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ソーシャルTVサービスのビジネスモデルと可能性

2013/01/10 11:03 投稿

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みなさんは、「ソーシャルTV」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?

 

iTV? Google TV? Join TV?

 

IT業界の方であれば GetGlue や Miso などのアプリを思い浮かべるかも知れません。

 

Social TV Ecosystem 2011 / 2012 by trendrr

Trendrrの分類によると、「Social TV」というカテゴリには非常に多くのサービスが含まれます。それは、ソーシャル番組表、放送用コンテンツマネジメント・システム、テレビ特化型SNS、オンライン動画、デバイス製造、リモコンアプリ、コンテンツチェックインアプリ、ソーシャルビューイングアプリ、討論用SNS、リワードシステム、放送商品購買しシステム、視聴動向分析システム、コンテンツ検索&マッチング、権利販売、メタデータ販売、キュレーションビジネス、広告配信プラットフォーム、共有テクノロジー、などなど。サービス名まで挙げていけばきりがありません。

 

同社の分類に従うなら、要するに「ソーシャルTV」とは、テレビに関するネットの周辺ビジネス全てを指します。そして2012年には3兆ドルの巨大市場になるという予測も。

 

それほど広大な「ソーシャルTV」の世界ですが、ここ日本ではどのような動きが見られるのでしょうか?2012年8月から参加させていただいているソーシャルテレビ推進会議より情報提供を受け、日本での状況の整理をしてみたいと思います。

 

ソーシャルTVとは何か

前述のTrendrrが指し示す「ソーシャルTV」のコンセプトがあまりにも大きいのですが、本稿では「テレビのビジネスモデルにインターネットのパラダイムを組み込むこと」を「ソーシャルTV」と表現します。チャネルやハード、テクノロジーの問題ではなく、「ビジネスモデル」。しかもテレビに根ざしたものです。

 

全然「ソーシャル」じゃないんですが、まあ、バズワードなんてたいがい字面が実態とかけ離れているものです。なにしろ、「インターネットテレビ」じゃ格好が付きませんしね。 

 

 

米国でのソーシャルTV系サービス

Torendrrが示した、広い視点での「ソーシャルTVエコシステム」から少しフォーカスを狭め、BtoCのサービスという観点ではどのようなものがあるのか(以下、「ソーシャルTV系サービス」と表記)。GREEと共同で自らもソーシャルビューイングアプリ「emocon」を提供している、株式会社ジェネシックスの 中山 理香 さんがソーシャルテレビ推進会議で公開した資料をご紹介したいと思います。

 

©Genesix, Inc. all rights reserved.

それぞれ以下のようなカテゴリに分類されています。どれも機能が非常に多いため、カテゴライズはアバウトなものです。ざっくりした特徴把握にご利用ください。また、ほとんどのアプリがFacebook・Twitterとの連携機能を持っています。この2つのソーシャルサービスに対応することはアプリのスタンダードになっているようです。

 

  • ソーシャル系
     GetGlueTunerfish のような、テレビコンテンツを題材としたユーザー間コミュニケーションを主な利用用途としたアプリ郡です。番組のお薦めやチェックイン機能、他のユーザーのコメントをタイムラインで閲覧したりすることができます。
     
  • レコメンド系
    PeelFanhattan のように、ユーザーの視聴動向をもとにした番組のレコメンド機能に力を入れているアプリ郡です。レコメンドだけではなく、他のソーシャルビューイングアプリが持つようなコミュニケーション機能やシェア機能も実装されているケースが多いようです。特にテレビのチャンネル数が200〜300と多く、たくさんの番組コンテンツが存在する米国のユーザーニーズにマッチしていると言えます。
     
  • コンテンツ特化&コマース系
    ここには、Playup のようにスポーツ観戦など特定のコンテンツに特化したアプリや、eBay が提供する Watch with ebay のようにテレビ番組と連動した商品購入アプリがカテゴライズされています。Shazam は、流れている音楽を識別してユーザーに表示するアプリですが、ペプシコーラのCMなどで流れている音楽を読み込ませることで参加できるキャンペーンで、テレビとの連携が注目されました。
     
  • 番組ガイド系
    iTVTV Guide Mobile のような番組表機能に注力されているアプリです。チャンネル横断的に利用できるアプリの他にも、NBC の NBC App や ABC の ABC Player のように放送局が主体となって提供しているものや、有料放送を前提としたものもあります。
     
