情報システムに求められる新たな役割
創発的なコラボレーションを創りだすために、情報システム部門は今までの常識を180度変える必要がある。統制から開放へ。求められているのは「中央統制で社員に指示を出す」発想から、「社員間の交流を促進して価値を生みだす」発想へのパラダイムシフトだ。
例えば、今までのイントラネットやグループウェアは「指示や情報の伝達」による業務効率化が目的だった。これからの企業情報基盤は「社員間の交流」による価値創造に力点が移ってゆく。そのためには社内イントラの大胆な再構築が必要だ。既存のイントラやメール、スケジューラを整理した上で、最新のテクノロジを取り入れ、社内ソーシャルネットワークを核とした新たなコラボレーションプラットフォームを構築することだ。
情報システム部門は、今までの価値観をシフトさせないと、この転換期における抵抗勢力になってしまうだろう。守旧派としてお荷物になるか、改革派としてイノベーションを先導するか。その分岐点にあると認識すべき時ではないだろうか。今こそ、むしろテクノロジの担い手として、情報システム部門が全社改革の推進役として行動してほしい。なぜから、この改革が成功するためには、全社を支えるコラボレーションプラットフォームが中核的な役割をはたすからだ。
このプラットフォーム構築において、情報システム部門が意識すべき視点をいくつか挙げておきたい。今までの統制志向を開放志向にギアチェンジするためには、常にこの視点をプロジェクトチーム全体で共有し、ことあるたびに原点に戻る心構えが必要だ。
情報をできる限りオープンにして、社内を透明化しよう
もう一度、社内情報を整理することからはじめよう。社員が閲覧できる時間は限られている。必要十分な情報は何かをしっかり吟味して取捨選択すること。その上で、その情報をできるかぎり社員にオープンにする。「非公開」とする情報については、非公開にするメリットを明示すること。一般的に、部門限定の非公開情報としては「人事考課や給与データ」「製品開発計画」「顧客の個人情報」、上場企業の場合は「株価に直結する情報」などがある。
社員同志の交流を活性化し、コラボレーションを生みだそう
社員間の交流、そこから生まれる自発的な恊働こそ、イノベーション創発のキーとなる。頑固な縦割り文化を打破するためにも、社内ソーシャルネットワークにより部門を横断した社員交流を促進すべきだ。そのためには社内コンテストや人事評価などの動機づけも大切となる。昨今のモバイル普及や通信環境を考慮し、BYOD(Bring Your Own Device、私物デバイスの活用) へも積極的に取り組むべきだろう。
社内で、お互いに感謝しあう文化を根づかせよう
メンバー間のポジティブな相互作用とネガティブな相互作用の比率が「2.9 : 1」を下回ると組織の業務効率が落ちることが心理学の研究で発見された。組織の繁栄と衰退を分ける「ロサダライン」だ。叱りたいなら、その3倍は褒めること。感謝の言葉ほど人をやる気にさせるものはない。社内ソーシャルネットワークは「感謝の言葉」を共有し「感謝しあう文化」を醸成するために最適な空間なのだ。
社内外のソーシャル活用を連結させ、コラボレーションの輪を広げよう
最終的には、FacebookやTwitterなどの生活者向けソーシャルネットワーク、社内ソーシャルネットワークの連携も視野に入れることをおすすめしたい。社員の顔は社外向け広報のキラーコンテンツとなるし、顧客の声は製品サービス改善の基礎となる貴重な情報だからだ。そのためには双方を管轄する部門間の連携が重要となる。
最終的には、FacebookやTwitterなどの生活者向けソーシャルネットワークと、社内ソーシャルネットワークの有機的な連携を視野に入れることをおすすめしたい。「社員の顔」は社外向け広報のキラーコンテンツとなるし、「顧客の声」は製品サービス改善の基礎となる貴重な情報だからだ。そのためには双方を管轄する部門間の連携が重要となる。(以下の図で「パブリック・ソーシャルネットワーク」は生活者向け、「エンタープライズ・ソーシャルネットワーク」は社内向けを表している)
ソーシャルネットワーク運用チームと生活者・社員の関係図
組織の透明力とは
