ご存知の通り、ソーシャルメディア上では一度ポストしてしまうと、その後削除したとしてもその拡散力故にその情報が公に広がってしまう。ユーザーが自社に関する内容をポストする場合、上手に利用すればブランドイメージの向上や、告知としての効果を得られるが、たとえ悪気が無くても、ふとした内容が機密事項の漏洩や大幅なイメージダウンに繋がる危険性をはらむ諸刃の刃である。
職場でのソーシャルメディアの利用の是非に関しては以前より議論に上がる事が多々あったが、個人社会で個人の意見が尊重される国アメリカでは、最近特に従業員のソーシャルメディア利用に関するポリシーガイドラインの作成が急務となっている。産業アナリスト、Experian Simmonsの調査によると66%のアメリカ国民が仕事場から何かしらのソーシャルメディアにアクセスをしている。その一方で、ソーシャルメディアに関するガイドラインを設定している会社は未だに全体の20%以下である。(Manpower社調べ)
新しいメディアであるソーシャルメディアに関しては、企業がクリアなガイドラインを設定する事で従業員を正しい方向に導き、会社の利益に繋げる事が可能になる。これから多くの企業が必要になるであろう職場でのソーシャルメディアガイドラインに関する10のポイントをご紹介する。
1. アクセスをブロックするのは意味が無い
ポリシーガイドラインを作成する時に、単純に”職場からはソーシャルメディアにアクセスは禁止です”とするのは下記の理由で、あまり意味が無く、メリットも少ない。
- 最新情報が見れない事でのストレスがたまり、離職率が上がる
- 会社から信用されてないと感じ、仕事のクオリティーが下がる
- どうにかバレずにアクセスする方法を探す事にエネルギーを注ぎ始める
- どうせ結局スマホ等のデバイスを利用してアクセスしてしまう
2. 仕事以外でのSNS利用時間は全体の10-15%が目安
仕事中にソーシャルメディアにアクセスを許可する場合、個人利用に対してはある程度の制限を設けるのがよい。それにより、限られた時間の中で気晴らし的に利用し、その後また仕事への集中力がアップする。目安としては仕事の時間の10-15%ほど。1時間働いたら、5-10分ぐらいは利用してOK. 子供の頃テレビを見せてもらえる時間制限の感覚で。
3. ポリシーやガイドラインはなるべくシンプルに
ガイドライン自体が複雑になりすぎると、誰にも読んでもらえない。読んでもらったとしても、覚えててもらえない。可能な限り最低限のシンプルな内容で、項目は10程度、1ページに納めるのが望ましい。
4. 性善説を採用しポリシーはある程度ゆるめに
シンプルな内容の次は、ポジティブな内容にするのがポイント。結局の所、仕事の時間が生活の大部分を占める従業員は仕事の事をポストしたいものなのだ。それを逆手に活用し、会社の告知やイメージアップに一役買ってもらおう。ガイドラインの内容は、禁止事項よりも、会社の事を発言する際のベターな方法論にフォーカスする事。そして、従業員を信用し、細かな点は規定せずにプロフェッショナルとしての個人の采配に任せる事で、会社への信頼もアップする。
5. ソーシャルメディアの影響力を伝える
もし従業員がテレビの取材等で会社の内部情報やネガティブ発言をしていたらどうなるだろうか?実は、ソーシャルメディアもその影響力を考えると、それに近い結果を及ぼす可能性がある。比較的新しいチャンネルという事で、まだまた自覚が少ない人が多いと思うが、ソーシャルメディアはメジャーなメディアチャンネルである事をしっかりと説明する必要あり。
6. 会社としての正式な発表を行う事が出来る役職を明記する
従業員の中で,会社の公式アカウントだけではなく、個人アカウントを通して会社としてのオフィシャル発表が可能なスタッフ、役職を明記する。その他のスタッフは会社に関する発言をする時には、それが個人の見解である事を明記してもらう様にする。
7. 社外秘やブランドイメージを損ねる発言は規則違反である事を明記
ソーシャルメディア上では、想像する以上に実に多くのユーザーがほんの些細な気持ちで社外秘や会社のイメージダウンになる発言をしているケースがある。これはスタッフに限った事ではなく、社長自身の場合も少なく無い。そして、単純にそれが規定違反になる事に気づかないだけである場合が多い。たとえそれが個人アカウントであっても、”上司が気に入らない”等のネガティブ発言や機密情報の漏洩に繋がる内容は就業規定違反になる事を明確にしよう。
8. ポスト厳禁の事項を明確にする
上司や同僚、顧客に対するちょっとした愚痴から、同業他社に関する非公開データまで、絶対にポストしては行けない事項を規定する。たとえ悪気の無いポジティブな内容でも、”来週ものすごくイケてるサービスがリリースされます。ヒントはフォトアプリ”などは、その情報が公に漏れる事で、企業活動にとって大きな影響を与えかねない事である事をしっかりと示しておく。
