンベルグによるイノベーションは、既存の技術やサービスなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出したことです。凡庸な技術が優れたビジネスモデルによって成功することはありますが、その逆をみることはありません。つまり、イノベーションにとって発明は必要条件になりますが、十分条件ではないのです。イノベーションにとっての十分条件は発明や技術を生かすようなビジネスモデルであり、それを可能にする知財マネジメントと言うことになるのでしょう。ITを利用することによる最大のメリットは、そうした「知」をフローさせるということにあり、そのひとつの手段としてエンタープライズソーシャルも関わってくるのだろうと思います。
このところ、見知らぬ人同士が同じ場所を共用しながら働く「Co-Working Space」が色々なところに出来てきました。それはイノベーションがいつもと同じ職場の、同じ机に向き合う人たちの中では起きにくいということが一つの理由に考えられます。そうした同じ刺激がエンタープライズソーシャルにもあるでしょう。その意味を含め、エンタープライズソーシャルは多様な考えを持つ社員に力を与え、企業力を高める、私たちの未来を共創する考え方であり、職場そのものなのだと言えるのではないでしょうか。
結びに
エンタープライズソーシャルツールは本当に上手に使うことが出来れば、人々のコミュニケーションのスピードを早め、ナレッジを広め、人間関係を深める可能性をもっていることは、ご承知の通りだと思います。ただ、同時にソーシャルツールは、人それぞれの受け止め方に違いがあり、その違いこそが、これまで導入とその後のAdoptionを困難にしてきました。
それは皆さんのビジネスにとって、あるいはライフワークにとって有益をもたらさなかったということに帰結し、もっと端的に言えば「ほかにやるべきことがある」という事になったのです。
それは当たり前の事です。しかし、あらゆるコラボレーションツールに共通していえることは、皆さんの「ほかにやるべきことがある」を如何にサポートしていくかということであり、価値観の異なる者への多様な”利得”をどう生み出していくのか?と言うことが使命です。これはコラボレーションにおける永遠のテーマであり、決してツールを”使わせる”ことが目的ではありません。
企業における「コミュニケーションの活性化」という課題に対し、次々に新しいツールの話が持ち出され、こんな機能やあんな機能を取り上げられことがあります。それ自体は悪いことではありません。しかし前提の補完性の考察がスキップされていることがあります。例えば相互扶助に関わる制度はどうなっているのか、そこで働く人たちはどうなっているのか、企業文化はどういったものなのか。そうした問題をサポートするのかしないのか? つまりこうしたスペックのツールがありますという事の以前に前提があるでしょうという事になります。社員のどのようなコミュニケーションをサポートし、どのような触媒になろうとするのか?そうしたことをスキップしてしまおうとする態度があるならば、重大な問題として捉えなおすべきでしょう。これが私の持つ現状の問題意識であり、それをサポートすることが私たちの務めだと考えています。
8/1は、どのようなことでコミュニケーションが豊かなものとなり、人々の共感を生み出すインセンティブはどこにあるのか?といろいろな視点でパネル参加者のみなさんとお話させていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
CSK Win テクノロジー 前田 直彦
ではソフィアの森口さん、バトンをお渡しいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
by 前田 直彦
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