  •  多機能系
    ここまでに出てきた機能を広くカバーする多機能なアプリです。IntoNOW は番組ページやタイムラインだけでなく、音声認識によるチェックイン機能やチャット機能、キャンペーンとの連携機能など豊富な機能を持っています。放送されている番組と連動して画面キャプチャが流れてきて、そのままシェアできるなどUXと著作権問題を同時にクリアするUIも。

 

 

 「ソーシャルTV」というカテゴリに業界が注目するわけ

日本のソーシャルTVサービスを見る前に、「ソーシャルTV」というカテゴリに業界が注目する理由を少し考えてみましょう。

 

「ソーシャルTV」、本稿の定義では「テレビのビジネスモデルにインターネットのパラダイムを組み込む」取り組みの多くは、エンジニアからすると「電波とネットを両方使って何かしよう」という取り組みにすぎないように見えます。確かに、実装レベルではそうなんです。たったこれだけのことに、なぜ注目したいのか。

 

前提として、あらゆる広告、あらゆるコンテンツは生活者ひとりひとりにそれを届けるため何かしらのネットワークを必要とします。デジタルコンテンツ市場7兆円超ネット販売(Eコマース)8兆円超広告費5兆円超。それら全ての裏側に、デリバリネットワークという概念上の市場がある。生活者に、効率よく、大量の広告やコンテンツを届けられるインフラはいつの世でも莫大な利益を得ます。例えば、新聞社テレビ、雑誌のような、情報流通において大切な要素を握る会社の売上高を見てみるとよいでしょう。特に、流通を寡占できると、競争力は長期間に渡って発揮されます。

 

今回取り上げたテレビも巨大なデリバリネットワークのひとつです。一説によればHUT(Households Using Television、総世帯視聴率)が減少しているといわれている昨今放送事業の中でも、特にリーチを源泉としたビジネスは、今後10年くらいでその構造に何らかの変化が訪れるはず。

 

きっかけは間違いなくインターネットであり、「ソーシャルビューイング」「テレビアプリ」「スマートTV」などは変化の予兆と捉えることができます。

 

突き詰めれば、生活者の可処分時間の奪い合いという構造になってくるのですが、何しろテレビ業界は、動くお金が大きいもので。動くお金が大きいということは、関係する人が多いということになります。関係する人が多いということは、例えば国の関与があったり、企業の利害があったり、たくさんの利用者の一人ひとりの想いがあったりと、大変なわけです。そして、たくさんのお金が動く、その大変なことの裏側に、ビジネスのスイートスポットがあるのではないかと思うのです。

 

インターネットの、特にモバイルの流通を支配するのはだれなのか。そこにテレビ視聴に費やされていた可処分時間の一部が流れこむ可能性がある。若者ほどインターネットに費やす時間が長いことを考えると時間の経過とともにますますその流れは加速してくるでしょう。そしてその、可処分時間を費やすメディアの変化に付随して、1.7兆円というテレビ広告費の一部を新たな流通経路の支配者が得ることになる。

 

その支配者は放送業界から来るのか。インターネット業界の王者がかすめとっていくのか。それとも全く新しいパラダイムを生み出すことに成功したベンチャーか。

 

 そのような視点で見ていくと、テレビとネットというシンプルな取り組みが、業界を股にかけたダイナミックなシェア争いに見えてくるでしょう。ソーシャルTVサービス構築に関わる人々は、まさにそこに熱狂しているのです。

 

 

日本のソーシャルTV関連サービス

余談をはさみましたが、続いて、日本での状況を見てみましょう。

 

©Genesix, Inc. all rights reserved.