9. ステマや同業他社の攻撃は行わない
例え自社の利益に繋がる可能性があっても、公式アカウントや従業員の個人アカウントを利用してのステマや同業他社に対してのネガティブ発言も控える。一般ユーザーからみても、そのような内容はすぐにバレるし、最終的にポジティブな結果は生み出さない。会社が従業員にポストの強要をするのも厳禁である。
10. ガイドライン作成の次は研修を行う
ドキュメント作成を行い、それをメール等でスタッフに送信しただけではあまり意味が無い。会社としてのソーシャルメディア利用ポリシーガイドラインを作成した後は、必ずそれを実践に繋げる為の研修を行う事。その際には、どうしてその内容になっているかをしっかりと説明し、必要であれば、従業員からのフィードバックももらう様にする。
【参考例】btrax社ソーシャルメディア利用ポリシー
企業におけるソーシャルメディア利用規程の一つの例として、日本とアメリカにオフィスがあり、多文化、多国籍の従業員を抱えるbtrax(当社)のポリシーを紹介したい。 (原文は英語):
btraxのスタッフは下記のシンプルではあるが重要なガイドラインに沿った内容であれば、ソーシャルメディアの利用を推奨する。ガイドライン内には多少厳密と思われる内容も含まれるが、会社のイメージと企業として法的な規定を保持する為に必要な内容である事を是非ご理解頂きたい。
1. 会社もしくは仕事に関しての発言する場合は、そのスタッフ自身がbtraxの社員である事とその役職を公表すること。
2. 誤解を招くような発言は慎むこと。仕事や会社に関する発言は立証可能な真実であること。
3. コメントやRTする場合は、相手に対しての敬意を払うこと。トピック外の発言や相手を傷つけるような発言は慎むこと。
4. ソーシャルメディア上での発言を行う際には、一般常識とマナーに沿うこと。例えば、社内に関する内容をポストする場合は事前に担当者からの承認を得ること。そして、発言内容は機密保持ポリシーに反しない内容であること。
5. スタッフ自身の専門分野については積極的に発言することを推奨する。その場合は、社内の機密事項では無い限り、どんどんユニークで個性的な内容をポストするべし。
6. 他のユーザーの発言に対して反対意見を書く場合は、相手の意見を尊重し、丁寧な書き方をすること。炎上しそうな場合でも、過度な反応や突然の放置は避けること。その様な事態になりそうな時は、PR主任に確認し、会社のイメージを損ねない方法で収拾を付けること。
7. 競合についての発言をするときは、事実関係を確かめた上で、必ず丁重な書き方をすること。
8. 少しでも会社が法的な危険にさらされる可能性のある内容のポストには例えそれが匿名であっても、IPアドレス等からトレースされる可能性があることを理解し、コメントやRTを行わないこと。またそのようなポストを発見した際は、即座にPR担当や法務担当に連絡すること。
9. 就業中に個人的な目的でソーシャルメディアを利用する場合は、その利用時間の上限を就業時間の15%と定め、それ以上の利用は控えること。
10. スタッフ自身と会社に関するプライバシー保護には細心の注意を払うこと。一度ポストした内容はその後削除したとしても、Googleのキャッシュ等に永遠に記録されることを理解し、コンテンツの内容には気をつけること。
*備考: 主要メディアからの取材に関する問い合わせが来たときは、PR担当に迅速に連絡すること。
【参考資料】アメリカ主要企業の職場でのソーシャルメディア利用ポリシー/ガイドライン:
まとめ
職場でのソーシャルメディア利用規程を設ける際は、言論の自由と機密保持のバランスを保つ事が重要になってくる。従業員の個人アカウントでの発言内容を規制するのは、言論の自由を奪う可能性があるとの指摘もある。実際の所、従業員本人も会社から自身のソーシャルメディアの利用方法を制限されるのは気持ちの良い事ではない。しかしながら、プロフェッショナルな立場上、それが例え個人アカウントでも注意をする必要がある事を示した上で、実際の発言内容はスタッフ個人の見解を尊重するのが良い。あまり過度な規制をしてしまうとこで、スタッフは会社に信用してもらえず、監視されていると思い、社内カルチャーの低下に繋がりかねない。
結局の所、スタッフにソーシャルメディア上で会社に関してポジティブな発言をしてもらう為の一番の近道は、素晴らしい企業カルチャーの構成と優れた商品/サービスの開発に他ならない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
btrax
">by btrax
-
「LTE」とは?~今さら人に聞けないマーケティング用語集
-
一覧へ
-
【企業担当者に聞くSMM最前線】リーデル(RSN JAPAN 株式会社) ウォルフガング J.アンギャル氏・西村 敏雄氏~高エンゲージメント率を誇るFacebookページによる”効果”とは?(2/2)