最後に、この連載コラムの核心である「組織の透明力」について触れておきたい。なぜなら、この社内イノベーション改革においては「透明の力」に対する理解が不可欠だからだ。企業トップがこれを理解していない改革は、絶えず生まれる「逆向きのモーメンタム」のために、ほとんどが頓挫して失敗に終わるだろう。
現在、多くの企業は、中央から社員をコントロールするためのシステムを構築している。社員統制のためのアメとムチによる「外発的な動機づけ」は、部門間の協業や社員の自律性を奪ってしまう。いつのまにか社員の関心は顧客から上司に変わり、社内稟議や報告書作成になってゆく。そして組織全体が顧客に鈍感になるのだ。
透明な時代にあるべき組織像は、その対極に位置するものだ。顧客は、あらゆる接点において、迅速で誠実な対応をできる企業像を求めている。そのためには、顧客と接点を持つ現場社員が自律的に行動できるシステムを構築することが大切だ。自律性を引き出す「内発的な動機づけ」だ。
「透明の力」とは何か。それは上司からの統制ではなく、社員の自発的な行動を促す力を表現したものだ。人間は、誰かに指示されるまでもなく、共感や評価を得たいと強く願う生き物だ。社内を透明にし、情報を可視化させ、コミュニケーションの活性化を図ることで、自然と相互評価が生まれていく。それによって、社員が自ら企業やチームにとってプラスになるになるように動き出す。
例えば、企業は経費を抑えるために、何重にも管理者を配置し、稟議システムによって「統制」してきた。しかし、経費をすべて「透明」にしたらどうなるだろう。社員であれば、誰が何にいくら使用したかを閲覧できるようにする。統制も特別なシステムも不要だ。それだけで無駄な経費が激減することは間違いない。説明責任が生じるからだ。なぜ、それができないのか。経営層、管理層の既得権益があるからだ。ここにメスを入れられるのは、最も痛みを伴う経営者だけだ。それを理解した上で、経営者が信念を持って「透明の力」を導入するとき、組織は劇的に変わってゆくのだ。
今、企業は「統制の力」を卒業し、「透明の力」によって社員をエンパワーメントすることを求められている。「ガミガミと言って行動させる」のではなく「自発的に会社のために行動する場を創る」こと。時代が求めているのは、このコペルニクス的な発想の転換だ。単なる性善説だけでは十分ではない。「透明化することで自律的な行動を促すこと」がポイントなのだ。実際に「透明の力」を活用する企業は増えてきている。シリコンバレーのベンチャーなどは、ほとんど例外なくそうだろう。
すでに統制型マネジメントが浸透している大企業にとって、この経営改革は困難を極めるに違いない。その一方で、新しい文化を持つ企業が雨後の筍のように生まれ、大企業の得意分野を日々侵食している。「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」(Chris Anderson)が提起したように、大企業もベンチャーも、創造力や共感力という同じ土俵で勝負せざるを得ない時代が到来するだろう。古びた経営スタイルは、もう臨界点に達しているのだ。
拙著にて、ソーシャルメディアが誘起したビジネスのパラダイムシフトを「ソーシャルシフト」という言葉であらわした。この記事では、ソーシャルシフトにおいて、新しい組織の原動力となる「透明の力」の生かし方を連載していきたい。共有すべき価値観や情報とは何か。過度な同調圧力や部分最適化をいかに防ぐか。公開すべき情報と非公開にすべき情報をどう考えるべきか。透明な時代に管理職の業務やリーダーシップはいかにあるべきか。
余談になるが、僕は「踊る大捜査線」、特に青島刑事や和久さんのいる湾岸署の面々を心から愛している。彼らのように、熱い思いを持ちながら、組織の壁に日々悩んでいる人たちの力になりたい。それがこの連載記事を書く動機にもなった。ソーシャルメディア時代、事件はまさに現場で起きている。現場力をいかに高めるか、企業の明日はそこにあるのだ。
「伝統的な労働力体制の下にあっては、働く人々がシステムに仕えたが、知識労働力体制の下では、システムこそが働く人々に仕えなければならない」 (Peter Drucker)
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ITL編集部
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