サービスの本数だけで比べると、米国に比べると随分寂しい状況と言えます。また、アプリのカテゴリにも偏りがあります。

 

これには、日米のテレビ視聴環境の違いが関係ありそうです。前述したように、200〜300と多くのチャンネルがある米国に比べ、日本は民放キー局+NHK(総合・教育)の7チャンネルが視聴率の大半を占めています。BSやCSも増えてきているものの、まだまだ主流とはいかない状況です。このような環境の違いから、日本では「番組検索」のニーズ自体がそもそも少ないと言えます。

 

加えて、国土が広くアラスカとハワイを除いても国内で「太平洋(Pacific)」「山地(Mountain)」「中部(central)」「東部(eastern)」と4つのタイムゾーンがある米国に比べでは番組の流通ルートも豊富で放送時間もまちまち。同時視聴の文化は根付き辛いようです。一方、日本はタイムゾーンは1つだけ。全国民が、同じ時間に同じ番組を楽しむというリアルタイム視聴は実現しやすいと考えられます。

 

また、テレビ番組という「コンテンツ」と、テレビ局という「流通」の結びつきにも大きな違いがあります。テレビ番組は、通常テレビ局が制作会社に外注して制作するそうです。納品された番組コンテンツの権利はテレビ局側が保有するため、放送以外で利用する際にも基本的にはテレビ局が流通を管理します。米国では一つのコンテンツを複数のチャンネルで放送できるよう権利が分散されているため、ネットでの再利用にあたっても権利関係の調整がしやすいのだそうです。

 

 

注目の国産ソーシャルTV関連サービス

日本のソーシャルTV関連サービスから、個人的に注目しているものをいくつかピックアップさせていただきたいと思います。

 

wiz tv

wiz tvは、主要7局のテレビ番組の盛り上がりがグラフでわかるアプリです。番組の盛り上がり度はTwitterでの言及数や、RT数などを集計しているそうです。また、リアルタイムな盛り上がりだけではなく、過去の番組にまで遡ってみることができます。

 

ただ、このアプリに注目すべき理由はこういった機能面ではなく、日本テレビ放送網(株)が自らリリースしているという点です。他局も含めた番組の盛り上がりを表示するということは、状況によっては自局の番組よりも他局の番組が盛り上がっていることが明らかになってしまいます。アプリ開発に携わった方に伺ったところ、「自分たちがやらなければどこかよそがやる。狭い視野で短期的に物事を考えるのではなく、テレビ全体を盛り上げることを考えたら、こういうことにもチャレンジしていかなければいけない。」というようなことをおっしゃっていました。

 

ソーシャルTV関連ビジネスの最初のハードルは、「サービス利用者の確保」と「コンテンツの権利問題解決」の2点です。テレビ局が自ら舵を取るこのアプリは、後者の権利問題について他のサードパーティアプリより大きなアドバンテージを持っていると考えられます。例えば、通販番組のポシュレではすでにツイート数に応じて視聴者プレゼント数が変化するという企画をやっていますし、金曜ロードショーや年末ガキの使いのTwitter連動など、施策を挙げればきりがありません。

 

局全体としても、ノウハウと過去データの両方を蓄積するので他局に対しては先行者利益を築きつつある形になるのでしょうか。BMLを駆使したJoinTVもありますし、進んでますよね。

 

 

emocon

emocon も、 wiz tvと同様に番組の盛り上がりがわかったり、その番組の感想をポストしたりできるアプリです。

 

機能面では他のアプリと大差ないのですが、こちらも最大の強みはデベロッパーです。ソーシャルTV関連ビジネスの最初のハードルは、「サービス利用者の確保」と「コンテンツの権利問題解決」の2点と申し上げました。emoconは、国内で3,000万人近い会員を抱えると言われる GREE が提供しているだけに、何かあったら(例えば、DeNAが参入したら)、急速にトラフィックが流れたり、活性化したりする可能性がないとは言えません。

 

ユーザーが増えても「コンテンツの権利問題解決」は以前として残るわけですが、ソーシャルゲームプラットフォームはテレビ局に対しては大口の広告主です。持って行き方によってはなにがどうなるかわかりません。

 

 

余談 : Twitterはリアルタイム系TVサービスのアキレス腱

前述のマップにプロットされている通り、日本国内のソーシャルTV系サービスは、リアルタイム視聴をより楽しくするカテゴリーへの参入が活発です。そして、それらの多くがTwitterのつぶやきをハッシュタグで解析する手法を取っています。

 

この点により、サービス事業者は以下2つのリスクを抱えていると考えられます。

 

  • 差別化が難しい
    情報ソースがTwitterに依存する状態では、やろうと思えばどこのサービスでも同じものを提供できます。機能やインターフェースは設計が競合にも丸見えなので、資本力や開発スピードで他サービスと差別化していくことになります。
      
