もう二年も前になるけど『テレビは生き残れるのか』という本を書いた。その中で、「ソーシャルクリエイティブとでも呼ぶべきもの」という部分がある。ちょっとだけふれたつもりが、いま読み返すと一章をさいてけっこう書き込んでいる。

 

内容がまた、よくこんなこと書いたなと我ながら思う。メディア界の制作職に就く者は“クリエイター“と呼ばれてなんか勘違いしてたんじゃないか。金銭感覚もズレてたんじゃないか。でもメディア界で経済価値を持っていたのはクリエイティブではなくメディアだったにすぎない。過剰な作業をしてクオリティを保ってきたが、そんなやり方はリーマンショックと東日本大震災で通用しなくなった。ひどいこと書いたもんだ。

 

そして、これから主にソーシャルメディア上で、これまでとまったくちがう系統のクリエイティブが必要になる。ソーシャルクリエイティブとでも呼ぶのだろう。そんな文脈でこの言葉が登場している。

 

”主にツイッターやフェースブック上で展開される言語やビジュアル表現もしくは、それらをプロモーションの場とした創作物。さらには、ソーシャルという言葉が持つ「社交的な、社会的な」という意味の通り、人々との交流や、社会への貢献のための表現という解釈も持たせたい。”

 

そんなことを書いている。ほほお、そうなのか。でも、いまになってこの傾向は現実になりつつある。

それを実感したのが、クロスコ社を訪問した時だ。

 

この会社は、ベンチャーというわけではなく、80年代創業のそれなりの歴史を持つ会社だ。分類するとポストプロダクション事業になるのだろうか。編集スタジオなどを持ち、映像製作上の技術提供を生業としているのだと思う。

 

そのクロスコさんが最近つくったというスタジオを訪問した。スタジオといっても撮影用ではなく編集用のもの。編集機材とナレーションどり、音声をミックスするMAもできる。撮影用ではないし機材も大仰なものではなくて、大きな部屋ではない。

 

でもそこには、最新の機材があるという。

 

これが面白く、まさしく“ソーシャルクリエイティブ“にうってつけなのだ。

 

大げさに言うとバーチャルスタジオ、かな?

 

スタジオは2つの空間に分けられている。それぞれ、畳で言うのもなんだけど、6畳程度だと思う。

 

奥の方の空間はナレーション録音が出来るよう、マイクが置いてある。だがなぜか、座ると後ろにグリーンの大きな布が置いてある。

 

 

こんな感じだ。

 

映像に携わる人なら、このグリーンの背景を見ると、ははーん、と気づくだろう。そう、これは合成用のグリーンバックなのだ。

 

これをスタジオの画像と合成すると、こうなる。

 

 

わかる?

 

このスタジオみたいに見えるのは、バーチャルなもの、つまりCGでつくられた画像だ。

座っているぼくの映像と合成すると、ぼくが本格的なスタジオにいるように見える。

 

これは面白い!

 

この背景の画像はいろんなパターンがあるそうで、簡単に切り替えられる。

 

例えば、こんな感じ。重ねて言うけど、ぼくはこんな大きな空間にいるのではなく、さっきの写真の小さな部屋で、緑の布をバックにちょこんと座っているだけ。なのに、大きなスタジオにいるみたいだ。

 

あるいは、別の動画を見せながら、ワイプで顔を出すこともできる。

 

 

また、PCの画面を映し出したりもできる。当然、Twitterのタイムラインも見せられるね。

 

 

地上波の立派なニュースショーに引けを取らない、と言いたくなるくらいの“クオリティ“の見え方。こんなことがこんな小さなスタジオでできちゃうんだから、テクノロジーって素晴らしいね。

 

しかも、スタジオ料金も超リーズナブル!具体的に知りたい方いたら、メールくれたらお答えしますよ。

 

で、このスタジオは“ソーシャルクリエイティブ時代“に向けてつくられたもの。例えばネット配信に使うと、”いつものUst映像“が地上波テレビの立派な対談番組にひけをとらない感じで見せることができる。そしてもちろん、地上波テレビで流す映像を、格段にローバジェットで制作できるだろう。

 

だったら、こんなこといいな、できるといいな的にいろんなアイデアを巡らせて使い方を考えてみるといいと思う。予算をかけずに何か面白いことできるのかも。

 

一方で、ヒカキンTVの話を聞いた。

 

 

この若者が、商品のプロモーション映像を請け負って制作しているのだそうだ。簡単に言うと自宅とおぼしき部屋で商品を使ってみたりしてしゃべるだけ。でも面白いし、再生数もかなりの数になっている。

 

これもソーシャルクリエイティブと言えるのかもしれない。

 

概念的に書いたことが、実際に起こりはじめているよ。なんか、いろんな意味で、アセるなあ・・・。


by 境 治
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