  • Twitter社の意向次第では、サービスの継続が困難になる
     Twitter社は、基本的にサードパーティのクライアントアプリを許可しない方向性を持っていると言われています。APIの制限強化やアプリ露出機会の低下など、Twitter社のさじ加減ひとつでサービスの継続が困難になる難しさをはらんでいます。

 

 

ひかりTVどこでも

有料放送系なので、上記2つとは経路が違いますが少し紹介させてください。

 

ひかりTVは株式会社NTTぷららが運営するNTT東/西のフレッツ光向けの映像配信サービスで、その会員数は200万人を超えたとされています(2012年3月)。テレビ放送サービスと、ビデオ・オン・デマンドサービスの両方を提供しています。

 

これだけですと、ソーシャルTV関連サービスというよりは放送事業者側にあたるのですが、「ひかりTVどこでも」という、文字通りひかりTVがどこでも見れるAndoroidアプリをリリースしています。

 

他にも、手持ちのスマホやタブレットをテレビのリモコン化する「ひかりTVりもこんプラス」、テレビとは全く関係ない「ひかりTVブック」など、アプリ展開には力が入っています。

 

 また、非公式な場で聞いたのであまり詳しくは書けないのですが、キャンペーン展開も非常にアグレッシブです。AKBのWEBイベントじゃんけん争奪戦などを見ていると、WEB系キャンペーンの取り回しのうまさとクリエイティブのメジャー感という、まさにWEBとテレビのいいとこどりな雰囲気が伺えます。

 

ちなみに、競合のWOWOWもモバイルのオンデマンドでは「WOWOWメンバーズオンデマンド」を、番組ガイドとして「WOWOWプログラムガイド」をリリースしています。

 

 

NHK紅白

NHK紅白

番組単位のアプリとしては、年末ということでNHK紅白を取り上げたいと思います。 

 

このアプリから、紅白ニュースの閲覧、過去の紅白の出演者・楽曲情報閲覧、応援メッセージ投稿、審査員として投票などが可能です。

 

面白いのは、AppStoreで「NHK紅白」を検索すると、結果に「NHK紅白歌合戦(無料版)」という勝手アプリが並んで表示されることです。この勝手アプリは、Youtubeから紅白に出演したアーティストの楽曲を検索してきて表示するというものなのです。Youtube の APIを利用しているクライアントアプリの一種なのですが、「HNK紅白歌合戦(無料版)」というアプリの名称や、検索の結果表示される動画の内容にアプリ提供者が関与しない点など、キャリアが公式アプリを管理していたフィーチャーフォン時代のビジネスと比べるとなかなか刺激的です。

 

 

ソーシャルTVの基本的なビジネスモデル 

これまで、ソーシャルTV系サービスの概要を見てきましたが、ビジネスモデルはどのようになっているのでしょうか。

 

いずれのアプリも「テレビ」との連携が前提条件となっているため、「ユーザーの視聴体験を豊かにすること」を目指して実装されています。ただ、それではビジネスモデルにはなりえません。視聴体験が豊かになるというプロセスを通して、結果としてどういった行動を求めるのか。

 

私が見た範囲で類型化してみました。

 

1.リアルタイム視聴へ視聴者数を誘導する

オンラインの接点から、テレビへの視聴誘導を目指す種類のサービスです。

 

典型的なのは、wiz tv や emocon のようにTwitterで番組の盛り上がりを測定し、その情報を可視化することにより需要喚起、視聴誘導へ導くアプリが潜在的に持っているビジネスモデルです。役割としては、いわゆる番宣(番組宣伝)ということになるでしょう。 

 

このモデルが成り立つかどうかを考えると、まずはリーチで他の番宣手段に並ぶものにならなければなりません。5000万世帯の1%に、テレビを付けさせるためには単純に考えて最低50万人にリーチする必要があります。リーチした対象がそもそもテレビを視聴可能な状況にあるのか。リーチした後どれくらいのユーザーが行動するのか、といったことを考えるとアクティブで300〜500万人程度の会員は欲しいところです。もし、サービスの会員基盤をこれくらいの規模に育てることができれば、視聴率に影響を与えられる可能性が出てきます。

 

ただ、大きな落とし穴としては、このビジネスモデルの主成功要因が「たくさんの潜在視聴者にリーチ」することであるため、その手段自体はテレビと関係なくてもよいという点が挙げられます。極端な話、半年で8000万円(初期2000万弱、1,000万×6ヶ月)程度の広告予算があればLINEで番組アカウントを開設してしまえば、あえてソーシャルTVという手法に頼らずとも効果を上げることが可能だと思われます。実際にLINE公式アカウント50位位内には「ZIP!」や「Music Lovers」、「NHK紅白歌合戦」などがランキングしていますので、ビジネスモデルとしてはこういったチャネルとも競合していくことになります。

 

単に会員数、ユーザー数ではなく「潜在視聴者」というテレビ愛好クラスタをいかに惹きつけるか。そして「視聴可能な環境」という歩留まりを悪化させる要因をどう排除するか。このあたりにサービス毎での工夫のしがいがありそうです。

 

サービスが付加価値を発揮できるまでの道のりの長さから考えても、ソーシャルTVアプリの勝者が最終的に取る戦略であって、短期的に目指すモデルではないように感じます。

 

 

2.視聴者の顧客単価向上を目指す

テレビショッピングや、玩具売上と密接に結びついた番組、コンテンツ販売など、二次的なビジネスの例外はあるにせよ、放送事業における視聴者の顧客単価とは、大雑把にいってテレビCM広告収入を視聴者数で割ったものになるのでしょう。そして利益率を上げるには、コストを削減するか、スポンサーのCM単価を上げるか、視聴者からの収益を増やすかのいずれかが直接的な手段になると考えられます。

 

視聴者の顧客単価向上を目指す、とは、視聴者に「テレビを見る」以外の行動を取ってもらうことで収益をあげようという考え方です。「テレビを見る以外の行動」には、例えば、商品(EC、デジタルコンテンツ)を買う、スポンサーにとってより付加価値の高い行動を取る(スポンサーサイトの会員登録やキャンペーン参加等)などが考えられます。

 

このモデルは、最終的には視聴率の向上を目指すため、大規模なリーチが必要である(1)の案よりは敷居が低いと考えられます。数十件程度のコンバージョンに必要なリーチが確保できれば、あとは効率化をすすめ、投資対効果が見合う(獲得したユーザーの年間累計ARPがユーザー獲得コストを下回る)ことがわかれば規模を追求できます。

 

このような、「テレビを見る」以外の行動を、特にオンラインで取ってもらおうという考え方を、業界では「T2O(TV to Online)」というようです。

 

 

T2O実現のために越えなければならない2つの壁

T2Oの実現には、テレビとオンラインという「メディアの壁」と、テレビで放送している情報がすぐにオンラインでアクセスできるよう同期的にコンテンツをマネジメントしなければない「アクセシビリティの壁」を超える必要があります。

 

 

「ながら視聴」でメディアの壁を超える

「メディアの壁」を超えるためのソリューションは、例えば「ながら視聴」です。テレビを見ている時に、同時に使われるWEBサービスであればそこにメディアの壁は存在しません。ソーシャルTVサービスがテレビと同期したコンテンツを扱っているのは、この「ながら視聴」を生み出す必然性によるものだと考えられます。

 

もしくは、ソーシャルメディアやTwitterアカウントでユーザー個人と直接エンゲージする Always on 戦略がソリューションになるかもしれません。

  

このモデルを展開するためには、すでにコンバージョンが発生するビジネスを展開している事業者が有利だと考えられます。特に、テレビと関連性が強く、オンラインで完結するタイプの商材であればビジネスの実現可能性はずっと高まるでしょう。そういう意味では、GREEが提供する emocon などは積極的な展開が考えられるかも知れません。

 

例えば、GREEのゲームに関するCMが流れてから10分以内にアクセスすることで特別なインセンティブがある。もしくはその内容をソーシャルメディアでシェアすることでインセンティブがある。ちょっと考えただけでも色々アイデアはありそうです。また、プラットフォームとしての emocon がきちんと育つのであればゲーム以外を包括するコミュニティへ成長させる足がかりをつかむ可能性もあるでしょう。

 

 

後メタ&先メタでアクセシビリティの壁を超える

オンラインとオフラインの間に横たわるメディアの壁を超えたら、次はユーザーと適切な情報をマッチングさせる必要があります。ここに至ってGoogleで検索されてしまっては、わざわざアプリをばらまいてまで最初の接点を開拓する意味がないわけです。テレビによって喚起されたユーザーニーズとコンテンツをマッチさせることで、はじめてコンバージョンに寄与する流れを作り出すことができます。

 

「後メタ」とは、テレビで放送された内容を見ながら手動で打ち込んでいくメタデータです。業界では、エム・データなどがテレビで放送された番組に対して出演者や紹介された商品、センチメントなどを最短5分程度でCSVデータとして提供するビジネスを行なっています。テレビで放送され、喚起された需要へ即座にリーチすることができればコンバージョンは飛躍的に跳ね上がるでしょう。

 

 また、プラットイーズなどが番組制作会社向けに提供している営放システムには、番組制作に必要な番組情報、権利情報、編成スケジュールなどが放送に先駆けて入力されています。このような、放送前に入力されるメタデータを「先メタ」と呼びます。コンテンツホルダーであれば、先メタの活用でジャスト・イン・タイムなアプローチが可能になるかもしれません。

 

 

3.番組コンテンツの再利用で収益機会を増やす

前述の2つはビジネスの顧客を「視聴者」と仮定していました。「テレビ番組」というコンテンツと、「放送」という流通経路が密接に紐付いているためです。流通を分離して考えることができれば、一般的なコンテンツビジネスのモデルが応用できるのでしょうが、通常は番組に付随する主な権利をテレビ局が保有するため自由になんでもできるわけではありません。

 

ただ、前述した「ひかりTV」のようにVODを前提としている場合や、製作委員会方式で作られた番組などはネットでの利用もある程度想定して作られているためソーシャルTVという文脈でも活用しやすいと考えられます。このようなケースでは、元々マルチメディアでの利用を前提に権利処理されているためWEBやモバイルアプリでの積極展開がやりやすく、「放送」以外のシチュエーションで番組というコンテンツが利用しやすいということであり、結果収益機会の増加につながります。また、ソーシャルTVサービスとしては、日本では難しい「非同期型」のサービスを展開しやすくなります。

 

「非同期型」とは、テレビ番組のリアルタイム視聴を前提としないソーシャルTVサービスということです。

 

最初に述べた通り、日本ではテレビ番組は全国同時視聴される割合が高く、チャンネル数も少ないため、ソーシャルTVサービスもその特性を生かしたリアルタイム性の高いもの、つまり「同期型」のサービスが多いです。また、テレビといいつつも使っているのは「テレビを見ている人のツイート」であったりと、番組コンテンツ自体を扱うことはできません。

 

具体的なイメージでいうと、「同期型」はテレビ番組にリアルタイムで参加する joinTV のような感じ。「非同期型」はアーカイブされた映像コンテンツをみんなで楽しむニコニコ動画のような感じと言えます。

 

米国でも intoNOWGetGlue のように、コンテンツと深く結びついているサービスは調子もよさそうですし、参入障壁が高いという意味でビジネスの足腰もしっかりしています。日本では権利的な問題からなかなか難しいのかもしれませんが、もし何らかの方法でチャンネル横断的な番組コンテンツビジネスがソーシャルやアプリと絡めて実現できればそのポテンシャルは大きいと言えるでしょう。

 

 

4.広告効果の最適化

これは、伝統的なメディアミックスの考え方の延長線上にソーシャルTVサービスを位置づけるものです。

 

テレビ局の放送事業収益の大部分、およそ7割以上はスポンサー企業からの広告収入です(各局IR資料より)。逆に言えば、スポンサーの広告宣伝に寄与する限りビジネスは維持・拡大できるということになります。

 

この考え方に基づいて、例えばテレビ番組ではリーチできない層をカバーしたり、特定セグメントにおける視聴時間の減少を補ったり、番組コンテンツのネットにおける露出最大化に貢献することで、スポンサーの宣伝効果最大化を目指します。

 

収益化のイメージとしては、例えば、スポンサーが、自社商品の宣伝を5億でやる。そのうち4.5億がテレビCMの媒体費(CM制作費4,500万含む)、5,000万がプラットフォーム化されたソーシャルTVアプリの利用料+α。・・・みたいな感じでしょうか。

 

真相は定かではありませんが、一説によればHUT(Households Using Television、総世帯視聴率)は減少傾向にあるといわれています。また、生活者の接触メディア動向は姓・年代によって大きく異なってきます。

 

Copyright(C) 2012 Video Research Inc. All Rights Reserved.

Copyright(C) 2012 Video Research Inc. All Rights Reserved.

 

上記は、ビデオリサーチインタラクティブが2012年6月に東京30km圏内にすむ10-69歳男女2030人に対して行った調査の一部です。女性の総メディア接触時間におけるテレビ利用割合とモバイルメディア利用割合は見事に背反しています。

 

これはつまり、10〜20代に対して広く効果的に広告宣伝を行おうと思った場合、テレビ・モバイルのどちらか一方だけでは網羅的なリーチができず、最初からクロスメディア前提で考える必要性を示しています。視聴率を調査するビデオリサーチでも、Twitterでの番組に対する言及数を指標化する研究に着手するなど、この動きは来年意向ますます加速していくのではないかと思われます。

 

ただし、博報堂DYMPの調査にもある通り、性年代に加え地域によるメディア接触の違いも大きいことからメディアミックスにおけるコスト配分はケースバイケースであるべきでしょう。

 

広告宣伝ではありませんが、テレビ番組としては、BSフジで放送されている「ソーシャルTV ザ・コンパス」は、テレビ放送に加えてニコニコ生放送(ニコニコンパス)、番組Facebookページでのコメント募集と複数チャネルの並行運用に実験的に取り組んでいます。私個人もソーシャルメディア運営のアドバイザーとして参加していますが、テレビ番組が、番組という枠を超え視聴者参加型コミュニティに発展する可能性を模索する同番組の取り組みには注目したいところです。

  

 

テレビの力は揺るがない。むしろネットとの相乗効果を期待したい

日本におけるテレビ業界の規模は2兆7,874億円と言われています(業界動向サーチの独自調査)。また、1年間にテレビ広告へ投じられる資金は約1.7兆円。日本の広告費の約3割を占める金額です。

 

テレビ業界がこれほど大きな市場であるのは、細かい理由を抜きにすると大きく2つの理由があると思います。どちらも多くの日本人にとっては当たり前のことです。

 

ひとつが全国約5000万世帯、普及率約98%(内閣府消費動向調査)という圧倒的なブロードリーチです。企業が広く日本国民に対して広告・宣伝を行うのにこれ以上のカバレッジを持ったチャネルはありません。そして続いては、1日あたり平均161.4分(博報堂DYMP)、これは新聞・雑誌・インターネットも含む全メディア接触時間の約半分を占めます。

 

この他にも、映像メディアの訴求力ですとか、リアルタイム視聴のスキップしづらさなど様々な要因が考えられます。ただ、ここで確認しておきたいのは、要するにテレビ業界は巨大で、その事業の根幹である放送事業は大くの企業の広告費が占める割合が大きい。そして、企業がそこまで多くの広告費を投じるのは前述のとおり、「圧倒的な到達力」と生活者の「接触時間の長さ」であるという点です。

 

テレビの力の根幹はその「到達力」と「接触時間の長さ」ですが、その2点においてテレビに次ぐ存在になってきているのがインターネットです。

 

PCや携帯、スマートフォンを合算した、日本におけるインターネット利用者の割合は79.1%(総務省)。そしてメディア接触時間では全メディアの27.7%(博報堂DYMP調査「アベレージニッポン」より)と年々増加する傾向にあります。20代男性のように、4マスの合計接触時間よりもインターネットを長く使うクラスタも出てきました。

 

ただ、接触時間の何割かがネットに流れたとしても、端末普及率に裏打ちされたブロードリーチは揺らぐことはなく、7チャンネルによる流通の寡占という状況は今後も続くでしょう。むしろ後者は、インターネットという情報の洪水に辟易した人たちにとってはシンプルな選択肢と質の高い状況という新たな付加価値として映るかもしれません。

 

 

このように考えると、テレビの接触時間がインターネットに全て置き換えられるという可能性はまだしばらくはないような気がします。 それよりも、今回挙げたようないくつかのパターンで、テレビとインターネットという異なるチャネルがぎこちないながらも融合していく、予定調和な方向性がしばらくは続くのでしょう(いつかはイノベーションで全てが破壊されるのだとしても)。

 

このような動きを、生活者への効率的なリーチとマッチングと捉えれば選択肢は膨大です。それはどのようなパターンか、プレイヤーはだれなのか。考えてみると面白いのではないでしょうか。

 


by 許 直人

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